昨年12月8日(木)放送の「NEWS23」(TBSテレビ)、および12月9日(金)
放送のニュース(NHK総合テレビ)で夏目漱石のアンドロイドについて取り上げていたので2つの番組を通してご紹介します。
没後100年の昨年、明治の文豪、夏目漱石が現代にアンドロイドというかたちで復活しました。
まるで本物の人間のような瞬きや目の動き、時には笑みを浮かべます。
身に付けているものまで漱石の生きていた時代を徹底的に模写しました。
このアンドロイドは、かつて漱石も学んだ二松學舎大学と大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒
浩教授が共同で発表したものです。
石黒教授は、これまでにマツコ・デラックスさんなどのアンドロイドも製作したロボット工学の第一人者です。(参照:アイデアよもやま話 No.3159 世界初の人とアンドロイドによる漫才実験!)
しかし、現代にいない夏目漱石をどうやって表現したのでしょうか。
そのことについて、石黒教授は番組の中で次のようにおっしゃっています。
「一番頼りになるデスマスクが肉が削ぎ落されていてイメージが変わっているので、どのあたりに目標を持っていくのかが難しかったんじゃないかなと・・・」
漱石が亡くなった際に取られたデスマスクを3Dスキャン、肌の色はAIで再現しました。
200万枚のカラー写真と、そのカラー写真を白黒にした写真を読み込ませ、AIにどんな時に何色になるかを学習させます。
こうして、漱石の白黒写真に色を付けたのです。
しかし、難題は他にもありました。
アンドロイドが話す声です。
漱石の声を聞いた親族はいませんでした。
声を蝋に刻み込んだ「蝋管レコード」に漱石の声は残っていたものの劣化が進み、再生出来なかったのです。
そこで頼りにしたのが背格好が漱石に近い、漱石の孫にあたる大学教授、夏目
房之助さんの声を分析しました。
最も力を入れたのは、表情の追求です。
中でも笑い顔の表現は難航しました。
気難しいイメージがある漱石、実は落語や講談を愛するユーモア溢れる人物だったと伝えられていますが、笑った写真や映像は一つも残されていません。
そこで頼りにしたのが漱石を身近で見ていた弟子たちの証言をまとめた文献です。
こうして100年の時を経て夏目漱石がアンドロイドとして蘇りました。
学校法人
二松學舎の西畑 一哉常任理事は、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「私の夢は、例えば10年先、20年先に漱石の人格を持ったAIが出来て、それに「明暗」っていう小説、途中で切れていますから、あれの続編を書いてもらいたい。」
このアンドロイドには漱石の作品を朗読などが出来るプログラムが搭載されていて、まずは高校や大学などの教育現場で夏目漱石の研究に生かされることになります。
なお、外見はかなり完成度が高いように見えますが、中身は完成度を高めていく余地がまだあるといいます。
会話が出来ているように聞こえますが、まだあらかじめ録音されたものを話しているのが現状です。
ただ、応答の内容は勝手に作ったものではなくて、漱石が実際に書いたり、あるいは話したりしたことを元にもし漱石が話したならと考えて作られたものなのです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
まず、椅子に座った夏目漱石のアンドロイドを番組で見た感想です。
夏目漱石が現代に生き返ったのではないかというのがぱっと見た感じです。
一方で様々な顔の表情や手の動きにはまだ多少ぎこちなさを感じました。
しかし、こうした動きは急速な技術の進歩によってどんどん改良されていくと思われます。
さて、番組では、夏目漱石の書籍「夢十夜」を読み上げていましたが、ほとんど違和感を感じませんでした。
やはり自分で本を読んだり、声だけで本の内容を聴くよりもアンドロイド、しかも著者である夏目漱石のアンドロイドが身振り手振りで自分の目の前で読み聞かせてくれれば、臨場感もひとしおで小説の世界に入り込めると思います。
また、アンドロイドとAI(人工知能)やビッグデータ、あるいは脳科学との組み合わせにより将来的には亡き人の記憶を引き継ぎ、しかも身振り手振りや歩き方なども本人にそっくりのアンドロイドが永遠に生き続けるという可能性すら出て来ているのです。
こうした時代になれば、西畑さんのおっしゃっているように、亡くなった小説家がアンドロイドとして生前のように話したり、小説を書いたりということが当たり前になっているかもしれません。
そうなると、人の寿命の定義も曖昧になってきます。
また、小説の著作権など様々な課題が出てくると思われます。
更には、アンドロイドだけが出演するドラマや映画も登場してくるかもしれません。
現実に、主にロボットが従業員のホテル、「変なホテル」(参照:アイデアよもやま話 No.3160 世界初のロボットが働くホテル!)も既に登場しているのですから遅くとも今世紀中にはこうした夢物語が実現してもおかしくありません。