AI(人工知能)がどんどん進化しており、私たちの暮らしの中にAIは徐々に普及しつつあります。
そうした中、私たちは人類の敵か味方かというような観点でAIについて考えがちです。
そこで、昨年11月23日(木)放送の「深層ニュース」(BS日テレ)で「AIは敵か味方か」をテーマに取り上げていたので5回にわたってご紹介します。
3回目は富の再配分システムとして期待されるベーシックインカムについてです。
ちなみに、ベーシックインカムについては以前アイデアよもやま話 No.3401 ”仕事がない世界”がやってくる その3 新たな生活保障制度の必要性!でもお伝えしたことがあります。
なお、番組ゲストは40年以上AIの研究をされてきた東京大学大学院の中島
秀之特任教授と経営戦略コンサルタントの鈴木 貴博さんのお二人でした。
2回目ではAIの進歩で仕事は半分になるが、賃金はどうするかといった課題についてお伝えしました。
そこで今回はこうした課題の解決策、すなわち富の再配分システムとして期待されるベーシックインカムについて、お二人に番組キャスターで読売新聞編集委員の丸山
淳一さんも交えては次のようにおっしゃっています。
(中島さん)
「(そうする(AIの進歩で仕事は半分になる収入が減る)と制度をきちんと追いつかせていかないと生活水準が維持できなくなるのではという問いに対して、)再配分のシステムをちゃんと考えないと思いますけど。」
(鈴木さん)
「(ではどうやって生活を維持していくのかという問いに対して、)世の中で一番議論されているのはベーシックインカムなんですね。」
「つまり、仕事が半分に減りますよということが10年後か20年後に確実に起きるという時に減ってしまった仕事の分だけ給料が減る、そうすると経済が半分になっちゃうんですね。」
「ですからそうならないためにはやはりベーシックインカムというかたちで働かなくてもお金が与えられると。」
「そういう仕組みを作らなければいけない。」
「でも逆にそれさえしっかり作ってしまえば、仕事は機械やAIに任せればいい、時間は空くという幸せな世界になる。」
「ですからベーシックインカム論が一番そこの分かれ目だと今言われています。」
「(そのベーシックインカムは国が配分するのかという問いに対して、)ここが問題でただ日銀がお金を刷って配るというふうにしてしまうと基本的にインフレが起きるので何らかの財源を作ってそれを国民に配る。」
「で、恐らく世界の仕事の半分が無くなるという世界が20年以内に来るんじゃないかと言われてるんです。」
「そうなってきた世界でいくと、少なくとも国民一人当たり年間100万円、ないし200万円くらいのベーシックインカムが下りてくるような仕組みを作らないと幸せな未来にはならないということが言われています。」
さて、鈴木さんは「ロボット経済三原則」を以下のように唱えておられます。
全てのAIの利用権を国有化
2.企業はAIの働きに応じた賃金を国に支払う(家庭・私的利用を除く)
3.国はAIに支払われた賃金を国民に分配
この三原則について、鈴木さんは以下のように補足されております。
「(一番目について、)今自動車を購入する際に自動車税を国に払いますよね。」
「それと同じようにパソコンやスマホを購入して企業が使うという時には利用料を国に払うようにしましょうよ、これをベーシックインカムに使っていくための最初の根拠にしましょうというのが一番目です。」
「(二番目について、)これどう測定するのかという議論が本当はあるんですけども、それを一旦置いてしまえば考え方は単純で、人間の雇用をもしAIが奪うというかたちになるんだとすれば、その奪われた分の給料はベーシックインカムの財源にすればいいだけの話なので、一人分の雇用が奪われるようなAIが登場し、それが企業の中で働いているのであれば、その人に年収500万円とか700万円とかちゃんと支払ってそれを財源にしましょうよと、そういう考え方です。」
「分かりやすく言うと、ロボットタクシーが出来たとします。」
「多分2022年には技術的には可能になると思うんですが、無人タクシーが出てきてタクシーの仕事をしてくれたという時に、それをただクルマを買ってタダ使いしているのではなく、タクシーの運転手さんに払っていたのと同じお金をタクシー会社は払って下さいと。」
「こういう仕組みをつくろうと言っています。」
「(その支払われた賃金を国が一旦集めたものを3番目、国民に分配する、)それがベーシックインカムです。」
(丸山さん)
「そうすると、遊んでいても基本的に国からお金がもらえる。」
「それから基本的には格差が縮まるという点も分かります。」
「だけど、新しい発想みたいなものや競争が排除されちゃって、国民がみんな真面目に働かなくなるとどうなんですかね。」
(中島さん)
「私は結構逆だと思ってるんですけど、一つは全員がベーシックインカムだけで生きていくだけじゃなくて、働けばその分収入は増えるわけですから、例えば趣味でいいことしようと思うと自分で収入を稼ぐという世界になると思うんですね。」
「それともう一つは、ベンチャーとか何か新しい冒険をした時に、ベンチャーって結構失敗するじゃないですか。」
「その時にベーシックインカムがあると、失敗を恐れずに新しいことにチャレンジ出来る。」
