地球環境問題や化石燃料などの資源の枯渇問題に関心を持ち始めるようになってから、消費が成長エンジンである資本主義のあり方に疑問を感じるようになりました。
そうした中、5月28日(土)放送の番組(NHK総合テレビ)で「欲望の資本主義 〜ルールが変わる時〜」をテーマに取り上げていました。
そこで、5回にわたってご紹介します。
1回目は、資本主義の現状についてです。
ヒトとモノの間をお金が行きかい、際限なく膨張してきた資本主義経済システム、より速く、より遠くへより良いモノを、飽くなき欲望が加速する世界、市場の論理に全てが覆われ、一瞬先が予測不能なこの世界、消費、成長、富への欲望、私たちはどこへ向かうのでしょうか。
資本主義、それはお金、資本を際限なく投じ、増殖を求めるシステムです。
2001年のノーベル経済学賞受賞者で、コロンビア大学教授のジョセフ・ステイグリッツさんは、経済学の父と言われるアダム・スミスは間違っていたと指摘し、もう一度ルールを書き換えるべきであると唱えております。
ステイグリッツさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(今、多くの国が低成長に苦しんでいるが、それでも世界経済は成長し続けられるのか、あるいは成長し続けていくべきなのかという問いに対して、)今問題なのは、世界の総需要が不足していることだ。」
「そのせいで世界経済が減速している。」
「それにはいくつかの原因がある。」
「まず中国の減速、“量の成長”から“質の成長”へと変化し、世界に大きな影響を与えている。」
「もう一つはユーロ圏だ。」
「数々の問題を抱えている。」
「ユーロでは通貨の統合が成長を妨げてきた。」
「ただ全体としては別の要因が潜んでいる。」
「不平等の増大だ。」
「貧困層から富裕層へと富は吸い上げられ、富裕層は貧困層に比べてお金を使わない。」
「これが全体の需要を押し下げ、成長にブレーキをかけているのだ。」
「低成長は避けられる。」
「もしもアメリカ、ヨーロッパ各国で考え方を変えることが出来れば成長は可能だ。」
「(資本主義はこれからも持続可能かという問いに対して、)市場経済はずっと続いていくだろう。」
「市場経済のあり方には政治が大きく影響する。」
「30年ほど前にアメリカを始め各国で市場経済のルールの書き換えが始まった。」
「増々不平等を生むようなルールに書き換えられたのだ。」
「それだけでなく市場経済の効率性が下がり、生産性の下落を招いたのだ。」
「目先のことだけに人々が夢中になってしまうようなルールの変更だ。」
「長期の投資ニーズがあり、長期の貯金をしている人々がいる。」
「だが、金融市場は目先のことだけで機能不全に陥っている。」
「私たちの市場経済が招いた決定的な変化の一つだ。」
「だから、今再びルールを書き換えないといけない。」
「これからのルールは繁栄を分かち合い、より成長し、より公平な分配を促すものでないといけない。」
「実現出来ると思うし、実行可能な目標だと思う。」
また、チェコのCSOB銀行のマクロ経済チーフストラテジストであるトーマス・セドラチェクさんは、日本が成長を追い求め過ぎれば、「KAROUSHI」という名の資本主義の「死」を迎えるだろうと警鐘を鳴らしております。
セドラチェクさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「僕らが生きている世界は資本主義か、それとも“成長”資本主義か、僕は“成長”資本主義だと思っている。」
「みんな成長のことばかり気にしている。」
「成長出来なかったら「もう終わり」ってね。」
「おかしいだろう。」
「どこに書いてある?」
「聖書に? 空に? 数学モデルに? 過去に証明されたのか?」
「ノーだ。」
「資本主義が必ず成長するというのはナイーブな思い込みだ。」
「成長に反対なわけじゃない。」
「いい天気が嫌なはずがないだろう。」
「問題は、社会、年金、銀行・・・、全て成長が前提になっていることだ。」
「まるで毎日快晴だと決めつけて船を造るようなものだね。」
「そんな船は駄目だ。」
「凪でも嵐でも航海出来るのがいい船だろう。」
「そりゃ天気がいいに越したことはない。」
「でもそれを前提にして船を造ってはいけない。」
「共産主義だった国から来た身としては、共産主義を捨てて、資本主義をインストールしていた頃、民主主義国家での資本主義は何よりも自由のためのものだと信じていた。」
「成長は良いものかもしれないけれど、例えるなら自動車の“最高速度”だ。」
「それは大事なことか? そうだ。」
「一番大事かことか? いいえだ。」
「確かに資本主義は“成長”のための豊かな土壌だ。」
「しかし、この20年間で二つの関係がひっくり返って、私たちは成長を資本主義の“絶対必要条件”だと信じ込んでいる。」
「自由とは、かつて「モノからの自由」を意味していた。」
「今や自由といえば「消費する自由」だ。」
「消費出来るほど自由を感じる。」
「消費出来ないと自由じゃないと思ってしまう。」
「だから毎日働かないといけない・・・」
「映画「マトリックス」でもあったろう。」
「いらないモノを買うためにしたくもない仕事をする。」
「エデンの園の呪いだね。」
「「CUBE」っていう映画を知ってるかい?」
「「CUBE」はカフカの不条理劇にも通じるんだが、気が付くと四角い空間に閉じ込められていて、物語の終盤、実は自分たちが「CUBE」を作っていたことに気が付くことになる。」
「専門化した社会では、自分のしていることが分からなくなる。」
「フランスの哲学者、ラカンは「「分かっているけど止められない」と言った。」
「私たちの問題は、分かってさえもいないことだ。」
「どんなに働いても欲望を満たすだけのものは作れない。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
資本主義経済により、これまで人類、中でも先進国の人たちは物質的な豊かさを手に入れてきました。
ところが、地球温暖化、および環境破壊の問題、あるいは地球資源の枯渇リスクという極めて大きな問題やリスクに直面するようになってきました。
それでも今のところ、経済成長という身近な問題に最も力を注いでおります。
ところが、先進国での超低金利状態が示しているように、経済成長も危うくなってきつつあります。
まさに、資本主義経済の危機です。
それでも、先進国では何とか少しでも経済成長をさせるべく取り組んでおります。
ということで、次回は、成長は至上命題なのかについてご紹介します。