1月4日(水)放送の「クローズアップ現在」(NHK総合テレビ)のテーマは「“幸福を探して”
人類250万年の旅〜世界的ベストセラー〜」でした。
番組では世界が注目するベストセラー本、「サピエンス全史」を通してこれまでにない新たな視点から人類のこれまでの歴史、そして将来を取り上げていたので4回にわたってご紹介します。
3回目は、資本主義に代わる新たなフィクションの必要性についてです。
イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリさんの書いた「サピエンス全史」は、人類250万年の歴史を斬新な視点でひも解く壮大なストーリー、世界的なベストセラーとなっています。
そして、世界のトップランナーたちも口々に賞賛しているといいます。
1回目では人類の最初のターニングポイント、“認知革命”、2回目では2番目のターニングポイント、“農業革命”についてご紹介しました。
さて、私たちが暮らす2017年の今、世界はどこへ向かうのでしょうか。
産業革命を経て飛躍的に発展した私たち、今世界を動かしている大きな仕組みが資本主義です。
でもここにもフィクションがあります。
資本主義では経済成長が無限に続き、幸せになるという考えをみんなが信じているだけだと「サピエンス全史」ではいいます。
実は今、多くの国で資本主義経済が限界に来ていると言われています。
2010年をピークに世界全体の経済成長率は上向かず、停滞し続けているのです。
「サピエンス全史」には次のような記述があります。
2014年の経済のパイは1500年のものよりはるかに大きいが、その分配はあまりに不公平で、アフリカの農民やインドネシアの労働者が1日身を粉にして働いても手にする食料は500年前の祖先よりも少ない。人類とグローバル経済は発展し続けるだろうが、さらに多くの人々が飢えと貧困に喘ぎながら生きていくことになるかもしれない。
資本主義経済がどんどんグローバル化する一方で、格差は増々拡大していくというのです。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンさんは、「サピエンス全史」が指摘している通り、世界は今後資本主義によって“分断”や“対立”を深めていくと見ています。
「この本では、今後一層格差が拡大するといっていますが、私も全く同感です。」
「経済の停滞は勝者と敗者を生み出し、自分を敗者だと思う人々は「この世界は不公平だ」と怒りをあらわにしています。」
「それこそが毎日ニュースになっていることの根源なのです。」
資本主義に代わるフィクションを探すことが必要だと言う人もいます。
政治学者のイアン・ブレマーさんです。
トランプ次期大統領(放送時)の登場で、政治や経済、社会が根底から変わろうとしているアメリカ、これまで資本主義のリーダーとして世界を引っ張って来ました。
しかし世界経済が停滞する中、アメリカ中心の資本主義は限界に来ていて、新たなフィクションが求められているとブレマーさんは考え、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「フィクションは人間を発展させる一方で、その考え方に囚われてしまう恐れもあるのです。」
「私たちは、アメリカが世界のリーダーだというフィクションを長年受け入れてきました。」
「でもその賞味期限は過ぎました。」
「フィリピンや中東、ヨーロッパの国々などは、もはやアメリカが世界のリーダーではないと考え始めています。」
「みんなが信じてきた「フィクション」は変わることもあるし、その考えを共有出来ないこともあるのです。」
では資本主義に代わる新たな仕組みとはどのようなものなのでしょうか。
番組の中で「サピエンス全史」の著者、ユヴァル・ノア・ハラリさんは池上さんの質問に対して次のように答えています。
「(資本主義というのはそもそも人間が作り出したものですが、その資本主義によって確かに私たちは豊かになったのですが、その資本主義によって今私たちは翻弄されている。世界経済が非常にうまくいっていない、あるいは世界中の中央銀行がなんとか景気をよくしようとしているが、これがみんなことごとくうまくいっていない。私たちが作り出した資本主義というのは今限界に来ているのかという問いに対して、)難しい問題ですね。」
「資本主義は近代で最もうまくいった考え方で、宗教とさえいえます。」
「でも、そのために大規模な経済破綻や政治的な問題も起きています。」
「今、たった一つの解決策は全く新しいイノベーションを起こすことだと思います。」
新たなイノベーションが必要だという「サピエンス全史」の考え方は、経営者たちの間にも広がっています。
インターネットの証券会社をいち早く設立するなど、革新的なビジネスモデルを生み出したマネックスグループ
株式会社代表取締役社長、松本 大さんは、私たち人類は(国内の)人口減少や低成長、格差の拡大などに対応した経済の新たなフィクションを考える時期に来ていると考え始めています。
松本さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「今の資本主義や貨幣経済に代わる新しい概念というもの、みんなで抱えることが出来る共同のフィクション、単なるフィクションではなく、共同で持てるフィクションを作る必要がある。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
資本主義による収入格差の弊害、およびその対応策については、これまで以下のように何度かお伝えしてきました。
アイデアよもやま話 No.3463資本主義のルールが変わる時 その1 資本主義の現状!
アイデアよもやま話 No.3557 アメリカの大富豪が『格差是正』を訴える!
アイデアよもやま話 No.3565 マイナス金利政策に見る資本主義からの脱却の必要性!
アイデアよもやま話 No.3616 格差社会アメリカの実態 その4 富裕層への富の集中による弊害!
そもそも資本主義の原動力は消費なのですから、消費が頭打ちになれば成立しません。
ところが、経済成長が進み、一通り生活用品が行きわたれば、当然需要は鈍化します。
それはこれまでの先進国の経済成長率の推移を見れば明らかです。
ですから、需要の面で経済成長率の鈍化は当面避けられないのです。
一方、経済活動に欠かせない中心的なエネルギー源である化石燃料をはじめ地球資源は少なからず有限です。
ですから、100年単位くらいの長期的な視点でみればエネルギー資源の枯渇が制約となり、供給面の減少から経済成長率は鈍化せざるを得ません。
しかし、エネルギー資源については、世界的に化石燃料から太陽光発電などの再生可能エネルギーへのシフトが進んでいます。
ですから、世界各国が良識的な判断で再生可能エネルギーへのシフトをしっかりと進めればこの問題の解決の道は開かれます。
一方、所得配分の面でもその極端な所得格差が世界的に大問題化しています。
また、よく言われているように、格差拡大は全体としての需要低迷をもたらします。
ですから今回ご紹介したように、資本主義に代わる新たなフィクションの必要性が問題視されているのです。
私は経済の専門家ではありませんが、資本主義に代わる新たなフィクションの満たすべき要件を以下に羅列してみました。
・人の幸せを最終目的とした経済運営
・格差是正を目的とした税収制度の見直し
・主にベンチャー企業をターゲットとした規制緩和や資金などの支援
・ウォール街の大暴落(1929年)やリーマンショックのような世界的金融危機(2008年)を引き起こさないような国連のような国際組織による金融規制、および金融市場の監視
・資本主義に代わる新たなフィクションに対応した指標の構築
ちなみに、最後に掲げた新たなフィクションに対応した指標の構築という要件ですが、たとえば今広がりつつあるシェアリングビジネスが今後とも普及していけば、既存の経済指標で見れば経済規模は縮小します。
しかし、シェアリングビジネスのユーザーは低価格でサービスを受けることが出来ますし、省エネにもつながるのです。