2019年09月14日
プロジェクト管理と日常生活 No.606 『売上を伸ばす店長の極意とは!』

これまでプロジェクト管理と日常生活 No.394 『国の政策にも求められる数値化目標による”見える化”の必要性』プロジェクト管理と日常生活 No.413 『東芝の不正会計にみるプロセス管理の重要性』プロジェクト管理と日常生活 No.435 企業活動におけるプロセス管理の重要性!』などでプロジェクト管理の中の管理項目、プロセス管理、および成果物管理の重要性について何度かお伝えしてきました。

そうした中、4月11日(日)放送の「がっちりマンデー」(TBSテレビ)で「儲かる!スゴい店長!」をテーマに取り上げていました。

そこで今回は久しぶりに番組の事例を通してプロセス管理の重要性についてあらためてご紹介します。

 

全国に展開する様々なチェーン店ですが、同じチェーンなのになぜか抜群の売上げを誇るお店があります。

なんで売れるのか調べてみると、そこには「スゴい店長」の存在があります。

 

最初に番組が取材にやってきたのは、東京は千代田区秋葉原の「紳士服店のアオキ」、紳士服中心のこちらのお店に、かなりのすごい店長がいるらしいのですが、一体、どんな人物なのでしょうか。

店員の土肥さんは次のようにおっしゃっています。

「(うちの店長は)スゴいですよ。」

「技術もそうですし、会話力も非常に素晴らしい方だと思います。」

 

また、店員の蘭さんは次のようにおっしゃっています。

「私は一生ついて行きます。」

 

「一生ついていく」とまで部下に言わしめる、スゴい店長が秋葉原店総店長の溝上 徳啓さんです。

なんとこの人、秋葉原店を大ピンチから救ったらしいのです。

実は秋葉原は、知る人ぞ知る紳士服の大激戦区なのです。

半径約500m以内にはオーダメイド店など12の店舗がひしめきあっています。

ライバルに押され、閉店寸前の危機的状況だった秋葉原店、そんなお店を救うために、今から2年前に溝上店長が就任したのです。

すると、新規のお客様が前年と比べて150%になりました。

実は溝上店長、アオキの中では「復活請負人」と呼ばれるスゴ腕の持ち主なのです。

これまでにも、閉店の危機に追い込まれていた板橋区の大山ハッピーロード店を店長就任から1年半で、全国でも売上げトップクラスのお店に再建したり、同じく閉店寸前だった五反田店がわずか11ヶ月で売上げ全国トップ10にランクインしました。

 

 一体、溝上店長は何がすごいのでしょうか。

実際に接客の様子を見させていただくことにしました。

以下は溝上店長とお客さんとのやり取りです。

 

溝上店長:今日はどんな感じのをお探しでしょうか。

お客さん:大学に入るので。

溝上店長:それはそれはおめでとうございます。

 

大学進学が決まったお孫さんが入学式に着るスーツを買いにおばあさまと来店。

 

溝上店長:運動の経験とかおありなんですか。

お客さん:ずっと運動部だったんで。

溝上店長:やっぱり、胸筋がすごい付いてますね。じゃあせっかくなので、ピタッとキレイに着れるサイズご紹介していきますね。

 

まずは、軽快なトークで場を盛り上げながら、さりげなくお客さんの情報を収集し、体型に合うスーツの形を提案します。

更に流行の紺と、定番の黒の2種類を提案します。

 

溝上店長:ネイビーが一番トレンドカラーになっておりますね。黒が今まで一番人気だったので2枚くらい羽織ってもらってピンときた方でいってみましょう。

 

この「2択」にするのがポイントで、お客さんは買うか買わないかではなく、どっちを買うか、つまり、どちらかを買うようになるんです。

 

溝上店長:ズボンが細くなるのでさっきよりどうでしょう。バッチグーです。これでいきましょうか。

 

なんと、来店から1時間で、スーツ一式約8万7千円の販売に成功です。

 

1人の営業マンとして、かなりスゴ腕の溝上さんですが、お店全体の売上を上げる「店長」としてのテクニックは、ここからが真骨頂です。

店長の接客をじっと見つめるスタッフ、このスタッフが、試着中にあることを行うのです。

 

