2014年05月04日
No.2754 ちょっと一休み その435 『宇宙船地球号 その16 持続可能な社会を目指す先進事例!』
昨年11月29日(金)から今年1月24日(金)まで4回にわたって「スペースシップ アースの未来」(NHK BS1テレビ)が放送されました。
そこで、以下のような流れでこれまでご紹介してきました。

 
1月24日(金)放送の「スペースシップ アースの未来」(NHK BS1テレビ)の4回目は「『新たな海図』を求めて」というテーマでした。
今回は、 持続可能な社会を目指す先進事例についてご紹介します。
 
持続可能な社会を目指す現代のアメリカ北西部のオレゴン州にある、人口60万人足らずのポートランド市、その取り組みにも欲望を膨張させない工夫が凝らされています。
行き過ぎた開発を抑えた画期的な都市計画、それが1973年に制定された都市成長境界線制度です。
成長境界線を5年ごとに定め、その外側は原則として新たな開発を禁止、その代わり境界線内の土地を効率よく利用し、地域経済や公共サービスを充実させます。
 
ポートランド市開発局の局長、パトリック・クイントンさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「この都市成長境界線制度によって市の中心部に商業地域と居住地を集中させ、便利で暮らしやすい町づくりを行うことが出来ます。」
「一方、境界線の外側では開発を一切禁止しているため都市の膨張を防ぐことが出来ます。」
「そして、都市のすぐ近くに人々が楽しめる豊かな自然を維持し、食料を生産する農地を十分に確保出来るのです。」
 
この制度は1970年代初頭の革新派市長、ニール・ゴールドシュミットさんのリーダーシップで実現しました。
市長の大胆な改革を支えたのは市民の声をダイレクトに政治に反映させる仕組みでした。
ポートランド市は、シティ・コミッション制という制度を採用してします。
毎週1回水曜日に会議が開かれます。
発言しているのは市民団体の代表、それを聴いているのは市長と選挙で選ばれたコミッショナーと呼ばれる4人の市政委員です。
この5人で市議会と市政府の代表の役割を担います。
市民からの提案を受け、5人だけで議決を行うため素早く政策が決定されます。
5人は医療、経済などそれぞれ担当が割り当てられていて対策を速やかに実行に移します。
 
シティ・コミッション制は、市民の積極的な政治参加があって初めて成り立ちます。
市民たちは、地区ごとに近隣組合と呼ばれるグループを作っています。
自主的に会合を開いて意見をまとめ、市に提案します。
そして、市は近隣組合の意見を聞くことが義務付けられています。
 
市民自らが知恵を絞り、政策を提案する、ポートランド市の持続可能な社会は市民みんなが力を合わせて作ってきたと考えるポートランド州立大学のスティーブ・ジョンソン博士は番組の中で次のようにおっしゃっています。
「例えば、ポートランド市には350もの環境団体と4000もの市民グループがあります。」
「そして、近隣組合も100近く活動しています。」
「市民が政治に参加出来る場はいくらでもあるんです。」
「そうした積み重ねがこの持続可能な町を作ってきました。」
「ここまで40年近くかかりましたが、市民の力で町を変えたという数多くの成功体験があったからこそ出来たのだと思います。」
 
CO2の排出を削減するための公共交通網の整備や自転車の利用推進、行き過ぎた開発を抑えるための都市成長境界線制度、次々と実現した画期的な政策は市民たちが望んだものです。
市民の声を政治として実現する、これがシティ・コミッション制だという現在のポートランド市長、チャーリー・ヘイルズさんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「この政治制度とポートランド市の住みやすさには関連性があります。」
「市民が集約した提案を素早く議決することで革新的なことに次々と挑戦出来たのです。」
「路面電車など公共交通網中心の町づくりに取り組めたのもこの制度があったからです。」
「だからこそ市民生活に役立つ様々なことに他の都市よりも早くチャレンジ出来たのです。」
 
今、ポートランド市が取り組んでいるのは経済成長と環境保護の両立です。
ポートランド市にはグリーン企業推進政策があり、環境ビジネスの企業は税や融資の面で優遇されています。
こうした企業がエコ製品を作ることで町の環境が良くなります。
それと同時に雇用が生まれ、地域経済を活性化することも出来るのです。
 
環境ビジネスに取り組む企業を誘致し、育成するポートランド市、目指すのは企業が利益を求めることが環境の改善につながるという持続可能な成長モデルです。
 
化石燃料に頼らない社会を作らなくてはならない、世界に先駆けて1970年代から訴え続けているアメリカのエネルギー学者でロッキーマウンテン研究所のエイモリー・ロビンス博士は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「市場経済は言わば良い道具であり、良い使用人とも言えます。」
「損をするより儲けたいというのが人間としてごく自然のことだと思います。」
「そのように考えると不利益を押しつけるよりは利益になることをさせる方がずっと簡単なことなんです。」
 
欲望のままに繁栄を求めるのではなく、持続可能な成長を目指すポートランド市、先進国で始まったこうした取り組みはスペースシップ アース、宇宙船地球号の新たな改造を考えるヒントになります。
今後、世界各地で地域の特性を生かした様々な取り組みが進んでいくことが期待されます。
 
世界的にみて多くの企業の行動原理は利益最優先です。
ですから、どんな素晴らしい政府や自治体の政策でもその行動原理をうまく取り込んだものでなければ持続的な成功にはつながらないのです。
また、市民の声を無視したトップダウン政策では必ず市民に不満が残ります。
ですから、欲望に歯止めをかけ、企業が利益を求めることが環境の改善につながるという持続可能な成長モデルを目指す必要があります。
しかも、そのベースはトップダウンではなく市民の声の反映、そして速やかな対応、というポートランド市の取り組みはまさに持続可能な社会の先進事例だと思います。

 
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