2024年04月13日
プロジェクト管理と日常生活 No.865 『異常気象による経済損失リスクと対応策』
昨年11月10日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で異常気象による経済損失について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

今年の世界のワインの生産量は、過去60年で最低の水準に落ち込む見通しです。
原因とされているのが異常気象です。
経済損失は今後5年間で745兆円にも上るとの試算もあるのです。(こちらを参照)
リスクが高まる中で、国際社会は今、どう対策を取るべきなのでしょうか。

東京・港区にあるワインバー、ノムノ。
世界中から取り寄せた100種類のワインを飲み比べ出来ます。
時間無制限で3900円。
3月に3300円から600円の値上げをしました。
その理由について、青木利樹店長は次のようにおっしゃっています。
「全体的に(ワインの価格が)上がってはいるんですけど、特にブルゴーニュ産ワインとかは1割〜2割くらい上がってきてる。」

理由の一つは円安。
コルクや瓶などの価格が上がり、輸送コストが上昇しました。
それに追い打ちをかけるのがワインの生産量の低下だといいます。
青木店長は次のようにおっしゃっています。
「収穫量が減ってしまうと、出せる本数も減るので、必然的にワインの価格は上がるっていうふうにはなるんですけど、異常気象があった年の数年後だとか、早いと1年後とかなんですけど、多少影響が出てくるという印象は持っています。」

今月7日、国際ブドウ・ワイン機構は、今年の世界のワイン生産量が過去60年で最低になるとの見通しを発表しました。
このところ、生産量は下がる傾向にありましたが、今年は1961年以来の低水準となる予想。
イタリアやスペインなど、主要生産国は異常気象に見舞われたことが原因だといいます。
ワインの需要自体も減少していて、価格に大きな影響はないとの見方もありますが、ワインバーとしては穏やかではありません。
青木店長は次のようにおっしゃっています。
「値段を上げた時にお客様に来ていただけるかというところは、不安がないわけではないんですけど、それに対して努力をするということしか今はないかな。」

異常気象で今後5年間の経済損失は約745兆円に上るとの試算も。(イギリス ロイズ・オブ・ロンドン)

世界的な調査会社、ユーラシア・グループでエネルギー・環境問題のリスク分析を手掛けるラード・アルカディリさんは次のようにおっしゃっています。
「気候変動を和らげるために出来ることはほとんどない。」
「気候変動は「誰の責任か」を巡り、国際社会を二分している。」
「先進国とグルーバルサウス(新興国)を分断し、解決策が共有出来なくなっている。」

新興国にも気候変動対策の強化を求めたい先進国と、先進国に大幅な排出削減や資金の支援を求める新興国との対立が近年深まっているのです。
そうした中、今月30日から12月12日まで気候変動対策を話し合う国際会議、COP28が開幕します。
アルカディリさんは次のようにおっしゃっています。
「(COP28の大きな焦点について、)各国が自国の利益に基づいて交渉に臨むCOPの枠組みでは世界的な解決策を見い出すことは非常に困難だ。」
「(パリ協定の)「2050年までに温室効果ガス実質ゼロ」といった目標の達成は悲観している。」

国際的な合意が難しい中、“脱炭素”に向けた産業の育成が急務だと指摘します。
「EVだけでなく、他の産業にも広げることが必要だ。」
「全ての産業が政府からの「投資」へのシグナルを待っている。」
「企業は保守的でリスクを回避しようとするからだ。」
「政府が育てていくことが重要だ。」
「(日本独自に出来ることについて、)日本は長年にわたる技術革新がある。」
「速やかで安価に導入出来る対策が気候変動問題では重要になっている。」
「ビジネスチャンスともなり得るだろう。」

ワインの不作の話もありましたが、日本でも猛暑でお米が不作になるなど、異変が続いています。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞論説主幹の原田亮介さんは次のようにおっしゃっています。
「一等米の比率59%、過去最低だったんですね。」
「暑さや雨が降らなかったため、新潟では60ポイントも低下して13.5%まで下がった。」
「味は悪くないんですけどね。」
「温暖化で生産適地が北上して、北海道でお米が沢山採れて美味しくなったという声にも頷づけますけどね。」
「(ただ、早く手を打たなければいけなせんが、異常気象が頻発してくると、世界経済には今後どんな影響が出そうかという問いに対して、)国際通貨基金、IMFの分析ペーパーがこちらにあるような分析をしているんです。」
「干ばつや洪水などの異常気象がもたらす災害による経済的な影響が、温暖化ガスの抑制の度合いでどう変わるかっていう分析なんですね。」
「国際社会は2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを目指していますよね。」
「仮に排出ゼロが25年遅れの75年になると、異常気象による年間のGDPの押し下げ幅は日本で2%になる。」
「そうすると日本の成長は実質マイナスになっちゃいますね。」
「(更に遅れるというシナリオがBですが、2050年まで温室効果ガスが今のまま変わらないで、更に削減が遅れるという場合、)世界の影響はもっと大きくなりますね。」
「特にEUなどへの成長の押し下げの影響は大きいわけです。」
「今年、起きたワインの生産の不振はその前触れかもしれませんよね。」

