2021年09月01日
アイデアよもやま話 No.5049 EVを巡る世界的潮流!
3月14日(日)放送の「日曜スクープ」(BS朝日)でEVを巡る世界的潮流について取り上げていたのでその内容の一部をご紹介します。

今、2030年以降で欧米を中心に自動車の新車販売を電気自動車(EV)のみにするという方針を打ち出す国が相次いています。
こうした潮流の中で、日本の基幹産業でもある自動車産業は生き残れるのでしょうか。

1月、就任後初の施政方針演説の場で菅総理は次のようにおっしゃっています。
「2035年までに新車販売で電動車100%を実現をいたします。」

国内販売車の“脱ガソリン”、目標の達成時期をより明確にし、ハイブリッド車やEV、水素で動く燃料電池車などに転換するとしています。
菅総理が掲げる“カーボンニュートラルの実現”を巡り、存在感を高めているのがEVです。

こうした中、2月19日、アメリカのバイデン大統領は会見の場で次のようにおっしゃっています。
「アメリカは今日、正式にパリ協定に復帰しました。」
「気候変動問題はこれ以上先送り出来ない。」

気候変動問題への危機感を露わにしたバイデン大統領ですが、世界のCO2排出量は2018年には約335億トンに上り、自動車などの運輸部門で排出されるCO2量は4分の1余りを占めています。(添付1を参照)

環境に配慮したクルマヘのシフトが主流となる中、イギリスではハイブリッド車についても2035年までに販売を禁止、高級車ブランド、ジャガーも2025年までに全車をEVにすると発表しています。

一方、自動車工業会の豊田会長は3月11日の会見で、「“脱炭素”が遅れれば、海外との競争力が衰え、自動車産業だけで最大100万人の雇用に影響が出る」として政府に対し、電源構成の改革を求めました。
この会見の場で、豊田会長は次のようにおっしゃっています。
「(カーボンニュートラルの実現には、)エネルギー政策と産業政策をセットで考えることが必要だと思います。」
「乗り越えるべき壁は沢山あります。」
「多くの産業が変化を迫られます。」

課題の見える中、日本の自動車産業が生き残る道は、そして自動車の歩む未来とはどのようなものなのでしょうか。

まず、EVの市場規模は今後急速に成長して、2030年には2016年(212億ドル)の40倍以上の100兆円規模(9185億ドル)に拡大する見込みです。(ロべス・スイスのデータを基に三井住友アセットマネジメントが作成)
こうした背景にはパリ協定(2015年)やIPCC「1.5℃特別報告書」(2018年)があります。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.708 『基準年が異なる各国の温暖化ガス排出量の削減目標』)
こうした状況について、番組コメンテーターで経済ジャーナリストの井上久男さんは次のようにおっしゃっています。
「ヨーロッパがEVシフトの大きな震源地になっていまして、大きく4つあると思うんですね。」
「一つは、2015年に発覚しましたフォルクスワーゲンによるディーゼルエンジンの排ガスのテストの不正、いわゆるディーゼルゲート事件によって内燃機関の信頼がヨーロッパ市場で落ちているということと、(2つ目は)2020年、2021年、2年連連続でヨーロッパは環境規制が強化されまして、1km当たりのCO2排出量が130gから95gにしなさいということになったんですね。」
「それで、1g超過すると95ユーロ(約1万円)の罰金を払うと。」
「1km当たり95gというのは燃費で換算すると、24〜25km/リットルで結構厳しい規制なんですね。」
「3つ目は、ESG投資(参照:アイデアよもやま話 No.5031 企業の行動を変える”アクティビズム”!)といいまして、環境やサステナビリティ、ガバナンスを重視して投資するという、金融セクターからの圧力がかかっているということ。」
「最後の4つ目がルールチェンジですね。」
「やはりヨーロッパ主導で特にやりたいと。」
「特に日本はハイブリッドが強いけれど、ヨーロッパは弱いと。」
「ですから、はっきり言って日本を負かす。」
「自動車ではライバルなわけですよ。」
「ちょっと日本を負かすためにルールチェンジしてやろうかなというような思惑もあるんじゃないかなと思いますね。」
「ですから、昔ノルディック複合で日本人が活躍し始めるとルール変えられますよね。」
「若干それに似ているのかなというふうに私は受け止めています。」

