2014年03月23日
No.2718 ちょっと一休み その429 『宇宙船地球号 その10 客室維持装置異変の実例!』
昨年11月29日(金)から今年1月24日(金)まで4回にわたって「スペースシップ アースの未来」(NHK BS1テレビ)が放送されました。
そこで、以下のような流れでこれまでご紹介してきました。

1月17日(金)放送の「スペースシップ アースの未来」(NHK BS1テレビ)のテーマは「『客室維持装置』に異変あり」でした。
そこで、今回は水や大気といった生命に欠かせない環境を維持してきた客室維持装置異常の実例を中心にご紹介します。
温暖化が進む地球、中でも北極圏はその影響を最も受けている場所です。
気温は過去100年で2℃上昇しています。
このことが今新たな問題を引き起こしています。
グリーンランドに近年無数の黒い穴が広がり始めています。
それはクリオコナイトホール(汚れた氷の穴)と呼ばれています。

クリオコナイトホールはなぜ出来るのか、その原因調査を行っている日本の研究チームが採取したサンプルを調べた結果、ある微生物が原因で黒い穴が出来ていることを確認しました。
シアノバクテリアです。
原始の時代から存在するこの微生物は光合成を行って繁殖します。
シアノバクテリアは長い間北極の氷に閉じ込められてきましたが、温暖化によって氷が溶けたことで活動を開始、太陽の光を浴びて繁殖し始めています。
糸状のシアノバクテリアは周囲の砂や有機物を巻き込みながらクリオコナイト粒と呼ばれる直径2ミリほどの黒い粒を形成します。
北極に出来た黒い穴の正体は粒となった シアノバクテリアが増殖して出来たものだったのです。
 
クリオコナイト研究の第一人者である千葉大学の竹内 聖博士は、このクリオコナイト粒が北極にこれまでなかった問題を引き起こしていると考えています。
クリオコナイト粒は黒いため太陽の熱を吸収します。
粒が無い場合と比べ、氷の溶けるスピードが2倍ほど速くなるのです。
 
更に、今回の調査で驚くべきことが分かりました。
竹内さんが2週間にわたって観察した結果、クリオコナイト粒が風で飛ばされ、黒い穴を次々と作り出しているのです。
地球温暖化によって活動を始めたシアノバクテリアが氷の融解を加速させているのです。
竹内さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「今回の我々の発見というのは、単に物理だけではなくて地球に存在する生命によってもう少し物理法則以上のものが起こる可能性がある、ということを示しています。」
「単に気温の上昇で見積もった氷の溶け方よりももっともっと断然速い氷の溶け方が起こる可能性があるわけです。」
 
アメリカのアラスカ州では更に深刻な事態が起きています。
各地でメタンガスが吹き出しているのです。
メタンガスを発生させているのはメタン生成菌と呼ばれる微生物です。
温暖化によって繁殖し始めているのです。
 
国立環境研究所の内田 昌男博士はメタン生成菌が環境に与える影響を調べています。
メタン生成菌が繁殖している原因は地下にあります。
アラスカの大地は永久凍土と呼ばれる独特な土壌で出来ています。
永久凍土は2年以上にわたって氷り続けている土壌です。
アラスカ全土のおよそ4分の3がこの永久凍土で覆われています。
 
この永久凍土の中には過去4万年にわたって堆積した有機物が凍ったまま封じ込められています。
メタンガスを発生させるメタン生成菌もまたこの永久凍土の中に閉じ込められていた微生物なのです。
ところが、北極圏の気温が上昇していることによって永久凍土が溶け始めています。
そのことがメタン生成菌を目覚めさせたのです。
永久凍土が溶け出すと、土の中に含まれていた有機物が分解されます。
メタン生成菌がこの分解された有機物をエネルギー源として活動を開始、その過程でメタンガスが発生するのです。
 
内田さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「永久凍土というのは普通の土壌ではあり得ない植物が大量に蓄えられている。」
「ですので、永久凍土が溶けるということはメタンを新たに放出する発生源としてのポテンシャルを多く持っているということがこのような環境を見ていただくと分かると思います。」
 
メタンはCO2と同様に温室効果を持っています。
その分子は赤外線を浴びると振動し、熱が発生します。
その熱が放出されることで温暖化が起きるのです。
メタンガスが持つ温室効果はCO2の20倍以上あると言われています。
 
地下から吹き出すメタンガス、現在アラスカ州の15万ヶ所から発生していることが確認されています。
このメタンガスが地球温暖化を更に加速させるのではないかと危惧されています。
 
