2019年03月30日
プロジェクト管理と日常生活 No.586 『アメリカ民主主義が崩壊の危機!?』

アメリカ民主主義が崩壊しつつあることについては、以前No.3642 ちょっと一休み その584 『アメリカの民主主義は崩壊しつつある!?』でお伝えしたことがあります。

そうした中、昨年11月11日(日)放送の「サンデーモーニング」(TBSテレビ)でアメリカ民主主義の崩壊の危機について取り上げていたのでご紹介します。

 

昨年11月6日に行われたアメリカの中間選挙から見えてきたのは、アメリカが大切にして来たある価値観が崖っぷちに立たされている状況でした。

アメリカの中間選挙期間中に流されたキャンペーン動画で、共和党は不法入国した移民が警官を殺害した事件を引き合いに移民受け入れに寛容な民主党を非難しました。

一方、民主党も共和党が強い地盤を持つ南部のテキサス州で配られたビラは、トランプ大統領とナチスのヒトラーの共通点を並べ、「民主党に投票を」と訴えるものでした。

共和党、民主党、双方の激しい中傷合戦にエスカレートした今回の選挙戦は、これまでになく分断は根深いものとなったのです。

 

こうした争いが今後アメリカの民主主義を崩壊に導く危機をはらんでいると指摘した本があります。

アメリカでベストセラーになった「HOW DEMOCRACIES DIE(民主主義の死に方)」、ハーバード大学の二人の政治学者による本で、以下の記述があります。

 

政党の極端な二極化は、政策の差を超えて人種と文化の大きな対立にまで影響を及ぼしている

極端な2極化こそが民主主義を殺すということだ

 

著者は、現在の共和党と民主党の対立はかつての保守、リベラルといったイデオロギー的なものではなく、異なる他者を根本的に否定するような、議論すら出来ないものに陥っているとしています。

著者のひとり、ダニエル・ジブラット教授は次のようにおっしゃっています。

「トランプ大統領が苦境の原因なのではなく、彼はその症状なのです。」

「アメリカの政治システムの病理であり、(二極化が壊す民主主義の危機は)トランプ大統領よりも深いところにある。」

 

そもそも民主主義、デモクラシー(Democracy)の語源はギリシャ語のDemos(民衆)とKratia(権力)が結合した言葉であり、国の政治は構成員である国民の意思に従うことを基本原則とし、その理念として人間の自由や平等を重んじます。

そして、選挙で選ばれた代表者らが議論を重ね、妥協を図りながら最後は多数決で決することが求められるのです。

そうした民主主義を標榜し、自他ともにリーダーであることを認めて来たのが他ならぬアメリカです。

 

現在のアメリカにおける民主主義について、現代アメリカを研究している慶応大学の渡辺 靖教授は次のようにおっしゃっています。

「最近はやはりアメリカについて語ることが難しくなっていて、つまりトランプ大統領支持者のアメリカを語っているのか、あるいはアンチ・トランプ大統領のアメリカなのかということを相当意識しなければならなくなってきているんですね。」

「ですから、実質的にはお互いの世界観が交わることのない、ほとんど2つの国に近いような、その中で民意をどう形成していくのか、民主主義が実現出来るかというと根本的なレベルで、今危機的な状況にあるのかなと思いますね。」

 

そして今、アメリカでは民主主義を脅かす「議論すら出来ない」ような行為が横行しています。

 

選挙戦が熱を帯びた昨年10月24日、オバナ前大統領やクリントン元国務長官をはじめとした民主党関係者に相次いで爆発物が送りつけられたことが判明、犯人は熱狂的なトランプ大統領の支持者とされました。

 

また昨年10月27日には、ユダヤ教の礼拝所で男が突然銃を乱射、「全てのユダヤ人は死ね」と叫んでいたとされ、いわゆるヘイトクライム、宗教や人種差別に基づく犯罪と見られています。

 

異なる意見の相手に対し、「対話」ではなく「暴力」に訴える、民主主義とは相いれない行為が横行する今のアメリカ、更に議論すら出来ない行為といえば、昨年11月7日、トランプ大統領は自身に批判的なCNN記者を厳しく非難、記者はホワイトハウスへの出入りを禁じられました。

CNNは、入構証の無効について、「民主主義を脅かす、前代未聞の決定」と憤りの姿勢を見せたのです。

そしてネット上では、相手を徹底的に否定し、罵詈雑言を投げかける状況がエスカレート、互いを尊重しながら議論を深めようといった姿勢は見られません。

こうした状況について、渡辺教授は次のようにおっしゃっています。

「権威によらずに市民が自由にものが言えて、自由が合議を通して、共通の解を求めていくということがアメリカの民主主義を支えてきたと思うんですけども、トランプ大統領が出現したことによって、その底がどんどん抜けていっている。」

「中間選挙などを見ますと、選挙という制度を通してむしろ国民の間の分断状況や憎悪感情が深まってしまう。」

「それによって民意の合意形成というのは増々難しくなってしまう。」

「単に党派対立が強まった、分極が強まったということだけではない、もっと根は深い問題だと思いますね。」

 

アメリカの民主主義はどこへ向かうのか、「民主主義の死に方」は次のように警鐘を鳴らします。

 

今日の民主主義の後退は選挙によって始まる

 

さて、以下に番組の最後の一部の番組パネリストによるコメントをまとめました。

評論家で多摩大学学長・教授などでもある寺島 実郎さんは次のようにおっしゃっています。

「これアメリカだけじゃなくて、民主主義の旗色が悪いと言っていいと思うんです、世界中ですね。」

「混乱しているというかですね。」

「しかも民主主義ってまどろっこしいっていうかですね。」

「そういう中の苛立ちの中で、世界の傾向が傾き始めているんだけども、ただ長い歴史をしっかり見ると、歴史に進歩があるかどうかは別にして、誰かが誰かを支配するっていうような構図から、全員参加型の秩序ネットへと世界史は確実に動いているっていうのが僕の見方なんですけども。」

「要するに、民主主義の対極にあるものは何だっていうと全体主義だとか国家主義だとかという言葉が浮かぶんだけども、やはり我々、かつて日本が体験した、国家のために戦争で死ぬっていう価値観が一人ひとりの価値を大事にしようっていう戦後を生きて来たわけですよ。」

「そのことをしっかり踏み固めないと、また世界の苛立ちの中で日本自身も迷走してしまうっていうことをしっかり腹にくくるべきだと思います。」

 

また東京大学大学院教授の西崎 文子さんは次のようにおっしゃっています。

「民主主義っていうのは最終的には多数決というように考えがちなんですけども、やはり少数派、少数者をどう守るか、少数意見をどのように大切にするか、そこが実は非常に重要で、それが無くなってしまうと、要するに自由が無くなっていくということですけども、民主主義が脅かされるってことだと思うんですね。」

「で、寺島さんのご意見に賛成で、民主主義が広まっているっていうのは、確実にそうだと思うんです。」

「逆に言えば、アメリカは今まで本当に民主主義国だったのかというのは非常に疑問で、黒人の投票権は1950年代、60年代くらいまで制限されていましたし、今もその傾向がある。」

「女性もそうですね。」

「ですので、確実に有権者が増えて来て、今回の中間選挙のようなマイノリティの人たちの躍進もあって。」

「ですから、今、生みの苦しみだと思うんですね。」

「アメリカにとって民主主義が一皮むけていく過程だと思うんです。」

「ですから、ここでトランプ(大統領)にその自由を消してしまうようなところに負けなければ、アメリカはもう少し強くなるんじゃないかと思いますね。」

 

大阪国際大学准教授の谷口 真由美さんは次のようにおっしゃっています。

「かつて、ヨーロッパからネイティブアメリカンの住むアメリカという土地に、法はなかったかもしれませんけど、不当に入っていったのは誰だったのかと考えると、彼らの不法な人たちが、移民が来ていると言っている人たちの先祖ですよね。」

