2016年05月25日
アイデアよもやま話 No.3399 ”仕事がない世界”がやってくる その1 技術革新による格差拡大!

前回、斬新なアイデアをスピーディにサービス化し、市場を席巻する“アイデアエコノミー”と呼ばれる潮流が世界規模で進展していること、そしてその影響についてお伝えしました。

そうした中、3月15日(火)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)で”仕事がない世界”の到来について取り上げていました。

そこで、3回にわたってご紹介します。

1回目は、技術革新による格差拡大についてです。

 

人間が手を加えず、3Dプリンターが作り上げる自動車、手書きの文字を代筆してくれるロボット、私たちの仕事の半分が機械に置き換わるかもしれません。

更に、人間に代わってホームページをデザインする人工知能(AI)まで登場しています。

これまで人間にしか出来ないと思われてきた仕事も機械に置き換わろうとしています。

こうした状況について、ある未来学者は、5年後、10年後には自分の仕事がなくなることは当たり前になると予測しています。

こうした将来を見据えて、欧米では働かなくても収入を保障する制度まで検討されています。

番組では、“仕事のない世界”で私たちはどう生きていくのかを考えます。

 

生活の糧を得るために働く、このことが技術の進歩によって失われることに人々は常に不安を抱いてきました。

経済学者のケインズも1930年に技術革新がもたらす失業に警鐘を鳴らしています。

ただ、ケインズは仕事がなくなることについて、ユニークな見方をしています。

100年後、人類は歴史上初めて余暇をどう楽しむか悩むようになる、と著書「孫の世代の経済的可能性」(1930年)で予測していたのです。

 

AIにビッグデータ、ITにロボットなど急速な進歩によって10年から20年後世界中で大幅に雇用が失われていくという調査結果があります。

アメリカや日本では総労働人口のほぼ半数の雇用、製造現場に従事する労働者の多い中国やタイでは7割以上の雇用が失われるといいます。

 

アメリカの労働生産性と雇用数の1947年からの推移を見ると、2000年くらいまでは共に伸びてきました。

ところが、2000年以降、技術革新がもたらしてきた大幅な生産性向上によって人々の不安とは裏腹に、労働生産性は伸び続けますが、雇用の伸びは止まります。

生産性向上が経済を成長させ、また新たな産業が生まれ、雇用を増やすというこれまでのサイクルが変わり、今後は技術革新によって雇用が大幅に減っていくと見られているのです。

 

生活をしていくために働くということを前提にしている社会はどうなっていくのか、新たな社会制度はどうあるべきなのかの議論を始めている国もあります。

今、全米各地でタクシー会社の従業員によるデモが頻発しています。

IT技術を使った新たな輸送サービスが自分たちの仕事を奪っていると抗議しているのです。

ある二人のタクシー運転手は、それぞれ番組の中で次のようにおっしゃっています。

「収入は半分近くになってしまった。」

 

「タクシー業界はめちゃくちゃになってしまった。」

 

この元凶こそアイデアよもやま話 No.3382 ウーバーによるタクシー革命!でお伝えした、アメリカのウーバー・テクノロジーズが提供している、スマホを使った新たな配車サービス、ウーバー(Uber)です。

IT技術を媒体に需要と供給を結びつけるサービスは、“オンデマンドエコノミー”(需要に応じたサービス)と呼ばれています。

料金はタクシーに比べて1割ほど安く設定されています。

サービスを運営する会社はその一部を手数料として受け取ります。

 

あるウーバーの利用客の女性は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「アプリで車をすぐに見つけられるから便利です。」

「料金も安いですしね。」

 

また、ウーバーに登録している運転手の一人は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「20分で14ドルの収入ですよ。」

 

車とスマホさえあれば始められるこの仕事ですが、保険やガソリンなどの経費は全て運転手の自己負担です。

 

サンフランシスコにある、この業界の最大手、ウーバー・テクノロジーズは創業わずか7年で企業価値は7兆円を超したと報じられています。

一方、サンフランシスコでは市内最大手のタクシー会社が破産申請する事態となりました。

運転手をはじめ事務職の職員など、およそ1200人の雇用が脅かされています。

 

急成長する“オンデマンドエコノミー”ですが、従来の企業のように安定した雇用を生み出していないという指摘もあります。

全米3都市で宅配サービスを展開する会社、Doormanで配達をするのは自家用車を持ち込む一般のドライバーです。

オフィスは一部屋のみで正社員はわずか12人、アプリのプログラマーやウェブのデザイナー、そして営業担当者だけです。

既存の業者のような車の配車係や経理、総務、そして整備などの社員はいません。

アプリを使うことで少ない要員で運営が可能となり、競争力につながっています。

DoormanのCEO、サンダー・アデルさんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「重視しているのは、使いやすいソフトを作り、効率的なシステムを築き上げること。」

