フィンテックについては以前アイデアよもやま話 No.3554 フィンテックで変わる私たちの暮らし!などでご紹介したことがあります。
そうした中、8月21日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で画期的なフィンテックサービスについて取り上げていたのでご紹介します。
個人が企業と同じように株式のようなものを発行して資金を集めることが出来るという新しいサービス「VALU」には既に1万5000人以上が上場しているといいます。
中には有名人もいて、例えばライブドアの元社長、堀江 貴文さんも上場しており、その時価総額は26億円以上といいます。
今年7月に堀江さんが出資する観測用の宇宙ロケットの打ち上げが発表されると、時価総額はおよそ2倍に急上昇、しかしロケットの打ち上げに失敗すると価格は2割ほど下がりました。
画家など資金が必要な個人は自身のVALUを売ることで、簡単にビットコインのかたちで資金調達が出来ます。
一方、VALUを買った人もその人物が有名になればVALUの価格が上がり、利益を得られます。
VALUはビットコインを使って他のユーザーと自由に売買することが出来ます。
VALUの売り出し価格や発行数はフェイスブックなどの“友達数”によって自動で算出されます。
更に、VALUには別な楽しみ方があるといいます。
例えば、将来有望と思われる画家のVALUを購入すると、株主優待のように画家の作業場を訪問して、直接その画家から作品の説明を受けられたり、オリジナルのポストカードをもらえたりするケースがあるのです。
こうした優待を設けるかは自由ですが、VALUの人気に直結するため、多くの発行者が活用しています。
さて、この「VALU」を今年6月にスタートした株式会社VALUの代表、小川 晃平さんは、「VALU」を始める前はフリーのエンジニアだったといいます。
どうしてこのようなサービスを始めたのかについて、小川さんは番組の中で次のようにおっしゃっています。
「僕自身が元々あるIT企業で働いていたんですね。」
「その会社を辞めてフリーランスになったんですよ。」
「その瞬間に社会的保障とか社会的ステータスというのが下がってしまった。」
「例えば、クレジットカードの限度額は学生並みに戻ってしまったりとか、そういったものをどうにか解決出来ないかなと思って、こういったサービスを始めさせていただきました。」
また、「VALU」の立ち上げにも係わったという堀江さんは、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「(先ほどのロケットの打ち上げに関連して価格が上下したことついて)マスコミにすごい僕が取り上げられると、多分VALUの価格も上がるんですよ。」
「面白いでしょ。」
「値動きは株式市場とすごく似てますね。」
「「VALU」みたいなサービスが始まることによって多分実感したと思うんですよね。」
「本来あなたたち(個人)はこれぐらいの資金調達能力があったにもかかわらず、規制とか一部の既得権を持っている人たちがそれを牛耳っていたわけですよ。」
「テクノロジーがそこから解放してくれてるっていう。」
「僕らの界隈のIT業界の人たちは本当に「インターネットの黎明期を感じるよね」ってみんな口をそろえて言ってますね。」
「だからある意味、全ての仕組みが変わるんじゃないですか。」
堀江さんは、「VALU」の登場で今後個人の資金調達に大きな変化が生じると強調します。
一方、この仮想株式「VALU」にはある欠点があります。
番組放送の1週間前にある大問題が起きて議論を呼んでいます。
人気ユーチューバーの集団が大騒動を起こしました。
VALUを発行したばかりのユーチューバーがツイッターで「面白いことを企画している」などと発言したところ、何か特別な優待が付くのではとファンなどの期待が高まり、VALUの価格が急上昇しました。
しかし、このユーチューバーたちはそこで自身が所有するVALUを全て売り抜き、価格が大暴落しました。
含み損を抱えた多くのユーザーからは「何もかも消し飛んだ」という声や「他人の信用を踏みにじった卑劣な行為」だという強い非難が相次ぎました。
今回の騒動で数千万円の利益を得たというユーチューバーたちは払い戻しに応じると発表しましたが、全額返金出来るかは不透明です。
実はVALUの取引は現金ではなく全てビットコインのため、金融商品取引法などの対象とならず、相場操縦やインサイダー取引などの被害からユーザーを保護する規制がありません。
「VALU」は今回の騒動を受け、「利用者保護を最優先に考え、新たなルール作りを進める」と発表しました。
「VALU」の広がりについて、麻生財務兼金融担当大臣は8月15日に総理官邸で次のように見解を述べております。
「ファイナンシャルテクノロジーの一商品として育てるべきなのか、ちゃんと育っていくのか、投機の対象となるのか、とかいろいろなことを考えなけりゃいかんですから、これは「消費者保護」と「新しいものを育てる」というところと両方考えにゃいかんと。」
