2016年04月30日
プロジェクト管理と日常生活 No.434 『三菱自動車の不正にみる第三者機関による性悪説に立ったレビューの必要性』

これまで、企業による不正行為が繰り返し報道されてきており、そのたびに再発防止策が検討されてきました。

そして、このブログでもこれまで排ガス不正や食品偽装、不正会計といった企業による不正行為に対する対応策について、以下のようにお伝えしてきました。

プロジェクト管理と日常生活 No.412 『国内外企業の不正にみる“経営者の心のあり方”の重要性』

プロジェクト管理と日常生活 No.413 『東芝の不正会計にみるプロセス管理の重要性』

プロジェクト管理と日常生活 No.422 『東芝の不正会計にみる監査法人の定期検査運用のあり方』

プロジェクト管理と日常生活 No.426 『無くならない食品偽装のリスク対応策』

 

ところが、残念なことにまた三菱自動車による不正行為が明るみになりました。

そこで、今回の不正行為について各種報道記事から以下に簡単にまとめてみました。

 

今回の不正の原因は、実際の性能よりも燃費性能を高く見せる燃費データの改ざんといいます。

同社によると、燃費試験データを改ざんし、燃費性能を偽っていたのは、2013年6月から生産している「eKワゴン」と「eKスペース」、同社が日産自動車に供給している「デイズ」、「デイズルークス」の軽自動車4車種で、62万5000台になるといいます。

同社は、これらの車を国土交通省に提出する燃費試験データで不正な操作を行い、燃費性能を実際よりも高く見せていたということで、軽自動車の供給先である日産自動車側の指摘で発覚しました。

なお、今回の燃費不正問題では、意図的なデータ改ざんが発覚した軽自動車以外にも、「パジェロ」、「iMiEV」、「アウトランダー」など約10車種で国内で定められた手順とは異なる試験を行っていたことがわかっています。

また、4月26日(火)には同社の相川 哲郎社長が国土交通省を訪れ、調査の途中経過を報告しました。

この報告によりますと、同社は25年間にわたって国で定めた方法と異なる方法で走行データを測定していたことが新たに分かりました。

同社が改ざんしていたのは、自動車が走る際のタイヤや風の抵抗などを測定した走行抵抗のデータです。

記者会見で更なる事実が明らかになりました。

走行データの測定では、日本では「蛇行法」という方法を国が定めています。

ところが、同社はアメリカ式で採用されている方法を採用していました。

違法の測定は、1991年から25年間も続いていました。

このことについて、相川社長は、会見の場で次のようにおっしゃっています。

「(不正を)始めた時に、これでいいんだというふうに思ってやり始めたのが、そのまま伝承されて、疑わずにやっていた可能性もございます。」

 

また、別な不正も明らかになりました。

走行データを測定していたのは、最も燃費が良い1車種のみで、残りの3車種は走行試験を行わずにそのデータを流用していたというのです。

例えば、「eKワゴン」の2013年モデルには、エコモデル、標準車、4WDの3つのグレードがあります。

本来、燃費データを取るためには、それぞれのグレードで走行試験を実施する必要があります。

ところが、実施されたのは燃費の良いエコモデルのみで、試験を実施しなかったグレードの燃費はエコモデルのデータをもとに机上で算出されたのです。

その後、2014年と2015年にモデルチェンジされていますが、そこでも走行試験は実施されず、2013年のエコモデルのデータをもとに算出されていたといいます。

しかも、走行試験が実施された場合でも、算出には燃費が良くなるように意図的にデータが抽出されました。

また、不正が行われた軽自動車の開発では、社内会議で燃費目標は当初の目標26.4km/ℓから最終目標29.2km/ℓまで実に2年間で5回も目標数値が引き上げられていました。

目標の燃費を達成するためにまず目標の数値を先に設定し、そこから逆算して、実際に走行試験を行わずに机上で計算するなどして不正に燃費を改ざんしていたのです。

その背景には、燃費を巡るライバルメーカーとのし烈な競争があったのです。

いずれにしても、こうしてみてくると、同社は“不正のデパート”と言わざるを得ません。

 

同社は、この日、弁護士でつくる特別調査委員会を設置、3ヵ月を目途に真相究明のための調査をし、結果を公表する方針です。

一方、国土交通省は、5月11日までに追加の報告をするよう求めています。

 

今後、問題の車種に適用されたエコカー減税の返納や顧客へのガソリン代補填(ほてん)に加え、日産自動車に対する補償など、同社は多額の負担が求められることになります。

アナリストからは、負担増は判明している分だけでも1000億円を超えるとの見方が出ており、「経営へのインパクトは非常に大きい」と懸念する声が上がっています。

更に、軽乗用車の燃費を偽装していた問題で、27日に都内の本社で開いた同社の決算発表記者会見で、「1日当たりの(新車の)受注台数が半減している」と述べたといいます。

