2016年10月08日
プロジェクト管理と日常生活 No.457 『台風10号の被害に見る災害対策の根本的な見直しの必要性』

台風10号はこれまで台風の被害がほとんどなかった北海道や東北地方にこれまでにない大変な被害を与えました。

そこで、多くの報道機関により報道されました。

今回は、そうした中から9月1日(木)放送の「クローズアップ現代」(NHK総合テレビ)を通して、災害対策の根本的な見直しの必要性についてご紹介します。

 

今回の台風10号は、観測史上初めて太平洋側から東北地方に上陸しました。

そして、岩手県岩泉町の「グループホーム」では9人の命が犠牲になりました。

また、北海道にも大量の雨を降らせ、南富良野町を中心に大きな被害をもたらしました。

台風10号では、短時間での集中豪雨が河川の氾濫や道路の冠水を引き起こしました。

河川工学が専門の中央大学・都市環境学科の山田 正教授は、短時間でも一気に大量の雨が降ることの危険性を次のように指摘しています。

「地元に住んでいる方でも、そんなに早く水位が上がるのは想像も出来なかったと思いますね。」

「非常に強い雨が降って、2時間半くらいで川の水位がぐんと上がっているんですよね。」

「だから、鉄砲水的な要素があると思います。」

 

鉄砲水のような急激な増水はなぜ起きたのか、原因の1つは東北ではほとんど経験したことのない1時間に66ミリという降雨量です。

1時間の降雨量が50ミリを超えると、増水のスピードが速まり易いといいます。

ところが、山田さんはもう一つ急激な増水を招いた意外な原因に注目しています。

それは、川の周辺にある山の地面の持つ性質です。

山の土壌には降った雨水を吸って地下に蓄える性質があります。

それがゆっくりと地下を伝わって川へと至ります。

ところが今回、土壌に含まれた水の量を計算すると、既に豪雨の前日からの雨が土壌に浸み込んでいたことが分かりました。

岩泉町の雨が強まる8月30日の15:00頃にはかなり土の中の水分が増加していたのです。

その後、豪雨が降った時には土壌の保水力はほぼ限界に達していたと見られます。

大量の雨水は土壌に浸み込むことが出来ず、そのまま山肌を流れ下り、一気に川へと注がれました。

こうして、川の水位は急激に上昇したと考えられるのです。

 

鉄砲水のような急速な増水、その勢いを物語るのが大量に押し流された倒木です。

よく見るとそのほとんどが枯れ木であることが分かります。

こうした枯れ木は、通常川筋などに多く溜まっています。

それが山肌を流れ下り、大量の雨水に押し流されて凶器となって水とともに建物を襲ったと考えられます。

山田さんは、こうした鉄砲水のような急激な増水は山間の他の地域でも起こり得ると指摘しており、番組の中で次のようにおっしゃっています。

「自分の人生のうちに1回や2回は鉄砲水のようなかたちでこういう時もあるんですよ。」

「日本中どこでもあると思ってもおかしくない時代だと思います。」

 

急激な増水によって9人の命が奪われた「グループホーム」、町も事前に危険を察知し、高齢者をいち早く避難させることは出来ませんでした。

しかし、岩泉町では台風が上陸する前の当日の朝の段階で、“避難準備情報”が出されていました。

“避難準備情報”とは聞きなれない言葉ですが、避難に時間のかかるお年寄り、子ども、あるいは避難の際に支援が必要な人に早めの避難などを呼びかける情報を意味しています。

ところが、施設の担当者は“避難準備情報”が出されていたことは知っていたうえで、これがお年寄りのような方たちを早めに避難することを呼びかける情報とは知らなかったといいます。

“避難準備情報”という言葉の意味が十分に周辺住民の間に浸透していなかったからだといいます。

 

一方、1週間で3度の台風が上陸するという過去に例のない事態に見舞われた北海道、中でも特に大きな被害が出たのは南富良野町です。

台風10号が接近する前、3つの台風による雨で既にこの地域の土壌の保水量は通常より増加した状態にありました。

ある夫婦2人の自宅では家の中にも大量の水が押し寄せて家財道具のほとんどが水に浸かりました。

これまで深刻な台風被害を経験したことがなく、強い危機感を感じていなかったといいます。

避難指示も8月30日の午後10時頃に出ていましたが、急ぐ必要はないと思っていたといいます。

しかし、台風10号の周辺に広がる雲は異例の雨を降らせました。

1日に168ミリ、1ヵ月分の雨量を超える凄まじい雨によって一気に土壌の保水量が限界にまで達したのです。

そして遂に町を流れる空知川の堤防が決壊しました。

 

