2023年04月15日
プロジェクト管理と日常生活 No.813 『2023年の世界の「10大リスク」!』
毎年、アメリカのリスク調査会社、ユーラシア・グループが年初にその年の世界の「10大リスク」を発表しています。
なお、昨年についてはプロジェクト管理と日常生活 No.744 『今更ですが、今年の世界の「10大リスク」を見ると・・・』でご紹介しました。
今年も1月11日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で今年の世界の「10大リスク」について取り上げていたのでご紹介します。 

こちらは今年の世界の「10大リスク」です。
エネルギー危機や物価高騰といった世界的な課題が入る中で、2位を見てみますと中国の最大化する習権力、そして1位はならず者国家ロシアです。
こうした世界的なリスクに日本や日本の企業はどう対応していけばいいのでしょうか。

ユーラシア・グループ代表で国際政治学者のイアン・ブレマー氏、ロシアのウクライナ侵攻に早くから警鐘を鳴らしていた人物です。
ロシアは今、ウクライナでの軍事作戦で不利な立場となり、北朝鮮のような「ならず者国家」になりつつあると指摘します。
ブレマーさんは次のようにおっしゃっています。
「プーチン大統領はウクライナで最低限の目標さえ達成出来ておらず、軍事作戦をエスカレートさせる可能性が高い。」
「大量破壊兵器を使う懸念もあるが、今、最も可能性が高く、危険なのはNATO諸国に対する「非対称攻撃」だ。」
「スパイ活動や偽情報の拡散、サイバー攻撃、パイプラインの破壊などが考えられる。」

昨年9月、ロシアとドイツを結ぶ天然ガスのパイプライン、ノルドストリームが何者かによって爆破される事件が発生しました。
ブレマー氏が最も懸念するのは、このような重要インフラへの攻撃が常態化するリスクです。
「(まだ調査中だが、)犯行はロシアか、それ以外によるものか、仮にロシアの仕業だったとする。」
「それは西側諸国が数十億ドルのパイプラインを破戒されても反撃・抑止する手段がないことを意味する。」
「反対に犯行がロシアでなく、ウクライナやその他の国だったとすれば、それは戦争を遂行する上でインフラ攻撃は許される行為で、ロシアもウクライナもインフラを破壊していいということになる。」
「どちらにせよ、戦争は「インフラ破戒」という後戻り出来ない道へと歩み出した。」

ブレマー氏が今年2番目に警戒すべきリスクとするのは、中国の習近平国家主席への権力集中です。
「習氏がこの数年進めてきた権力の集中は、昨年10月の共産党大会で頂点を迎えた。」
「党内部には今や習氏の政策に反対する者も誤りを注意する者もいない。」

中国は今、ゼロコロナ政策の解除で経済活動の再開が期待されています。
ただブレマー氏は中国の経済政策が今後、習氏の気まぐれに左右されることで中国への投資が難しくなると指摘しています。
「私は欧米の資本が中国から更に切り離されると考えている。」
「中国の統治に関する不透明さ、データの欠如、不確実性によって引き起こされている。」

東アジアでの地政学的リスクが高まる中、日本はどう対応していけばいいのでしょうか。
ブレマー氏は、日本はアメリカとの軍事的な連携を強めるしかないと主張します。
「(ウクライナ情勢でそうだったように、)軍事力では、アメリカが依然として優位なのは明白だ。」
「ウクライナへの軍事支援は主にアメリカが提供しているし、サーバー領域での支援はマイクロソフトやスペースXなど、アメリカ企業が主導している。」
「今、(アメリカの)軍事力の重要性は低下するどころか、増すばかりだ。」
「日本はアメリカを大いに頼る必要がある。」

企業はこうした地政学的なリスクにどう対応すべきなのでしょうか。
実は今、あるマンガが注目を集めています。
「紛争でしたら八田まで」、地政学リスクコンサルタントとして働く「八田百合」という女性が世界中の事件を解決していく物語です。
監修したのは東京海上ディアール株式会社の主席研究員の川口貴久さん、普段は主人公同様、地政学リスクコンサルタントとして日本企業にアドバイスしていますが、このところ相談が増えているといいます。
川口さんは次のようにおっしゃっています。
「地政学リスクへの関心が高まったのは、私の経験だと2016年がきっかけでして、イギリス国民はEU離脱を選択し、アメリカ市民はトランプ大統領を選んだわけですね。」
「これはかなり民間企業にとってはサプライズだったようで、今回、昨年のロシアによるウクライナ侵攻が更に決定的でして。」

