2024年03月02日
プロジェクト管理と日常生活 No.858 『社会課題をビジネスで解決する取り組み』
昨年11月3日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でビジネスによる社会課題の解決について取り上げていたのでご紹介します。 
なお、日付は全て番組放送時のものです。

社会課題の解決に特化した投資ファンド、株式会社TalikiのCEO、中村多伽さん(28歳)は次のようにおっしゃっています。
「(社会課題の解決を目的として事業を立ち上げる若い世代は沢山いるが、その背景について、)もともと彼らが生きている間に社会課題が喫緊のものになっているので、そういう意味で自分たちが生きている間に被害を被らずに解決したいという想いだったりとか、そういう文脈での教育が多かったりというのもありますし、一方で、物質的な豊かさを享受してきた上の世代と比べて、物質的な豊かさで幸せに人ってなれないんじゃないか。」
「もっと精神的な豊かさをみんなで追及した方がいいんじゃないかっていう流れもあって、ビジネスで儲かることだけじゃなくて、社会に良いこともしようというのがこういう動きとして出来ているのかなと思います。」
「(Z世代を含めて若い世代の今の特徴なのではという指摘に対して、)そうですね。」

中村さんの会社の出資した企業の商品がスタジオにあります。
りんごの搾りかすを原料にした合成レザーのバッグです。
そして、イヤリングですが、色とりどりの素材として海洋プラスチックごみが使われています。
中村さんは次のようにおっしゃっています。
「まだまだやっぱり社会にいいからとか、環境にいいからというだけでモノを買う人って少なくて、勿論かわいくないといけないし、美味しくないと、コスパ(コストパフォーマンス)がよくないといけないとかがあるので、そういう事業開発だったり商品開発も含めてサポートしていくのが我々ですね。」

「(中村さんがこの社会課題に特化したファンドを立ち上げたのはなぜなのかですが、大学時代(の2014年)にカンボジアで学校を建設するプロジェクトに係わってらっしゃったということで、これがきっかけの1つだったということですが、気づきは何だったのかについて、)社会課題解決って一言で言っても、1つの手段で全てが解決出来ることって無くて、例えば学校を建てて、学校から遠くて通えなくなかった子が通えるようになるけど、親の収入を手伝わなきゃいけないとか、先生の質が低くて授業に行けないとか、学校を建てるだけじゃ解決出来ない課題もすごく沢山あると。」
「で、一方で私自身も、この学校を建てるために日本で利益を出して、その利益を寄付して学校建設に充てるってことをやっていたので、中々活動が継続が難しいっていうのがあって、そういう構造的な大きな課題解決を経済的にも持続するかたちでやるのをどうするかっていうのをすごく考えたっていうのがあります。」
「(持続するためにはビジネスとして構造から変えていくことが大事、そういう気付きだったのかという問いに対して、)そうですね。」

中村さんはそうしたビジネスに取り組むZ世代の起業家の育成も進めているということです。
10月7日、社会課題の解決を目指すスタートアップ企業が集まる会場(京都リサーチパーク)で注目されたのは大学生や現役の教師など、若手起業家12人による新事業のプレゼンです。
中村さんの会社が中心に行った起業家の育成プログラム、参加者は3か月間、自ら事業のアイデアを専門家の指導を受けながら磨くことが出来ます。
研修費用は無料です。
この日、最終のプレゼンに臨みました。
ガン患者や家族をサポートするアプリの開発を目指している久保とくみさん。
実は2年前、血液のガンにかかった時の自らの経験がきっかけだったといいます。
ガン患者が気軽にアプリで相談出来るようにすることで不安の解消につなげたいと訴えました。
中村さんを含む4人が審査。
その反応ですが、審査員で社会変革推進財団の工藤七子常務理事はこのアプリについて次のようにコメントしています。
「今、どちらかというと、ユーザーさんが使えるアプリというところだと思う。」
「例えば医療者の方やケアにあたる方、本当はすごく患者さんのことを思ってらっしゃると思うんですけど、システムがそうなっていないところはあると思うので、・・・」

久保さんの事業プランについて、患者さんだけでなく、医療従事者からも積極的にアクセス出来るようにすれば、事業化の可能性が広がるとのアドバイスが。
中村さんはどう感じたのでしょうか。
「こういう社会課題の解決って、課題の当事者の方がお金を払える状態にない。」
「例えば難病で闘病中であったりとか、貧乏家庭だったりとか。」
「だからこそ社会課題として残ってるってパターンが多いので、おカネを払う人って別に見つけなきゃいけないってのが結構ビジネスの型としてあるんですね。」
「で、そうなった時に今、工藤さんが触れていただいていたような、医療従事者に広げるだったりとか、あとは保険会社のニーズとか、そういうある種、ガン患者が助かることによって自分らの利益になるようなところを見つけて、かつ例えばガン患者さんとか、ご家族の方々がそこに集中するようになると、プラットフォームとしての価値が出て、どんどん、より、いろんな情報を生むようなプラットフォームになっていくので、複数の巻き込みがあるといいねっていうのは私も同様に感じたところです。」
「(こういった意見を様々な人からいただいて、事業としてこれからどんどん成立していくかもしれないという指摘に対して、)そうです。」

