2022年05月19日
アイデアよもやま話 No.5272 プラスチックの代替素材を木材から開発!
プラスチックの代替素材については、これまで以下のようにお伝えしてきました。

アイデアよもやま話 No.3537 バイオプラスチックへの新たな取り組み!

アイデアよもやま話 No.4325 新潟発”お米を原料にしたプラスチック”!

アイデアよもやま話 No.4537 “プラスチック代替品”開発の最前線!


そうした中、2月3日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で木材から開発するプラスチックの代替素材について取り上げていたのでご紹介します。
なお、日付けは全て番組放送時のものです。

コロナ禍でテークアウトやデリバリーが増えましたが、そこで需要が高まっているのがプラスチックの容器です。
原油高が進む中、こうした容器にも値上げの波が押し寄せています。
都内の弁当専門店、宅配弁当京香 赤坂店、自慢のから揚げ弁当を中心に200〜300個の弁当を売っています。
そこで欠かせないのが弁当容器ですが、この容器を巡りある懸念があります。
山下誠店長は次のようにおっしゃっています。
「今は(容器の)お値段を据え置いていただいておりますけども、業者さんからは3月ぐらいを目途に値上させていただく予定というお知らせをいただいております。」

このお店では容器の値段が弁当の価格の1割ほどを占めていて、値上げされれば弁当自体の値上げも検討せざるを得ないといいます。
山誠店長は次のようにおっしゃっています。
「宅配なのでガソリンを結構使いますし、ガソリンもものもすごく値上がりしてまして、ここに来て容器(の値段)も上がる予定ということであれば、お手上げ寸前みたいなところでしょうか。」

ニューヨーク先物原油価格は一時1バレル89.72ドルと7年4ヵ月ぶりの高値水準に達していて、プラスチックの原料となる資源価格も高騰しています。
あるデリバリー容器の大手は既に値上げを始めており、番組の取材に次のように答えています。
「原材料のポリスチレンの価格が昨年4月、7月、10月と3回にわたり上昇している。」
「自助努力では(コストの)吸収が困難だ。」

値上げの波はプラスチック業界全体に広がりつつあります。
日本サニパック株式会社の井上充治社長は次のようにおっしゃっています。
「過去にないような長期間にわたる非常に大きなインパクトがございますので、全ての商品を対象に値上げのお願いをしております。」

ごみ袋やレジ袋を手掛ける日本サニパック、昨年9月に15%以上の値上げを発表しました。
ただ、その後も原油高が続き、2回目の値上げも検討中だといいます。
そこで今、力を入れているのがプラスチックと天然ライムストーン(石灰石)の複合素材の開発です。
石灰石を配合することでプラスチックの使用量を2〜4割程度減らしたポリ袋(商品名「nocoo(ノクー)」)です。
環境への配慮から開発しましたが、原油高の影響を受けにくい商品として今後売り上げを伸ばしたい考えです。

こうした石油を使わないプラスチックは今、各社で開発が進められています。
製紙大手の王子ホールディングス株式会社(東京・江東区) イノベーション推進本部の野口裕一上級研究員は次のようにおっしゃっています。
「こちらがポリ乳酸というプラスチックになります。」
「我々はこのポリ乳酸をこの木から作っております。」

食品の容器にも使われるプラスチックの一種、ポリ乳酸、王子ホールディングスはポリ乳酸を木材から作る技術を世界で初めて開発しました。
野口さんは次のようにおっしゃっています。
「原料を作っているプラントになってございます。」
「酵素の反応と発酵という反応を組み合わせてプラスチックの原料となる乳酸を作っております。」

木材のチップから取り出した繊維(パルプ)を液状に分解、これを発酵させて作り出した乳酸を更に化学反応させることでプラスチックが出来上がります。
今の価格は石油由来のものより割高ですが、量産化出来れば抑えられるといいます。
更に製紙会社ならではの強みがあります。
野口さんは次のようにおっしゃっています。
「我々が持続可能な森林経営をしているというところで、価格面ですとか供給面で安定力というものは示していけるのではないかなと。」
「石油由来のプラスチックと置き換えるというところでも一つ魅力的なところかなと考えています。」

