2015年11月28日
プロジェクト管理と日常生活 No.412 『国内外企業の不正にみる“経営者の心のあり方”の重要性』

一般的に上場企業といえば、企業統治/監査機能が整備され、適切に機能していると思われてきました。

ところが、最近のニュースによると、以下のように国内外の大企業で相次ぐ不正が発覚しています。

・VW(フォルクスワーゲン)の排ガス不正

・東芝の不正経理

・旭化成建材のくい打ち工事データ流用

・太平物産による有機肥料の成分表示偽装

 

第三者から見ても一見整備され、きちんと運用されていると思われていた企業統治/監査機能が欠如していたのです。

しかも、経営トップがそうした事態を認識していたにも係わらずです。


まず、10月7日(水)放送の「国際報道2015」(NHKBS1)によると、アメリカのカリフォルニア州大気資源局ではVWの排ガス不正について1年以上も前から指摘していました。
ところが、VW側は試験の仕方に問題があるなどと反論し、不正を認めてきませんでした。
当局が何度も問い詰めた結果、今年9月になってVW側はようやく不正を認めたと言います。


私が特に残念に思うのは、経営トップの責任云々とは別に、ドイツ政府は世界的に見てもエネルギー問題や環境問題にとても真摯に取り組んでいる中、ドイツを代表する国際的な企業、VWが走行中は排ガス浄化機能を止める一方で、排ガス検査を感知すると窒素酸化物などの有害物質の排出を規制の範囲内に抑えることが出来るソフトウエアをディーゼル車1000万台以上に搭載していたという事実です。
VWは環境問題よりも自社の売り上げ増を重視していたのです。

 

一方、以下は9月7日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)からの情報です。

例えば東芝の場合、経営トップ自らの関与により内部統制が無効化され、更にこれほどの不正経理に対して監査法人が機能していなかったのです。

そこで、東芝では内部統制を司る取締役会を一新、取締役会の半数以上を社外から起用する方針に変えたといいます。

更に、取締役会にぶら下がる社長の指名、報酬、監査という3つの委員会のメンバーを社外取締役だけにすることでしがらみのない人が経営を監督するようになるといいます。

 

東京のNPO法人、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークでは、上場企業の企業統治について毎年アンケート調査をしています。

実は、これまでも東芝は企業統治の優等生として、評価ランキングは下がりつつも2012年6位、2013年7位、2014年19位というように高い評価を受けてきました。

先進的な企業統治を採用してきた東芝の不正会計ですが、制度が整っていてもそれが機能していなかったのです。

これについて、日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークの牛島 信理事長(弁護士)は番組の中で次のようにおっしゃっています。

「社外取締役に情報を明らかにしたうえで、相談や議論をするという考えが決定的に不足していたのだと思います。」

「「自分たちでちゃんと出来る」という思い込みがあるからですよ。」

「これは東芝だけではない、何度でも同じことが起きている。」

 

「トップが自分のやり方が絶対だと思っていたら、邪魔なノイズに聞こえることが実は大事なことを言っていることがあるんだと。」

 

牛島さんは、日本企業に求められるのは社外取締役への十分な情報提供と内部通報や内部告発の制度の充実だといいます。

不正会計を止められなかったかたちだけの制度、同じ問題が自分たちにも起こりうると考え、企業統治のあり方を治す時が来ています。

 

また、番組コメンテーターのA.T.カーニー日本法人会長の梅澤 高明さんは、企業統治に魂を入れるために必要なもの、すなわち企業統治のあり方について次のようにおっしゃっています。

「一つ目は、やはり経営の経験の豊富な経営者に社外取締役になってもらうこと。」

「裏返して言うと、社外取締役の数はだいぶ増えてきたんですけど、多くの企業で実は弁護士とか会計士、あるいは学者、官僚、それからメインバンクの役員上がりの方、こんなメンバーで社外取締役を構成しているケースが多くて、本当に経営者としての深い経験を持っている人を起用すること(が必要です)。」

「2点目は、そういう方々の力をフルに引き出すために、取締役会の事務局機能を強化して、特に社外取締役の方々に一番大事な情報をなるべくコンパクトなかたちで整理をしてタイムリーに渡して、彼らがちゃんとそれを読みこんでどういうアドバイス、あるいはどういう問題提起をすればいいかという能力を引き出すような事務局機能が大事だと思います。」

「(社外取締役はダメ出しするだけでなく、提案もしていくのかという問いに対して、)守りのガバナンスとか攻めのガバナンスという言葉がありますけど、両方ともやらないことには有能な社外取締役を雇っている価値が十分取れない。」

「で、そのためには彼らの能力を引き出すために適切な情報をタイムリーに渡して読み込んでもらうということです。」

「3点目として、社外取締役が社長後継の選定、指名に関して実質的にこれをリードするというのも大事だと思います。」

「前任者でもなく、長老でもなく、社外取締役がリードする指名委員会がちゃんとすることだと思います。」

 

以上は「ワールドビジネスサテライト」の番組からのご紹介ですが、企業統治や監査機能、あるいは内部通報や内部告発の制度については、大なり小なり既に多くの企業で取り入れられていると思います。

それでも、例えばある社員が自社の不正に気付いても内部通報や内部告発により自分のその後の社内での立場が悪くなってしまうのではないという不安が大きければ、こうした制度の有効な運用はほとんど期待出来ません。

ですから、こうした制度には、通報者や告発者のその後の身分が保証される、あるいは退社しても当面十分に経済的に困らないような収入が保証されるような仕組みが必要なのです。

同時に、監査法人についても経営トップのいやがるようなことを指摘して、監査契約がストップしてしまうような危惧が大きければ、ビジネスの観点から不正につながるようなことでも指摘しにくい土壌になってしまいます。

 

要するに、一見どんなに素晴らしい制度を導入しても、経営者がその重要性をしっかりと認識して自ら企業統治の先頭に立たなければ、企業統治/監査の機能は有効に働かないのです。

要は、“経営者の心のあり方”次第だと思うのです。

 

これは、プロジェクト管理においても全く同様です。

どんなに素晴らしいプロジェクト管理手法を導入しても、それを利用する側の責任者が先頭に立ってその手法の普及に努めなければ、導入によって手続きだけが増えてしまい、むしろ生産性が下がってしまうのです。


 
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