「で、その人たちが入って作った民主主義国、アメリカという国が独立宣言から考えたら240年が経っているわけですけども、西崎さんがおっしゃったみたいに民主主義というものをアメリカ自身が問い直している時だと思うんですね。」

「翻って我々も考えなくてはいけないのは、二項対立ですごくかたを付けがちになってきていると思うんです。」

「黒か白かと言われた時に、世の中の大半はグレイで動いていると思っていて、そんな中で敵か味方かとかそんな簡単な問題ではないだろう。」

「そうしたら、さっき竹下さんがストレートな言葉で、世の中が対立しているとおっしゃいましたけど、分かり易さを追求していることの裏にそういうものがあるんじゃないかと思っているんです。」

「難しいことは難しいこととして理解していくということも必要なんじゃないかという気がします。」

 

ハフポスト日本版編集長の竹下 隆一郎さんは次のようにおっしゃっています。

「私、今インターネット業界にいますので、インターネットと民主主義の関係をよく考えるんですが、今速過ぎる民主主義になっているなって思いますね。」

「誰もが声を上げて、トランプさんも声を上げることが出来ますし、国民も声を上げることが出来ると。」

「それは瞬時にパソコンやスマホで広まると。」

「で、その中には嘘も入っていますし、憎しみ、あるいは罵詈雑言も入っている。」

「それがパッと広がってしまうと。」

「しかも、昔だったら権力者、トランプさんと国民の間にメディアとか専門家とか間に入っている人たちが言葉をスローダウンさせていたと思うんです。」

「ゆっくりにしようと。」

「そこは冷静にいよう。」

「そこで言葉を整理していくのが、瞬時につながることによって、民主主義に必要な言論というのがスピードアップし過ぎちゃってるんですよね。」

「で、民主主義っていうのは速過ぎてしまうと、やはり対立とか憎悪とか怒りだけが増幅されると。」

「もう一度民主主義をスローダウン、遅くしていくというのが今後のインターネット時代の私たち、有権者、国民の務めかなと思います。」

「(ある意味では、直接ではなくメディアがろ過していたのかという問いに対して、)そうですね、ろ過していると同時に少し冷静なのと、ゆっくり議論しようという役割をメディアが担っていたと思います。」

「それが直接つながってしまっていると。」

 

最後にジャーナリストの青木 理さんは次のようにおっしゃっています。

「VTRの一番最後に自由の女神が映ったじゃないですか。」

「自由の女神の台座のところに、行ったことがある人は分かると思うんですけど、女性詩人、エマ ラザラス(Emma Lazarus)の詩が載っているんですよ。」

「その詩がどういう詩かっていうと、一部だけ言うと、「疲れ、貧しく、自由の息吹に乞われる群衆を私に与えなさい 家を失い、逆境に繰り返し打たれている者たちを私の元に送りなさい 私は松明を掲げよう 黄金の扉の横で」こう言うんですよね。」

「トランプさんは移民キャラバンの人たちを犯罪者だって言って、軍を送って扉を閉めるって言ってるんですね。」

「これ、全くアメリカの理想と違う。」

「それに対して、今回、モスリムとか女性とかヒスパニックとかLGBTが当選したっていうのは、これ分断というよりも、繰り返しですけども一種の抵抗運動がアメリカで起きているというふうに僕は捉えるべきではないかなと考えていますけどね。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

番組を通して強く感じるのは、世界的に広がりつつある“格差社会化”の大きなうねりです。

従来は富裕層、中間層、貧困層という大きく3つの金銭的な豊かさの度合いの層があり、その中で中間層の占める割合が最も多く、それが社会の安定につながっていました。

ところが、インターネットを社会インフラとして、人手を介しない機械化、あるいはシステム化により、従来の中間層の働く場がどんどん縮小傾向にあり、その縮小分の多くは収入の少ない正社員、あるいは非正社員、すなわち収入の安定しない限りなく貧困層へと吸収されているのです。

