6月9日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で成長戦略の起爆剤として期待される「サンドボックス」制度について取り上げていたのでご紹介します。
前回、危うい日本の財政健全化目標の達成についてご紹介しました。
安倍政権が閣議決定した新戦略の中身は以下の通りです。
(骨太の方針)
・幼児教育の無償化
(成長戦略)
・AI(人工知能)を活用した診察
・トラックの「無人隊列走行」
・ドローンによる配送
・「サンドボックス」制度
こうした内容の背景には人口減少があります。
新技術を活用することで深刻な労働力不足を解消しようという狙いがあります。
中でも注目すべきは「サンドボックス」制度です。
「サンドボックス」は砂場という意味ですが、公園では親に見守られながら砂場で子どもたちが山を作ってみたり、すぐに壊してみたり、ルールに縛られずに自由に遊んでいます。
今回盛り込まれた「サンドボックス」制度は、この砂場の遊びと同じように政府の許可を得た企業が法律に縛られずに自由に新しいサービスを試すことが出来るという制度なのです。
ところで、似たような制度として「特区」がありますが、地域を限定する「特区」と比べると、全国規模での規制緩和が可能になると言われています。
更に、国があらかじめ決める「特区」と違って、企業側からの提案で緩和を決められるためにスピード感を持って新しい技術の開発が出来ると期待されています。
この「サンドボックス」制度を待ち望んでいた企業があります。
「割り勘」アプリを開発した株式会社Kyash(東京都港区)です。
この会社の“ワリカンアプリ”は、4人でランチに行き、代表者がまとめて支払った時にスマホ内で代表者は3人に対して請求出来、その3人は代表者に対して送金するというシステムです。
しかし、現状では代表者に送金されたお金は現金化出来ません。
現状の法律や規制によるもので、それは商品開発におけるテストさえ出来ない状況だといいます。
社長の鷹取
真一さんは、こうした状況について番組の中で次のようにおっしゃっています。
「免許や認可がないと実施できない種類のサービスになりますので、小さい規模でも検証がかなり難しいかなと。」
「最初のテストをするまでのハードルが高く、期間も長期化してしまうというところがあるので・・・」
今回の政府の成長戦略、企業が自由に新しいサービスを試すことを認める「サンドボックス」制度が始まることで、どのようなサービスが考えられるのでしょうか。
鷹取社長は、新サービスについて次のようにおっしゃっています。
「例えば大きなイベントの入り口などで、QRコードを読み取ることによって簡単に主催者やイベントに対して送金していくことが可能になります。」
「全額現金化するのは難しいにしても、一定の金額までは現金化することが出来れば、ユーザーとしてももう少し利便性が高まるのかなと。」
現在の“ワリカンアプリ”は、大人数で大きな金額を集めた場合、現金化出来ないので利用に適していません。
結婚式の二次会や大きなイベントなどで使えるようになれば、サービスも多様化していくと鷹取社長は考えています。
フィンテック協会の丸山
弘毅理事は、「サンドボックス」制度はイギリスやシンガポールで既に始まっているものの、まだ成果は出ていないといいます。
そして、番組の中で次のようにおっしゃっています。
「海外ではこういう制度がある国もあって、そうすると(その国が)先に試してみて成功して広まっていくと、どうしても日本が後手後手になって海外で生まれたサービスを徐々に真似ていくようになってしまうと。」
「フィンテック業界としては、「ようやく」であり、「一番いい」タイミングでもある。」
番組コメンテーターでA.T.カーニー日本法人会長の梅澤
高明さんは、次のようにおっしゃっています。
「(「サンドボックス」制度について、フィンテック業界以外にも利用価値があるのではないかという問いに対して、)特に威力を発揮するケースは2つだと思っています。」
「一つ目は、フィンテックもそうなんですが包括的な情報があって、広すぎる規制があって、そのごく一部をやりたいんだけれども、広すぎる規制を全部守んなきゃいけないというケースで、まさにキャッシュが今回のケースでいうと現金化しようと思ったら銀行法を守らなきゃいけないという話になって、とてもたまったもんじゃないと。」
「それから2つ目のケースは、ある一つのサービスを展開しようと思った時に、実に様々な法律にひっかかって、複数の規制官庁と折衝を同時にしないとサービスが成立しない。」
「例えば、自動走行は典型例ですけど、道路法、道路交通法、事故が起こった時には憲法、民法とあって、それぞれ官庁が違うわけですね。」
「そうすると、今回のような「サンドボックス」(制度)を使えば、関連する省庁全部集まってもらって、事務局になる内閣府が仕切って、どこからどこまでの規制をどういう時間軸で1回解除しましょうというワンストップの仕切りが出来ると。」
「(これから対象になる企業を選ぶ作業になってくるが、時節柄選ぶ時の透明性が重要になってくるのではという問いに対して、)どういう基準をクリアしたらこの実験を認めますという、これはなるべく透明化した方がいいと思うんですけど、大事なのはどれだけ沢山の実験をなるべくスピーディに出来るかだと思うんです。」
「なので、あんまり細かくというか、うるさく、厳しくチェックし過ぎて、沢山申請があったのにその10分の1しか実験しませんでしたとしたらもったいない。」
「沢山失敗していいので、とにかく早く大量の実験をするというつもりで臨むのがこの新しいビジネスの種を探すという意味で有効だと思います。」
以上、番組の内容をご紹介してきました。
今回ご紹介した“ワリカンアプリ”のように新しいITを駆使したサービスは既存の法律や規制が想定していないようなケースが対象となる場合が多いのです。
ですから、国や自治体は過去の事例の延長線上で考えるのではなく、新しいビジネスの芽を育てるという観点で、それに沿った目線での様々な支援を行うべきなのです。
そういう意味で、今回ご紹介した「サンドボックス」制度は、一つのとっかかりだと思います。
なお、新戦略の中身の骨太の方針について、とても気になります。
幼児教育の無償化を掲げていますが、子育ては幼児教育だけで終わるわけではなりません。
少子化対策としては、子どもが生まれる前から大学を卒業するまで、要するに子どもが社会に出て独り立ち出来るまでの全てのプロセスを支援すること、すなわち大学卒業までの無償化を目指すべきなのです。
そして、そのための実現可能な制度を検討することこそ、国や自治体の役割だと思うのです。