店員さん:すみません、お茶なんですけども。試着終わりましたら一息ついていただければと思います。

 

タイミングを見計らって、お茶を差し入れました。

 

さらに、レジで店長が伝票を記入している間に、先ほどとは別のスタッフが来て次のようにおっしゃっています。

「お越し頂いた方の為に、スヌーピーグッズコラボしていまして、粗品のプレゼントもおまとめさせていただきます。」

 

すかさず、サービスの記念品をプレゼントします。

実はこれこそが、溝上店長の考案した1対3の「トライアングル接客」なのです。

1組のお客さんを取り囲むように、最低3人のスタッフが接客するという作戦なのですが、一体なぜ1人のスタッフで全てやらないのでしょうか。

溝上店長は次のようにおっしゃっています。

11のご案内ですと、その方のファンになってもらい、その方宛てで来て頂くことが多いと思います。」

「ただ、私たちがいない時もあります。」

「1対1ではなく、1対3でご案内することによって、お店のファンになってくださいます。」

 

 実際に接客を受けたお客さんは次のようにおっしゃっています。

「お店全体にいろんなことをやってもらえると、気にしてもらえてるなって気持ちも嬉しくなるし、不安もなくなっていくので、次、成人式の時とか、もうちょっと違うの欲しいなと思ったら、またここ(秋葉原店)に来ようと思います。」

 

 『あの人の接客が良いな』ではなく、『この店の対応が良いな』と思ってもらう、そうすると、リピーターも増え、お店全体の売上げがアップというわけです。

 

溝上店長が編み出したこのトライアングル接客、社内でもその効果が認められ、4年前から、アオキ全店の公式な接客マニュアルとして採用されているとのことです。

 

溝上店長はお客さんの市場調査もマメに行っていて、週に1回秋葉原の駅の前に立ち、街ゆく人たちが何色のスーツを着ているのかをみて、それを売り上げに生かしているといいます。

 

 

次は斬新なアイデアでカラオケ店を売上トップクラスにした店長についてです。

東京の秋葉原にある「パセラリゾーツ」というお店、全国に19店舗を展開していて、カラオケを中心に1つの建物の中に、ダーツバーやカフェ、レストランにパーティスペースまで兼ね備えた複合型のエンターテインメント施設があります。

そんなパセラリゾーツにもすごい店長がいるらしいということで、店員さんたちに聞いてみました。

店員の二田さんは次のようにおっしゃっています。

11人のことを本当に良く見てて、スゴいなって話すたびに思う。」

 

また店員の松元さんは次のようにおっしゃっています。

「いろんな所にアンテナ張ってるのか、新しいことどんどん始めていく方です。」

 

このようにスタッフの皆さんが仕事ぶりを絶賛するのが総店長の波多野 匡記さんです。

一体、どんなお仕事をしているのでしょうか。

カラオケがピークを迎える午後6時の店長とお客さんとのやり取りです。

 

店長自ら、受付でお客さんに近づきます。

波多野店長:2名様カラオケのご利用で?ご予約などは?

お客さん:してないです。

波多野店長:してないですか。ちょっと時間かかっちゃうかもしれませんのでお調べします。40分くらいお待ち時間が。

 

満室で、最短でも40分待ち、さすがに待ちきれず帰りかけたお客さんに声をかけます。

 

波多野店長:もしよろしければ1杯ずつコーヒーサービスしちゃいますよ。

お客さん:本当ですか?

波多野店長:待ってみます?よろしいですか?はい。

 

なんと、帰りかけたお客さんをコーヒー無料サービスで引き留めて、カフェにうまく誘導します。

波多野店長は次のようにおっしゃっています。

「ビル内にいろんなお店が詰まってますので、1次会から3次会まで複合的に利用して頂く「複合戦略」というのを目指して行っております。」

 

波多野店長は、全国のパセラリゾーツの中でもダントツにお客さんを誘導するのが上手い店長なのです。

 

