2018年05月05日
プロジェクト管理と日常生活 No.539 『アメリカの核戦略が大きく転換』

アイデアよもやま話 No.4000 ベトナム戦争から半世紀、”枯葉剤被害”は今も!でも多少触れましたが、2月3日(土)放送の「おはよう日本」(NHK総合テレビ)でアメリカの核戦略の大きな転換について取り上げていたのでご紹介します。

 

アメリカのトランプ政権は核の体制を見直し、“低出力核”と呼ばれる威力を抑えた核兵器の増強など、核戦略の強化を打ち出しました。

専門家からは、核兵器使用のハードルを下げる危険があるなど、強い懸念の声が上がっています。

トランプ大統領は、昨年2月のインタビューで次のようにおっしゃっています。

「他国が核兵器を保有するなら、我が国はその中で一番になる。」

 

核戦力の強化に意欲を示してきたトランプ大統領は、1月30日の一般教書演説でも次のようにおっしゃっています。

「核戦力を近代化し、再建しなければならない。」

 

そして、2月3日(日本時間)、トランプ政権は新たな核戦略を発表しました。

シャナハン国防副長官は、次のような声明を出しました。

「困難な安全保障環境のもと、抑止力強化に向け、しっかりした行動が求められている。」

 

核兵器のうちICBM、大陸間弾道ミサイルなどで発射され、壊滅的な破壊力を持つものは“戦略核”と呼ばれますが、増強が示されたのは威力を抑えた核弾頭“低出力核”です。

開発中の“低出力核”は“スマート核兵器”とも呼ばれ、戦闘機から投下されます。

目標に合わせて、爆発の規模を調節出来、一番小さい場合、広島に投下された原爆の50分の1の規模になります。

 

新たな戦略ではこのような“低出力核”を搭載したSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を導入するとしています。

また、オバマ前政権が退役させた、艦艇や潜水艦から発射可能な核巡航ミサイルの再開発にも着手するとしています。

 

アメリカが目指す核戦力の強化は、ロシアや中国の核戦力強化などに対抗するためだとしています。

2月3日(日本時間)、シャナハン国防副長官は、次のような声明を出しました。

「我々は核兵器を使いたくない。」

「アメリカと同盟国・友好国の安全を確保するため、効果的な抑止力を維持したいのだ。」

 

こうした状況について、NHKワシントン支局の石川 健吉特派員は、次のようにおっしゃっています。

「(戦闘機や艦船から発射出来る“核”を強化することは、核兵器を使い易くする恐れはないのかという問いに対して、)確かに核使用のハードルを下げる危険があるという指摘は根強くあります。」

「これに対して、国防総省は核兵器を使い易くすることが目的ではなく、相手に攻撃を思い止まらせる抑止力を強化することが狙いだと主張しています。」

「(では、なぜ“低出力核”を強化するのかという問いに対して、)ロシアの核戦力に見合った反撃力を持つためだとしています。」

「トランプ政権は北朝鮮の核問題を喫緊の課題と位置付けていますが、中長期的にはロシアの脅威の方がより深刻だと見ているからです。」

「アメリカは冷戦後の軍縮で局地的な攻撃に使用する、いわゆる“戦術核”を減らして、現在の保有数は300発とされていますが、ロシアは逆に増強を図って2000発近くを保有していると分析されています。」

「この差を埋める抑止力として“低出力核”の増強を図るというわけなのです。」

 

ハーベイ元国防次官補代理は、次のようにおっしゃっています。

「ロシアは紛争時に核の限定的な使用で有利な結果を得られると考えている。」

「アメリカはロシアに核使用は恐ろしい結果を引き起こし、目的は達成出来ないと納得させなければならない。」

 

これに対して、石川特派員は、次のようにおっしゃっています。

「(相手が強化するなら、こちらも強化するとなると、歯止めがかからないのではという問いに対して、)その危険性はあります。」

「軍縮派の専門家からは強い警笛を鳴らしています。」

 

カントリーマン元国防次官補は次のようにおっしゃっています。

「“ロシアの全ての能力に対抗しなければ危険”というのは、闘争本能から来る幻想だ。」

「かつて米ソを危険で愚かな軍拡競争へ導いた考え方そのものだ。」

 

これについて、石川特派員は次のようにおっしゃっています。

「こうした大国間の争いが世界を再び冷戦時代の緊張状態に逆戻りさせる可能性は否定出来ません。」

「唯一の被爆国である日本を始めとした国際社会全体がその行方を目を凝らして見ていく必要があると思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

トランプ大統領が昨年2月のインタビューで「他国が核兵器を保有するなら、我が国はその中で一番になる」とおっしゃっていたのは、大統領という立場でアメリカの防衛をより確実にするという観点からは一見筋が通っているように見えます。

しかし、各国の指導者がこうした想いで大量の資金をつぎ込んで軍拡競争に走れば、その分各国の税金などが防衛費に使われ、福祉など国民の豊かさにつながる方面には投入出来なくなってしまいます。

 

トランプ大統領は、“低出力核”は戦争勃発の抑止力として必要だと考えておりますが、ロシアのプーチン大統領は、クリミアに核爆撃機の配備を検討するなど軍拡路線をひた走っていると報じられています。

また、中国においても、アメリカの軍事力に追いつき、追い越せの状態で、将来的にはアメリカを追い抜く構えだと言われています。

 

こうした米中露という世界の三大軍事大国による軍拡競争は、国家間の弱肉強食時代に逆戻りしてしまうことになります。

何といっても、強大な軍事力、あるいは経済力は無言の圧力を他国に与え、時にはその力を背景に、国際的な取り決めを無視して、自国の我を通すことも最近散見されます。

 

更に、一旦国同士の戦争が始まれば、その軍事同盟国も有無を言わさず参戦することになります。

ですから、特に三大軍事大国のいずれかが戦争を始めれば、その影響は計り知れません。

また、“低出力核”と言えども、核兵器には違いなく、万一実際に使用されるようなことがあれば、広島や長崎の悲劇の再来となります。

 

こうした状況において、やはり平和国家である日本には、アメリカ一辺倒ではなく、愚かな軍拡競争の歯止めとなり、あるいは核兵器や化学兵器の廃絶を進めるべく、国際社会に強く、かつ継続的に訴えることが求められていると思います。

 

いずれにしても、私たち一人ひとりは、兵器の性能が格段に進化している今日、かつての世界大戦規模の戦争が勃発すれば、間違いなく人類そのものの生存危機を迎えるということを常に肝に銘じておくことがとても大切なのです。

人類悠久の歴史の中で、培われて来た文明や文化、そして豊かさが一瞬にして破壊されてしまうのですから。

 

ということで、世界規模の戦争勃発リスクは、人類共通の最大のリスクであり、常に私たちはその対応策を模索し続けることが求められているのです。

そして、平和国家、日本はその憲法の根幹からして、最もこのリスク対応策を推進していくうえで最も重要な立場にあるべきなのです。


 
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