前回、プロジェクト管理と日常生活 No.669 『香港の民主活動家、周庭（アグネス・チョウ）さんの逮捕から見えてくること！』で香港の国家安全維持法（全文はこちらを参照）について触れましたが、８月１６日（日）放送の「日曜報道」（フジテレビ）でそのカラクリについて取り上げていたのでご紹介します。
国家安全維持法で取り締まりの対象となる行為の主な内容は以下の通りです。
・国家を分裂させる、更には転覆する行為
・テロ活動
・外国勢力と結託し、国家の安全に危害を与える行為
こうした行為に関しては、最高刑として“無期懲役”が科せられるということです。
更に、こういった行為を取り締まるために、中国政府の出先機関が香港に設置されるほか、中国本土で裁判をすることが出来ると規定されています。
菅官房長官（番組放送時）はこうした事態について、「重大な懸念を有している」と発言しています。
これに対し、中国 外務省の趙立堅（ちょう・りつけん）報道官は「内政に干渉することを止めるように促す」と強く反発しています。
こうした状況について、次の３人の番組コメンテーターは以下のようなやり取りをしています。
自民党の衆議院議員、税制調査会長の甘利明さん
元大阪市長の橋本徹さん
ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこさん
（甘利さん）
「（中国の内政干渉という主張に対して、日本はどう反論すべきかという問いに対して、）国境を越えた基本的な人権のルールがありますよね。」
「それはきちんと、いかなる国内法でも沿った対応じゃなきゃいけないと思うんです。」
「それから、この法律の一番問題視されるのは、法律に抵触する要件は一手に中国共産党幹部会が自分たちが判断すると。」
「「俺たちが決めたらそれが法律だ」という仕組みは絶対に問題になると思います。」
（橋本さん）
「僕は日本の自由主義、民主主義の体制は断固守るべき、これは当然だと思うんですね。」
「ただ、中国に対する言い方、今の政治家や僕らを含めてメディアの言い方を見ると、簡単に反論されるようなことを僕は言っていると思うんですよ。」
「というのは、一つは政府としては必ず日本は“懸念”とかこういうことしか言わないのですけども、内政干渉と言われたことに関しては、中々僕らだって内政干渉されたら嫌なわけですから。」
「ただこれどういうふうに言うかといったら、日本の安全保障として隣国でああいう報道の自由が侵されるような、言論弾圧されるようなことがあれば、今、貿易などでボーダーレスで中国ともいろいろ、資本の移動なんかもあるわけですから、日本の言論機関がもしかしたらそういう状況になるかもわからない。」
「だから日本の隣国でああいうことをやられたら困るんだ、これは日本の安全保障なんだということで位置付けてしっかり言わなきゃいけないし。」
「一つ、櫻井さんにお聞きしたいのは、例えば国家安全維持法でよく言われるのが域外適用、僕は国家安全維持法の中身は問題だと思いますが、よく言われるのは外国の外国人に対して適用するのがおかしいというんですが、日本にも内乱罪というのがあるんですよ。」
「この内乱罪の規定は憲法的な国家の統治権を壊乱する目的で暴動を起こす場合には、これは日本の内乱罪も外国人の外国でのそういう行為も域外適用をやっているわけなんですね。」
「だからそういう域外適用、国の体制を守るための法律というのは外国人に域外適用することは世界の常識であるので、こういうことを批判しても意味ないと思うんですよ。」
「やっぱり中身が問題であってね。」
（櫻井さん）
「あなたのおっしゃることにはいくつか問題がありましてね。」
「さっき甘利さんがおっしゃったように、中国共産党が圧倒的に支配するルールですよ。」
「この国家安全維持法を見ると、中国が送った特別代表が香港で委員会を作って、何が違反しているかということを決めるんですけども、この情報は一切公開しません。」
「法律で決められているんですね。」
「これに対して、香港政府からも一切の介入は許しませんと。」
「そして、これに対する結論に対しては誰も文句を言えませんてことなんですね。」
「そして、これは法律ですから今日決めたら今日から適用するんですけども、今日決めたことを昔に遡ってやっていることがこれの問題の１つですね。」
「それともう一つは、中国政府は日本に対して内政干渉と言いますけども、私たちは別に中国のいろんなことに内政干渉をしようとは思っていないけども、中国がイギリスと結んだこの中英条約ですね。」
「これは国連にもちゃんと登録されているれっきとした国際条約なんですよ。」
「この国際条約をこのような激しいかたちで踏みにじるということは国際社会の非常に重要な地位にある我が国としても絶対許されませんよという理屈が成り立ちます。」
「そして橋本さんがおっしゃった、さっきの内乱罪ですけども、我が国に内乱罪があることは分かっています。」
「でも我が国はこれを適用する時に、これ甘利さんにお聞きしたいんですけど、ものすごく注意していますよ。」
「本当に遠慮しいしい、適用したのが１回あるかないかぐらいなもんだと思うんですけどもね。」
