2017年02月02日
アイデアよもやま話 No.3616 格差社会アメリカの実態 その4 富裕層への富の集中による弊害!

今、世界各国で格差社会が進行し、世界的に問題視されています。

日本もその例外ではなく、非正規社員の割合の増加により格差社会が広がっています。

そうした中、昨年11月3日(水)放送の「BS世界のドキュメンタリー選」のテーマは「パーク・アベニュー 格差社会アメリカ」でした。(2012年11月30日放送の再放送)

そこで、ちょっと内容は古いですが、番組を通して格差社会アメリカの実態について5回にわたってご紹介します。

4回目は、富裕層への富の集中による弊害についてです。

 

教育が出世のカギだということは誰もが認めるでしょう。

社会の底辺から始める人たちにとって大学の学位があれば、出世出来る可能性は4倍に増えるといいます。

しかし、大学は彼らから遠ざかるばかりです。

1980年に比べて、学費は5倍以上に跳ね上がっています。

勿論学位がなければ就職の機会は減るばかりです。

高卒の7割がフルタイムで働くことが出来ません。

皮肉なことにアメリカ経済は製造業、ハイテク産業などで高い技術を持つ人材を必要としていますが、その条件に合う人材は不足しています。

1200万人が仕事が無いというのに、職業訓練や教育プログラムはカットされています。

富裕層の減税を優先しているからとの見方があります。

現在、7人に1人のアメリカ人が食料配給券をもらい、その4割が働き手のいる家庭で暮らしています。

例え仕事があってもアメリカ人は貧困から抜け出すことが出来ないでいるのです。

 

困っているのは低所得者だけではありません。

ウィスコンシン州では、かつては中流だった住民たちは必需品さえ満足に買えないでいます。

豊かなはずのワウケシャ郡でも6000人以上が毎月食糧配給を受けています。

高学歴の人、専門教育を受けている人やその家族が増えているといいます。

ライアン議員は食料配給券の予算を10年間で1340億ドル削減するといいますが、これで800万人のセイフティネットが壊れてしまうと見込まれています。

ライアン議員は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「この国は転換期に来ています。」

「もし政府が拡大を続ければ、アメリカの良き時代は過去のものになってしまいます。」

「このままではセイフティネットは快適過ぎるハンモックになってしまいます。」

 

これに対して、貧困研究所のティム・スミーディング所長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ライアンの言うハンモックとやらだが、去年のウィスコンシン州の平均給付額は4人でわずか月350ドルなんだ(1日一人当たり2.9ドル)。」

「たったこれだけで“ハンモックでくつろごう”なんたって配給券がもらえたからなと言えるか。」

「この国は人々を食べさせることが出来るし、そうすべきだ。」

「何がハンモックだ。」

 

また、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「政府の財源は逼迫しています。」

「GDP比でみると、現在の税収は近代史上最低です。(2011年で15%)」

「最も基本的な公共サービスにさえ資金が回らないのです。」

「学校は機能しなくなっているし、道路も老朽化しています。」

「税金は文化的な生活のために各自が払うべきものであり、もし払わないならそれは手に入らない、実に簡単なことです。」

 

過去20年で富裕層への税率は4分の1以上下がっています。

更に一握りの大富豪たち(TOP400人)の場合、税率は半分になってしまいました。

この大きな原因は、ブッシュ元大統領が署名した減税法案です。

彼は投資で得られるキャピタルゲインの課税率を15%に引き下げたのです。

これはレーガン大統領時代の半分に当たります。

ブッシュ元大統領の減税によって国債は2兆9千ドルに増加、更にライアン議員の減税案では4兆6千億ドル増加することになります。

なぜ金持ちへの減税を執拗に推し進めるのか、彼らは比べものにならないほど財産を持っているのに。

 

1965年、重役たちは平均的な労働者と比べ20倍の収入を得ていました。

それが2011年には少なく見積もっても231倍です。

これほどまでに彼らの収入が増えるのは、その資格があるからなのでしょうか。

 

次に番組が紹介するパーク・アベニュー740番地の住人は、ジョン・セインさんです。

セインさんはニューヨーク証券取引所の重役を務めた後、投資銀行メリルリンチの会長になりました。

2008年、(リーマンショックにより)会社の損失が膨れ上がったり、株価が急落した時、彼は120万ドルをかけたオフィスの改装にかまけていました。

彼がインテリアを選んでいた頃、メリルリンチは世界経済の危機に係わっていました。

ウォール街に税金が投入され、ほぼ無利子の資金貸し付けも行われました。

一方、何百万もの中流世帯が担保にしていた家を差し押さえられましたが、彼らへの救済はほんのわずかな額に過ぎませんでした。

結局、メリルリンチは270億ドルを超える損失を出し、売却されました。

にもかかわらず、セインさんは重役たちに36億ドルのボーナスを支払っていました。

「740番地」の著者、マイケル・グロスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「周囲の人間がみんな巨額のカネを追いかけているような世界で暮らしていると、彼らの行動はもっともっと金持ちになるには何が必要なのかという基準で決められるようになります。」

