CO2といえば、地球温暖化の元凶として悪いイメージが世界的に定着しています。
そうした中、2月4日(土)放送の「夢の鍵」(BS―TBSテレビ)で佐賀県で進むCO2を宝に変える取り組みについて取り上げていました。
そこで、2回にわたってご紹介します。
1回目は、日本初の清掃工場で発生するCO2を回収・活用する取り組みについてです。
今、地球温暖化に歯止めがかかりません。
氷に覆われた南極大陸で、昨年12月にラーセンC棚氷の割れ目が数週間で約18kmに拡大しました。
千葉県とほぼ同じ大きさの巨大な氷、海に落ちたら海面上昇の恐れもあります。
20年前、京都議定書が締結され、日本はCO2を削減する方針でしたが、世界のCO2濃度は上がる一方です。
CO2をどう減らしたらいいか、その答えが九州佐賀市にあります。
米どころ、佐賀平野に広がる人口23万人の町です。
舞台となるのは佐賀市で唯一の清掃工場です。
こちらの清掃工場では、日本で初めて清掃工場で発生するCO2を回収し、活用する取り組みを始めました。
24時間ゴミを燃やし、1日におよそ200トンのCO2を排出しています。
このやっかいなCO2を活用しようというのです。
この清掃工場の一画に佐賀市環境部バイオマス産業都市推進課の井口
浩樹さん(52歳)が働く場所があります。
井口さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「清掃工場の中では、ゴミを燃やす時に生まれてくる熱を利用してプールの加温に使ったり、その熱で発電したりということを行っていますけども、更に佐賀市はここから出てくるCO2を資源として活用しようと考えています。」
煙突から吐き出される排ガスには約11%のCO2が含まれています。
そこで井口さん自慢のCO2貯蔵タンクにはほぼ100%のCO2が保管されています。
清掃工場の排ガスから濃度ほぼ100%のCO2の回収に成功したのです。
現在、回収出来るのは1日に約10トン、最初の一歩としてはまずまずの成果です。
ではその活用法ですが、以下のようなものがあります。
普通の水に回収したCO2を入れて、佐賀市産の炭酸水を製造するのです。
なお、このCO2は食品添加物として使用出来る基準を満たしているといいます。
さて、製鉄所や石油化学プラントで発生するガスから純度の高いCO2が生成され、世の中に出回っています。
その量は年間約100万トン、ドライアイスは固体にしたCO2です。
その用途は以下のように様々です。
・食品分野では、ビールなど炭酸飲料の発泡剤として使用
・医療現場では、腹腔鏡下手術でダメージの少ない手術を可能にするために患者の腹部を膨らませるために使用
・農業分野では、空気中のCO2濃度を高くすると作物は早く大きく育つために植物の栽培促進に使用
では、具体的に清掃工場からどのような方法でCO2を回収するのでしょうか。
清掃工場の裏手には高さおよそ40mの巨大なCCU設備があり、ここでCO2を分離・回収するのです。
ちなみに、CCUとはCO2分離回収活用システムを意味しています。
このような設備は佐賀市以外にはありません。
CO2を回収するには、まず清掃工場とつながっているパイプラインを使って、排ガスをプラントへ流していきます。
吸収塔と再生塔の2本が設備の要で最先端技術のかたまりといいます。
その原理は以下の通りです。
まず、清掃工場の排ガスを吸収塔へ送り、特別な液体を使ってCO2だけを取り出し、他の気体と分離します。
次に、その液体を再生塔に移します。
ここで熱を加えると液体からCO2が分離、これが簡単そうで難しい技術なのです。
日本で初めて、世界でも稀な清掃工場なのです。
CO2を活用することで空気中に排出するCO2を減らす、まさに逆転の発想です。
きっかけは、2005年、2007年の2回にわたる8都市の合併でした。
行政の効率化を推進するため、4つあった清掃工場を1つにまとめることになったのです。
すると反対の声が出ました。
全てのゴミを一箇所で燃やせば、これまでよりも周辺の環境が悪くなるのではないかという懸念があったのです。
そこで清掃工場のイメージアップの方法はないか、その時、佐賀市の秀島
敏行市長は閃きました。
秀島市長は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「地元(の住民)は、一極集中的にゴミの処理施設をまとめてもらっては環境的に困るというような嫌な思いをされた部分もございますので、それの見返りじゃないけども何か地域に貢献出来ること、CO2を今利用してないから農業に使えないだろうか。」
