2021年07月16日
アイデアよもやま話 No.5009 オールジャパンで挑む”水素”!
3月31日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でオールジャパンで挑む”水素”について取り上げていたのでご紹介します。 

世界で温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの流れが加速する中、日本も昨年12月に「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。
その切り札と言えるのが日本が技術面で世界をリードするとされる水素エネルギーです。
各国の追い上げで競争が激しくなる中、市場を切り開こうとオールジャパンで挑むプロジェクトが動き出していました。

川崎市にある川崎キングススカイフロント東急REIホテルではある世界初が売りです。
朝食の人気メニュー、レタスのスープにそのヒントがあります。
このレタス、実はフロントのすぐ横の植物工場で収穫したものなのです。
この工場を動かす電力に秘密があります。
このホテルの黒崎竜男さんは次のようにおっしゃっています。
「こちらがホテル前備え付けの燃料電池になります。」
「水素が地下のパイプラインを使ったこの燃料電池の中に入りまして、電気と熱エネルギーを生み出します。」

実はこのホテル、使用する電力の3割を水素を使った燃料電池の発電で賄っています。
その仕組みは、水素と空気中の酸素が化学反応をすることで電力が生まれます。
排出されるのは水だけです。
CO2を出さない究極のエネルギーです。
このホテルではレタスの栽培だけでなく、客室の照明や大浴場のお湯を沸かすのに使われていて、世界初の“水素ホテル”を売りにしています。
この究極のエネルギー、水素を使った燃料電池車を世界で初めて実用化したのがトヨタのMIRAI(ミライ)です。
昨年12月には2代目が登場、1回の水素充填にかかる時間はわずか3分で、走行距離は850kmです。
EVと比較しても走行距離や充電時間の面で優位に立ちます。

こうした燃料電池に代表される水素技術で世界をリードしてきた日本ですが、MIRAIの国内販売台数は約4700台(2月末時点)に止まり、国内で稼働する水素ステーションも約160ヵ所です。
クルマが先か、インフラが先か、需給のジレンマもあり、普及が進んでいるとは言えないのが実情です。
燃料電池の分野で国内有数の研究拠点を構える山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター長の飯山明裕特任教授は、日本の技術力の優位性が揺らいでいると指摘し、次のようにおっしゃっています。
「(日本の)研究開発レベルが非常に高いと。」
「ただドイツにしろ中国にしろすごい資金量で追い上げていると。」
「技術はある意味市場で育てられますので、市場が大きくならないと技術も結局抜かされちゃうと。」
「結局、最後は市場の大きさで優劣が決まっちゃうので・・・」

その市場を拡大しようと、オールジャパンでの挑戦が加速しています。
トヨタ自動車の豊田章男社長が日野自動車、いすゞ自動車との資本提携で宣言したのが燃料電池トラックの共同開発です。
更にトヨタはコンビニ大手3社と燃料電池トラックによる配送の実証実験を始めます。
乗用車に加え、商用車での活用を進めることでインフラの整備を促す考えです。

また、岩谷産業 水素ガス部の寺岡慎吾部長は次のようにおっしゃっています。
「やはり商用車になりますと1台当たりの水素使用料も多くなると思いますし、しかも大体一定ルートを通るとすれば、水素ステーションを効率よく配置することが出来る。」

こうした動きに呼応するように、水素ステーションを整備するインフラ事業者も新たな取り組みを始めています。
市場拡大のカギを握るのが「コストの壁」をいかに打ち破るかです。
現在、国内の水素価格は1㎥当たり約100円ですが、2030年には30円まで引き下げることを目指しています。
寺岡さんは次のようにおっしゃっています。
「水素自体のコストを下げていく。」
「そのためには大量に調達出来る体制をつくらないといけない。」

岩谷産業や川崎重工などが水素の普及を進めるために結成した組織、HySTRA(ハイストラ)、海外で安価に製造した大量の水素を−253℃まで冷やして液化し、体積を減らして運搬船で日本へ運ぶ、世界初の実証実験を始めようとしています。
その中枢である液化水素荷役実証ターミナル(神戸市中央区)に初めて番組のカメラが入りました。
現れたのは2本の巨大なアーム、水素を積んだ船に接続し、陸上のタンクに移し替えるためのものです。
岩谷産業 プロジェクト部の中島康広部長は次のようにおっしゃっています。
「簡単そうに見えて非常に難しい技術であり、ノウハウ、世界で見てもここが初めてになります。」