また名古屋大学客員准教授の野辺継男さんは次のようにおっしゃっています。
「気候変動というものが一番大きいんですけども、それより先にメンタリティとして産業革命に比較して1.5℃上がっていくと20%の種が絶滅の危機に瀕すると。」
「で、生物多様性からすると、ゆくゆくそれ(気温)がちょっとずつ上がっていくと人類の滅亡ということも懸念せざるを得ないことも日々最近見えていますから、この辺から必死にやろうと。」
「それではCO2を外に出さないことだということであり、よく考えてみれば過去100年間で化石燃料を地球から掘り起こして燃焼させることによって爆発力を使っていろんなエネルギーにする、あるいはタービンを回して発電もするわけですけども、この結果、化石燃料が燃焼してCO2をどんどん空気中に排出した。」
「これ止めなければいけないという気持ちが非常にメンタル的に大きな前提条件になっていると思います。」

そういう環境への意識、地球の持続性を考えた大きな根底の意識があるうえでクルマの電動化が加速度的に進んでいるということになります。
そこで気になってくるのが、各国の“脱ガソリン”の動きを見てくる中で、世界最大の市場になっている中国がハイブリッド車を2035年でも認めるという動きになっています。(添付2を参照)
こうした中国の状況について、井上さんは次のようにおっしゃっています。
「これは現実的な対応だと思うんですね。」
「EVになりますと、充電設備を含めてインフラを整えていかないといけないと。」
「それが間に合わないと。」
「で、消費者にEVを普及させても充電する所がなければ困るわけですから、そういう問題があると。」
「もう一つ、昨年4月に習近平国家主席が来日する頃、実はお土産としてハイブリッドで大々的な技術移転をしましょうという日本側の構想があったんですね。」
「それでハイブリッド車は中国と一緒にやっていきたいと。」
「それで日本側がある意味中国を少し説得するようなかたちでハイブリッドを認めて下さいよというようなかたちで日本側が少し押し込んだという、これはヨーロッパとはちょっと逆のパターンです。」
「ヨーロッパは排除したけれど、中国は、日本がハイブリッドを押し込んだという部分があるんですね。」
「(そういう意味では日本側の戦略で、中国でハイブリッド車が生き残ったというのは日本のメーカーにとっては大きなことではないかという指摘に対して、)大きなことです。」
「それは、中国のマーケットは年間2500万台っていう世界最大のマーケットで、そこでハイブリッドが売れるということは収益的にも非常にインパクトはあると思いますね。」

では、世界的なEV拡大の流れが日本の自動車産業に与える影響を考えていきたいと思います。
まずは2020年の自動車販売台数を見ておきたいと思います。
2020年はトヨタグループが5年ぶりに首位に返り咲きました。(添付3を参照)
次に電気自動車(EV)販売台数(ブランド別 2020年)です。(添付4を参照)
すると、トップがアメリカのテスラ、2位がフォルクスワーゲン、3位が中国のBYDと続いていて、EVのトップ10には日本のメーカーは一つも入っていないということになります。

テスラの販売台数が約50万台ですから、新車販売台数全部で比較しますと、トヨタの約10分の1になるんですが、ただ一方で株式時価総額だとテスラはトヨタのはるか上を行くと言われています。
どうしてテスラ車がこれだけ世界中で大きな注目を集めているのかについて、野辺さんは次のようにおっしゃっています。
「クルマに対する印象というか、考え方が変わってくるというところをテスラは実現していると思うんですけど、どういうことかというと、ガソリン車はディーゼルも含めて内燃機関、エンジンで空気を爆発させて走っているクルマ、これはアップデートする、機能を上げるということが買った後出来ないですね。」
「ほぼ出来ない状況なんですけど、EVのようにモーターとバッテリーで走るというのは走行性能まで後からアップデートすることが出来るんですね。」
「で、これは例えば今までの、新車を買っても1年前に買ったんだけど、今売っている新車よりも私のは古いねということを思われてしまうところが、テスラなど無線でソフトウェアをアップデートするようなクルマになると、今売っているのと1年前に買ったクルマは機能的に同じだと、常に新車だぞという意識を売り込むことが出来る。」
「これはまさにスマホを使っている人間からすれば当たり前のことなんですけど、それを実現したというのは非常に大きな価値の高いことをしたと思いますね。」
「(このアップデート技術はすごく難しいものなのかという問いに対して、)これは非常に難しいと言えますね。」
「テスラだからこそ出来た。」
「これ2012年から始めて2016年ぐらいから本格的に走行性能までアップデートしてるんですけども、まさにスマホは当然アップデートしていますけど、かなりいろんな人が持っているスマホ自体がソフトウェアのアプリケーションの深さがあって、それぞれ時にアップデートしているとみんな違うバージョンで持っているところがあって、それを間違えずにアップデートし続ける、へたにダウンロードするだけだとエラーが起こるんですね。」
「それで動かなくなる。」
「クルマが動かなくなったら大変なんで、完璧なソリューション、ソフトウェア技術を持って実現している。」
「これ中々出来ないことなんですね。」