「爆発的な成長のカギはそこにあります。」

 

“オンデマンドエコノミー”で収入を得たことのある人は、全米で4500万人といい、その半数以上が18歳から34歳の若者といいます。

2年前に失業し、正社員の仕事を探している34歳の女性、イブ・ペーナさんは時給16ドルの買い物代行サービスが生活の支えです。

仕事は数時間しか見つからない日も少なくありません。

 

こうした“オンデマンドエコノミー”の仕事も近い将来、AIを使った自動運転などの新たなテクノロジーで置き換えられると専門家は予測しています。

シンギュラリティ大学のポール・サフォー教授は、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「5年、10年後には自分の仕事がなくなることが当たり前になります。」

「爆発的な変化が続いていくでしょう。」

「今起きている革命の前では、企業のトップでさえ無関係ではいられないのです。」

 

企業は合理的な判断でコストを削減し、効率性をどんどん高めて利益を得るということをこれまでやってきましたが、これまでは生産性と同時に雇用の数も同じように上がってきました。

ところが、2000年あたりから様子が変わって来て、今後は雇用が大幅に減るのではないかと懸念されているのです。

こうした状況について、番組ゲストの千葉大学法政経学部教授の広井 良典さんは次のようにおっしゃっています。

「これまでは生産性が上がると確かに人手が少なくて済むようになるわけですから、その限りでは人手は余るわけですけども、その分新たな需要が発生して、そちらにまた労働力が移って全体として経済成長も並行して進んでいくある種の好循環があったわけですね。」

「ところが、今はこれだけモノが増える時代になって、人々の需要と言いますか消費もほとんど飽和してきているので、そういう中で生産性だけが上がっていくとその分人手が少なくていいということで労働力が余る、失業が生じる、加えてインターネットとかAIの技術が進んだことでそういう状況が非常に顕在化している、そういう時代状況だと思います。」

「(一方で、アメリカでは全く違うオンデマンドエコノミーが生まれていて、新たに起業した会社が急成長しているが、雇用の受け皿としては十分に吸収出来ないということになるのかという問いに対して、)確かにオンデマンドエコノミーは新しい可能性もあると思いますので、光と影といいますか、両面考えていく必要があると思いますけど、やはりそれほど新たな雇用を生み出すわけではない、むしろ生産性が上がって人手がいらなくなる部分の方が大きかったり、それから新たに生まれる雇用といってもかなり不安定であったり、いろんな保障という面でもかなり問題が大きいと思います。」

「(そうなっていくと一部の人が成功して高額の所得を得るということになるのかという問いに対して、)そうですね、結局生産性が上がって少ない労働力で生産が出来ると、少ない労働力に富が集中して多くの人が失業して、そこで結果として格差が広がっていくという状況がかなり進みつつあるというふうに言えると思います。」

「(ニーズのある仕事はどちらかというと低賃金の仕事が多くなる傾向なのかという問いに対して、)まさにそういう状況で、生産性の上昇が必ずしも全体の豊かさにつながらなくて、かえって格差とか低賃金を増やしている状況が今出て来ていると思います。」

 

プロジェクト管理と日常生活 No.437 『人類が直面しつつある究極のリスク』でもお伝えしましたが、今や技術革新が多くの人たちを豊かにするどころか、一部の人たちに仕事と富が集中し、その他の多くの人たちは雇用機会を奪われるという悲惨な状況を迎えつつあるのです。

一方で、冒頭でご紹介したように、経済学者のケインズは1930年に100年後の人類は歴史上初めて余暇をどう楽しむか悩むようになると予測されています。

1930年から100年後といえば、2030年で今から14年後です。

 

確かにこれまでは技術革新と共に既存の産業界の中での新規需要、あるいは新規産業の誕生により新たな雇用が創出され、より豊かな暮らしが実現されてきました。

しかし、明らかに状況はこれまでと変化しているのです。

ロボットやAIという今進みつつある技術革新があらゆる肉体労働、および頭脳労働の分野にわたって人に取って代わろうとしているのです。

どんなに技術革新が進んでも、あるいは新規産業が誕生してもこれまでのようには人の雇用の入り込む隙がほとんどなくなってしまうのです。

ですから、こうした状況に陥らなくするためには、今から14年後に実現するかどうかは別として、人類が余暇をどう楽しむか悩むようになる時代を迎えられるようにするためには人類共通の課題の解決が求められるのです。

その課題とは、これまでの資本主義から脱却した新たな経済の仕組みの構築です。


 
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