更に中学校の卒業パーティをしていた団体のお客様には、なんとカフェスペースを貸し切り、2時間飲み放題付き1人1000円の激安価格で2次会にご案内します。

波多野店長は次のようにおっしゃっています。

「(1人1000円で飲み放題は、さすがに儲からないのではという指摘に対して、)カフェは夜になると結構空いてくる時間帯になりますので、このカフェで大人数様が入ってもらえるのは非常にありがたいです。」

 

カラオケが夜に混むのに対し、カフェのピークはランチタイムのお昼時、お客さんがガクッと減る時間にはカフェを安くても使ってもらったほうが儲かるというわけです。

しかも、ほとんどが学生さんなので、原価の高いアルコールは出ない、とそこまで計算して、飲み放題をサービスしていたのです。

 

更に波多野店長は、パセラリゾーツのカラオケスペースを活かした新企画を次々考案して、一部屋あたりの売上げが50%アップ、 一体、何をやったのでしょうか。

波多野店長は次のようにおっしゃっています。

「「歌わないカラオケ」というところを取り組んでおりまして…」

 

カラオケなのに歌わないってどういうことでしょうか。

 

波多野店長は次のようにおっしゃっています。

「モニターやマイク・接続ケーブルとかいろいろな設備は充実しているんです。」

「それをカラオケ以外のことに使えないかってことで、いろんなプランを推奨しております」。

 

特に秋葉原店で人気なのがカラオケルームを使ったボードゲームサービスです。

このサービスについて、あるお客さんは次のようにおっしゃっています。

「昔は別のところも使ってましたけど、カラオケの方が飲み物もあるし周りを気にせず騒げる。」

「全く歌わないです。」

 

店内ではマニアックなボードゲームを無料で貸出し、しかもゲームを遊ぶのには時間がかかるので、平均利用時間は約3時間で結果儲かるというのです。

 

他にもキッズスペースを用意して、奥様たちがママ会の出来るママ会ルームやモニターの前にポールを設置してライブの最前列を体感出来るヘッドバンキングルームにも予約が殺到しています。

カラオケルームの稼働時間の約半分が、波多野店長の考案した歌わないカラオケ利用というからスゴいです。

なんと1日の売上げは、全店舗の中でも最高クラスの600万円を達成しているといいます。

 

なお、パセラリゾーツ秋葉原は、ものすごく店長の権限があり、例えばカラオケが混んで来たら系列の店からスタッフも持って来るといいます。

ですから、その分人件費も少なくて済むのです。

波多野店長は、その場で即時に判断するのを心がけているといいます。

 

続いてやって来たのは東京は杉並区です。

商店街に店を構えるヴィレッジヴァンガード高円寺、こちらのお店はマニアックな本やCD、雑貨などが所狭しと並ぶ、若者やオタクにはたまらないセレクトショップのチェーンです。

独特なスタイルが受けて、店舗数は年々増加し全国に350店舗を展開しています。

広報担当の立山さんは高円寺店の店長さんについて次のようにおっしゃっています。

「高円寺店は店長の憧れと言いますか、任される店長はカリスマクラスの店長が多いです。」

 

ここ、高円寺店は、数あるヴィレッジヴァンガードの中でもベスト10に入る売上げを誇るエース店舗なのです。

そこを任されるスゴい店長が米山 才季さん(34歳)、 一体どんなお仕事ぶりなのでしょうか。

 

まずは、店内を歩き周り何かをチェック、実はこれこそヴィレッジヴァンガードの店長に絶対欠かせないお仕事なのです。

米山店長は次のようにおっしゃっています。

「POPがあるんですけど、店内を回ってチェックします。」

 

ヴィレッジヴァンガードのシンボルとも言えるのが黄色い用紙に黒文字の手書きで書かれた「商品POP」なのです。

例えば、730円で販売しているキャップには『ほぼ利益なし』という具合です。

 

 また伊坂幸太郎の小説には『伊坂の罠にハマってみませんか?』など、スタッフの感想や思い入れなど、ひねりの効いたコメントが特徴です。

米山店長が目を留めたのは、足を洗うバスマットに書かれた『足が臭いので助かります』というPOPです。

米山店長は次のようにおっしゃっています。

「“足が臭いので助かります”で、まず気になると思うんですよ。」

「更に上見て「彼女のキゲンが良くなりました!」っていう、完全に書き手の主観のことしか書いてないけど、ハッピーになるんだろうっていうのは伝わるんであるだけで楽しくなると思います。」