こういうアップデートされて、常に最新の状態になると、今までと全く違う概念になってくると思いますが、これは日本が得意にしていた自動車産業のあり方が根本的に変わるかもしれないと言えます。
では自動車産業のあり方に与える影響についてどう思うかという問いに対して、井上さんは次のようにおっしゃっています。
「自動車産業に与える影響は、走るスマホなんですね、現在のクルマは。」
「今まで自動車産業はすり合わせ型と言って、家電とはちょっと違っていたわけなんですね。」
「それで、スマホというのは水平分業でやって、自動車も水平分業に私はなっていくんじゃないかと。」
「それと、EVになるとテスラのように部品の点数が減るということが言われていますので、日本の産業に与えるインパクトとしては作るものがなくなる部品メーカーが出てくるということで、雇用なんかにも影響が与えるんだろうなということで、テスラのようなクルマがどんどん出てくると一種の産業革命みたいなものを誘発してくるだろうというふうに思います。」
「無くなる仕事も出てくると。」
「その代わり、ソフトウェア産業みたいなものが重要になってくるので新しく必要な産業も出てくるという感じですかね。」
「(この世界のEV化の潮流の中で、ベストテンに日本の販売台数が入っていないが、日本のメーカーは対応が遅れているのか、そうでもないのかという問いに対して、)日本は遅れているか、遅れていないかというと、商品化は遅れていますね。」
「商品化は遅れていますけど、やる技術力がないのかというとあるんですね。」
「中々、それはでもお客さんが本当にいるのかですとか、儲かるのか、儲からないのかとかいろいろあるんですね。」
「ですから、中々踏み切れない状況にあると思いますね。」
「(ただ一方で、トヨタも手をこまねいているわけではないでしょうし、何らかの対策は取っていると考えていいのかという問いに対して、)そうでしょうね。」
「例えば、トヨタ自動車なんかはEVの商品化では出遅れているんですけど、ハイブリッドの技術がEVにも転用出来るわけですね。」
「そういったことで準備はしていますし、バッテリーの会社を作っていますし、例えば、いずれエンジンの生産量が減ってくるだろうと見込んで、エンジンの生産ラインを統廃合したり、エンジンに付随する部品、例えば燃料噴射装置、そういうものをトヨタのグループの中で3社ぐらいに分かれていたのを1社に集約するということで、いずれ内燃機関が無くなるということを想定した事業構造改革に既に取り組んでいますね。」
「ただ、やはりなぜトヨタに(EVを)やらないんですかと聞くと、EVは中々儲からない、まだコストが高いということなんですね。」
「(なぜコストが高いのかという問いに対して、)EVの主力部品であるバッテリーが非常に高いんですね、エンジンに比べると。」
「バッテリーの大きさって、何キロワットアワーって言うんですけど、だいたい1kwhで2万円ぐらいしちゃうんですね。」
「そうすると、EVって50kwhぐらいのバッテリーが載っているので、バッテリーだけで100万円ぐらいしちゃうんですよ。」
「そうすると、内燃機関にはかなわないということです。」
「ただ、バッテリーの価格もどんどん下がってきて、いずれ1万円くらいになる。」
「その頃には内燃機関とほぼ同じになるだろうと言われているので、トヨタは手をこまねいているわけじゃなくて、いつ攻めに転じるかという感じなんですね。」
「ただ、さっき野辺さんがおっしゃっていたように、アップデートしたりする技術というのが簡単ではないし、経験値がいるものですから、自分たちが技術を持っているからといって、すぐお客さんに迷惑をかけなくて、品質問題を起こさずに出来るかというと、その保証はないですね。」

