2020年06月06日
プロジェクト管理と日常生活 No.644 『“アベノマスク”の配布に見る政府の的外れな対応』

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2月以降に日本国内で発生しているマスク不足を解消することを目的に政府が実施した、全世帯にガーゼ製の布マスク(俗称:“アベノマスク”)を2枚ずつ配布するという緊急対応策ですが、4月3日(金)放送の「あさチャン!」(TBSテレビ)でこの“アベノマスク”について取り上げていたのでご紹介します。

 

“アベノマスク”の配布に伴う費用は総額200億円程度で、ポストに直接投函する方法を検討していることが分かりました。

しかし、これを評価する声もあれば、批判する声もあります。

安倍総理は4月1日の会見で次のようにおっしゃっています。

「布マスクは使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用可能であることから、急激に拡大しているマスク需要に対応するうえで極めて有効だと考えております。」

「1住所あたり2枚ずつ配布することといたします。」

 

安倍総理が付けるちょっと小さめの布マスク、これを日本の全世帯に2枚ずつ配布するという政府の布マスク配布作戦に対し、海外の新聞は次のように報じています。

中国紙「斎魯晩報」では、「安倍総理のエイプリルフールジョーク。布マスクは役に立たないのになぜ日本中の全世帯に配る。」

 

発表が4月1日だったことから「エイプリルフールのジョーク」かと辛らつに批判しています。

日本でも「無いよりは良い」と評価する声もある一方で、「布マスク2枚もらって喜べる人0人説」、「意味のわからん税金使いたくない。無理やり配布するって我が国は社会主義なんか?」という声が上がっています。

更に、歌舞伎役者の市川海老蔵さん(42歳)は自身のブログで「家にマスク2枚届いた時、様々な家庭でどんな気持ちで受け取るのかな・・・などとふと思う」と伝えています。

また、元格闘家でタレントの高田延高さん(57歳)は自身のブログで「マスク、一住所に2枚じゃ足りないよ。私の友人は7人家族だぜ!3人、4人は普通だもの。そこからして市民感覚と思い切りズレまくっとる!ビックリの2枚だもの。マスクだけじゃ米もパンも買えないしね。」

 

ネット上は“アベノミクス”ならぬ“#アベノマスク”や“#マスク二枚でごまかすな”という言葉がトレンドに上がるなど、批判的な声で溢れました。

そんな中、菅官房長官がマスクの値段について会見の場で語りました。

「洗濯可能で繰り返し使える布マスクについて、5000万世帯全てを対象に2枚ずつ配布することとしたものであります。」

「費用については、1枚200円程度と聞いております。」

 

1枚200円のマスクを5000万世帯に2枚ずつ全部で1億枚配るとなると、単純計算で200億円にもなります。

この政府の方針を街の人たちはどう評価しているのでしょうか。

50人のうち40人が評価しないという回答でした。

更に自民党内からも批判の声が上がっています。

ある閣僚経験者からは次のような厳しい意見が出ています。

「突拍子もなく、ばかげているよな。」

「ポピュリズムでしかない。」

 

なお、WHO(世界保健機関)は、新型コロナウイルスについての声明文で「布マスクはいかなる環境でも推奨しない」としているのです。

そうした中、4月2日に行われた野党合同ヒアリングでは“布製マスクの効果”が物議を呼びました。

国民民主党の原口 一博議員は次のようにおっしゃっています。

「「布のマスクはどの環境でもお勧めしませんよ」とWHOは言ってるわけですよ。」

「WHOが(推奨していないと)認識しているものを国民に配って、それまずいでしょう。」

「国民の税金で配って、それ良くないですよ。」

 

これに対して、厚労省職員は次のようにおっしゃっています。

「そもそもなんですけども、WHOは一般国民がマスクで感染の予防効果をすることについて、肯定的な意見は一切出しておりませんので、今、布マスクのことだけをおっしゃったと思いますけども、サージカルマスクについても推奨しておりません。」

「厚労省として布マスクの推奨をしているわけでもありませんし、サージカルマスクを使ってくれと言っているわけでもございません。」

 

さて、WHOはいかなる状況においても勧めないとしていますが、この布マスクの効果について東京歯科大学の寺嶋 毅教授は次のようにおっしゃっています。

「確かに布マスクはウイルスを含んだ飛沫の侵入予防という点では、ガーゼの穴は飛沫と同じくらいか、それより大きいかもしれませんから、限定的な部分はあると思います。」

「一方で、咳やくしゃみをしている人が陽性者であった場合には、それを広げないという意味では効果がありますし、アメリカのCDCCenters for Disease Control and Prevention 疾病対策センター)でも、特にこの新型コロナウイルスでは発熱など症状が乏しい人がいますから、そういう方の中での陽性者がツバキを飛ばさないとか、そういう意味では効果があると思いますし。」

