2015年07月23日
アイデアよもやま話 No.3136 広がる世界の海水淡水化市場!

5月13日(水)放送の「時論口論」(NHK総合テレビ)で日本の浄水技術について取り上げていたのでご紹介します。

 

日本の新たな産業の柱と期待されるインフラ輸出の分野で、5月初めに一つの動きがありました。

産学協同で開発を進めてきた日本の水インフラ技術を中東のサウジアラビアが導入する方向に動くことが決まりました。

 

そもそも水インフラ技術とは、以下のような内容です。

・浄水技術

  川や湖から水を取り、それを飲料水として使えるようにする技術

・給水技術

浄水を家庭や工場などに送る技術

・料金徴収技術

  使った水の量を計算し、徴収する技術

・下水処理技術

  使われて汚れた水を集めて、ある程度綺麗にし、再び川などに戻す技術

 

ところが、今回サウジアラビアが導入に向けて動く水インフラ技術はこれらではありません。

川や湖から取る浄水場に代わり、海から海水を取って、それを真水に変える海水淡水化プラント技術です。

地球上の水のうち、私たちが飲み水などに使える淡水はわずか0.01%で、97.5%はそのままでは使えない海水です。

この海水から塩分などを取り除き、飲料水や産業用水を作り出すのが海水淡水化技術です。

国連の予測によれば、現在73億人を超える世界の人口は2050年には95億人を突破、アジアを中心に工業化が増々進むことも相まって、水の需要は1.6倍に膨れ上がると見られています。

この問題に応えるには、ふんだんにある海水を使うしかないとして海水淡水化技術が注目を集めています。

その市場規模は、現在の約1兆円から10年後の2025年には12.2兆円に拡大するという試算もあります。

 

以外ですが、アメリカは世界随一の海水淡水化市場です。

カリフォルニア州など慢性的な水不足に苦しむ地域を中心に海水淡水化が行われています。

他にも、川や湖の汚染が深刻な中国、人口増加が著しいインド、そして今最も海水淡水化に積極的に取り組んでいる地域が砂漠地帯の中東諸国です。

 

中でも最大の市場であるサウジアラビアが、今回日本の海水淡水化技術を導入する方向に動くことを決めました。

この技術の開発には国のお金、35億円が投入され、企業、大学など31の組織が4年をかけて実用化に取り組んできました。

導入に向けた覚書に調印したのは、開発を中心になって進めてきた日立製作所と東レの企業連合、サウジアラビア側は海水淡水化公社と現地の企業です。

サウジアラビアでは、来年以降の3年間だけで3000億円を超える海水淡水化プラントの建設が予定されています。

日立製作所と東レが窓口になって、この市場に日本の技術を広めようという構想です。

その実績をバネに更に周辺の中東諸国にまでビジネスを拡大出来れば、日本での先端部品の生産に拍車がかかり、国内経済の活性化や雇用の創出にもつながると期待されています。

 

では、サウジアラビアは日本の技術の何に注目したのでしょうか。

一つは、少ないエネルギーで多くの水を作ることが出来る省エネのテクノロジーです。

海水淡水化にもいくつかの方法がありますが、主流となっているのは、比較的エネルギー消費の少ない膜を使う方法です。

この膜で塩分を分離し、水だけをこし取ります。

日本企業は1960年代からこの膜の開発を進めており、現在国内3社集めて世界シェア6割という圧倒的な強さを横っています。

今回、新たに開発した膜によるシステムは従来の8割のエネルギーで、これまでの最大量の2倍に当たる500万人分の水を作ることが出来るといいます。

 

もう一つは、環境への配慮です、

例えば、膜によって取り除かれた塩分は濃い塩水として海に戻されますが、これを続けていると海水の塩分濃度が上がり、生態系に悪影響を及ぼしてしまいます。

今回のシステムでは、海に戻す濃い塩水を下水処理場から出た水と混ぜることで濃度を薄め、環境への影響を抑える工夫もされています。

しかも、混ざる際に発生する水流を利用して水車を回し、発電するという独自のエネルギー回収技術も開発しました。

この電気を使うことで、更に1割の省エネが可能になるといいます。

 

今回サウジアラビアの市場に食い込む足がかりをつかめたことにはもう一つ意味があります。

それは、部品を売るのではなく、日本企業がプロジェクトをリードし、プラント一式をセットで売ることが出来る可能性を切り開いたことです。

これまでは“水メジャー”と呼ばれるフランスやアメリカ、ドイツなど欧米の巨大企業がプロジェクトを取りまとめ、日本企業は膜などの部品を納入する立場に甘んじることが少なくありませんでした。

 

実は、この下請けの状況を脱却し、日本主導で海水淡水化プラントを受注することを目指して始まったのが今回の産学協同の技術開発プロジェクトでした。

これを機に、今後海水淡水化プラントをはじめ、水インフラ技術の輸出をリードしていくたに以下のような克服すべき課題があるとしています。

1.相手のニーズからのビジネスの立ち上げ

  自慢の技術に溺れず、徹底して相手のニーズからビジネスを立ち上げることです。

  技術にこだわるあまり、相手のニーズや懐具合に合わないコスト高の提案をして受注を逃してしまっては元も子もありません。

  インフラビジネスでものをいうのは、個別の技術力もさることながら、相手国のニーズを見抜き、魅力的な提案を取りまとめる力です。

  日本の技術を核に、必要に応じて他国の技術も織り交ぜながら絶妙な提案を繰り出さなければ、プロジェクトをリードする立場には立てません。

2.売り切りビジネスからの脱却

  海水淡水化プラントを始めとする水インフラは、完成後もその管理運営やメンテナンスが必要です。

  そこに長期的なビジネスがありますが、部品売りが多かったこともあり、日本企業はあまりそこに食い込めていませんでした。

  相手国からの信頼を獲得し、プロジェクトを任せてもらうためにも、現地に腰を据え、現地で人材育成もしながら、保守管理にまで積極的に係わる姿勢を見せる必要があります。

 

海水淡水化を始め、日本には世界に売るべき技術やノウハウが沢山あります。

少子高齢化が進み、内需の縮小が懸念される日本にとって、相手の国が抱える問題を解決しながら、共に豊さを手にすることが出来るインフラ技術を是非次世代産業として育てて欲しいと番組では締めくくっています。

 

私もこうした考えには全く同感です。

是非、日本の先進技術をベースに、個々の技術を切り売りするのではなく、対手国の要求に的確に応えるかたちでメンテナンスも含めたシステムとして提供することがこれからの日本産業の進むべき道だと思います。

そして、その際のキーワードこそ“持続可能な社会”の実現だと思うのです。


 
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