2016年12月02日
アイデアよもやま話 No.3563 エマニュエル・トッドが混迷の世界を読み解く その5 日本は課題先進国としての自覚を持つべき!

今回のアメリカ大統領選前の11月6日(日)に放送された「エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」(NHKBS1)はとても興味深い内容でしたので5回にわたってご紹介します。

 

なお、番組は以下のように5つのチャプターから構成されていました。

チャプター1 世界で生き残るため日本的価値観から脱却せよ

チャプター2 トランプ現象は何を意味するのか?

チャプター3 世界のグローバル化は終焉する EUの動向に注目せよ

チャプター4 中国は何処へ向かうのか?

チャプター5 国内に向き合うことで未来を探れ

 

5回目は、チャプター5のテーマ「国内に向き合うことで未来を探れ」の内容をご紹介します。

 

これまで自由競争で豊かさを求めてひた走ってきた世界、アメリカ、ヨーロッパ、そして中国でグローバリゼーションが軋みをあげている今、この世界で日本の進むべき道とはどこでしょうか。

 

現代フランスを代表する知性の一人、人類学者・人口学者のエマニュエル・トッドさんは、都内の駒沢オリンピック公園の何気ない光景を目にしてあらためて感じることがあります。

それは日本に感じるもどかしさだといいます。

「ここに来て一つ気付いたことがあります。」

「今は平日の午後3時、パリでこの時間にこのような(多くの子ども連れ親子を見かける)光景はあり得ません。」

「なぜなら子どもは皆この時間は保育園にいて両親はともに仕事をしています。」

「でも仮に例えば急に保育園を沢山作ってもそれだけで問題は解決しないでしょう。」

「なぜなら日本には子どもを預けるのは良くないことだという暗黙の文化があるからです。」

「文化や価値観を変えなければならないのです。」

「日本はテクノロジーを使い、完璧なロボット社会を作ろうとしているかもしれません。」

「しかし、それも解決にはならないでしょう。」

「よく仕事の方が子育てより大変で重要だという人がいます。」

「でもそれは間違っています。」

「私は仕事も子育ても両方やりました。」

「子育ての方がエネルギーを使うし、とても重要なことなんです。」

「本を書く方がよっぽど簡単だよ。」

「私が初めて日本に来たのは20年前、その頃から人口減少は大きな問題になっていました。」

「私は初め日本人ならなんとか対応出来ると楽観視していました。」

「でもこの20年間ただ問題だ問題だと騒ぐだけで、実際には何も変化がないように見える。」

「このまま放っておくと人口減少は経済よりも極めて深刻な問題になるでしょう。」

 

世界の環境が大きく変わる中で従来型の思考から抜けきれない日本、今私たちの目の前にあるのは市場経済第一主義、過度の競争がもたらす深刻な格差、貧困の問題です。

世界を覆う大きな変化の潮流の中、日本は新しい価値観を育てる時が来ているとトッドさんは次のようにおっしゃっています。

「グローバリズムの理想は世界中の人々が皆平等になることでした。」

「だが実際にグローバル化がもたらしたのは社会の分断と格差の拡大でした。」

「昔マルクスは「万国の労働者よ 団結せよ」と言いましたが、団結したのはエリートでした。」

「だからそれに対抗して、もっと国という枠組みを意識する必要があります。」

「エリートと大衆の断絶を無くし、同じ国の仲間だという意識を持って一つにまとまるべきです。」

「「国という単位でまとまろう」と主張する私が日本に対して言えるのはここまでです。」

「あとは日本が決めること。」

「これ以上言ってしまったらグローバル化が好きな愚かなフランス人ということになってしまいますからね。」

 

2週間に及んだ今回の来日、混迷の世界を読み解くためにトッドさんが投げかけた数々の言葉を私たちはどう受け止めていくのでしょうか。

以下は世界を見つめ続けるトッドさんが幾度となく繰り返した言葉です。

「今、世界は非常に重要な時期にさしかかっています。」

「グローバル化の夢が終わろうとしているのです。」

「その発想を生み出した社会の中からこそ終わろうとしているのです。」

「もはや経済のことばかり強迫観念のように考える時は過ぎ去ろうとしています。」

「国家も経済だけに囚われず、もっと重要なことに目を向ける時代を迎えることでしょう。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

トッドさんのご指摘の通り、このまま放っておくと人口減少は経済よりも極めて深刻な問題になると思います。

その最先端を走っているのが日本なのです。

日本は資源小国でもあるわけですから、日本は“課題先進国”と言えます。

また、トッドさんは1回目で日本が世界で生き残るためには明治維新に匹敵するような価値観の革命が必要であると指摘されていました。

そこで思い起こされるのは、No.2514 ちょっと一休み その394 『日本は”課題解決先進国”を目指すべき』でお伝えした“課題解決先進国”という日本の目指すべき方向性です。

そのためには、トッドさんのご指摘の通り、日本の家族システムの見直しなど、これからのあるべき社会に対応した価値観の革命が必要だと思います。

 

世界に先駆けて、これから多くの国が直面するはずの課題を解決するうえでの価値観の創造、およびその実践は何にも増して国際貢献につながると確信します。


 
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