以前は地政学リスクに備えていたのは金融機関や商社などの限られた業種でしたが、最近では様々な業界に広がっているといいます。
「(リスクに備えるには人材も必要で、分析能力やコストもかかり、これらは今後企業の負担になるのかという問いに対して、)リスクマネジメントはコストという面もあるんですが、ある意味、本業を伸ばしていくための投資だと思いますので、企業が持続的な成長であったり、価値を高めるうえで不可欠な機能、例えば人権に関するもの、環境、マクロ経済、どの部分を内製化して、どの部分の評価を外部に出すのか、こういった見極めも必要だと思うんですね。」

無数のリスクがある中で、最近相談が多いのはやはり米中対立に起因します経済安全保障、それから台湾有事に関するリスクだということです。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「アメリカの会社はチーフリスクオフィサー、危機管理担当役員を置く会社もあるんですけど、台湾有事とかサイバー攻撃とかどう準備をしておくかというのは経営の根幹のことなので、経営トップがそこに責任を持つということが何より大事だと思うんです。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

ユーラシア・グループによる今年の世界の「10大リスク」について、以下にまとめてみました。
・2大専制主義国の中国とロシアによる軍事的な脅威、および世界経済への影響
・テクノロジーによる社会的な混乱、および世代間のギャップ
・途上国の政情不安
・民主主義大国、アメリカの分断
・人類の経済活動の及ぼす地球温暖化、および地球環境への影響の拡大
・エネルギー危機
・水不足

更にこれらのリスクの根本的な要因、および主なリスク対応策を以下に挙げてみました。
・民主主義陣営と専制主義陣営の対立の拡大
 ⇒ 法による支配の国際社会への徹底
・AIをはじめとするテクノロジーの急速な進歩
 ⇒ あらかじめリスク要因を分析し、その対応策を組み込んでの活用
・アメリカ民主主義の劣化
 ⇒ 格差の是正
   民主主義教育の徹底
・途上国の混沌とした政治制度
 ⇒ 先進国による政治のあり方の支援、および経済的、かつ技術的支援
・世界人口の増加
 ⇒ 途上国に対する人口増加抑制に関する教育の普及
   途上国に対する持続可能な開発の支援
・地球温暖化、および環境破壊の進行
 ⇒ SDGs(参照:No.4578 ちょっと一休み その710 『日本も国家としてSDGsに真剣に取り組むべき!』)の世界的な展開、および徹底
・エネルギー危機
 ⇒ 化石燃料から太陽光など自然エネルギーへのシフト
   核融合(参照:アイデアよもやま話 No.5541 アメリカの研究所が画期的な核融合実験に成功!)の実用化
・水不足
 ⇒ 水資源を守るための環境保護
   海水の淡水化の活用(参照:アイデアよもやま話 No.3136 広がる世界の海水淡水化市場!

こうしてみてくると、やはり最大のリスクはロシアによるウクライナ侵攻です。
もし、どんな結末であれ、ロシアのプーチン大統領が満足できるような結果に終われば、他のロシアの周辺国への軍事的侵攻につながります。
一方で、中国もこうしたロシアの成功を横目で見て増々覇権主義を邁進することにつながります。
そして、こうした流れは米中を中心とした自由主義陣営と専制主義陣営との軍事的対立、すなわち第三次世界大戦の勃発を招きかねないのです。
ですから、何としてもロシアが自滅するような結果に終わらせることが必要なのです。
そのことが中国の覇権主義の世界展開の阻止につながるのです。

なお、地球温暖化阻止に向けた対応も喫緊の課題です。
そして、戦争はこうした対応を様々な面でマイナスの方向に引き戻してしまいます。
ですから、世界各国の指導者にはこうした観点も重視していただきたいと思います。
ちなみに、地球温暖化が進み、仮に南極大陸の氷が全て溶けてしまったら、海面は今より50m高くなると言われています。
ということは、氷が10%溶けただけでも海面は5m高くなってしまうのです。

 
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