また、バッテリーのコストの高さの現状について、野辺さんは次のようにおっしゃっています。
「現実的には、2010年、(日産)リーフが出た頃、まさに1kwhという電気容量を実現するコストが、バッテリーの値段が1000ドル、10万円を超えているんですね。」
「これが年間20%ぐらい、毎年のように下がってきて、2020年でEV用のバッテリーの値段が1kwh当たり137ドルと言われています。」
「で、これが今後も15%ぐらいはどんどん下がっていくということになるますので、2025年ぐらいにバッテリーを積んだEVと内燃機関のガソリン車とかが対等の値段になるだろうと。」
「それまではバッテリー車の方が高いというのが現実的だと思います。」(添付5添付6を参照)
「(2024年の段階でだいぶバッテリーのコストが下がってきて、1kwh当たり92ドル、1万円ぐらいまで下がってくると、だいぶ商品として競争力が出てくると考えてもいいのかという問いに対して、)業界でも言われていまして、1kwh当たり100ドルを切れば対等の値段なので、同じクルマの機能なら安い方を買うだろうという前提であれば、EVを買うということにも必然的に流れていくだろうという予測もされています。」

こういう中で、中国でちょっと話題を集めいている、EVの軽自動車のようなクルマがあります。
それは価格が約45万円で4人乗りの「宏光(ホンガン)ミニEV」で、今、中国で爆発的に売れているということです。(参照:アイデアよもやま話 No.5023 中国発の約48万円の超小型EV!
野辺さんは次のようにおっしゃっています。
「(このクルマがこんなに安く出来たのは、バッテリーの進化、使い方が変わってきたということがあるのかという問いに対して、)バッテリーの進化は当然ありますね。」
「で、プラス考え方をちょっと変えて、今、高級車にEVが多いという状況もありますけども、2トンとかするクルマがあると。」
「それを一生懸命バッテリーで時速100km以上で200km走りましょうと言ったら、相当バッテリーを大量に積む、そうすると重いから余計あまり走れないという矛盾が若干あると。」
「これをいかにエネルギー密度を高くして、軽くても出来るだけ走れるようにするという話があるんですけど、これ極端に軽くする、(「宏光ミニEV」は)12kwhぐらいしか持ってないですね。」
「で、100km、軽いから逆に走れると。」
「で、バッテリーも軽いバッテリーを使っているんですね。」
「ということで、逆転の発想と言ってもいいかもしれないんですけど、こういう50万円以下でEVを買うというセグメントもあるであろうと。」
「特にそういう産業は昔から地方にあったんですけど、そこの市場を埋めるために企画したら本当に売れたということだと思います。」

こうした状況について、自衛隊の前統合幕僚長の河野克俊さんは次のようにおっしゃっています。
「EVが主流になった時に、電力供給、莫大な電力が要ると思うんですけども、その手当というのは日本は合わせてやっているのかなというのと、石油産業ですよね。」
「その辺はどういう見通しを立てているんでしょうか。」

この疑問に対して、経済ジャーナリストの井上久男さんは次のようにおっしゃっています。
「電力供給は賄えるという人もいますし、賄えないという人もいます。」
「それはまだわかんないですね。」
「問題は、日本がどういうエネルギー政策を取っていくかともちょっと絡んでくるんですね。」
「やはりEVの電気というのは石炭火力とかLNGでやると、結局CO2が出ちゃうわけですね。」
「そうするとCO2が出ない電力で充電しないといけないということになるので、それをどういうかたちで電力を供給するんですかという問題とも関係すると思います。」
「(石油産業への打撃について、)石油産業はいろいろしたたかですから、他の、例えばEV以外の水素の方に乗り出してくるとか、いろんなことで生き残りを図ると思いますし、アメリカなんかはまだまだシェールガスがあるので、それで食っていくっていう感じじゃないですかね。」
「(出光が今度EVを販売するといった、そういうふうにシフトしていく動きも皆さんしたたかに考えている面もあるが、)出光は既存のガソリンスタンドで充電出来るようにすることで、ガソリンを入れる人が少なくなっても、EVをそこで充電してもらうというような感じじゃないですか。」(参照:アイデアよもやま話 No.4966 出光がEVに参入!