58万ヘクタールの広大な森林を所有しているため、原料の木材を安定して調達出来るといいます。
今後、量産化の体制を整え、2025年以降の実用化を目指します。

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通して、プラスチックを取り巻く環境、および木材から開発するプラスチックの代替素材について以下にまとめてみました。
・コロナ禍でテークアウトやデリバリーが増え、プラスチック容器の需要が高まっている
・原油高が進む中、こうした容器にも値上げの波が押し寄せている
・都内の弁当専門店では容器の値段が弁当の価格の1割ほどを占めており、値上げされれば弁当自体の値上げも検討せざるを得ない
・値上げの波はプラスチック業界全体に広がりつつある
・そこで、ごみ袋やレジ袋を手掛ける日本サニパックはプラスチックと天然ライムストーン(石灰石)の複合素材の開発に取り組んでいる
・一方、王子ホールディングスは木材からプラスチックの原料となるポリ乳酸を作る技術を世界で初めて開発した
・今の価格は石油由来のものより割高だが、量産化出来れば抑えられるという
・王子ホールディングスでは持続可能な森林経営をしており、広大な森林を所有しているので原料の木材を安定して調達出来るという
・今後、量産化の体制を整え、2025年以降の実用化を目指している

こうしてまとめてみて、プラスチック容器の値段が弁当の価格の1割ほどを占めている弁当専門店があるという現実に驚きました。
というのは、漠然とですが10円程度と思っていたからです。
しかも、ロシアによるウクライナ侵攻が長引き、それに伴いロシアからの原油の輸入制限が続けば、さらにプラスチック業界全体の値上げの波は続きます。
なお、ロシアからの輸入物品についてはこちらを参照下さい。
一方で、石油由来のプラスチックの使用は環境に負荷がかかります。(参照:No.4290 ちょっと一休み その692 『海洋プラごみは1年間に1200万トンにも!』
そして国もようやくプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)を4月1日に施行しました。(こちらを参照)

こうした中、日本サニパックはプラスチックと石灰石の複合素材の開発に、また王子ホールディングスは木材を原料としたプラスチックの代替素材の開発に取り組んでいるのです。
特に王子ホールディングスによるこうした取り組みはいろいろな面でとてもプラスチック問題の解決に有効だと思いました。
しかし、いくつか疑問が湧いてきましたので、直接王子ホールディングスに問い合わせてみることにしました。
以下にその結果をまとめました。
・原料の木材は製紙用パルプに用いている木材と同じで種類を選ばない
・ポリ乳酸はまだリサイクルが確立された樹脂ではないが、単純に焼却(サーマルリサイクル)される場合であっても、元々、木材が吸収したCO2が排出されることとなる(カーボンニュートラル)
・今後、日本においても堆肥化(コンポスト化)の普及や、サーマルリサイクル以外のリサイクル方法の適用が期待される
・そのまま廃棄した場合の環境への負荷について、 例えば、焼却処理(サーマルリサイクル)されると、水とCO2とに分解されるが、この時に排出されるCO2は元々、木材が吸収したCO2のためカーボンニュートラルである
・大量生産した場合、現行のプラスチックに比べて価格はどの程度が見込まれるかについては、現在のところ不明である
・本件は、環境省の補助金(脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業)に採択され、支援を受けている
・ユーザーへのサンプル提供などは可能な限り前倒しを考えている
・現在、ペットボトルなどのプラごみが海中で分解されないまま蓄積されていると言われているが、ポリ乳酸は一般に海洋分解性が低いと言われており、また堆肥化(コンポスト化)する環境ではCO2と水に分解するが海水の温度はコンポスト環境より低いため、分解が遅い
・従って、今後とも環境中への不適切な排出が無いよう他のプラスチックと同様に考える必要がある

こうして見てくると、王子ホールディングスで開発中のプラスチックは石油ではなく、木材由来ということだけでも、それだけ石油の輸入量が削減出来るのでとても素晴らしい取り組みだと思います。
また、日本は森林大国なので木材は全国的に沢山入手が可能なので、林業の一環としてこの事業が位置付けられたらと思います。
また、是非この技術を世界展開されたらと思います。

なお、今回ご紹介したプラスチックの代替素材ですが、従来のプラスチックに比べればカーボンニュートラルの画期的な技術ですが、完全に持続可能な社会の実現に向けてはいくつか突破すべき課題を抱えていると言えます。

ということで、どのような分野においても“完全に持続可能な社会”を実現するのはそう簡単ではなく、常に解決すべき課題を認識しつつ、いくつかの技術革新を経てようやく達成出来るのです。
ですから、そうした覚悟を持って取り組むことが求められるのです。

 
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