「ですから、集団として(布マスクを)するようにすれば、感染を広げないという効果はあると思います。」

「(今、誰もが自分が感染していると考えると、布マスクをみんながつけるというのは効果があるということかという問いに対して、)そうですね。」

「移さないという意味では効果はあると思います。」

 

この布マスクの配布ですが、感染者数が多い都道府県から順次再来週以降配布を開始するということです。(番組放送時点)

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

なお、布マスクに関するその後の経過を以下にざっとまとめてみました。

・4月17日(金曜)以降、感染者が多い都道府県から順次、配送が開始された。(詳細はこちらを参照)

・厚生労働省は4月18日、新型コロナウイルスの感染拡大によるマスク不足対策として全国の妊婦に配布を始めた布マスクの一部に、汚れなどの不良品があったと発表した。

4月17日時点で80市町村から1901件報告があったという。(詳細はこちらを参照)

・菅官房長官は、全国すべての世帯への布マスクの配布について、5月末の時点で、予定の4割弱にあたる4800万枚の配布を終えたことを明らかにしたうえで、マスクの調達や配送にかかる費用として260億円を見込んでいると説明した。(詳細はこちらを参照)

・WHOは6月5日、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けたマスク着用指針を転換し、ウイルス流行地で対人距離の確保が難しい場合には布製マスクの使用を推奨すると発表した。(詳細はこちらを参照)

 

そして今や、外出すると薬局やスーパー以外のお店でもマスク50枚入りの箱が3000円前後で販売されているところがあります。

また、私の実家のある外房の勝浦市では、各世帯ごとにマスク50枚入りの箱が1ヵ月ほど前から配布されています。

一方、いつになったら我が家(横浜市内)にも布マスクが届くのかと思っていたら、ようやく6月1日に届きました。

こうした状況から、“アベノマスク”政策は適切であるとはとても言えないのです。

この政策に260億円ほどを投入しているといいますが、この資金を投入すべきところは他にいくらでもあったはずです。

 

こうして見てくると、政府による布マスク配布については、いろいろな問題が浮き彫りになってきたので以下にまとめてみました。

・ガーゼを使用した布マスクの穴は比較的大きいので、新型コロナウイルスの飛沫感染防止効果が限定的である

・布マスクの一住所2枚の配布では、3人以上の家族に対応出来ない

・布マスク自体の品質に問題が生じた

・布マスクの配布に時間がかかっている(5月末の時点でも予定の4割弱しか配布を終えていない)

・一方でマスクの品薄状態が続いていたので、マスクの転売が禁止されるまでマスクの価格が高騰した

 

ということで、とても残念ながら政府による“アベノマスク”政策は、台湾と比べるととても稚拙に見えてきます。(参照:アイデアよもやま話 No.4627 新型コロナウイルスとの闘い その6 社会への影響と対策 ― 台湾の事例!

 

そもそも官邸での布マスクの配布政策において、プロジェクト管理における要件定義をきちんとしていれば、取るべき対策はもっと別にあったのです。

マスク確保の要件について、私の思うところを以下にまとめてみました。

・国民一人ひとりが着用可能

・出来るだけ早く入手可能(病院などの医療施設を優先)

・妥当な価格で購入可能

・より高い飛沫感染防止効果

・高品質の保障

 

このようにまとめてみると、次のような具体的な対策が考えられます。

・安倍総理自ら中国の習近平国家主席に日本へのマスクの輸出を要請する(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.641 『マスク不足に見る中国との関係の見直しの必要性』

・国内のメーカーにも早期にマスクの生産を要請する

・早期の時点でのマスクやオムツなど必需品の転売禁止

・政府は、国内におけるマスク全体の需給バランスを把握し、常に公平に需要に応えられるように管理する

 

ということで、政府が自ら布マスクの配布などを進めず、こうした対策をタイムリーに講じていれば、国内外から批判されることはなかったと思うのです。

今回の新型コロナウイルスへの対応を見る限り、安倍政権は新型コロナウイルスのような危機管理対応においてはあまり得意ではないと感じられます。

あるいは官僚の中には優秀な方々がいらっしゃるはずですから、官邸がこうした優秀な人材を使いこなせないのか、あるいは大阪万博を国に提案して実現させた堺屋 太一さんのような積極的に行動に移す方が今はいらっしゃらないのでしょうか。(参照:No.4500 ちょっと一休み その697 『作家、堺屋太一さんの金言』


 
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