前回、日本国内における宇宙通信の開発状況についてお伝えしました。（参照：アイデアよもやま話 No.5506 宇宙通信で変わる暮らし！）
そうした中、１月１８日（水）付けネット記事（こちらを参照）で中国が独自開発した衛星測位システム「北斗」について取り上げていたのでその一部をご紹介します。
・米国のGPSに対抗し、中国が開発した独自の衛星測位システム「北斗」（中国名：Beidou、英語名：Compass）。近年、その発展が著しく、軍事的側面だけでなく経済に与えるインパクトも大きくなっている。
・すでに、北斗関連の市場規模は9兆円を超えており、中国で出荷されるスマートフォンの94.5％が北斗の測位に対応し、iPhoneも対応している。
・北斗の特徴は、中国およびその周辺地域で高い精度が出る構成になっていることだ。
・2021年6月、中国独自の衛星測位システム「北斗」（中国名：Beidou、英語名：Compass）の55基目となる衛星が軌道投入に成功し、北斗3号（第3世代）が全世界での測位サービスの提供を始めた。
・現時点で世界にある全地球衛星系の測位システムは、北斗のほかに、GPS（米国）、GLONASS（ロシア）、Galileo（EU）の4つ（注1）。その中で北斗は、MEO（Medium Earth Orbit：中高度軌道）だけでなく、IGSO（Inclined Geosynchronous Orbit：傾斜対地同期軌道）、GEO（Geostationary Orbit：静止軌道）の3つの軌道を組み合わせているのが特徴だ。
・一般的なMEOは地球全体をカバーするため、どこからでも常に複数の衛星が見える必要がある衛星測位システムに向いている。一方、IGSOは特定の地域の上空で8の字を描くような軌道になるため、精度を上げたい地域の上空軌道に投入する。日本の「みちびき」もこのIGSOを利用して、日本でのGPSの精度を上げている。GEOは地上から見て、常に同じ位置に見える静止軌道であり、定点として衛星測位信号の補正をするのに役立つ。
・北斗はこの3つの軌道を組み合わせることで、全世界に提供する精度はGPSやGLONASSとほぼ同じレベルだが、中国国内には非常に高い精度の測位サービスを提供している。
・中国国務院（政府）が公開した「新時代の中国北斗」によると、測位誤差30センチメートル、垂直誤差60センチメートルまで精度を上げることが可能だとされている。民間では、通信業界が約4000基、電力業界が約2000基の基準局を設置している。基準局の位置は精密に測定済みであり、北斗からの信号を受信し、大気かく乱などの誤差を測定し、周辺のスマートフォンなどの受信デバイスに誤差情報を伝えることで、より精密な測位を可能にしている。
・さらに特徴的なのが、14機のIGSO衛星、3機のGEO衛星により、情報の送受信が可能になっていることだ。中国国内では最大560ビット（漢字40文字。テキスト、画像、音声も可能）の衛星経由のメッセージがスマートフォンで送受信できる。
・そもそも北斗のプロジェクト自体が米国に対抗することを目的としたものだ。北斗のプロジェクトは、1993年7月に起きた銀河号事件が大きなきっかけとなり、始まっている。
・1993年7月、中国・天津港から貨物船「銀河号」がイランに向けて出発した。輸出品である文房具や工作機械、染料などを積載していたが、米国は銀河号が化学兵器の原料をイランに輸出しようとしているとして臨検を求めた。
・翌1994年から北斗プロジェクトが開始、2000年から測位衛星の打ち上げが始まり、2021年に第3世代の測位システムが全世界でのサービスを開始した。
・米国が、1957年のスプートニクショック（注2）により、ロケット技術やインターネット技術の開発が加速したのと同じように、中国は銀河号ショックによって北斗プロジェクトを始めた。軍事面ではGPSに頼る必要がなくなり、「行動の自由」を手に入れた。昨今の中国の「一方的な現状変更」に積極的な姿勢と、北斗のサービス開始は決して無関係ではない。
・北斗の開発には軍事的な背景が色濃くある一方で、衛星測位システムの運用は、民間産業にも大きく貢献する。「2022中国衛星ナビゲーション・測位サービス産業発展白書」によると、「特殊（公共）」「産業」「消費者」という3つの大きな市場があり、これらを合わせた2021年の市場規模は4,690億元（約9.1兆円）だったという。
こうした「北斗」の適用分野、および具体例は以下の通りです。
・自動車業界、および物流業界での自動運転化
・電力業界での高圧鉄塔などのドローンによる自動巡検、および特殊技能が必要な屋外作業の自動化
・農業での農機具の自動運転化、およびドローンやロボットによるリモート監視
・金融（銀行／保険）での確実な時刻合わせ
・公共での 斗の活用は進んでいる。2021年、中国の行政機関である自然資源部は、全国に2.2万カ所の観測機器を設置、位置情報のずれから地形の変形を観測し、警報を北斗経由で該当地域にショートメッセージで送るシステムの運用を始めた。
・ドローンによる仮想空間内での対象物の３Ｄモデルの生成
・シェアリングモビリティでの北斗の正確な位置情報の利用による、利用者が駐輪区域の外に駐輪したことを検出して警告を促す仕組みの運用
・北斗関連技術をBluetoothやUWB（Ultra Wide Band）、ミリ波などによる技術と組み合わせた屋内測位関連技術の取り組み
なお、北斗は全世界にサービスを提供しているが、「中国およびその周辺」で高い精度が出る構成になっているので、中国内で開発された自動化、無人化システムは東南アジアや中東などにも販売をすることが可能になるといいます。
ですから、軍事だけでなく、経済の面でも中国中心にアジアの地図を書き換える大きな武器になり得るのです。
以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。
番組を通して、あらためて感じたことは、経済のニューフロンティアとしての宇宙の大きな可能性です。
そして、中でも衛星測位システムの進化による格段の位置情報の精度の向上がもたらす様々な分野における新たな可能性の拡大です。
ですから私たちの暮らしもこれまで以上に利便性が高まります。
例えば、自動運転車の安全性の確保にこの技術は必須となります。
一方で、負の側面もあります。
それは兵器への技術転用です。
標的を射止める精度が更に高まることにより、より少ない弾数でより多くの犠牲数が増えることになります。
さて、中国は今でも場面に応じて、自国を途上国と先進国とに立場を使い分けています。
そして、確かに中国の地方は途上国としての側面を残しています。
しかし、今回ご紹介したように、今や中国は先進技術においては多くの分野で世界をけん引する立場にあります。
なお、注目すべきは、こうした全地球衛星系の独自の測位システム開発の中国の狙いです。
それは以下の２つです。
�� 軍事面での活用によるアメリカに対する軍事力の優位性の確保
�� 一帯一路政策との連携により、途上国を中心とした世界経済のインフラとしての位置を確保し、これらの国々にとって不可欠なものとした支配力の強化
ということで、今や、日本のみならず、他の先進国にとって中国は侮れない存在なのです。
ですから、アメリカもようやく中国の脅威を強く認識し、他の民主主義陣営の国々を巻き込んで中国に対峙する決断をしたわけです。
米ロの冷戦は既に過去のものとなり、米中の新たな冷戦が始まっているのです。
そして、日本も否応なく、既にこの“新冷戦”に巻き込まれており、軍事的にも経済的にも大きな影響を受けざるを得ない状況にあるのです。
ですから、政府には覚悟を持って、この難局に外交力を駆使して、あるいは日米の宇宙関連の技術協力により中国に対して優位に立てるように立ち向かっていただきたいと思います。
こうして常に民主主義陣営の国々は一致団結して、経済的にも軍事的にも中国に対する優位性を確保するとともに、その状況を習近平国家主席に対して認識させることが中国の覇権主義の世界展開の歯止めになるのです。
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