長年環境問題を研究してきたヨルゲン・ランダース博士は、メタンガスが吹き出し始めた今の状況は非常に危険だと次のように警告しています。
「このまま永久凍土が溶け続ければメタンガスが大量に吹き出します。」
「そうなれば、温暖化は制御不能な状態となってしまいます。」
「なぜなら、永久凍土から大気に放出されたメタンガスが更なる温暖化をもたらすからです。」
「そして、それが更に多くのメタンガスを発生させる、気温は6〜8℃は上昇するでしょう。」
「私たちがもしこの悪循環の引き金を引けば、現在の豊かな生活を続けることは不可能になります。」
「自然からの逆襲を受け、私たちの文明は崩壊するのです。」
 
大量のメタンガスの放出は何をもたらすのか、2億5000万年前のペルム紀の時代をみるとそのことが分かります。
当時、地球上にはほ乳類と爬虫類を頂点に豊かな生態系が築かれていました。
ところが、突然陸と海の動植物の95%が死に絶えるという地球史上最悪の大量絶滅が起きたのです。
 
イギリスのリーズ大学にその大量絶滅の原因を調べる研究者がいます。
古生物学者のポール・ウィグナル博士です。
ペルム紀の化石を通してウィグナルさんは大量絶滅の原因がメタンガスだったことを突きとめました。
分析の結果、大量絶滅期の化石にはメタンガスがあったことを示す炭素12が見つかりました。
更に、年代を追って化石を調べたところ絶滅のピークに向かって炭素12が短期間で急激に増えていたことが分かりました。
 
ウィグナルさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「炭素12が急激に増えているということは、大量のメタンガスが大気や海に放出されたことを示しています。」
「その証拠が化石に残されているのです。」
「このことからペルム紀には地球温暖化が制御不能な状態になっていたことが分かります。」
 
ウィグナルさんが考える大量絶滅のシナリオは次の通りです。
当時、活発な火山活動の影響で大量のCO2が放出されていました。
温暖化が徐々に進行していった地球、やがて大量のメタンガスが一気に大気へと放出されました。
メタンガスは陸だけでなく海にも存在します。
大陸棚や海の底に閉じ込められたメタンハイドレートです。
このメタンハイドレートが温暖化によって一気に溶け、メタンガスが噴出、決定的な被害をもたらしました。
 
ウィグナルさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「CO2による温暖化は破滅への序章に過ぎませんでした。」
「本当の危機はメタンハイドレートが溶け出すほど温暖化が進んだ時に起きたのです。」
「まさにパンドラの箱が開いたのです。」
「CO2の20倍もの温室効果を持つメタンガスによって温暖化は加速し、それが更に多くのメタンガスの放出を招く、その結果、地球の温度は急激に高くなっていきました。」
 
メタンガスの大量放出による急激な温暖化のため地上は50℃以上になったと考えられています。
植物は光合成が出来ず、食物連鎖は断ち切られ、動物もやがて死に絶えました。
海水の温度も40℃に達したことが分かっています。
海の中に住む生物もほぼ全てが消えていきました。
こうして生物の95%が死に絶えるという地球史上最悪の大量絶滅が起きたのです。
ダメージがあまりにも大きかったため、生命が復活する兆しが見えるまでに500万年以上もかかったとウィグナルさんは考えています。
 
2億5000万年前の大量絶滅の決定打となっと深海のメタンハイドレート、今も世界中の大陸棚に埋蔵されていることが報告されています。
今、このメタンハイドレートが海の中で少しずつ溶け出していることが分かってきました。
アメリカの国際北極圏研究センターでは2003年から噴出するメタンガスの実態調査を始めています。
調査しているのは東シベリア海にある大陸棚です。
水深が平均53mと浅く、水温上昇の影響を受けやすい場所です。
調査によると、2012年に海から排出されたメタンガスの半分がこの海域から出ていることが分かっています。
 
ウィグナルさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「ペルム紀の化石から分かることは、一度メタンガスが吹き出したら世界は終わりだということです。」
「このまま温暖化が進めば、やがてペルム紀と同じ状況となるのは間違いありません。」
「問題はそれが50年後に起きるのか5000年後なのか誰にも予測が出来ないということです。」
 
地球温暖化によって本来持っていた地球の自浄作用が失われ、メタンガスまで吹き出しているのです。
全ての引き金を引いたのはCO2の排出でした。
産業革命以降、大量のCO2が大気中に溜まり続け、温暖化は信じられないスピードで進んでいるのです。
科学者の中には、人間が責任を持って地球の治療にあたるべきだと唱える人もいます。
科学の力でこの悪循環を断ち切れるのでしょうか。
 
ペルム紀に起きた 地球史上最悪の大量絶滅はその時代の活発な火山活動がもたらしたものと考えられています。
ところが、今同じような大量絶滅を引き起こしてしまうかもしれない状況にさしかかっているのです。
しかも、その原因は人間の様々な活動という人為的なものです。
ですから、何としても私たち人間の手によって大量絶滅の危機を脱しなければならないのです。

 
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