さて、EVの心臓部のバッテリーですが、リチウムイオン電池の市場はこれから2030年にかけて23倍に拡大すると言われています。(添付7を参照)
現段階で、世界の車載電池メーカーの出荷量は、今中国のCATLがトップ、2位が韓国のLG化学、3位がパナソニック、パナソニックは元々1位だったんですが3位まで下がってきているという状況があるわけです。(添付8を参照)
こうした状況について、野辺さんは次のようにおっしゃっています。
「(中国は相当力を入れてバッテリー産業を育ててきているという面があると思うが、)まさにその通りで、そもそもクルマを製造出来るようにしたい、これが2000年ぐらいから脈々とあって、外資も入れて半々の比率で海外のクルマ会社が中国でクルマを作ると。」
「これがクルマの市場を成長させましょうという戦略できたんですけども、いよいよミートしたと。」
「今後、中国からも輸出したいという考え方がそもそも2000年頃から計画的にありまして、その時にどういうものを輸出するか、これはガソリン車とかだったり、日本、ドイツ、アメリカに勝つわけがないだろうということで、スタートポイントが同じであるEVで競争しようという、こういう考え方で脈々とEVを成長させようとしてきたというのがあって、そこで台数を考えればやはり先ほどの数字のようなバッテリーの製造をかなり覚悟しておかないとEVが走れませんということもあり、バッテリー産業の育成もEV化と同時に並行して進めていたということですね。」
「で、ヨーロッパが中国を追うようなかたちでEVをどんどん拡大していくわけですけども、欧州も中国、韓国の会社を誘致して欧州域内で製造してくれよと。」
「更にはバッテリー源供給を求めるということもありますので、欧州企業でバッテリーを作れるような産業もこれから育成しようという考え方なんですね。」
「だからエネルギーは確保出来ないと安全保障上まずいだろうということもありまして、果敢に欧州もバッテリーを作り始めます。」
「ただ、誘致しているのが8割かた、2割ぐらいは欧州域内で欧州企業としてバッテリーを作りたい、これが今アメリカでも起こり始めてまして、世界中でリージョナルにEVを作り、そこでバッテリーを作ろうという動きが国際的に急激に拡大しています。」
「これ日本が考えないといけない状況かと思います。」

まさに国をあげての国家覇権としてバッテリーに取り組んでいるという流れがあるわけです。
各国が力を入れているバッテリーへの政策ですが、その代表として実は「中国製造2025」(中国の習近平指導部が掲げる産業政策で2015年5月に発表 添付9を参照 詳細はこちらを参照)が挙げられています。
「中国製造2025」では、10の重点分野と23品目を設定して、製造業の高度化を目指すというふうにしています。
その6番目の項目では新エネルギー自動車を挙げていて、リチウムイオン電池を最重要視しているということです。
中国は具体的にはどんな政策をしているのかについて、井上さんは次のようにおっしゃっています。
「この「中国製造2025」というのは一言で言うなら、中国は製造強国という言い方をしてたんですね。」
「製造立国ではない、製造業で強い国になるということを言っていて、特にリチウムイオン電池については国が補助金を出して、例えば工場を建設するのに国がお金を出すかたちで国家資本主義みたいなかたちでガンと来たわけですね。」
「去年ぐらいから少し様子が変わってきて、乱立してたんですけども、そこで少し再編して、強いところ2、3社残して海外に出て行こうということで、ドイツの方にCATLが拠点をつくったり、アメリカにも工場をつくっていきたいという計画があるんです。」
「で、特にCATLというのはこれからもウォッチしておかないといけない会社で、特に習近平国家主席と非常につながりの強い会社だと言われていまして、習近平さん、福建省の寧徳というところで若い頃、市長をやっていたんですね。」
「で、このCATLは寧徳に本社を構えていまして、お忍びで年に何回か来ると言われてるんですね。」
「これは多分国家の最高トップの思い入れがある会社だと思っていいと思いますね。」

国家資本主義、国を挙げてこういうメーカーを育てていると言えますが、バッテリーについて、河野さんは次のようにおっしゃっています。
「今、クルマの話ですけども。日本は防衛力の観点から潜水艦なんです。」
「日本は原子力潜水艦を持っておりませんので通常型なんですね。」
「いろいろ変遷がありまして、今はリチウムイオン電池なんですよ。」
「だから、これは絶対国産で不可欠なんですね。」
「日本の潜水艦、中国のリチウムイオン電池を搭載するようになったら、目も当てられませんので、これは国産が頑張ってもらって、育成をしてもらいたいです。」
「今はもう自動車でそういう方向になっているということですから、国産に頑張ってもらいたいですね。」

バッテリーにも国を挙げてしっかりと投資をして、環境を育てて欲しいなと思うわけですが、実は東日本大震災から10年の3月11日、日本自動車工業会の豊田章男会長が以下のように重要な問題提起をしていたんです。