清掃工場から排出されるCO2を地域に役立てることが出来ないかと考えたのです。
そこでCO2の回収を託されたのは、当時の井口さんの上司、竹下
泰彦さんでした。
当時、部長だった竹下さんは部下の井口さんが適任だと考えました。
竹下さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「彼が朝会の時の挨拶で言ったのが「生き残れる人は強い人でも賢い人でもない。変化出来る人だ。」。」
「どんどん変化しているんだから、その変化に付いていかなくちゃいけないということを言ったもんで、この人やってくれるんじゃないかという想いがあって彼に行ってもらったということです。」
清掃工場のCO2の活用、日本には前例がありませんでした。
変化出来ることがモットーの井口さん、この時ばかりは何をどうやるのか分からず、また何から手をつければいいのか分からず、苦しみました。
しかも当初のメンバーは3人だけでした。
その一人、前田
修二さんは技術職、一般企業のエンジニアからの転職組です。
前田さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(当時は、)本当に用語集を作ってっていうところから(始めました)。」
「これはこういう意味です、みたいなのを全部作って、これ分かってないと説明出来ないんで。」
「説明してもらうのは井口さんで。」
決断する上司に理解してもらわないと自分たちの進みたい方向に進めないと井口さんは考えていたのです。
井口さんは、専門用語を誰でも理解出来る分かり易い言葉に置き換え、関係各署の了解を取り付けていきました。
そして、事業の骨子を取りまとめると、市役所の多くの部署に説明して回りました。
新たな道を見出し、見事に変化に対応したのです。
井口さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(市役所には)縦割りの部署があるわけですけども、この縦割りの部署にバイオマスという横軸を刺して連携して町づくりを進めていこうということですね。」
「そこにまず最初に気を配りました。」
「(無謀な調整ではないかという問いに対して、)そうかもしれませんが、我々はCO2を分離・回収する仕組みを勉強する必要はないわけじゃないですか。」
「そこは企業さんにお願いすればいいことであって、要するに組み立て屋なんですよね。」
「つなぎ役っていうか。」
こうしていよいよ井口さんのプランが動き出しました。
2013年から東芝、荏原環境プラント、九州電力など大手企業3社がCO2分離回収の共同研究に参加、2年間にわたった実証実験、そして2016年8月、佐賀市は日本で初めて清掃工場の排ガスからCO2を回収する設備を稼働し始めたのです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
以前、火力発電所などから排出されたCO2を回収し、地中に閉じ込めるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)技術(参照:アイデアよもやま話 No.1334 CO2を地中に閉じ込める技術CCSに注目!)についてご紹介しましたが、今回ご紹介した佐賀県で進められている取り組みは、これとは全く逆でCO2を邪魔扱いではなく積極的に有効利用するという、まさに発想の転換です。
そして、こうした発想を実現させるためにCO2を分離・回収・活用するための装置を独自に作り上げたという実行力がとても素晴らしいと思います。
以前、日本海で大量発生したエチゼンクラゲが漁業に大きな影響を与えている一方で、その対策としてエチゼンクラゲの活用事例(参照:アイデアよもやま話 No.2120 エチゼンクラゲで山の再生!)をご紹介しましたが、迷惑な人や他の生物、あるいはモノでもただ邪魔者扱いして排除するのではなく、活用法を検討することによって、邪魔者を宝の山に変えることが出来るのです。
地球温暖化対策として、私たちはCO2排出量削減のために、石油などの化石燃料から太陽光などの再生可能エネルギーへの転換、あるいはCCSによるCO2の地中への閉じ込めといった対策に目を奪われてきましたが、CO2の有効活用はCCSよりはるかに素晴らしい対策だと思います。