台湾の優れた新型コロナウイルス対応策についてはプロジェクト管理と日常生活 No.633 『参考にすべき台湾の新型コロナウイルス対策』などでお伝えしてきました。
そうした中、昨年10月1日(木)放送の「あさチャン!」(TBSテレビ)で日本のデジタル政策に影響を与えるオードリー・タンさんの考え方について取り上げていたのでご紹介します。
デジタル庁の創設に向けたその準備室が昨年9月30日に発足しました。
菅総理大臣は次のようにおっしゃっています。
「行政の縦割りを打破し、大胆に規制改革を断行する。」
準備室には、デジタル庁創設に向けた基本方針などを定めるため各省庁から約50人の職員が起用され、民間の有識者も今後10人程度が参加する予定です。
そのスローガンについて平井卓也デジタル改革担当大臣は次のようにおっしゃっています。
「「Government As a Start up」っていう言葉を「ガースー」になっちゃうんですけどね。」
「準備室のスローガン的なものにしたいなというふうに今思っています。」
デジタル庁を誕生させるきっかけの一つについて、菅総理は次のようにおっしゃっています。
「今回の新型コロナウイルスへの対応について、国、自治体のデジタル化の遅れ・・・」
国民一人当たり10万円の給付を巡ってはマイナンバーカードのオンライン申請で大混乱していました。
昨年5月、東京・品川区役所では二人一組で“声出し”確認、その修正作業は実にアナログ、周回遅れの日本のIT化を推進することは出来るのでしょうか?
先週(番組放送時)、番組では新型コロナウイルスに成功している台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンさん(女性、トランスジェンダーを公表
39歳)を直撃、日本の現状について話を聞きました。
「(日本がデジタル庁を創設することについてどう思うかという問いに対して、)まずは設置、おめでとうございます。」
「興味深い話になっていきますね。」
「(台湾のようにスムーズに成功させるには、日本のそれぞれのセクションは何が必要かという問いに対して、)台湾のデジタル戦略のテーマは「デジタル、イノベーション(革新)、ガバメント(政府)、インクルージョン(一体性)の頭文字からとって“DIGI”と呼ばれています。」
「この4つの中で最も重要視しているのがインクルージョンです。」
デジタル化推進のカギは社会の一体性、つまり政府・行政・国民らが信頼し合う社会だと語ったオードリー・タンさん、そのデジタル庁のトップとなるリーダー像について、平井大臣は次のようにおっしゃっています。
「私の脳裏のどこかにですね、オードリー・タンさんがあるんだと思いますが、要するに誰一人取り残して置き去りにしないデジタル化、彼女(オードリー・タンさん)もそのように言われていますが、私も全く同感です。」
「インクルージョンという言葉だと思うんですけど、インクルーシブなデジタル化という基本的な考え方を共有出来る方を探したいと。」
いよいよ動き始めた日本のデジタル庁ですが、オードリー・タンさんは次のようにおっしゃっています。
「既存の現実と闘うことでは物事を絶対に変えられない。」
「何かを変えたりするならば、既存のモデルを時代遅れにするような新しいモデルを作って下さい。」
平井大臣からはオードリー・タンさんの名前が出てきましたが、台湾のことを相当意識しており、また参考にしているようです。
インタビューから伝わってくるオードリー・タンさんの言うインクルーシブ、一体性の原点はほとんど年代、性別、文化、国籍を超えた捉え方が出発点だと感じています。
具体的なオードリー・タンさんの手法としては、とにかく時間を見つけては若者の声に耳を傾ける、それだけではなくて実際にそういったやり取りも含めて、自分が何をしてきたか、これをオープンにし続け、分かってもらうということなのです。
更にオードリー・タンさんは次のようにおっしゃっているといいます。
「国民が幸せになる未来への道筋、これは大人が若者に教えるのではなくて、若者が大人に伝えていくものだ。」
こういうことをもし日本が目指していくのであれば、今回の日本のデジタル庁の行方、そのものが大きく政治のあり方を変えるのではないか、カギを握っているのではないかなと期待しています。
ただ表面だけをすくい取らないで、オードリー・タンさんの心の部分を是非分かっていただきたいです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
まず、デジタル庁を誕生させるきっかけの一つについて、菅総理は「今回の新型コロナウイルスへの対応について、国、自治体のデジタル化の遅れ」とおっしゃっています。
このデジタル化の遅れについてですが、とても残念に思うことがあります。
それは、安倍前総理が3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)という骨太の政策方針を掲げましたが、その成長戦略にデジタル化による国全体の抜本改革を掲げなかったことです。
もし、デジタル化を成長戦略の大きな柱の一つに掲げていれば、その後の日本の経済成長は目覚ましく、コロナ禍における様々な給付金のタイムリー、かつスムーズな配布も出来、国際的にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の先駆けとなっていた可能性が大きいのです。
ここでお伝えしたいのは、いかに国の指導者が国のあり方の具体的なビジョンを掲げ、その実現に向けてリーダーシップを発揮することが重要かということです。
コロナ禍やリーマンショックのような国を揺るがすような出来事が起きてから動きだすような政治姿勢では遅過ぎるのです。
政治家、中でも時の総理大臣には今後の国のあり方に対する明確ビジョンを持つことが求められるのです。
そしてそのビジョンを実現するために他の大臣や官僚、あるいは民間人の中からそうした優れた能力を持ち合わせた人を抜擢して任せればいいのです。
ですから総理大臣には日本の進むべき方向性に対する見極め、そしてその方向に向けて政策を実行する断固とした決意を持っていることが求められるのです。
これまでの日本の政治において、何度となくこうした方法でうまく国の政策を成功に収めた事例はいくつもあるのです。
大阪万博をプロデュースして成功させた当時の官僚、堺屋太一さんはその一例です。(参照:アイデアよもやま話 No.4358 堺屋 太一さんの語った「平成の次」!)