「中国共産党はこの香港国家安全維持法を使って、どこにでもどういう理屈でも自分たちの気に入らない人を捕まえることが出来るんです。」
「それが、彼らがやっていることですから、日本と中国を同列に並べてこういう法律があるからと言ったら間違うと思う。」
「もう一つ、あなたね、中国のことをよく見るのにね、中国がどんなに立派な法律をつくり、どんなに立派な憲法をつくっていて、中国の憲法なんて私読んでね、感心しますよ。」
「こんなに環境にも民族にも宗教の自由にも言論の自由にも完璧に保障するということをあの憲法の中でうたっている、でもやっていることは違うんですね。」
「だから言うこととやることが違う国に対して、我が国はどういうふうにすべきかということを考えないといけない。」
（橋本さん）
「だから、主張のやり方で僕は絶対に日本の自由主義、民主主義を守らなきゃいけないし、今やっている中国の言論弾圧についてはきちっと抗議はしなければいけないけども、その言い方について、反論を受けるような域外適用とか、そういうことがおかしいとか、例えば英中共同声明（こちらを参照）の２国間条約が一国二制度の根本になっていますよ。」
「でもこれって二国間条約なので、例えば第三国である我々がどこまで口をはさめるのかですよ。」
「例えば、日ソ共同宣言の北方領土問題に関して、中国が口をはさんで来たら、僕らなんていいますか。」
「「そんなもの関係ないから口出すな」って言うじゃないですか。」
「だから、僕は言い方をよく考えないと、これって元々のこの問題は英中共同声明の二国間条約で、アメリカはあれだけの国力があるからガンガン言えるけれども、僕らも北方領土問題に対して中国が口出してきたら、それは言うなっていうことを言うわけですから、それは中国も言ってきますよ。」
「「これは中国とイギリスの問題なんだ」と。」
「だから、そういう簡単に反撃されるようなことを僕らは言うんじゃなくて、もっとしっかりと反撃されないような主張をしていかないといけないと思うんですよ。」
（櫻井さん）
「反論されることも正しいことなら、私は言うべきだと思います。」
「なぜならば、今世界というのはアメリカを中心軸とする自由主義陣営と中国を中心、中国一国が私たちの価値観を踏みにじって、今本当に文明の闘い、価値観の闘いの局面に入っていますね。」
「だからこそ、そういう局面で国家としてちゃんとしたメッセージを送ることがすごく大事なんですよ。」
（橋本さん）
「じゃあ、北方領土問題で日ソ共同宣言について、口をはさんできても、それは認めるんですね？」
（櫻井さん）
「中国はこれまで口をはさんできたことが今まであります。」
（橋本さん）
「だから、これからどんどん（中国が）言って来たら、それは認めるんですね？」
（櫻井さん）
「認めない、認めない。」
「反論すれはいいんです、反論すれはいいだけの話です。」
（甘利さん）
「（今、まさに香港の民主化運動が危機に瀕してしまうのかという重大な局面だが、日本としてどのように取り組むべきかについて、）１９９７年に（イギリスが香港を中華人民共和国に譲渡し、）向こう５０年間は外交と防衛を除いて、高度な自治を認めますと。」
「これが一国二制度で、イギリスと中国とが結んでいるわけです。」
「それに対して、中国が何を言っているかと「あんなもの紙くずだ」と言っているわけです。」
「つまり、二国間で政府同士が約束をこういうふうに守っていきますと。」
「だから（中国が）旧宗主国（イギリス）に（香港を）早く返してちょうだいということ自身を自ら否定しているわけなんですね。」
「二国間の覚書なり協定なりでも世界に向かって、我々こうやっていきますと宣言したわけでありますから、宣言された方としては「ちょっと違うんじゃないですか？」と言うことは言っていいと思うんです。」
「特にこれは国際標準としての人権に係わることです。」
「で、誰もどこの国民も否定することが出来ない、基本的な存続権に対しての浸食ですから、これはちょっと違うんじゃないですかと。」
「「あなた、約束したでしょ」ということは大いに言っていいと思います。」
（櫻井さん）
「さっき橋本さんがおっしゃったことは正しいんです。」
「これは日本にも係わることなんですよと、」
「だから日本にも係わることなんだから、文句言うよというあなたのその意見は正しいんです。」
（橋本さん）
「だから二国間条約も踏まえて第三国が口をはさむと言った時には、ちゃんと日本の安全保障なんだということを踏まえたうえで言っていかないと、単純な二国間条約に関して第三者が口を出せるという問題ではないと思うので。」
「あと、一国二制度についてなんですけども、これも僕が言えば言うほど日本と反対の意見を言うのかと言われるんですけど、僕はあくまでも中国に対しては断固抗議していかなきゃいけないと思うんですが、例えばこの一国二制度についても中国はある意味領土を割譲されたわけじゃないですか、アヘン戦争の時に。」
「１９４２年のアヘン戦争で香港を獲られたわけですよ。」
「それを戻す時に、領土を戻す時に一国二制度なんていうことを、これが原則なのかといったら、僕は違うと思うんです。」
「例えば、北方領土を戻してもらう時に一国二制度なんて認めますか？」
「ロシアとの間の一国二制度を。」