国内最大という水素タンクの容量は2500キロリットル、燃料電池車3万台分です。
大規模な水素の調達から供給までの仕組みを構築することでコストを下げ、安定して水素を流通させる狙いです。
中島さんは次のようにおっしゃっています。
「液化水素は日本がリードしていますので、リードを維持して諸外国に負けないように将来発展していきたいなと。」

日本にとってカーボンニュートラルの切り札とも言える水素、世界での競争が激化する中、国はどうバックアップするのでしょうか。
梶山経済産業大臣がテレビ東京の単独インタビューに答えました。
「いろんな規制もあります。」
「安全を大前提に規制をいかに緩和していくか、そして使い易いようにしていくかも国の役割だと思っています。」
「(シェアの多くを占めるところがタッグを組んで、水素分野でのオールジャパンのような体制を組んでいる民間の動きについて、)歓迎をしておりますけども、ただ市場は日本だけじゃありませんから、海外の市場もいかに取っていくか、規格とか標準とかというものもありますから、民間の力をどう合わせていくか、そして国がどういう後押しをしていけばいいのかということも含めて、経済界との対話もしていかなければならないと思っています。」

解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「(国がどうかかわるのかという点では、アメリカのバイデン大統領は間もなく演説で環境・インフラ投資など目玉政策を打ち出す予定ですが、どこに注目しているかという問いに対して、)演説場所なんですけど、ピッツバーグなんですよね。」
「ピッツバーグは鉄鋼の町として有名なんです。」
「ところが、その鉄鋼業が衰退する中で、産官学が連携して、言わば起業ですね。」
「アントレプレナーシップとか、環境を売り物にして町を再生させたという点で、バイデンさん、まさにここを演説場所にうたったわけです。」
「気合を入れているわけです。」
「(更に環境を主軸にした巨額のインフラ投資は新しい雇用を生み出しますが、)そこなんです。」
「やはり財政資金については、“ACT BIG”、“でっかくやろうぜ”というのが重要です。」
「バイデン大統領の演説で、250兆円の環境・インフラ投資をうたうと言っています。」
「けちっちゃいけないことなんですよね。」
「日本も環境、今の水素の話もそうですけども、どこか町で成功事例を作りたい。」
「そして、それを世界にアピールするということが重要になってくるんじゃないでしょうか。」
「(福島ですとか、ウーブンシティなどその候補の一つかもしれないのではという指摘について、)全くそうですね。」
「具体的なイメージが重要なんですよね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通して、以下のことが分かりました。
・世界的にカーボンニュートラルの流れが加速する中、日本も昨年12月に「2050年までに脱炭素社会の実現を目指す」と宣言したこと
・その切り札と言えるのが水素エネルギーと見られていること
・そして水素エネルギーの関連技術では日本が世界をリードしていると見られていること
・川崎キングススカイフロント東急REIホテルでは世界初で水素燃料電池をホテルの敷地内に設置し、そこから電気と熱エネルギーを生み出し、使用する電力の3割を賄っており、レタスの栽培や客室の照明、大浴場のお湯を沸かすのに使用していること
・水素を使った燃料電池車を世界で初めて実用化したトヨタのMIRAIの2代目では1回の水素充填にかかる時間はわずか3分で、走行距離は850kmであること
・しかし、MIRAIの国内販売台数は約4700台(2月末時点)に止まっており、国内で稼働する水素ステーションも約160ヵ所であること
・専門家は、水素関連技術でドイツや中国が追い上げており、最後は市場の大きさで優劣が決まるので日本の技術力の優位性が揺らいでいると指摘していること
・その市場を拡大しようと、トヨタ自動車は日野自動車、いすゞ自動車との資本提携で燃料電池トラックの共同開発に取り組もうと計画していること
・一方、水素ステーションを整備するインフラ事業者も水素価格の低下を目指す取り組みを始めていること
・水素の普及を進めるために結成した組織、HySTRA(ハイストラ)では、海外で安価に製造した大量の水素を液化して運搬船で日本へ運ぶ取り組みを進めていること
・水素を巡る世界での競争が激化する中、経産大臣は規制緩和や海外市場の獲得に向けた規格や標準作りにおける主導権の獲得などでのバックアップを国の役割と考えていること
・環境を主軸にした巨額のインフラ投資は新しい雇用を生み出すこと
・従って、国はこうした財政資金についてはアメリカの例にもあるように大胆な投資をすべきであること
・どこかの町で成功事例を作り、それを世界にアピールするということが重要になってくること