「だからどんどんどんどん新しい仕事をみんなでやって、ダメだったらベーシックインカムに戻って、でもそこからもう1回頑張ってやろうと。」
「(こういうかたちにしても競争はあるし、新しい発想を競い合うような社会は出来るということが、)今よりやりやすくなるかもしれないな。」
「生産性が全体として上がっていく、今のままじゃないよっていう前提をまず考えておかないといけないと思うんですけどね。」
(鈴木さん)
「以前、試算しようとしたことがあるんですよ。」
「例えば、今現在でも回転寿司屋さんには寿司ロボットがありますよね。」
「この人(ロボット)たち給料も払わずに寿司を握っているわけですよ。」
「仮にそういうかたちで今の日本にロボットやAIに給料を払っていたとすると、日本だけが先進国の中でGDPが横ばいですけども恐らくGDPが1.5倍くらいになっています。」
「要は、我々ロボット先進国じゃないですか。」
「で、(ロボットやAIに)お金を払ってなかったからGDPって横並びになっているだけで、実はアメリカ並みに経済が伸びていた可能性があると思うんです。」
(丸山さん)
「でも社会主義みたいな感じですよね。」
「つまり国有化してしまうわけだから、全部機械は国が持ちますよ。」
「そうなると国が全部管理してしまって、ベーシックインカムを国民に分け与えるっていうのかな。」
「それでいいのかなと。」
(鈴木さん)
「それはものすごく重要な議論で、いいかどうかは別にしてエンジニアの皆さんは多分AIを真剣に作っていきます。」
「そうやって開発競争がずっと続いていくと20年後にはAIはかなり人間の仕事を奪ってしまうという現実が出来る。」
「それを何かをするためにベーシックインカムを作らなければいけないという時に、ものすごく巨額の財源になるんです。」
「例えば、国民一人に100万円のベーシックインカムを与えようというと100兆円の財源が出来るわけですよ。」
「これを動かせる人は、社会主義的な観点でいうと、ものすごい権力を持ってしまうと。」
「歴史的には社会主義国家って独裁国家になる傾向があるということでいくと、私が提案してて変なこと言いますが、私が提案していることをこのままやってしまうととんでもない悪い未来が来るリスクはあるんですよ。」
「ですからそのリスクを真剣に議論をして、どうすればそういう悲惨な未来にならないのかどうかというのを考えるっていう意味でいうと、丸山さんのおっしゃった問題提起はとっても重要な議論だと思います。」
(丸山さん)
「格差を縮める意味はあるのかもしれない。」
「で、国富は増えるから源資を稼ぎ出すことは出来るかもしれないけど、一手に独占されてしまってっていうことになると。」
(中島さん)
「だから、そこの再配分の仕組みもAIで最適化するって手はあると思いますよ。」
(丸山さん)
「そうすると政治家はいらないですよね。」
(鈴木さん)
「AIって何となく我々って非人間的というか冷たいもののイメージがあるじゃないですか。」
「最近のAIはかなり人間的なものが出てきたと言われているんです。」
「で、この先更にそこから10年未来になってきた時にはもっともっと人間よりも優しいAIを誰かが開発してくれるということが期待出来るとすると、あながち政治家をAIに任せるというのは、今の時点では考えられなくてもその頃になってくると良いアイデアかもしれない。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
まず大前提として、これから本格的なAI、ロボット、あるいはIoTなどのテクノロジーの成長、そして成熟期を迎えるにあたって、これまでの繰り返し作業などの単純作業のみならずかなり高度な作業までがAIなどに置き換わっていくことは間違いありません。
具体的にはAIを装備したロボットがホテルや飲食店などのサービス業での本格稼働、あるいは自動運転車の一般道での稼働などはすぐ目前まで来ています。
そこで、当然のことながらこうした普及に伴い、その分人の労働力は不要になります。
ここで注目すべきは、企業は少しでもコストの安い労働力、あるいは生産性の向上が大命題なのです。
すると、どうしても人を雇うよりもコストの安いAIやロボットの活用の方に流れてしまいます。
ですから、仕事に就けない人の最低限の暮らしを維持するために富の再配分システムが必要になるわけです。
そこで世界的にベーシックインカムに関心が寄せられているわけです。
しかし、考えてみれば資本主義を支えているのは最大の購買層である中間層といわれる人たちなのです。
要するに、消費の少ない社会では資本主義は成り立たないのです。
ごく一部の仕事に就けた人たちとそれ以外のベーシックインカムにより最低限の暮らしを保障される多くの人たちとの格差社会では全体の消費量が減少し、資本主義は成り立たなくなると危惧されます。
ですから、ベーシックインカムに大きく依存するよりも、週休3日制、あるいは週休4日制というように休みを増やしたり、あるいは1日当たりの労働時間を半日にするなどの法律改正により出来るだけ多くの人たちが労働時間をシェアする方向で検討した方がいいと思うのです。
ただし、仕事の内容もこれまでよりごく限られていき、期待されるスキルレベルもより高度になっていくので、働くことを希望する人たちは生涯を通して新技術の研修を受け続けることが求められると思われます。