「自分の行いを抑制する道徳観を失ってしまうんです。」

 

「金持ちだからって頭がいいとは限らないし、教養があるとも上品だとも限らない。」

「金持ちはただの金持ちでしかありません。」

「そして一部は腐った奴らだ。」

 

また、カリフォルニア大学の社会心理学者、ポール・ピフさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「思うに人はカネを持つほど優越感を感じ、自分は価値があると思い込むんです。」

「その地位が脅かされそうな時に辛辣な態度に出すのはそういう気持ちからでしょう。」

 

レーガン・ブッシュ政権の経済政策顧問だったブルース・バートレットさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「共和党は、民主党が階級闘争をしていると非難します。」

「でもそれは彼ら自身も同じなのです。」

「例えば納税申告を自分でやる連中の半分は所得税を払わなくていいんだろなどとすぐに言い出すのです。」

 

また、今のアメリカのシステムでは国民の45%が所得税を払っていないという声がある中で、貧困研究所のティム・スミーディング所長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「所得税を払っていない人たちは確かにいる。」

「1人暮らしの年配の女性で年金をもらっているのに申告していない人、収入のない障害者も含まれている。」

「だが彼らもみんな税金を払っているんだ。」

「給与税、消費税、財産税、低所得者が税金を払っていないというのは、ばかげた言いぐさだ。」

 

ニューヨーカー誌のジェーン・メイヤーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「中間層の恨みの矛先を低所得者層に向けているのです。」

「増々裕福になるのに高い課税を免れているトップの1%を攻める代わりに。」

「そうすれば政治的に成功出来るからです。」

 

さて、「アルフレッド・E・スミス記念基金ディナー」という慈善パーティは金持ちが恵まれない人々に富を分け与える場です。

ウォール街の超大物、スティーブ・シュワルツマンさんは、奨学金基金に10年で700万ドルを寄付しており、ある日のこの慈善パーティの場で次のように演説しています。

「アメリカンドリームが消える大きな危機に直面しています。」

「私の心配は、アメリカの社会が苦しむ人の弱みに付け込む人間に故意に破壊されていることです。」

 

シュワルツマンさんは貧しい人々に同情的なことを言っていますが、この国で指折りの資産家である彼にはよく分かっていないようです。

モノポリーのようなゲームとは違い、現実の資本主義は真剣勝負です。

勝者の陰には沢山の敗者がいます。

富は作られるものですが、それは貧困も同じです。

そこに民主主義がなければ全ての利益は頂点に吸い上げられるだけなのです。

ディバインライト食糧配給所のコリン・ダンクリーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「金持ちになるのが悪いのではありません。」

「しかし他人を顧みない金持ちにはなるべきではないのです。」

 

コロンビア大学の経済学教授、ジェフリー・サックスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「彼らはより多くのカネを欲しがってします。」

「そして政治をゆがめてそれを手に入れているのです。」

「アメリカは何でもカネで買える国になってしまいました。」

 

大富豪たちはアメリカの可能性を体現した人々として、誰でも成功出来るのだともてはやされます。

しかしこの国にはまだ豊かな明日にかかる橋は存在しているのでしょうか。

パーク・アベニューを分けるハーレム川は全ての人の繁栄につながる水路でしょうか。

それとも貧しい人々には超えることが出来ない障壁でしょうか。

政治家が富豪のカネの力で選挙に勝ち、議員に居座り続ける限り、金持ちのためだけの法案はなくなりません。

そしてこの川は埋めることの出来ない深い溝となってしまうでしょう。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

富裕層への富の集中による弊害について以下に要点をまとめてみました。

・過去20年で富裕層への税率は4分の1以上下がっている

  ブッシュ元大統領が署名した減税法案により、キャピタルゲインの課税率を15%に引き下げた

・一方で政府の財源は逼迫している

GDP比でみると、現在の税収は近代史上最低である

・その結果、最も基本的な公共サービスにさえ資金が回らない

学校は機能しなくなっているし、道路も老朽化している

1980年に比べて、学費は5倍以上に跳ね上がっている

職業訓練や教育プログラムの予算がカットされている

例え仕事があっても貧困から抜け出すことが出来ないでいる

かつては中流だった住民たちが必需品さえ満足に買えないでいる

・政治家が富豪のカネの力で選挙に勝ち、議員に居座り続ける限り、金持ちのためだけの法案はなくならない

 

また、番組では触れられておりませんでしたが、メキシコからの多くの不法移民が問題視されています。

こうした状況に対する多くの国民の不満が今回のトランプ政権誕生につながったと思われます。


 
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