最近、従業員が過酷な労働環境のもとで働かされるブラック企業という言葉を耳にするようになってきました。
そうした中、2月2日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)の特別企画、「カイシャの鑑」でブラック企業とは真逆な企業について取り上げていました。
そこで、番組を通して企業活動におけるプロセス管理の重要性についてお伝えします。
空前の人手不足の中、躍進を遂げている企業があります。
「3K」と呼ばれる職場で、入社志望者が殺到しているのは、株式会社真田ジャパン(栃木県那須塩原市)です。
ちなみに、「3K」とは「 きつい (Kitsui) 」、「汚い (Kitanai) 」、「危険 (Kiken) 」を意味しています。
真田ジャパンは、ゴミの収集の他、一般廃棄物と産業廃棄物を扱う、従業員60人ほどで、作業員の制服は黄色のシャツに蝶ネクタイという異色の企業です。
そこには、五月女 明社長の強い想いが込められており、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(ゴミ収集は、)3K、今は5Kなんて言われるんです。」
「市民の皆さんの視点を変えていきたい、変えてもらいたいと。」
「我々の仕事は、「暗い」、「汚い」、それを逆転の発想で、汚れたらすぐ仕事中でも着替えるという、それがですね、働く皆さんの意識高揚につながっていくと。」
制服は、クリーニングしたものを毎日会社が支給、ゴミ収集だからこそ綺麗な服を着て気持ちよく働ける環境が大切だというのです。
更に、予約なしで来てもらいたい、本当の姿を見てもらいたいと、産廃施設を常に公開しています。
この施設が出来てから、売り上げは1.7倍に増加、顧客の信頼を勝ち得ています。
独自の制度は社員の家族にもあります。
真田ジャパンは、課長職以上の社員には、家族にもボーナスを支給しています。
更に、勤続10年の社員には、家族全員に海外旅行をプレゼントしています。
こうした配慮が3Kとも呼ばれる仕事に対する家族の理解や安心感を生んでいます。
家族まで含めた働きやすい環境づくりは思わぬ効果を生んでいます。
家族、2代、3代で働く従業員も少なくないといいます。
募集をかけていないにも係らず、入社希望者が絶えません。
この3ヵ月で5人が入社したいと言ってきています。
こうした真田ジャパンの思い切った取り組み、その背景にはある出来事がありました。
五月女社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(社員の)お孫さんが町でおじちゃんの姿を見たと。」
「そうしましたら、家に帰ったら、「おじいちゃん、あの仕事辞めて欲しい」と言われたと。」
「私はその時にハンマーで頭を打たれた思いをしましたね。」
「もの凄い衝撃でした。」
「これほど家庭の皆さんは悩むんだ、辛い思いをしているんだと。」
この出来事をきっかけに、五月女社長は一連の改革に乗り出したのです。
その結果、ゴミ収集車を毎日40分ほどかけて掃除をし、ピッカピカで、臭いにおいも全くしないようになりました。
番組では、こうした真田ジャパンの取り組みを「逆3K」戦略として、次のように分析しています。
3K ⇒ 真田ジャパン
汚い 「きれいな」制服、収集車
きつい 「気持ちよく」働ける環境
危険 「家族」も安心
しかも、真田ジャパンは営業職を全く置いていない会社でもあります。
それでも、仕事の依頼がどんどんやってきます。
「ご家庭なんでも応援隊」は、家庭のちょっとした困りごとを引き受ける便利屋のような存在です。
この事業でも、「きれい」には徹底的にこだわっています。
応援隊のスタッフは、家に上がる前に新品の靴下に履き替えます。
ゴミ収集をする中で、雑務を頼まれることが重なり、事業化を決めたのです。
3年前から全国展開を始め、昨年11月、東京に進出しました。
でも営業職はゼロといいます。
それでもなぜ事業が拡大出来るのか、それについて五月女社長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「私は、一切「儲けろ」と言いません。」
「お客さんに「喜んでもらってこい」、「感動してもらってこい」と。」
「すると、向こう(お客さん)に真っ直ぐに一生懸命やってくれて、「社長、仕事終わりました」と言って帰ってくる。」
営業職を置かなくても、街中で黄色のシャツに蝶ネクタイという目立つ制服で一生懸命仕事をしている従業員の姿そのものが宣伝になっているというわけです。
ちなみに、「ご家庭なんでも応援隊」の利用料金は基本料金4200円+アルファです。
番組で紹介されたお宅の例では、ベッドの組み立てと家具の移動で総額2万円ほどといいます。
決して安くはありませんので、スタッフに対する信頼感の高さが利用料金に反映されていると思われます。
なお、全国の同業者が真田ジャパンを見学に訪れているといいます。
こうした真田ジャパンの取り組みについて、番組コメンテーターで、日本総研の高橋 進理事長は、次のようにおっしゃっています。
「そもそも40分かけて車を磨くって、余分な仕事をさせられているわけじゃないですか、従業員の方は。」
「だから、仕事は決して楽ではない。」
「なのに、なぜ(従業員の)満足感が高い?」
「その満足感がお客さんに伝わって、お客さんの満足感にもつながっているわけですよね。」
「で、廃棄物処理業者っていうと、どっちかというと車両だとか、設備、そういったハードで勝負するイメージじゃないですか。」
「ところが、この会社はハードで勝負してないですよ。」
「ソフト、特に人への投資のところで企業価値を汲んで、それで勝負してるわけですよね。」
「で、そういう観点に立つと、私はもう、最近、例の廃棄物処理業者、いろいろ問題になっていますけども、その対極にある。」
「これ大企業が学べることが2つある。」
「一つは、人への投資をちゃんとやるっていうのは大企業もそうですね。」
「それから、もう一つは、短期的な利益を追求しないで顧客のためにやっていれば、いずれ長期的な利益が付いてくる。」
「今の大企業って、割かし短期志向なんですよ。」
「むしろ、長期の視点に立って利益をどう上げるかってことをもっと大企業にやって欲しい。」
「そういう意味で二つこの企業から学べる点があるなと思います。」
なお、五月女社長は、社員のことを「社員さん」と呼んでおり、毎朝、一番早く会社に来て、社員一人一人に握手して出迎えているといいます。
さて、ここまで番組の内容についてご紹介してきました。
ここからは、真田ジャパンの取り組みについて、プロセス管理の観点から見ていきます。
そもそも“企業は人なり”と言われているように、企業が存続していくうえで、従業員は最も大切な存在です。
ですから、どんな企業においても従業員が最大限に満足出来るような状態で働けることが求められます。
また、お客様からは、自社が提供する商品やサービスに対して最大限の満足を得ていただくことが求められます。
こうした観点から、真田ジャパンの以下の取り組みは的を射ていると思います。
・従業員に対する「逆3K」戦略
・短期的な利益を追求しない顧客満足の追求
こうした取り組みこそ、まさにビジネスにおけるプロセス管理のあるべき姿だと思います。
いくら高い売上目標を掲げても、それを達成するためのプロセスが確立されていなければ目標達成は危ういのです。
売上目標を掲げることよりも、従業員がやる気を持って活動出来るような環境を作り、お客様に喜んでいただくことに従業員も喜びも見出すような仕組み作りこそが全ての企業に求められるのです。
そして、その具体策はそれぞれの企業によって異なります。
そこにこそ、企業独自の最も適したアイデアが求められるのです。