これからはCO2排出の少ない国でつくろうという動きが出てくる。
輸出の部分が再エネ(再生可能エネルギー)が進んでいる国にシフトしていく。
東北で作った「ヤリス」(トヨタのコンパクトカー)とフランスで作った「ヤリス」を比べた場合、ライフサイクルアセスメント(*)で見ると、クルマとしては同じでも日本生産のクルマはどなたにも使って頂けないということになると思います。

* ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)とは、ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)又はその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法

生産の過程から使用して最後に廃棄、リサイクルに至るまで全部の過程のCO2排出量で考えていくと、今の日本のエネルギー構成だと買ってもらえなくなっちゃうということをトヨタ会長は言っているわけです。
この発言について、野辺さんは次のようにおっしゃっています。
「全くその通りで、重要なポイントなんですね。」
「どういうことかというと、EVをつくる段階の時にバッテリーを作るために必要な電力がクルマ全体を作る、クルマ、バッテリーを除いたところですが、クルマを作る電力量とほぼ同じ、1対1ぐらいというのがまずあって、EVだからバッテリーを作る時の電力がまさに石炭火力で発電したものであれば、その段階でもうCO2を出しているじゃないかという話なんですね。」
「もう一つは、EVが普通にユーザーの手に渡って走っている時に、電力で走っていますけど、この電力が特に石炭火力で発電された場合はCO2をそもそも出していたから、EVが走ったからといってCO2は減らないんだよという話なんですね。」
「ですので、EVを増やすのとまさに電力構成ですけども、これを石炭火力を出来るだけ下げて再生可能エネルギーを増やすという、これを日本でも必要になるし、海外では既に始まっていますので、日本でそれを何とかしないとけないという問題提起をしていただいたと思いますね。」

豊田会長は輸出に大きな影響が出てしまうとおっしゃっていることについて、井上さんは次のようにおっしゃっています。
「これは、フランス工場は、フランスは原子力を使ってクルマをつくるわけですから、製造工程でCO2排出量は少ないと。」
「日本の場合は火力発電中心の電力でクルマをつくっているとCO2排出量が多いと。」
「そうなると、今後導入が予想される、国境と国境の間を輸出される時の国境炭素税みたいなものが出来た時に同じクルマでも日本でつくったものは製造工程でCO2が沢山出てるから、うちの国は入れませんよと。」
「そうすると、輸出量が減りますよね。」
「日本てだいたい980万台ぐらい国内生産してるんですけど、その半分が輸出ですと。」
「そうなった時に、輸出量が減れば雇用にも影響が出ますよということを豊田会長は言いたいんだと思います。」

そして、豊田会長は再生可能エネルギーを拡大すべきだというのです、

押し寄せるこのEVの波ですが、どうやって日本のメーカーは生き残っていくべきなのかについて、野辺さんは次のようにおっしゃっています。
「まさにEVをやらなきゃいけないということにはなるんですが、クルマの両輪みたいなもんで、EVを拡大するには再生可能エネルギーを増やさなきゃいけない。」
「で、中国なんかも普通の電力に関して、EVは蓄電池になる。」
「それで夜中に充電して昼間走れば、安定的な供給と需要が満たせる。」
「プラス火力発電ではなくて、水力発電と風力発電と太陽光パネル、これいろんな地方から需要者である町にも持っていくんですけど。このグリッド、電力網の改編もするんですね。」
「ですので、2035年に50%、50%という時間が必要だということになる、ハイブリッドとEVですけど。」
「かように、トータル戦略によってEVの拡大をすることを議論しているんですね。」
「これを日本でも早急にやらなきゃいけないことだろうと思います。」

また井上さんは次のようにおっしゃっています。
「私は先日、CO2規制では厳しい立場に追い込まれているマツダがつくったMX―30というEVに乗ったんですけども、非常にきめ細かくて、品質を重視してて、EVは普通音が出ないんですけど、エンジン音をわざと出すようなかたちで、エンジン音がないとクルマは乗りにくいし、危ないと言われているんですね。」
「こういう人馬一体というかですね、そういうきめ細かさ、繊細さ、クルマを操る喜びみたいなものを感じられたんですね。」
「それは、テスラのクルマはIT業界の発想なんですけども、これまで培った経験をEVの時代でも生かすという意味でやっていけば、勝機はあるんじゃないかなと思います。」