日本初のサービスですが、個人を救うのか、それとも時代のあだ花か、真価が問われるのはこれからです。
番組のサブキャスター、大浜 平太郎さんは、次のようにおっしゃっています。
「まさに今までの常識とはちょっと違うことが始まっているということなんですけども、決定的に違うのは購入者が例えば議決権を持っているわけでもないし、配当をもらえるわけでもない。」
「いろんな意味で何らかの保護は必要だろうということなんですけども、現状では買う場合も売る場合も本名を公表して展開しているので、いろんな人のチェックが入るのでそれなりに抑止力もあるという面もあるということで、どの程度の仕組みにしていくかというのがルールを含めて。」
また、番組コメンテーターで学習院大学の伊藤 元重教授は、次のようにおっしゃっています。
「(賛否両論がある「VALU」の登場について、)ポイントは、テクノロジーが進んでくると、やはり今まで考えられない商品が出てくるのは事実なんですよ。」
「ですから、そういうことが社会を変えていくという意味ではこれ(「VALU」)にも可能性が随分あると。」
「ただ、10出て10全部良くなるかというと、残念ながらその中でちょっといろんな社会の中で荒波にもまれてみると問題が出てくるケースもあると。」
「ですから今の段階ではこれが持っている社会的価値と社会的なリスク、あるいは問題などをどのように判断していくかということだろうと思いますね。」
「(今後「VALU」が成長していくポイントは、ルール作りと納得感だという伊藤教授ですが、)マーケットが広がっていくためには、今1万人ぐらいですか、これがやっぱり10万人とか100万人とか、場合によっては国境を越えて広がっていかなきゃいけないわけですから、そうするとより多くの人が納得出来るようなルールが、誰が作るかという問題はあるんですけども、最終的に出来てくることが重要だと思うんですよね。」
「ちょっと皮肉な話なんですけど、先ほどのユーチューバーの人たちが起こした問題は、この段階で起きて良かった面もあるんだろうと思うんですよ。」
「つまり、早い段階でいろんな問題が外に出ることによってより良いルール作りが出来ると。」
「株式市場も過去何十年、いろんな問題が起きてそれに対応するために今のルールがあるわけですから、そういう意味でまさに社会の荒波にもまれて、これは増やすかどうかということは注目したいと思いますけどね。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
個人が企業と同じように株式のようなものを発行して資金を集めることが出来る「VALU」のようなサービスが既に他の国で展開されているのかどうか分かりませんが、いずれにしても「VALU」は個人が何らかの活動をするうえで個人の価値をベースにした資金調達の手段として画期的なサービスだと思います。
そこで、「VALU」が今後とも健全に成長していく上での要件について、以下に量的、質的な要件、そして将来的な展望について私の思うところをお伝えします。
(量的な要件)
・現在、VALUの売り出し価格や発行数はフェイスブックなど単純に“友達数”によって自動で算出されているが、AI(人工知能)の活用により、ネット上のあらゆる情報を駆使してその分野での現在の評価や将来性など質的な側面も算出根拠に加えること
・これにより、これまで以上に「VALU」への登録者数の増加が期待出来ること
(質的な要件)
・番組でも紹介されていたように、「VALU」のプロバイダーは利用者保護を最優先に考え、新たなルール作りを進めること
・番組でも紹介されていたように、「消費者保護」と「新しいものを育てる」という両面から「VALU」に対する法的な検討を進めること
(将来的な展望)
・現在、「VALU」は有能な才能を持っている個人への資金調達というサービスを展開しているが、将来的にはその個人が進めようとしている事業などの対象に必要な人材、あるいは本格的な投資機関とのマッチングサービスを加えることにより、よりスピーディーに事業展開を進めることが出来ること
・こうした「VALU」の世界展開を図ることにより世界的な規模で新たな雇用創出にも貢献出来ること
こうしてみると、「VALU」はまだまだサービスが始まったばかりで、様々な問題や課題を抱えています。
しかし、考えてみれば既存の株式市場においてもインサイダー取引などの不正がいまだにマスコミに取り上げられているのが現状です。
そして、こうした不正を防止する取り組みがこれまで長い期間をかけて続けられてきたのです。
ですから、「VALU」も今後こうした改善を地道に図りながら展開していけばいいと思うのです。
私は、今回ご紹介した「VALU」が既存の株式市場が企業を資金調達の面で支援したり、あるいは企業のブランド価値を高めてきたように、優秀な、あるいは将来性のある個人の活動を資金調達、あるいは個人のブランド価値を高める上でとても貴重なサービスだと大いに期待しています。