中村さんの会社が育成した起業家の中には、順調に事業を拡大している事例もあります。
ヴィーガン食(添付参照)を扱う企業、ブイクックも育成プログラムを受けて成長しています。
もともと、ヴィーガン料理のレシピ投稿サイトで企業からの広告やコラボ収入を想定していましたが、注目度が低く、収益にはつながりませんでした。
しかし、中村さんたちの育成プログタムを受けて、レシピ本「世界一簡単なヴィーガンレシピ 100」を出版したところ、1万部のヒットとなり、大きな売り上げにつながったということです。
中村さんは次のようにおっしゃっています。
「(こうして見てみますと、お金をもらうターゲットを企業ではなくて、消費者に代えるということでうまくいった、こういう事例もあるという指摘に対して、)そうですね。」
「(そして、talikiではこうした育成事業を無料でやっているということなんですが、これは起業家にとってありがたいことだと思うんですけど、なぜ無料で出来るのかという問いに対して、)そもそも起業家がお金がないっていうのが前提あるんですけど、社会課題はまだまだ沢山あって、プレーヤーをかなり増やさなきゃいけないというのが大前提にあります。」
「で、逆にプレーヤーを増やすことで、例えば起業家が増えることで地元の金融機関は本来だったら無くなっていく会社の方が多い中で新しい事業が増えて、自分たちの発展にもつながるだったりとか、あとは行政としても例えば税収が増えるとか、その地域のイノベーションが増えるとかっていうのでメリットを感じるので、そういう方々が我々に委託して下さって彼らからお金をいただいて起業家に提供するっていうことをやっています。」
「(プレーヤーを増やすことが大事ということですけども、今後の中村さんの目標はあるのかという問いに対して、)投資額もプレーヤー数も圧倒的に増やさなきゃいけないっていうのは前提ありつつ、こうしてご紹介いただいたような起業家の子たちを見て、自分にもこういうことが出来るんだとか、社会課題、一人で、孤独で苦しまなくてもいいんだって思うような方々のベンチマークになれて、直接じゃなくても影響を及ぼして日本全体で社会課題解決の波みたいのを作れたらいいなと思っています。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

番組を通して、株式会社Talikiによる社会課題の解決に特化した投資ファンドの取り組みについて以下にまとめてみました。

(社会課題の解決を目的として事業を立ち上げる若い世代の増加の背景)
・彼らが生きている間に社会課題が喫緊のものになっている
・自分たちが生きている間に被害を被らずに解決したいという想いや教育が多い
・一方で、物質的な豊かさを享受してきた上の世代と比べて、物質的な豊かさで幸せに人ってなれない
・もっと精神的な豊かさをみんなで追及した方がいいと流れもあって、ビジネスで儲かることだけでなく、社会に良いこともしようというのがこういう動きとして出来ている

(Talikiが出資した企業の開発した商品の事例)
・りんごの搾りかすを原料にした合成レザーのバッグやイヤリング
 -色とりどりの素材として海洋プラスチックごみが使われている
・まだまだ社会や環境にいいからというだけでモノを買う人って少なく、コストパフォーマンスのいい事業開発や商品開発も含めてサポートしていくのTalikiの役割である

(TalikiのCEO、中村さんが社会課題に特化したファンドを立ち上げた理由)
・大学時代にカンボジアで学校を建設するプロジェクトに係わったが、その時に社会課題の解決は1つの手段で全てが解決出来るわけではないことに気付いた
・一方で自分自身も、学校を建てるために日本で利益を出して、その利益を寄付して学校建設に充てるってことをやっており、中々活動を続けるのが難しかった
・そういう構造的な大きな課題解決をいかに経済的にも持続するかたちに変えていくことが大事かに気付いた

(社会課題の解決ビジネスに取り組むZ世代の起業家の育成)
・Talikiは社会課題の解決ビジネスに取り組むZ世代の起業家の育成も進めている
 -Talikiが中心に行う起業家の育成プログラム、参加者は3か月間、自ら事業のアイデアを専門家の指導を受けながら磨くことが出来る
 -研修費用は無料である

(Talikiが育成した起業家の中で順調に事業を拡大している事例)
・ヴィーガン食を扱うブイクックでは、もともと、ヴィーガン料理のレシピ投稿サイトで企業からの広告やコラボ収入を想定していたが、注目度が低く、収益にはつながらなかった
・しかし、Talikiの育成プログタムを受けて、レシピ本「世界一簡単なヴィーガンレシピ 100」を出版したところ、1万部のヒットとなり、大きな売り上げにつながった