こうした状況にも係わらず、避難が遅れ自宅に取り残されたこちらの夫婦の畑では作付けしていたニンジンやジャガイモが全滅しました。

 

一方、濁流は多くの人たちが逃れていた避難所にも押し寄せました。

こちらに非難したある女性は、この時の様子について番組の中で次のようにおっしゃっています。

「信じられないと思いました。」

「命の危機を感じました。」

「本当に怖かったです。」

「水の災害は絶対ないと思っていたんですけど、まさか川がこんなことになるなんて思ってもいなかったし、なった後も大変なんだなって思いました。」

 

この女性の家族は避難所でも危険を感じたため、再び別の場所に逃れました。

そして、8月31日、孤立した住民たちが次々に救出されました。

 

さて、日本周辺の海面温度の予測では、日本列島の南側半分あたりまでは26℃以上で台風が発生しやすく、勢いが衰えにくいとされており、10月いっぱいまでは注意が必要だといいます。

更に、今回の台風10号のように予期せぬ進路を取って東日本や北海道に向かう台風が現れる可能性もあるという状況です。

“絶対ないはないんだ”ということを肝に銘じないといけないと京都大学教授の矢守 克也教授は指摘されております。

矢守さんは、災害時の避難行動について長年研究されております。

 

では、どのタイミングで何を目安にして行動していけばいいのかですが、矢守さんは以下の重要ポイントを挙げております。

・タイムライン(*)防災

  • 台風などが接近する何時間前に何をするかということをあらかじめ決めておく仕組み

・伝わり易い情報

  “避難準備情報”などの専門用語を地元の人たちでも分かり易い表現に変えて伝えること

  

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

それにしても“避難準備情報”という専門用語の意味が周辺住民に理解されていなかったことがせっかくの警報にも係わらず被害をもたらしたという事実はとても残念です。

矢守さんが指摘したように、警報を伝える側は周辺住民に分かり易い表現を使うな配慮が求められるのです。

 

さて、これまでにない集中豪雨のメカニズムは、地球温暖化による海水の大量蒸発が大気中の水分を増加させ、それが大量の雨雲を発生させて集中豪雨をもたらすことと見られています。

そうした中で、今回の台風10号は観測史上初めて太平洋側から東北地方に上陸しました。

また、1時間の降雨量が50ミリを超えると、増水のスピードが速まり易いと言われていますが、1週間で3度の台風が上陸するという過去に例のない事態に見舞われた北海道、中でも特に大きな被害が出たのは南富良野町で、1日に168ミリ、1ヵ月分の雨量を超える凄まじい雨によって一気に土壌の保水量が限界にまで達したのです。

 

地球温暖化問題は今や国際的な大問題で、プロジェクト管理と日常生活 No.417 『COP21にみる地球温暖化対策のあり方 その3 問題点・リスク、COP21の成果、そして今後の課題』などでもご紹介したように先進国のみならず多くの途上国も含めて国際的な枠組みで対策が進められています。

ちなみに、CO2の排出割合が世界第4位のインドも10月2日、地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」(COP21)を批准しました。

 

ところが、今回の台風10号は北海道や東北地方に大変な被害を及ぼしたのです。

ということは、地球温暖化による台風の大型化に伴う集中豪雨や最大風速、および発生回数の増加による被害のスピードの方が国際的な地球温暖化対策のスピードを上回っていると見なければなりません。

また、台風10号で北海道や東北地方が大変な被害を受けたという事実を私たちは重く受け止めるべきだと思います。

なぜならば、今後日本の全ての地域がいつこれまでにない程の超大型台風による集中豪雨や最大瞬間風速90m級の強風の被害を受けてもおかしくない時代に入ったからです。

 

ということで、短期的には日本独自に超大型台風に対するリスク対策に対してこれまで以上に真剣に取り組むことが必要になったのです。

同時に、中長期的には日本の先進技術の世界展開により国際的な地球温暖化問題解決により一層貢献することが求められているのです。


 
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