2019年01月05日
プロジェクト管理と日常生活 No.574 『リーマンショックから10年 その1 アメリカ経済に教訓は生かされているか!?』

リーマンショックについては、プロジェクト管理と日常生活 No.361 『あらためて感じるリーマンショックの罪深さ』プロジェクト管理と日常生活 No.552 『金融危機は10年周期!?』でお伝えしてきました。

そのリーマンショックから既に10年を経過しましたが、その教訓は生かされているかについて2回にわたってご紹介します。

1回目は、昨年9月13日(木)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)を通して、アメリカ経済についてです。

 

2008年9月15日、アメリカを代表する投資銀行、リーマン・ブラザーズが経営破たん、株価は急落、金融システムはマヒ状態に陥り、世界経済を奈落の底に突き落としました。

あれから10年、成長を続けるアメリカ経済に死角はないのか、リーマンショックの危機対応にあたったティモシー・ガイトナー元財務長官は次のようにおっしゃっています。

「ものすごい危機が起きるかもしれない。」

「そのリスクは消し去られていない。」

 

リーマンショックから10年、変調の兆しはないのでしょうか。

ニューヨーク株式市場、株価は堅調です。

ダウ平均株価は昨年1月に記録した最高値に迫る勢いです。(番組放送時点)

不動産市場も活性化しています。

マンハッタン南西部の一画、ニューヨークで最大の再開発が進んでいます。

商業施設やオフィスビルなど13のビルを建設するハドソンイヤード・プロジェクト、地上51階建てのビルは昨年10月完成予定、企業からの引き合いが強く、家賃は2016年に完成した同じ区画内のビルと比べ3割も上昇したといいます。

トランプ減税もあって、消費も順調です。

消費者の購買意欲を示す指標は17年10ヵ月ぶりという高い水準です。

装飾品や高級ブランドなども軒並み業績は好調です。

住宅市場も好調です。

 

しかし現地で取材すると、“危うさ”も見えてきました。

アトランタ郊外に住むリー・ヒックスさん(53歳)は2017年に念願のマイホームを購入しました。

プール付きの100坪を超える豪邸、価格は1億4000万円ほどでした。

オフィス家具メーカーに勤務していたヒックスさんは、リーマンショックによって解雇され、当時住んでいた住宅を差し押さえられてしまいました。

その履歴が残ったため、リーマンショック後に厳しい融資基準が課せられた銀行からは借りられませんでした。

代わって住宅ローンを提供したのは、銀行の免許を持たないノンバンク、購入価格の8割、1億円を超える融資を受けました。

ヒックスさんに融資したノンバンクは、リーマンショック後に創業、急激に融資を増やしています。

銀行への規制が続く一方で、住宅ローン全体に占めるノンバンクの割合は今や50%近くに達しています。

ノンバンク、エンジェルオークのシュレーニ・プラブCEOは次のようにおっしゃっています。

「我々は“金融危機の申し子”だ。」

「危機後の規制のお蔭で成長出来た。」

「これからも住宅ローンを提供出来るよ。」

 

ノンバンクを含む金融機関に対する当局の監督は危機前より強化されると言われています。

そこにワシントンにあるシンクタンクが次のような疑問を投げかけました。

ノンバンクは銀行に比べて借り手の信用度が低いうえに、情報が十分に開示されておらず、どれほどリスクがあるのか不透明だというのです。

 

更に今、ウォール街で大丈夫かとささやかれているのが社債を巡る問題です。

社債というのは、会社が発行する債券です。

リーマンショックから立ち直るために今、金融緩和と低金利が続いていたということで、本来は業績が良くないのに良い会社のように立ち振る舞って、金利が安い有利な条件で債権を発行している会社もあるんじゃないか、それは時限爆弾のようなものになるんじゃないかという懸念がささやかれているのです。

この状態をある専門家は“茹でガエル”と表現しています。

“茹でガエル”とは、カエルにとって気持ちのいい水温で泳いでいたら、だんだん温度が上がっていって、気が付かないうちに熱湯になっていたということの例えです。

 

今、あらためて金融危機から何を学ぶべきか、当時のニューヨーク連銀の総裁で、後の財務長官も務めたティモシー・ガイトナーさんは、2008年、リーマン・ブラザーズが破たんする直前までFRB(連邦準備制度理事会)を代表する立場で他の金融機関による買収交渉をまとめようと奔走していました。

当時、多くの金融機関を破たんの瀬戸際から救ったのは、FRBが持っていた緊急にお金を貸す仕組みでした。

しかし、その後の法律改正によって手続きが必要になり、迅速に対応することが困難になったのです。

言わば消火器がじょうろになったようなものです。

当時について、ガイトナーさんは次のようにおっしゃっています。

「FRBは議会の承認を得なければ動けない。」

「急な危機に対応が遅れるリスクがある。」

「金融システムは元来危険で壊れやすいものだ。」

「破たんのリスクから人々を守るために、強力な保護策が必要だ。」

「危機の記憶は永遠には残らない。」

「忘却は敵なのだ。」

 

番組では、リーマンショックから10年経った今の状況に対して、「そう言えばそんなことがあったな」ぐらいの昔話が大方の人たちの見方だといいます。

過去の苦い経験を生かして、どこにリスクの芽があるのかということを油断せずに見ていいくことが必要ではいかというのが取材をして感じたことだといいます。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

まず、番組を通して分かった、アメリカのリーマンショック再来リスクの芽になりそうな事象を以下にまとめてみました。

・銀行への規制が続く一方で、住宅ローン全体に占めるノンバンクの割合は今や50%近くに達していること

・ノンバンクは銀行に比べて借り手の信用度が低いうえに、情報が十分に開示されておらず、どれほどリスクがあるのか不透明であること

・リーマンショックの際に、多くの金融機関を破たんの瀬戸際から救ったFRBが持っていた緊急にお金を貸す仕組みがその後の法律改正によって手続きが必要になり、迅速に対応することが困難になっていること

 

こうしたことから分かるのは、リーマンショックから得られた教訓が生かされていないということです。

信用度の低い借り手への住宅ローン全体に占めるノンバンクの割合が50%近くに達しており、しかもどれほどリスクがあるのか不透明であるという状況は、まさにいつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えているのと同じ状況です。

しかも、リーマンショック級の経済危機の再来時に、リーマンショックの際のコンティンジェンシープラン、すなわちFRBが持っていた緊急にお金を貸す仕組みが迅速に対応出来なくなっているということは、リーマンショック時以上の経済の混乱をもたらします。

 

ここでとても重要なことは、リーマンショックはアメリカのみならず世界経済に大きな影響をもたらしました。

そして、その影響は長く続き、今現在も世界的にその尾を引いています。

ところが、トランプ大統領のアメリカファースト、経済優先、そしてポピュリズムの考え方、そこには世界をリードすべき大国の指導者にこそ必要な”本来あるべき社会”を目指すという理念が欠けています。

更に有能な側近と言えどもその意見を真摯に聞かず、自分の意に沿わない閣僚は次々に退任させています。

まさに”裸の王様”状態です。

しかも、米中間での関税引き上げなどによる経済摩擦は、次なる世界経済の危機の火種として世界各国により危惧されています。

更に経済に止まらない米中間の覇権争いは第三次世界大戦勃発の大きな火種となる可能性を秘めています。

ですから、トランプ大統領の存在そのものが現在最も大きな世界経済、あるいは世界平和のリスクと言えます。

ですから、このリスク対応策としてはトランプ大統領にご自身の持つべき責任感を強く認識していただくか、他の方に大統領を代わっていただくかということになります。


 
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