3月20日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で世界最細の繊維について取り上げていたのでご紹介します。
今、8360本の“世界一細い”繊維からなる糸から次々と画期的な商品が生み出されています。
繊維大手の帝人グループ(東京都千代田区)の技術主幹、神山 三枝さんがこの“世界一細い”繊維、“ナノフロント”を開発しました。
ナノフロントの原料は、ペットボトルなどにも使われている普通のポリエステルです。
それを繊維を作る機械に流し込みます。
更にもう一つ、特殊なポリエステルも流し込み、熱で溶かします。
2種類のポリエステルは液体となり、独自に開発された金型を通ります。
この金型に帝人の技術が詰まっているため、詳しくは企業秘密ですが、実は金型の中には小さな穴があり、更にその穴の中に836のとても小さな穴が開いているといいます。
その836の穴をポリエステルの液体が通ると、金型から出てくる時には1本の糸となって出てくるのです。
この1本の中に836入って、その1本1本が“ナノフロント”なのです。
糸を断面図にすると、繊維となるポリエステルが特殊なポリエステルに覆われています。
その糸を10本分一つにまとめます。
そうすると、この1本の糸には8360本もの繊維が入っていることになるのです。
そして、それをアルカリ液に浸すと、特殊なポリエステルの部分だけが溶け出す、8360本の繊維だけが残ってくっつきます。
これが“ナノフロント”なのです。
帝人フロンティア 機能ファイバー工場の小西 正洋工場長は次のようにおっしゃっています。
「今までの細い糸だけですと糸の状態で細くしなければならなかったので、非常に難しかったですけども、それと比べると“ナノフロント”はこの中に細い糸を内在させるので、生産工場としては非常に工程が楽になりました。」
こうした製法によって、“世界一細い”繊維が簡単に出来るようになったといいます。
“ナノフロント”の感触はしっとり感があり、滑りにくい特徴があるといいます。
その滑りにくさに目を付けたのは、大手家具チェーンのニトリです。
掛け布団カバーに“ナノフロント”を採用しました。
それによって、カバーの中の掛け布団がずれにくくなるといいます。
更に、浜松医科大学(静岡県浜松市)の針山 孝彦教授は“ナノフロント”を使って画期的な手袋を開発しました。
手袋していても簡単に本がめくれます。
病気や仕事などで指紋が薄くなってしまった人たちのために、“ナノフロント”を使って滑りにくい手袋を開発したのです。
“ナノフロント”は、毎年3つ以上の商品を生み出し、ここ5年で売り上げは5倍に伸びました。
一方、大気汚染が深刻化する中国でも、この“ナノフロント”が活躍しています。
海南島のセメント工場(中国・海南省)では、毎日粉塵が舞い散っています。
この工場の屋上には“ナノフロント”を使ったフィルターが設置されています。
工場の中で排出された粉じんを“ナノフロント”を使ったフィルターでろ過して、外に漏れないようにしています。
フィルターを持ち上げてみると、外側に大量の粉塵が付いています。
つまり、それだけ粉塵が外に漏れるのを防いだとも言えます。
こちらの工場長、金 衛民さんは次のようにおっしゃっています。
「効果は抜群です。」
「我々のグループ会社全体が使っています。」
そして、今年2月に帝人が新たに発表したのが、従来の“ナノフロント”と比較すると700ナノメートルから3分の1以下の細さ、200ナノメートルの“ナノフロント”です。
それなのに、1本当たり数万本の繊維が入っているのです。
これまでより更に目の細かいフィルターが出来るので、より細かい粉塵やほこりなどを防ぐことが出来ます。
帝人グループの技術主幹、神山さんは次のようにおっしゃっています。
「繊維のメーカーにとって、細くて強い繊維を作っていくことは命題中の命題で、どこまでどんどん繊維を細くしていけるのか、やれるところまで突き詰めてみようと。」
この進化した“ナノフロント”は、ほこりの許されない半導体工場で空気清浄機のフィルターなどに使われる予定だということです。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
今回ご紹介した“世界一細い”繊維、“ナノフロント”のような製品を開発する先端技術こそ、今後とも日本企業の目指すべき一つの方向性だと思います。
簡単には国内外を通して他社に真似の出来ないような独創的な先端技術、そしてある用途においては他社の追随を許さないような効果を発揮するような製品づくりです。
一方、アメリカのグーグルやアマゾン、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブなどのようなネット社会の世界的なインフラ・サービスにおいては、残念ながら日本企業は後塵を拝しています。
こうした分野においても独特な世界観を持った考え方に則り、独創的なサービスを展開する企業が出て来て欲しいと思います。
そのためには単に独創的なだけでなく、グローバルな展開を意識したサービスを目指すことがとても重要だと思います。
思えば、日本にもかつてソニーのウォークマンという世界を席巻するた画期的な商品がありました。
また、日本には昔から“三方良し”(参照:アイデアよもやま話 No.843 近江商人の教え!)という素晴らしい商道徳があります。
ですから、日本企業には卓越した技術力、商品力、そして共存共栄をベースに技術力、経済力で世界平和に率先して貢献していただきたいと思います。