 

POPの良し悪しが、商品の売上げを大きく左右するため、店長は内容を細かくチェックしているのです。

このPOP、スタッフなら誰でも書いて良いのですが、全然ダメなポップがあったら、剥がしちて捨ててしまうと米山店長はいいます。

一番ダメなのが「スタッフのオススメ」という宣伝文句といいます。

米山店長は次のようにおっしゃっています。

「ただオススメと書いてあるのはナシですね。」

「その商品の良さがわかるとか、商品に気づいてもらうにはフックのある言葉があるとよりいいですね。」

 

さて、ヴィレッジヴァンガードでもうひとつ、店長の腕前が問われるのが商品の仕入れです。

米山店長は次のようにおっしゃっています。

「店で6割くらい仕入れて4割くらいは本部からの送り込みですね。」

 

そう、つまり、店長のセンスでお店そのものの品揃えがガラッと変わるため、責任は重大なのです。

まず、米山店長の方針は、高円寺のお客さんを調べ尽くして、客層に合わせた品揃えをすることです。

米山店長は次のようにおっしゃっています。

「高円寺では生活雑貨が特に売れますね。」

1人暮らしの方もいらっしゃいますし、小さなお子さんを連れたご夫婦もいらっしゃいます。」

 

 高円寺には、一人暮らしや若いご夫婦が多いため、海外メーカーの洗剤や小さな部屋にも置ける収納棚を取り揃えているといいます。

 

そして、コミックコーナーでは更に店長のセンスが全開です。

なぜかあえて「ホラー漫画」を多めに入荷しています。

するとこんなお客が来店しました。

 

スタッフ:今日は何を買いに来たんですか?

お客さん:こういうサブカルチャーというか、ホラー漫画が地元のヴィレッジヴァンガードだと少ないので、地元横浜なんですけど、わざわざここまで探しにきたんです。

 

店長のセンスで、あえて偏った品揃えにすることで、そのマニアックさを求めたコアなファンが遠くからでもお客としてやってくるのです。

 

その結果、売上げを伸ばしてるというからスゴいです。

店長の手腕が発揮された独自のポップと品揃えで、高円寺店は全国でも有数の年商1億5000万円を達成しているのです。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

最近、かんぽ生命の不適切な販売方法が話題になっていましたが、その背景には冒頭でご紹介した目標達成、すなわち成果物に偏った管理があったようです。

全社を上げてやみくもに年間売り上げxx億円という具合に目標達成だけを目指し、その目標を達成するためのプロセスをおろそかにしていては目標達成はおぼつきません。

目標である成果物を設定し、その達成を管理するのは重要ですが、達成に至るプロセスがしっかり管理されてこそ、目標は達成出来るのです。

卑近な例として、100m走で12秒の年間達成目標の設定をしたとします。

この12秒の目標を1年で達成するためには、どのようなトレーニングをどの順番でどの期間にどれだけこなすかというプランを設定し、そのプランに沿ったトレーニングを行い、定期的にその進捗状況をチェックして、必要な対応策を検討・実施していくことが必要になります。

 

こうした観点から、今回ご紹介した売り上げを伸ばす優れた3人の店長の極意からお店の経営に関するプロセス管理の要件を順不同で以下にまとめてみました。

・常にお客さんの情報を収集し、お客さんに最も合った提案をすること

・「2択」にすることにより、お客さんに買うか買わないかではなく、どっちを買うか、つまり、どちらかを買うように仕向けること

・個々の店員の接客の良さではなく、『この店の対応が良いな』とお客さんに思ってもらえるようにすること

・個々のお店の良さを他のお店に水平展開すること

・常にお店のサービスの仕組みを最大限に生かした接客を心がけること

・お店の状況を最も把握している店長が必要に応じて即断即決が出来るように適切な権限の移譲がなされていること

・混雑状況などに合わせて、系列店内でのスタッフ支援の融通が出来ること

 

いかがでしょうか。


 
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