今月末にドバイで開かれるCOP28の会議は注目なんですけども、誰がコストを負うのかが焦点となります。

以上、番組の内容をご紹介してきました。

(異常気象による経済損失リスク)
・今月7日、国際ブドウ・ワイン機構は、今年の世界のワイン生産量が過去60年で最低になるとの見通しを発表した
-このところ、生産量は下がる傾向にあったが、今年は1961年以来の低水準となる予想である
-イタリアやスペインなど、主要生産国は異常気象に見舞われたことが原因だという
・日本でも猛暑でお米が不作になるなど、異変が続いている
・世界で生じる経済損失は今後5年間で745兆円にも上るとの試算もある
・IMFの分析ペーパーの分析によると、異常気象がもたらす災害による経済的な影響は温暖化ガスの抑制の度合いにかなり左右される

(リスク対応策を巡る障害)
・先進国と新興国を分断し、解決策が共有出来なくなっている
 -新興国にも気候変動対策の強化を求めたい先進国と、先進国に大幅な排出削減や資金の支援を求める新興国との対立が近年深まっている
・そうした中、今月30日から12月12日まで気候変動対策を話し合う国際会議、COP28が開幕するが、各国が自国の利益に基づいて交渉に臨むCOPの枠組みでは世界的な解決策を見い出すことは非常に困難である

(リスク対応策)
・国際的な合意が難しい中、“脱炭素”に向けた産業の育成が急務である
-EVだけでなく、他の産業にも広げることが必要である
-企業は保守的でリスクを回避しようとするので、政府が育てていくことが重要である
-日本は長年にわたる技術革新があるので、速やかで安価に導入出来る対策が重要になっているが、ビジネスチャンスともなり得る

なお、COP28での主な成果は以下の通りです。(こちらを参照)
・2022年のCOP27で設立が決定していた気候変動の悪影響による損失と損害(ロス・アンド・ダメージ)に対応するための基金について、会期初日に運用開始の合意が発表された。
・パリ協定で定めた各目標に対する進捗状況について、5年ごとに包括的な評価を行う「グローバル・ストックテイク(GST)」の第1回が実施され、決定文書でパリ協定の目標達成に向けた新たな目標や、脱炭素貢献技術に関する取り組みの推進が呼びかけられた。
・2050年までに温室効果ガス(GHG)排出を実質ゼロにするネットゼロ目標に向け、締約国に「化石燃料からの移行を進め、今後10年間で行動を加速させる」ことを定めた。
・COP26から議論の争点になっていた「化石燃料の段階的廃止」を盛り込むには至らなかったが、COPの最終合意で「化石燃料からの移行」が呼びかけられたのは今回が初めてのこととなった。

さて、世界で生じる経済損失異常気象による経済損失は今後5年間で745兆円にも上るとの試算をベースに考えると、今後5年間の1年当たりの平均的な経済損失はざっと150兆円になります。
なお、日本の国家予算(2023年度)は過去最大の114兆3812億円です。
ですから、今後も年とともに世界で生じる異常気象による経済損失が増えることを予測すると、5年後には日本の国家予算の1.5倍ほどになると見込まれます。
しかも、世界各国の対応次第で、世界で生じる異常気象は想定外で増えていき、それに伴い経済損失も更に増えていくと見込まれます。
ですから、各国の国家予算に占める異常気象対策費も増えていくと見込まれます。
一方で、途上国においては、一般的に“脱炭素”対策に向けて、経済的にも技術的にも十分に賄えない状況です。
そうした中、アイデアよもやま話 No.5866 アジアの“脱炭素”でカギを握る日本企業!?でお伝えした、日本が主導している、東南アジアの9ヵ国とオーストラリアで作る“脱炭素”を進める枠組み「AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体 こちらを参照)」による取り組み、およびその成果の世界展開は“脱炭素”対策としてのみならず、関係国、および日本の経済においても有効です。
ですので、こうした取り組みへのより多くの企業の参入が求められるのです。

いずれにしても、世界的な“脱炭素”対応策として重要なポイントは、国策も大事ですが、それ以上に、対策に取り組む企業による、安価で効果的、どこでも設置出来て、かつ安全な発電装置の開発です。
なぜならば、何事においても“安くていいもの”は世界的に引き合いが多く、普及していくからです。

 
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