また、アメリカのGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に象徴されるように、一部のインターネットやAI、あるいはロボットなどのテクノロジーを駆使したビジネスモデルにより、販売、あるいはコミュニケーションのインフラを抑えたごく限られた企業に富が集中していく流れが加速化しているように思えます。

こうした流れが更にあらゆる産業界に広がっていくのは間違いありません。

そして、こうした流れを更に支えているのが経済のグローバル化だと思います。

今や、メーカーは世界中でより安い人件費の国への製造拠点のシフトが盛んです。

このように見てくると、やはりネット社会が格差社会化、あるいは企業格差をもたらす根本的な背景、あるいは理由ではないかという考えに行き着きます。

 

一方、見方を変えると、ネット社会はユーザーにとってはとても便利です。

いつでもどこでも国内外を問わず世界中の誰かとコミュニケーションが出来ます。

同様に、いつでもどこからでもパソコンやスマホさえあれば、ほとんどの商品を購入することが出来、しかも早ければ翌日には配達してもらえます。

また一夜にして、ごく普通の人が世界的な有名人になったり、逆にある一人の従業員の不祥事がその企業のイメージダウンを瞬く間にもたらしてしまうのです。

ほとんどの人たちは誰もネット社会以前にはこのような社会を想像出来ていなかったと思います。

 

インターネットやグローバル化を幹とすれば、その枝葉であるAIやロボット、あるいはIoTといったテクノロジーの進歩はユーザーの利便性をどんどん高めていく一方で、一部の企業、あるいは一部の富裕層の人たちに富が集中し、その他は貧困層へとシフトしていく流れは今後とも加速化する一方だと思います。

その流れを止めることが出来るのは、国による規制しかなさそうです。

 

さて、このようにインターネットによる世界のどこの誰とでも情報交換が出来る状況と経済のグローバル化とが相まって、ネット社会、およびテクノロジーをフル活用して小人数で莫大な利益を上げるごくわずかなスーパー企業とその他の普通の企業、あるいはアメリカのラストベルトに象徴されるようなグローバル化の犠牲になった自動車メーカーとの格差、そして正社員と非正社員との格差というように二重構造の格差が生じているのです。

まさにインターネット社会およびグローバル化が産業のパラダイムシフトをもたらしたとも言えると思います。

 

こうしたアメリカの状況においてトランプ大統領は誕生したのです。

民主主義国家においては政治家は選挙によって選ばれます。

ですから、一般的な見方では悪評の高いトランプ大統領もアメリカ国民の民意によって選ばれたのです。

そして、トランプ大統領はラストベルトに象徴されるグローバル化により仕事を奪われたような、言わば取り残された人たちを主なターゲットとして大統領選挙で勝利し、今でも一定の支持者を得ているというわけです。

ですから、まさにアメリカの極端な二極化がトランプ大統領を誕生させたと言えます。

 

しかし、ハーバード大学の二人の政治学者が指摘しているように、この極端な二極化がアメリカの民主主義を崩壊させるリスクをもたらしているというのですから皮肉です。

そして、こうした格差社会化の流れは、アメリカのみならず世界的に大きな流れとなっています。

日本もその例外ではいられません。

 

ではその対応策ですが、やはり以前ご紹介したベーシック・インカム(最低限の生活を保障する現金給付)制度の導入が望ましいと考えられます。(参照:アイデアよもやま話 No.3401 ”仕事がない世界”がやってくる その3 新たな生活保障制度の必要性!アイデアよもやま話 No.3933 AIは敵か味方か? その3 富の再配分システムとして期待されるベーシッキンカム!

 

自由主義や共産主義といったどのような政治体制であっても、格差化社会はいずれも社会不安をもたらし、独裁政治の誕生をもたらす可能性を秘めているのです。


 
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