さて、こうした日本政府の今回のコロナ禍、更にはこれまでの日本政府のデジタル化への対応と比較されるのが台湾の対応です。(参照:プロジェクト管理と日常生活 No.633 『参考にすべき台湾の新型コロナウイルス対策』)
台湾におけるコロナ禍対応を指揮した台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンさんが番組でおっしゃっていた内容を以下にまとめてみました。
・台湾のデジタル戦略のテーマは「デジタル、イノベーション(革新)、ガバメント(政府)、インクルージョン(一体性)」、“DIGI”であり、最も重要視しているのがインクルージョンである。
・何かを変えるためには、既存のモデルを時代遅れにするような新しいモデルを作るべきである。
・国民が幸せになる未来への道筋は大人が若者に教えるのではなくて、若者が大人に伝えていくものである。
このオードリー・タンさんの発言はデジタル化を進めるうえでとても参考になると思います。
1つ目は、インクルージョン(一体性)という表現をされていますが、私は次のように解釈しています。
すなわち、デジタル化を進めるうえで、単に何でもかんでもデジタルデータ化すれはいいというのではなく、国や国民、企業といったそれぞれのつながりを意識してデータを収集することが重要だということです。
2つ目は、デジタル化に取り組むに際して、過去の作業プロセスや運用の改善を図るのではなく、過去のやり方やテクノロジーに縛られない思考パターンで将来目指すべきはどのような国、あるいは社会なのかを徹底的に検討し、それを実現させるためにはどのようにデジタルデータを収集し、活用すべきかといった方法論を検討し、それを実現させるということです。
要するにデジタル化は目的ではなく、あくまでも手段なのです。
そして3つ目は、こうした将来のあり方の検討を進めるに当たっては、時代の流れに敏感で好奇心旺盛な若者の意見を最も重視すべきであるということです。
そして、オードリー・タンさんは39歳という若さに係らず、自らも時間を見つけては若者の声に耳を傾けるということを実践しているのです。
ですから、日本の政治家にも企業のトップや業界団体のトップの意見に耳を傾けるだけでなく、若い人たちの意見にも積極的に耳を傾けて欲しいと思います。
一方、若い人たちの中からわずかでも、日本の今の閉塞した状況を壊して、幕末に活躍して明治維新の実現に大きく寄与した坂本龍馬のように、「日本を今一度、洗濯いたし申候」という気概を持って国の大変革につながるような行動を起こしていただきたいと思います。
さて、ウィキペディアにはオードリー・タンさんについて以下の記述があります。(詳細はこちらを参照)
・台湾のコンピューター界における偉大な10人の中の1人とも言われています。
・2016年10月に台湾の蔡英文政権において35歳の若さで行政院に入閣し、無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)を務めている。
先ほど総理大臣は他の優れた能力を持ち合わせた人を抜擢して任せればいいとお伝えしましたが、台湾の新型コロナウイルス感染対策を成功させているオードリー・タンさんもその一例です。
ですから、人材登用においては若手の人材にデジタル戦略を任せたという面においては蔡英文総統(64歳)も優れた政治家と言えます。
注目すべきはコロナ禍以前の2016年に既に蔡英文総統はデジタル戦略を当時35歳の若いオードリー・タンさんに任せていたということです。
世界中が新型コロナウイルスの感染拡大で騒ぎ出した2020年の4年前からデジタル化を進めていたからこそ、台湾は世界各国から突出したコロナ対策を打ち出すことが出来たのです。
蔡英文総統がどこまで意識されていたかどうか分かりませんが、国民や企業の様々な情報を把握していること、すなわちデジタル化が整備されていれば、それだけどのような状況が発生しても最小限の人手で素早い対応が可能になるのです。
ですから、蔡英文総統やオードリー・タンさんはコロナ対策の成功で自分たちの進めたデジタル戦略は間違っていなかったと確信したはずです。
台湾に比べると、とても残念ながら日本のデジタル戦略は5年ほどの遅れを取っていると言わざるを得ません。
ということで、菅総理にも官邸主導は結構ですが、若手の優れた官僚や民間人の中から選んで国のデジタル化政策を任せるくらいの決意を持っていただきたいと思います。