(Taliki自体の事業を継続させるポイント)
・Talikiはこうした育成事業を無料で行っている
・その理由は以下の通りである
 -起業家にはお金がない
 -社会課題はまだまだ沢山ある
 -従ってプレーヤーをかなり増やすことが必要である
 -一方で、プレーヤーを増やすことで、起業家が増えることで地元の金融機関や行政、あるいは、その地域のイノベーションの増加にとってメリットがある
 -従って、そういうメリットがある方々がTalikiに委託してくれて、彼らから得たお金で起業家に提供することが出来る

(Talikiの今後の目標)
・投資額もプレーヤー数も圧倒的に増やすこと
・Talikiが育成した起業家の成長を見て、自分も社会課題に取り組むことが出来るんだとか、一人で、孤独で苦しまなくてもいいんだって思うような方々のベンチマークになれて、影響を及ぼして日本全体で社会課題解決の波を作ること

なお、アメリカの若い世代も社会課題の解決に関心を持つ人の割合が増えているといいます。
どちらも前の世代に比べて物質的な豊かさの中で育っており、従って精神的な豊かさに関心を持つ人が増えていることから、社会課題をビジネスで解決したいという若者が増えている状況は理解出来ます。
しかし、実際に経験のない若い世代がビジネスとして社会課題の解決に取り組もうとした場合、いろいろな問題に阻まれることが多いです。
そうした中、Talikiの提供する無料のサービスはとても有意義で、金銭的にも有難いです。
そういう意味で、今後とも社会課題の解決に取り組もうとする若者が増えると見込まれる中、Talikiが今後の目標として掲げる、“投資額もプレーヤー数も圧倒的に増やすこと”はとても理に適っています。

さて、Talikiが社会課題の解決に向けたビジネスを進める際に、その活動資金を“払えるところから得る”という基本方針はとても合理的な考え方です。
ビジネスが上手くいくケースのキーポイントは、具体的に“誰からどのくらいの売上げが得られるか”をより正確に予測することが出来ていることです。
このポイントを外すと、どんなビジネスは持続可能ではなくなります。

ここで思い起こされるのは、自己が生存する上で、プラスに働くかマイナスに働くかで、その(プラスの要素―マイナスの要素)の結果が出来るだけ大きいと期待出来る方を選んで行動するという大原則です。(参照:No.5826 ちょっと一休み その917 『人を動かす根源について!』
人も企業も国家も、全て、この大原則に基づいて行動しているのです。
Talikiも企業として、サービスを提供するうえで、サービスから誰がメリットを受けるか、あるいは誰からの売上げが期待出来るかといった分析からビジネスモデルを構築しているのです。
そして、そのビジネスモデルが現実的であることから、継続出来ているのです。

なお、あらゆる社会課題をビジネスで解決する取り組みが拡大していくことにより、国家財政の負担が減り、その分、“あるべき国のかたち”を目指して資金を投入することが可能になるのです。

ということで、一口に課題と言っても、プロジェクトに限らず、個人や企業、国家といったそれぞれのレベルで常に存在しています。
そして、今回ご紹介した社会課題の解決に向けた取り組みは、社会課題をビジネスという切り口から解決しようという取り組みで国家レベルの視点からも、いろいろな面で大いにやりがいのあるビジネスだと思います。


添付)

ヴィーガン食とは?
ChatGPT
ヴィーガン食は、動物由来のすべての食材を避け、動物製品や動物による実験、動物の利用を含まない食事スタイルです。ヴィーガニズムは単なる食事だけでなく、ライフスタイルや倫理観にも影響を与えることがあります。
主な特徴として以下の点が挙げられます:
1.動物製品の除外: ヴィーガン食は肉だけでなく、乳製品、卵、蜂蜜、魚介類、ジェルニン、コラーゲンなど、あらゆる動物由来の食品や成分を避けます。
2.植物性食品の強調: 主に果物、野菜、穀物、豆腐、大豆製品、ナッツ、種子、穀類などの植物由来の食品が中心となります。
3.健康の促進: ヴィーガン食は、植物性の食品を中心に摂ることによって、心血管疾患、糖尿病、高血圧などの疾患のリスクを減少させるとされています。
4.環境への影響: ヴィーガニズムは、畜産業が環境に与える影響を軽減する意図もあります。畜産業は温室効果ガスの排出、土地利用、水資源の使用などに大きな影響を与えているとされています。

ヴィーガニズムは、動物愛護や環境保護、健康意識からの動機づけがあります。ただし、適切な栄養を摂るためには計画的な食事が必要であり、ビタミンB12や鉄分、カルシウムなどの栄養素を注意深く補給することが求められます。

 
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