（櫻井さん）
「今、あなたすごく大事なことをおっしゃった。」
「あの時にね、中国は香港を割譲したんです。」
「割譲っていうことの意味は、甘利さん、これね、国際条約上も割譲というのは「あなたにあげますよ」というか「譲渡しますよ」というか「さしあげましょう」ということです。」
「だからイギリスと中国の交渉の中で、香港問題の専門家の人々の中に、これはサッチャー（イギリスの元首相）が��小平に完全にしてやられたケースだということがよく言われるんですよ。」
「割譲したのであるから、もうこれはイギリスは９９年間の規定に係らず、ずっと割譲ということはそういうこと（永久割譲）ですね。」
「だから、そこできちんとイギリスの領土として自由と民主主義を守ることが出来たにも係らず、サッチャーさんと��小平さんの出会い頭に、��小平さんがものすごい大声で交渉に臨んで、サッチャーさんがちょっと気後れしちゃったという場面があるんですね。」
「だから、私はこの中国が領土を割譲された口惜しさ、それを取り戻すという「当たり前じゃないか」というあなたの気持ちも分かるし、私は日本人として北方領土のことを思いますから、ものすごく理解するんですけど、国際法上考えると、やっぱりこの香港問題というのはいろんな誤解とか矛盾とか、駆け引きの中で中国にしてやられたとか、そういうことが沢山あるわけです。」
「そして、「５０年間高度の自治を認めます」というふうに約束したのであるならば、国際社会を大国の一員として、しかも安全保障理事会の５ヵ国の中で、拒否権まで持っている中国はちゃんと責任を果たせということを国際社会、日本も含めて強く言っていかないと。」
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
３人の番組コメンテーターのやり取りを以下にまとめてみました。
・１９９７年にイギリスが香港を中華人民共和国に譲渡し、向こう５０年間は外交と防衛を除いて、高度な自治を認めるとしたが、これが一国二制度である
・中国がイギリスと結んだこの中英条約は国連にもちゃんと登録されているれっきとした国際条約である
・それに対して、中国は香港国家維持法の制定によりイギリスとの取り決めを完全に無視している
・こうした中国の行為は、国際標準としての人権尊重を否定している
・国家安全維持法の問題点について、以下のように指摘されている
法律に抵触する要件は一手に中国共産党幹部会の判断により決定される
この法律の違反内容については一切公開しないと法律で規定されている
これに対して、香港政府からも一切の介入は許されない
今日決めたことが昔に遡って反映させている
・今、世界はアメリカを中心軸とする自由主義陣営と中国一国が文明の闘い、価値観の闘いの局面に入っている
・こうした局面において、日本も含めて自由主義陣営の国々のみならず国際社会は、大国の一員として、安全保障理事会の５ヵ国の中で、拒否権まで持っている中国はちゃんと責任を果たせという強いメッセージを送ることがとても大事である
さて、何年か前から、中国は核心的利益（国家主権、安全 保障、領土の保全及び自国の開発に関する中華人民共和国の国家利益を指す政治的な用語）を目指しており、その行為に対するいかなる国からの批判に対しては内政干渉だと決めつけて無視し、突き進んでいます。
具体的には、今回ご紹介した英中共同声明の２国間条約を無視した香港国家安全維持法の施行、あるいは南シナ海や尖閣諸島の一方的な領有権の主張といったようにです。
こうした動きは今後もエスカレートしていき、現在は台湾への圧力、その次は沖縄における領有権の主張といったようなことが危惧されます。
また、自国に対して批判的な言動を取った国に対しての報復措置として、例えばオーストラリア事例があります。
具体的には、４月にオーストラリア政府が、新型コロナウイルス感染症に対する中国当局の初期対応などについて、ＷＨＯ（世界保健機関）に独立的に検証する作業を求めましたが、その報復として、中国政府は今、オーストラリアへのあからさまな「嫌がらせ行為」をいろいろと繰り広げています。
こうした中国の行為はいつ日本に向けられるか分からないのです。
こうしてみてくると、今の習近平政権の最終目標は、中国の共産党政権による世界制覇ではないかという思いが強くなってきます。
その結果、あらゆる国が今の香港のような状況になってしまいます。
そして、憲法や法律はあっても実質的な機能は果たさず、更に個人の自由や人権は無視され、全ては中国共産党の一部の幹部の意向次第でどうにでもなってしまうのです。
更には内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区など少数民族への中国への同化政策も進められています。
こうした状況は自由主義陣営国家の国民にとってはとても耐え難いものです。
ということで、少なくとも習近平国家主席が現状の路線を突っ走る限りは、アメリカを中心に自由主義陣営の国々は日本も含めて一致団結して中国に向き合っていくことがとても重要なのです。（参照：プロジェクト管理と日常生活 No.664 『覇権国家の横暴を許さない仕組み作りの必要性！』）