日本のメーカーも苦しいところはあるかもしれませんが、伸びる分野もあるので是非うまく頑張っていただきたいと思います。

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

以下に番組の内容を要約しました。
・気候変動により、産業革命前より1.5℃上がっていくと20%の種が絶滅の危機に瀕する
・更に気温がちょっとずつ上がっていくと人類の滅亡ということも懸念せざるを得ない
・環境への意識や地球の持続性を考えた大きな根底の意識が地球温暖化を止めなければいけないという気持ちにつながり、クルマの電動化が加速度的に進んでいる
・各国の“脱ガソリン”の動きを見てくる中で、世界最大の市場になっている中国がハイブリッド車を2035年でも認めるという動きになっている
・こうした中国の状況は、EVの普及には充電設備を含めてインフラを整えていかないといけないことから現実的な対応と言える
・EVのようにモーターとバッテリーで走るというのは走行性能まで後からアップデートすることが出来るが、これは非常に難しい技術と言える
・こういうアップデートされて、常に最新の状態になると、今までと全く違う概念になってくるが、これは日本が得意にしていた自動車産業のあり方が根本的に変わるかもしれないと言える
・現在のクルマは走るスマホと言えるので、スマホと同様にEVも水平分業になっていく
・EVになるとテスラのように部品の点数が減るということが言われているで、日本の産業に与えるインパクトとしては部品メーカーが出てくるので雇用にも影響が与える
・一方でソフトウェア産業が重要になってくるので新しく必要な産業も出てくる
・2024年にはバッテリー価格は1kwh当たり92ドル、1万円ぐらいまで下がってきてガソリン車とほぼ対等の価格になるので、EVを買うということにも必然的に流れていくだろうという予測される
・実際に価格が約45万円で4人乗りの「宏光(ホンガン)ミニEV」が今、中国で爆発的に売れている
・中国からもクルマを輸出したいという計画が2000年頃からあり、スタートポイントが同じであるEVで競争しようという考え方で中国はEVを成長させようとしてきた
・バッテリーを搭載しなければEVは走れないということで、バッテリー産業の育成もEV化と同時に並行して進めていた
・ヨーロッパが中国を追うようなかたちでEVをどんどん拡大しており、欧州も中国、韓国の会社を誘致している
・同時にエネルギーは確保出来ないと安全保障上まずいことから、果敢に欧州もバッテリーを作り始めている
・こうしたヨーロッパの動きが今アメリカでも起こり始めており、世界中でリージョナルにEVを作り、そこでバッテリーを作ろうという動きが国際的に急激に拡大している
・日本も同様の対策を考えないといけない状況である
・各国が力を入れているバッテリー政策だが、その代表として実は「中国製造2025」が挙げられる
・日本は原子力潜水艦を持っておらず、通常型なのでリチウムイオン電池を使用しており、防衛力の観点から国産であることが不可欠である

・CO2排出量については生産の過程から使用して最後に廃棄、リサイクルに至るまでプロダクトサイクル全体での削減を進めるべきである
・火力発電中心の今の日本のエネルギー構成ではCO2排出力削減には限りがあるので、その分輸出相手国が国境炭素税(こちを参照)を導入している場合に日本のEVと言えども輸出出来なくなる
・その理由は、EVの動力源であるバッテリーを作る時の電力が石炭火力で発電したものであれば、その段階でCO2を排出していることと、EVが走行する時に電力消費するが、この電力が特に石炭火力で発電された場合はCO2を排出しているからである
・国内のクルマの生産量の約半分は輸出用なので、輸出量が減れば雇用にも影響が出てくる
・従って、海外では既に化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが始まっているが、日本も同様の動きを加速させる必要がある
・EVを拡大するには化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが欠かせない
・中国では、既にこうした方向で、EVのバッテリーを電力供給源として位置付け、電力網の改編をするなど、トータル戦略によってEVの拡大をすることを議論している
・日本でも早急にこうしたトータル戦略によるEVの拡大を図る必要がある

更に、以下にまとめてみました。
・今や人類の諸活動によりCO2など温室効果ガスの排出量が増加し、地球の気温上昇が進み、人類の滅亡ということも懸念せざるを得ない状況になりつつある
・その対策の一環として“脱ガソリン”を目指すべく、クルマの電動化が世界的に急速に進みつつある
・EVの普及には充電設備を含めてインフラの整備が現実的な対応と言える