こうした影響のため、同社は軽乗用車の生産拠点である水島製作所(岡山県倉敷市)の全従業員の4割弱にあたる約1300人を自宅待機とすることを決めたといいます。

更に、このために約7800社とされる下請け企業への影響が懸念されており、すでに県内では操業停止に踏み切る取引先が出始めたといいます。

また、帝国データバンクが4月28日に発表した調査では、三菱自動車グループから直接もしくは間接的に仕事を得ていた下請け企業は全国で7777社、従業員は約41万人に上るといいます。

 

今後の調査結果次第で、不正による影響範囲は更に広がる可能性があります。

まさに、三菱自動車は再度危急存亡の危機に直面しているのです。

そればかりでなく、関連会社や取引会社の中にも同様の状況に陥っているところが出ているかも知れないのです。

 

これまで何度となくこうした不正が自社の屋台骨を脅かすほどの影響をもたらしたこと、あるいは廃業に追い込まれたことが報道されてきました。

それでも、なぜ不正が続いてきているのでしょうか。

やはり、経営者が経営責任を全うしてこなかったと言わざるを得ません。

同社の多くの従業員のみならず、契約社員や販売店の方々、そして関連会社や取引会社の方々はこれまで三菱自動車とのパートナーシップを大切にし、それぞれ一生懸命に業務を遂行されてきたと思います。

そうした方々への今後の影響を考えるととても胸が痛みます。

 

同社は、2000年と2004年にもリコール隠しという不正行為がありましたが、ようやくビジネスがうまく回り始めてきた状況でした。

にもかかわらず、再度今回のような不正問題が発覚したことはとても残念です。

しかも、明るみになったきっかけは自社内ではなく、軽自動車の供給先である日産自動車からの指摘だったというのです。

自社内での自浄作用が全く機能していなかったと言わざるを得ません。

もし日産自動車からの指摘がなければ、今後とも影響範囲は世間に知られずにどんどん広がっていくことになったはずです。

それにしても、社内の風通しが良ければ、あるいは隠ぺい体質が改善されていれば、こうした不正に気付いた従業員の声が早期に経営層に届き、それなりの対応がなされたと思うととても残念です。

 

さて、今回の不正問題で他にも明らかになったことがあります。

それは、自動車の許認可に関する権限を持つ国土交通省の審査があまりにもずさんだったということです。

自動車の走行抵抗は燃費を大きく左右する極めて重要な要素です。

その数値を国土交通省は、自ら審査することなく、自動車メーカーからの自己申告に任せていたというのです。

要するに、性善説に基づいた対応です。

 

三菱自動車が国の定めた走行データの測定方法と異なる測定方法を1991年から25年間も続けていたという事実、更にはこうした事実を見過ごしてきた国土交通省の審査には驚くばかりです。

 

プロジェクト管理において、開発した成果物の検査にはピアレビューと第三者レビューという大きく2つの方法があります。

ピアレビューは仲間内のレビューであり、第三者レビューとは文字通り、開発に直接関係しない第三者によるレビューです。

そして、重要な成果物については、ピアレビューだけでなく第三者レビューを実施するというのが一般的です。

 

製造業においても、当然こうした成果物の検査には同様の工程があるはずです。

ところが、三菱自動車においては、残念ながらこうした工程が全く機能していなかったのです。

しかも、社外の第三者にあたる国土交通省は性善説に立っており、自ら審査をしていなかったというのです。

これでは、国土交通省の存在価値はありません。

本来であれば、国土交通省が自ら審査しなくても、第三者機関に依頼して審査する仕組みにしておくべきだったのです。

性善説に立った審査では意味がないのです。

こうした審査は性悪説に立って、あらゆるプロセスを疑ってかからなければ駄目なのです。

 

このような審査体制では、三菱自動車のみならず、日本の自動車産業全体に対する不信感が残ってしまいます。

ですから、こうした不正に対する最後の砦となる国土交通省による審査制度の見直しが求められます。

自動車はとても便利な移動手段である一方、走る凶器にもなり得ること、あるいはガソリン車は地球温暖化をもたらすCO2を排出するということを忘れてはならないのです。


最後に、三菱自動車と言えば、EV(電気自動車)メーカーとして「iMiEV」の量産メーカーとしての先駆け、そしてEVとしても実用的なPHV「アウトランダー」の生産という素晴らしい実績も上げられています。
ですから、企業として進取性という素晴らしい面も内包されているのです。


もう一つ、最後の砦は社外の第三者によるレビューですが、企業は飽くまでも第三者に依存することなく、自社内での完全性を追求することこそがあるべき姿なのです。


ということで、三菱自動車には是非、日本を代表する企業として心機一転してあらためて出直して欲しいと思います。


 
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