こうしてみてくると、カーボンニュートラルの実現に向けて、国や企業の一般的なスタンスは水素エネルギーをその切り札と考えているようです。
しかし、その水素の入手方法としては、海外で安価に製造した大量の水素を液化して運搬船で日本へ運ぶ取り組みを進めているようです。
ということは、エネルギーの切り札とも言われる一番肝心な水素は海外で製造したものに依存することになるのです。
そして、その水素を製造する際に再生可能エネルギーではなく化石燃料を使用した火力発電を使用していればトータルプロセスで見れば、カーボンニュートラルとは言えないのです。
では水素エネルギーを再生可能エネルギーで製造するためにはどうするかですが、以下に私のお勧めの3つの方法についてまとめてみました。
1.以前ご紹介した薄型の太陽光発電をあらゆる建造物に設置する(参照:アイデアよもやま話 No.5001 超薄型の太陽電池!
2.再生可能エネルギーで製造した水素による発電装置を普及させる(参照:アイデアよもやま話 No.4991 CO2ゼロ水素発電所が今年度内に国内初の商業運転を開始!
3.究極の発電装置と呼べる発電装置を開発する(参照:アイデアよもやま話 No.2025 私のイメージする究極の発電装置とは・・・

上記のうち、1と2についてはそう遠くない時期に実用化が期待出来そうです。
ですから、国がその気になって取り組み始めれば世界中のカーボンニュートラルは実現出来るはずなのです。
そして、最終的に実現させるべきは3のような発電装置なのです。

次に燃料電池についてですが、クルマを例にとると、EV(電気自動車)と燃料電池車のどちらが主流になるかですが、今のところはEVが主流になると考えます。
その理由は、水素燃料の充填スタンドの設置費用の高さ、および安全管理要員の配置の必要性です。
そもそもEVは家庭用電源でも充電出来ます。
ですから、世界中どこでも電気が通っている場所であればとりあえずEVを走らせることが出来るのです。
それに対して、燃料電池車の燃料である水素は充填スタンドで充填する必要があります。
しかも、その充填スタンドが今のところEVの急速充電スタンドの設置費用に比べて10倍ほどかかってしまうと言われています。
更に、EVのバッテリーは現在リチウムイオン電池ですが、全個体電池(参照:アイデアよもやま話 No.4942 早くも来年には航続距離1000kmの個体電池が登場!?)が実用化されれば、同じ容積での充電容量が増えるのでその分フル充電での航続距離が伸び、また充電時間も短くなると言われているのです。

ただし、バスやトラックなど、大容量のバッテリーを必要とするクルマには大容量の燃料電池の搭載が適しています。
ですから、完全に現行の全てのガソリン車などからEVに移行するというのではなく、大型車においては燃料電池車への移行が進められると考えられるのです。
トヨタなどが狙っているのはまさにこうしたすみ分けを前提とした大型車でのカーボンニュートラルの実現なのです。
こうしたバッテリーと燃料電池とのすみ分けはクルマに限らず他の分野でも広がっていくものと見込まれます。

ということで、カーボンニュートラルに向けての最終目標は大きく以下の3つがあると思われます。
1.発電装置の製造、および発電装置の運用をカーボンニュートラルにすること
2.発電した電力を蓄える手段としてバッテリーと燃料電池の2つにすること
3.あらゆる電力の最終供給源はそれぞれの用途に応じてバッテリーと燃料電池を使い分けること

日本政府にはこうした骨太の方針を掲げて、エネルギー問題、および環境問題の解決にまい進していただきたいと思います。

 
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