2016年11月25日
アイデアよもやま話 No.3557 アメリカの大富豪が『格差是正』を訴える!

アメリカでは以前から所得格差が問題となっており、変化を求める多くの有権者の不満の高まりが今回の大統領選挙でもトランプ次期大統領誕生の大きなポイントなったと見られています。

そうした中、10月31日(日)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でアメリカの所得格差の実態について取り上げていたのでご紹介します。

 

現在、アメリカでは所得格差が広がって低賃金労働者が増えています。

中には、正規の給料をもらってもとても生活出来ないと訴える人たちも多いといいます。

ちなみに、アメリカ連邦政府が定めている最低賃金は1時間あたり7ドル25セントです。

 

ジャーナリストでこの日の番組の特別ゲストである池上 彰さんは、こうした人たちの相談に乗っている、アメリカ西海岸のシアトルにある労働組合「UFCW21」を取材で訪れました。

この日相談に来ていたのは、ウォルマートで働いていた女性たちでした。

メアリー・ワトキンスさんは、ウォルマートに15年間働いていましたが、去年解雇されました。

そのきっかけは、ワトキンスさんが去年のウォルマート株主総会の場でCEOと従業員の所得格差を次のように指摘したことでした。

「CEOは平均従業員の1000倍稼いでいる。」

「これをなくさなければならない。」

 

ワトキンスさんはこの直後、「勤務態度に問題がある」という理由で解雇されました。

実際、去年のCEOの年収は約1940ドル(約20億円)、これに対してフルタイムで働いても最低時給で働く人は年収200万円ほどです。

こうした状況からウォルマートの従業員は賃上げを訴え、各地でデモを繰り広げてきました。

解雇されたワトキンスさんも創業者一族が住むニューヨークの高級マンションの前で生活の苦しさを訴えました。

実際にワトキンスさんがいくらもらっていたのか給与明細書を見せてもらいました。

時給14ドル69セント、2週間で80時間働けるフルタイム雇用を希望していましたが、パートタイムのため54時間ほどしか働かせてもらえませんでしたので、手取りは713ドル18セント(約7万50000円)でした。

手取りで年収140万円足らず、働いているのに生活保護を受けざるを得ませんでした。

こうした中で、ワトキンスさんはワシントン州が給付する低所得者向け健康保険カード、そして食糧配給カードを持っていました。

 

こうした政府からの援助をウォルマートの従業員だけで年間約62億ドル(約6500億円)受けていたという調査結果があります。(2013年 Americans for Tax Fairness調べ)

これに対し、ウォルマートは「従業員の平均時給は全米の最低賃金を上回る」とし、「データは誤解を招く内容だ」と反論しています。

今年に入って、ウォルマートは最低時給を7.25ドル(760円)から10ドル(1050円)に引き上げました。

ワトキンスさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「ウォルマートは世界で有数の金持ち企業なのに15年間働いた結果がこれなんて悲しすぎる。」

 

では、CEOと従業員との所得格差の過去のトレンドを見てみると、1970年代は20〜35倍くらいだったのが今や300倍近くに広がっているのです。

従業員の給料はあまり上がっていないのにCEOの給料はどんどん増えているのです。

ある調査では、アメリカの労働人口の約44%は年収250万円に満たないとも言われています。

その理由は多くの人たちが時給で働くパートタイマーだからだといいます。

なのでクリントン候補は最低賃金を上げることが大切だと訴えていたのです。

 

実は、アメリカ有数の大富豪で企業経営者であるシアトル在住の異色の人物が格差是正を訴えているのです。

それはニック・ハナウアーさんで、総資産約1000億円の超富裕層です。

30社以上にわたって会社設立や投資を手掛けてきました。

大富豪の立場を利用し、政治面でも影響を及ぼし、メディアにも頻繁に露出、時給15ドルへの最低賃金引き上げを提唱しています。

それこそが格差是正の第一歩であり、企業にとってもメリットがるといいます。

ハナウアーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「「金持ちを優遇すれば雇用が生まれるが、最低賃金を上げると雇用が失われる」とよく言われるが、嘘だ。」

「単なる脅迫に過ぎない。」

「人々がもっと稼げば消費が増えて企業は雇用を増やすことが出来る。」

 

経営者でもあるハナウアーさん、企業の幹部が巨額の報酬を得られるのはある特別な仕組み、すなわちCEOの最大の収入源であるストックオプションがあるからだといいます。

ストックオプションと売却益は、あらかじめ決められた価格で自社株を購入出来る権利で、株価が上がるほど売却益が増えます。

データを見てみると、企業幹部の報酬は1980年台までほとんどが現金でしたが、1990年代から徐々に逆転、いまではほとんどがストックオプションになっています。

こうして、株価が最高値圏にある今、幹部の報酬はより拡大しているのです。

ハナウアーさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「これが金持ちがより金持ちになり、他は貧しくなっていく仕組みだ。」

「(あなた自身大富豪なのになぜそう考えるのかという問いに対して、)それは真実だからだ。」

「道徳的に正しくて、国や国民にとってすべきことだからだ。」

「どの資本主義国も経営者と従業員の力関係を均衡させる方法を見つけ出すべきだ。」

 

本来、株主に報いるというストックオプションなのですが、結果的にストックオプションが増えていけば、企業経営者の報酬も増え、ストックオプションを持たない従業員との所得格差がより開いていくということになっているのです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。


今回はアメリカにおける所得格差についてご紹介してきましたが、こうした格差社会は今や日本も例外ではなく、大なり小なり世界各国共通の課題のようです。

そして、ハナウアーさんの指摘されている企業幹部に対するストックオプションやアイデアよもやま話 No.3433 パナマ文書から見えてきたこと その1 課税逃れの実態!でご紹介した世界中の大企業や富裕層による多額の税金逃れが格差社会の元凶であることが見えてきました。

ところが、今のところストックオプションへの対応やパナマ文書に見られる税金逃れに対する対応の具体的な動きは見られません。

格差社会のこうした元凶が明らかになったのですから、世界各国の政府が共同で格差問題に取り組めば、適正な税金の確保、および所得配分がなされるのです。

その結果、各国政府の財政状況の改善、および格差是正も図られるはずです。

 

ということで、各国政府はこうした共通の課題解決に協力して邁進していただきたいと思います。

また、同時に各国の経済学者は格差社会が長期的に見て経済を衰退させるということを声を大にして理論的な裏付けを持って訴えていただきたいと思います。


 
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