2023年09月11日
アイデアよもやま話 No.5683 偽画像でマーケットが動揺!
5月23日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で偽画像によるマーケットの動揺について取り上げていたのでご紹介します。 

アメリアの国防総省、ペンタゴンの付近で爆発があったという偽の情報が広まり、金融市場が一時混乱する事態になりました。
「速報 ペンタゴン近くで爆発」、立ち上る黒煙、大規模な爆発があったかのように見えますが、実はこの画像(こちらを参照)、AI、人工知能が作り出した偽の画像と見られているのです。
アメリカのメディアなどによりますと、5月22日午前10時過ぎ、ツイッター(現在は「X」に変更)などで拡散しました。
これを受け、ニューヨーク株式市場では取引開始直後、前日と比べて上昇していたダウ平均株価は、画像がSNSで拡散すると、一時80ドルほど下落、円相場もリスク回避の動きから円が買われ、1ドル138円台半ばから一時138円台前半まで円高ドル安が進みました。
こうした中、地元消防局は「国防総省やその近くで爆発や事件は起きていない」と“爆発”を否定する声明を出し、マーケットは落ち着きを取り戻しました。

ではなぜ偽の情報でマーケットはここまで動揺したのでしょうか。
松井証券のシニアマーケットアナリスト、窪田朋一郎さんは次のようにおっしゃっています。
「ニュースのヘッドライン(見出し)で取引するような、いろいろなアルゴリズムもありますね。」
「こういった情報ソフトなどを機械的に埋め込んで取引に生かすような投資家もいらっしゃいますので、そういった方々の売りが発生したと。」

アルゴリズムを使った取引とは、マーケットの状況やSNS上の特定の単語に反応し、コンピューターが自動的に高速取引をすること。
このアルゴリズム取引を使う投資家が増えていることもあって、偽の情報でマーケットが変動し易くなっていると指摘します。
「今、AIの動画も含めて非常に偽情報というか、フェイクニュースが作り易い状況になっていますので、こういったものが多くなると、相場の変な変動要因が増えてしまう。」

AIでリアルな画像が作れる中、偽の情報をどう見極めれはいいのでしょうか。
SNSに投稿された画像や映像の分析を手掛けるJX通信社(東京・千代田区)で対策を聞きました。
こちらは昨年、静岡県で大雨被害が発生した際に拡散されたAIによる偽の画像です。
米重克洋社長は次のようにおっしゃっています。
「水面、ここは非常にまっすぐな、真っ平な波になっているんですけど、ここはものすごく波が立ってしまっていると。」
「隣り合っている場所なのにおかしいです。」
「これらの木も通常の木のサイズよりも実際の家や建物と比べるとかなり不自然に大きいということです。」

画像の不自然な点を専用のシステムや人の目を使って偽の画像を検出しているといいます。
では、今回の画像についてですが、米重社長は次のようにおっしゃっています。
「これは非常にリアルで精巧な生成画像だと思います。」
「例えば、奥に写っている建物ですとかが先ほどお話しした水害のデマ画像と違って、かなりまっすぐにちゃんとなっていたりして、特に構造的におかしくは“ぱっと見”見えない。」

人の目で見て偽の画像だと判断するのは難しいといいます。
「自然な写真や映像を作り出す技術は日に日に発達をしています。」
「それを作る側と検知して対策をする側のイタチごっこになると。」

情報を受け取る側が取れる対策はあるのでしょうか。
米重社長は、複数のルートで情報を確認する必要性を指摘、事故や災害の場合、同じような投稿が他に見当たらない場合などは偽の情報の疑いもあるといいます。
またツイッター(現在は「X」に変更)など、SNSの運営企業や行政も対応が必要だといいます。
「画像生成AIを使って、誰でもリアルなデマを作り出せる時代になっていますという前提に立って、そういった(偽の)情報が発信された時に速やかに打ち消すとか、あるいはそれらの情報をいち早く見抜いて消費者に注意喚起をしていく。」

こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「仮に今回みたいに偽情報を相場を発信するとすれば、これは相場操縦の罪にあたるだろうと思うんですよね。」
「いずれにしても特定のキーワードに反応し易いアルゴリズム取引が非常に膨らんでいますから、こういった情報にマーケットが反応し易くなっているのは確かです。」
「(アルゴリズム取引は日本にとっても他人事ではないという指摘に対して、)はい。」
「例えば、今日(5月23日)の午後なんですけども、日経株価が急反落したんですよね。」
「それのきっかけになったニュースが、経済産業省が半導体の輸出規制を強化するというニュースが流れたんですですね。」
「これは本物のニュースなんですね。」
「ところがですね、3月31日の段階でこの措置を発表して、一般に広く意見を求めるという措置を取ってるわけですよね。」
「今日の場合は、このところのアメリカと中国の半導体を巡る鞘当てが非常に激化してますから、そういったようなものも反応し易い材料だったと思うんですけども、いずれにしてもアルゴリズム取引の行方は目を離せないと言っていいと思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

なお、5月23日(火)放送の「ニュース7」(NHK総合テレビ)でも同様の内容について取り上げていたのでその一部をご紹介します。

アメリアの国防総省、ペンタゴンの付近で爆発があったという偽の画像は世界の金融ニュースなどを発信するアメリカのメディアを装ったアカウントからも投稿されたため、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は一時100ドル以上下落する事態になりました。
更にインドの主要テレビ局の1つ、リパブリックTVがロシアの国営テレビ、RTのツイートを引用するかたちで偽の画像を放送、“爆発が起きたようだ”と速報で伝え、専門家への電話インタビューとともに約10分間にわたって伝えました。
リパブリックTVは、この1時間あまり後に“引用元のRTが投稿を削除した”などと投稿し、速報を取り消したことを明らかにしました。

画像生成AIを使ったと見られる偽画像、悪質な利用に対する懸念が広がりそうです。

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

今や、フェイクニュースや偽の画像といった偽の情報はSNSなどを通して、あっという間に世界中に拡散してしまいます。
そして、偽の画像や動画は生成AIといったような技術の進化とともにどんどん本物と見分けがつきにくい状況になりつつあります。
その結果、マーケットはこうした偽の情報に振り回されることになってしまいます。
更に、アルゴリズム取引を使う投資家の増加によりマーケットの変動幅は大きくなっていきます。
ですから、今後ともマーケットに影響を与えるようなフェイクニュースや偽の画像がなくなることはありません。
その裏で、こうした情報操作を裏で行う投資家たちは大金を得るのです。

そこで必要になってくるのがフェイクニュースや偽の画像など、偽の情報をいかに識別するかです。
番組では以下の対応策を挙げています。
(個人としての対応)
・複数のルートで情報を確認する
 -事故や災害の場合、同じような投稿が他に見当たらない場合などは偽の情報の疑いもある

(SNSの運営企業の対応)
・偽の情報が発信された時に速やかに打ち消すとか、それらの情報をいち早く見抜いて消費者に注意喚起をする
・メディアを装ったアカウントからの投稿を即座に識別し、拡散しないように処置する

(行政の対応)
・相場に影響を及ぼす偽情報の発信者に対して相場操縦の厳罰に処す

なお、人海戦術による偽情報の識別には限度があります。
そこで、参考になるのはNFTという、デジタルデータの所有者を明確にする技術です。(参照:アイデアよもやま話 No.5048 “デジタルの価値”を生む新技術「NFT」!
この技術を応用して、ニュースや画像、あるいは動画などの発信源を特定出来るようにして、それをこれらの情報が表示される際に従来のコピーライトのようなマークで本物かどうかを識別出来るようになれば、参照する人たちは本物かどうかを見分けることが出来るので偽情報による混乱を最小限に食い止めることが出来るようになると期待出来ます。

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています