7月に西日本を襲った、平成で最悪の被害をもたらした豪雨災害については、プロジェクト管理と日常生活 No.551 『西日本を襲った記録的豪雨に思う地球温暖化リスク対応策の必要性』でもお伝えしましたが、7月10日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でもこの西日本豪雨災害について取り上げていました。
今回は番組を通して、このような豪雨災害がもし東京で起きたらどのような影響があるかについてご紹介します。
もし今回のような規模の豪雨が東京で起きたらどうなるのか、豪雨の被害に詳しい早稲田大学 理工学術院の関根 正人教授は次のようにおっしゃっています。
「気圧配置だったり、諸々の条件が関東には雨を降らせなかっただけの話です。」
「他人ごとでは済まない話だと思います。」
2本の川に挟まれた真備町(岡山県倉敷市)のような地形は東京にもあります。
隅田川、荒川、江戸川などの川に囲まれたエリアです。
今回のような100ミリ規模の雨が隅田川と荒川に挟まれたエリアに降り、堤防が決壊した場合どうなるか、過去の豪雨のデータを利用し、浸水予測をしてもらいました。
その結果、2時間後には地下の下水道は広範囲で満杯となり、地上では墨田区の半分ほどが2m以上の浸水、最大では5mを超える深さになるところもあります。
避難場所が少ないと言われる江戸川区では、こういった時のためにスーパー堤防があります。
江戸川の河川敷と公園が一体となって整備されたスーパー堤防は、災害時には避難場所としても使われます。
しかし、川が近くにない地域でも注意は必要だといいます。
渋谷や溜池山王の周辺は今回のような豪雨で浸水の恐れがあるといいます。
更に東京では都市ならではの危険な場所があると関根教授は指摘します。
アンダーパスという立体的に交差している道路です。
関根教授は次のようにおっしゃっています。
「50cmないし1mぐらいの浸水になってきますとクルマはもう通過することが出来ない。」
「例えば渋滞が起こってクルマが止まってしまうことになると、クルマは動かなくなりますし、扉すら開けられない状態になる可能性があります。」
「一番危険なのはやはり地下浸水による被害だと思います。」
「これまでにない雨になった時に初めて怖いということに気付く。」
「その時ではもう遅いので、そのあたりのことをしっかり想像出来るようにしていきたい。」
東京各所にある地下も豪雨の時は避けた方が良い場所ですが、段差のある地下入り口は浸水をある程度防げます。
今回のように明らかに異常な雨だと感じた場合は3階以上の高い建物に逃げるなど、危機意識を持つことが大切だといいます。
被災地域を取材した、番組のキャスターで日経ビジネス編集委員の山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。
「特に上空から見ていると、日本の住宅というのはいかに散らばって無秩序に建っているのか、しかも稲作文化で育ってきたせいか、どうしても水を求めて川の近くに建っていくんですね。」
「で、結果として、それが氾濫する危険が分かっていても、そこから離れられないというね、これをすごく感じたんですね。」
「で、そこに高齢化の問題が今押し寄せて来ていて、一方で異常気象が続くと考えた時に、本当にまた非常に残酷なようですけど、今ある場所に皆さんまた戻っていただいて強靭化していく、補助金を出していくっていうのは、そういう復旧のさせ方で本当に抜本的な解決になるのか、やはり残酷なようですけどコンパクトシティとか、そういう人の移動を伴った抜本的な土地計画の見直し、これが必要じゃないかなと感じましたね。」
このコメントを受けて、メインキャスターの大江 麻理子さんは、こうした災害はどこでも起こり得るということを念頭に置いた方がいいとおっしゃっています。
さて、来年度予算の概算要求では、公共事業など一律で10%減らすように求めています。
番組コメンテーターでモルガン・スタンレーMUFG証券シニアアドバイザーのロバート・A・フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。
「(そうした中で自然災害の規模がこれだけ大きくなっている中でその方針で大丈夫なのかという問いに対して、)私もちょっと問題かなと思いますけど、やはり歳出の配分が正しいのかということが大きな問題だと思いますね。」
「で、数字を見てみると非常に面白いんですけども、社会歳出を見てみますと、例えば2000年度から2016年度まで33兆円上がっています。」