・モーターとバッテリーだけで走行するEVの特性として、走行性能などをコントロールするソフトウェアは購入後もアップデートすることが出来るので常に新車と同様に最新の機能の状態を維持出来る
・現在のクルマは走るスマホと言えるので、スマホと同様にEVも水平分業になっていく
・従って、EV関連のこうした技術は日本が得意にしていた自動車産業のあり方が根本的に変える可能性を秘めている
・また、EVでは部品の点数が減るので部品メーカーを中心に雇用に影響を与える
・一方でソフトウェア産業が重要になってくるので新しく必要な産業も出てくる

・2024年にはEVがガソリン車とほぼ対等の価格になるので、ガソリン車からEVへのシフトが進むので、2024年はまさに”EV普及元年”になり得る
・その予兆として、中国では約45万円のEVが昨年登場し、国内で爆発的に売れている
・バッテリーを搭載しなければEVは走行出来ないこと、またエネルギーの確保は安全保障上不可欠であることから、中国が先行し、欧米が中国の動きに追随するかたちでEV化と同時にバッテリー政策に取り組んでいる
・日本も同様の対策を考えないといけない状況である

・CO2排出量については生産の過程から使用して最後に廃棄、リサイクルに至るまでプロダクトサイクル全体での削減を進めるべきである
・こうした考え方から、ヨーロッパでは国境炭素税を導入する動きがある

・火力発電中心の今の日本のエネルギー構成ではCO2排出量削減には限りがあるので、その分輸出相手国が国境炭素税を導入している場合にはEVと言えども日本から輸出出来なくなる
・国内のクルマの生産量の約半分は輸出用なので、輸出量が減れば雇用にも影響が出てくる
・従って、海外では既に化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトが始まっているが、日本も同様の動きを加速させる必要がある

・中国では「中国製造2025」を国策として掲げ、EVのバッテリーを電力供給源として位置付け、電力網の改編、すなわちスマートグリッドの構築をするなど、トータル戦略によってEVの拡大をすることを議論している
・日本でも早急にこうしたトータル戦略を掲げ、その一環としてEVの拡大を図る必要がある

以上、要約を更にまとめてみました。

こうしてEVを巡る世界的な潮流を見てくると、地球温暖化阻止の観点から、EVの普及には電力供給における火力発電から再生可能エネルギーによる発電へのシフト、および低価格で大容量のバッテリーの大量生産が不可欠であるということが言えます。
そして、再生可能エネルギー中心の時代においては、太陽光や風力などを利用した発電は発電量が不安定なことから、バッテリーはEVのみならず一般家庭や企業などあらゆるエネルギー消費源において余剰電力を蓄えるうえで不可欠となります。
こうした状況を見すえて、自動車工業会の豊田会長はEVの普及を進めるにあたって大きな問題提起をされたのです。

ということで、EVの普及に当たっては、EV本体、搭載されるバッテリー、そして再生可能エネルギーの3要素がバランスよく関連付けられることがとても重要なのです。
そして社会全体では更に一般家庭や企業、公共施設などが電力消費源として、またこれらに導入されるバッテリーはEV用バッテリーと共に余剰電力を蓄える装置として先ほどの3要素に加わります。
また、全国展開されるバッテリー充電スタンドも電力消費源として無視出来ません。
そして、これらの全ての要素の電力の需給バランスをコントロールするうえでのインフラとしてスマートグリッドの構築がとても重要なのです。(参照:アイデアよもやま話 No.3363 EVの普及に向けて その8 スマートグリッドの標準化の必要性!
恐らく中国の「中国製造2025」ではこうした枠組みでEVを巡る取り組みを進めていると思われます。
更に、ひょっとしたらこうした一連のシステムをセットで途上国に展開していくことも計画しているかもしれません。
そして、欧米はこうした中国の動きに触発されるかたちで中国に対抗しようとしていると思われます。

ということで、日本も国の威信にかけて、地球温暖化の阻止、すなわち持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組まなければなりません。
なぜならば、世界に先駆けてこうした一連の技術を確立させ、世界展開することこそ、日本の経済の活性化、あるいは国民の生きがいにも大きく寄与するからです。
また、こうした政策を国が検討し、明確な目標を掲げて、国民に訴え、国民の心に響くことになれば、日本には十分にこの目標を達成するパワーがあると思うのです。

なお、今回はEVを巡る世界の潮流ということで、水素燃料電池車については触れませんでしたが、EVはいずれ時代後れになるという問題提起がなされているので、水素燃料電池などの研究についても同時並行で進める必要があります。(参照:アイデアよもやま話 No.5027 EVはいずれ時代後れになる!?

 
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