「(この中で、)インフラ・教育・防衛などは5兆円しか上がってないんです。」
「やっぱり偏って社会保障に使っているということは、今回の被害の一つの原因ではないかなとちょっと思いますね。」
「やっぱり歳出を何とかもっと効率的に配分すべきではないかと思いますし、今日の概算要求で社会保障を増やす、公共事業を減らす、そういうかたちが続いているなということがちょっと心配ですね。」
そこで社会保障の効率化が重要だということになります。
解説キャスターの山川 龍雄さんは次のようにおっしゃっています。
「(そのためには何が必要かという問いに対して、)特に医療費のところが中心なんですけど、63歳から65歳の男性がその後20年間どういう健康状態だったかというのを追跡した調査なんですが、一番標準的なパターンはだいたい70歳台くらいから介護が段々必要になってくる、これが全体の7割を占めています。」
「その中でずうっと元気な人は11%います。」
「ちなみに、こういった方の中では中小企業の社長さんが多いらしいです。」
「やっぱり仕事と関係するんです。」
「で、問題は19%の人は早いうちから寝たきりになっていかれる方なんですが、ここの医療コストが実は莫大なんです。」
「ですから、これをどうやって予防措置を取って減らしていくか、ここが一番大事になっていくわけですね。」
これについて、フェルドマンさんは次のようにおっしゃっています。
「その通りですけど、予防だけじゃなくて、医療費だけじゃなくて、やっぱり成長戦略につながる項目を増やして社会保障は上限を付けるということが必要だと思います。」
「キャップをはめる、そうしないとうまくいかないと思いますし、加えて受益者負担をもっと合理化すること、あるいは費用対効果分析を徹底すること、こういうことをやって初めて持続性のある日本経済になる。」
「そうしないとちょっと持続性は怖いですね。」
番組の最後には、日本は医療データが沢山ある国なので、そのビッグデータをうまく活かしていきたいという指摘がされました。
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
番組を通して感じたことを以下にまとめてみました。
持続可能な社会について、最近注目されているのは主に地球環境問題についてです。
そして以前、地球環境問題を考えるうえで、地球環境、エネルギー、および経済という3つのバランスの必要性についてお伝えしました。
同様に、集中豪雨や巨大台風、あるいは巨大地震などに備える社会インフラの整備を進めるうえで、社会インフラ、医療費などの社会保障、および経済という3つのバランスの必要性を考えることが求められます。
中でも経済の良し悪しは税金として社会インフラや社会保障の対応策を講じるための源資に直結しますからとても重要です。
しかし、番組でも指摘されているように、国の政策では社会インフラよりも医療費などの社会保障が重視されております。
この傾向は高齢化の進行に伴い、今後増々強まると思われます。
すると社会インフラへの投資は一層抑えられてしまうことになります。
確かに日本の首都、東京には日本の人口の1割近くが集中しており、自然災害の被害はとても大きいと見込まれています。
しかし、地球温暖化の進行に伴い、今や国内のどこにおいても巨大台風や集中豪雨に襲われる可能性があります。
また、巨大地震も同様にどの地域で起きてもおかしくないと言われています。
ですから、国全体として大災害のリスク対応策が求められるのです。
ではどうするかですが、大きく以下の3つの対応策があると思います。
・医療費の削減
国民的な健康増進運動により健康寿命を延ばすこと
・経済の活性化
ベンチャー企業の育成支援などによる成長戦略の促進
AIやロボットなどの活用による生産性の向上
・費用対効果分析によるリスク対応策の優先順位の決定による効率的なコスト配分
被害の大きさ、あるいは効果の度合いとそのリスク対応策用コストの観点から優先順位に沿ってリスク対応策を実施すること
要するに、国は自然災害の枠内だけでリスク対応策用コストを検討するのではなく、医療費なども含めた全体の枠組みで優先順位を決めて全体のリスク対応策を実施すると同時に、医療費の削減策、あるいは経済の活性化対策にしっかりと取り組むことが必要だと思うのです。
毎年毎年、国の借金を重ねながら今を生きている世代の暮らしを最優先していては、将来の日本を背負う世代の時代には国家財政が破たんしてしまうことは明らかなのです。