2016年01月02日
プロジェクト管理と日常生活 No.417 『COP21にみる地球温暖化対策のあり方 その3 問題点・リスク、COP21の成果、そして今後の課題』

今回はプロジェクト管理の観点から、一連の報道を通してCOP21の採択にみる地球温暖化対策のあり方について、4回にわたってお伝えします。

3回目は、一連の報道記事を通してCOP21(パリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)に関連した問題点・リスク、COP21の成果、そして今後の課題についてお伝えします。

 

まず、1995年に始まった、パリで開催された国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に関する一連の報道記事の内容をざっと以下にご紹介します。

 

世界で相次ぐ自然災害や異常気象、今、私たちは地球温暖化という課題に直面しています。

上昇する世界の平均気温ですが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、この130年余りの間に地上気温は0.85℃上昇しているといいます。

更に、このまま何も対策を講じなかった場合、今世紀末には産業革命前から最大5.4℃上昇すると予想されています。

こうした地球温暖化の影響と見られる干ばつに熱波、その一方で大規模な洪水が起きるなど、地球規模で深刻な自然災害が広がる中、その対策が京都議定書以来18年ぶりに歴史的な転換点を迎えました。

 

COP21は昨年12月12日夜(日本時間13日未明)にようやく法的な拘束力を持つ地球温暖化の新しい枠組み「パリ協定」を採択しました。

京都議定書(1997年12月)に代わる18年ぶりの地球温暖化対策のルールです。

石油・石炭など化石燃料に依存しない社会を目指し、条約に加盟する196カ国・地域が参加する初めての国際的な枠組みとなります。

 

「パリ協定」は「産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑える」という国際目標を明記しました。

海面上昇によって国土の消失などが懸念される島しょ国が強く求める「1・5度未満」も努力目標として併記しました。

その上で「世界全体の排出量をできるだけ早く頭打ちにし、今世紀後半には排出を実質ゼロにする」ことを初めて盛り込みました。

 

これらを達成するため、各国が自主的に削減目標を作成し、国連に提出、対策を取ることを義務付けたのです。

しかし、合意を優先した結果、目標の達成義務化は見送られましたが、対策が緩やかになることを防ぐため、実施状況の報告と目標の5年ごとの見直しを義務化、その内容を公表することとしました。

また、世界全体の削減状況を2023年から5年ごとに確認することとしました。

 

最大の争点だった途上国への資金支援は、先進国が拠出する具体的な目標額を協定そのものには盛り込まず、法的拘束力のない別の文書に「年1000億ドル(約12兆3000億円)を下限として新しい数値目標を25年までに設定する」としました。

一方、資金拠出元については、草案段階の中国などの新興国を念頭に置いた表現を削除し、先進国以外にも自発的に資金の拠出を求め、双方歩み寄りました。

 

今回、会議が成功した理由はいくつか挙げられますが、何よりも世界各国で異常気象が増え、人々が地球温暖化を肌で感じるようになったことが挙げられます。

また、地球温暖化対策が経済活動にとって負担ではなく、むしろ新たな機会として認識されるようになったことが指摘出来ます。

このような認識の変化は今まで地球温暖化対策に最も消極的だったアメリカと中国の態度までを変えるに至りました。

 

COP21の初日に開催された首脳級会合でアメリカのオバマ大統領は国内で再生可能エネルギーを急激に増やした結果、再生可能エネルギーが従来型のエネルギーよりも安くなったことやアメリカ国内で排出削減と経済成長が両立出来ていることを強調しました。

また、ビジネス関係者や投資家に対して世界が低炭素社会に向かっていること、その方向に向けて投資を増やすことが経済的にもプラスになると説明しました。

 

また、中国の習近平国家主席も2030年の目標として2030年をピークに排出量を減らし、GDP当たりのCO2排出量を2005年の水準と比べて60〜65%改善するという中国の目標を再確認したうえで温室効果ガスの大気中の濃度上昇を抑制しつつ、低炭素な開発を目指そうと世界に呼びかけました。

 

地球温暖化対策は、地域的な大気汚染の対策にも役立つことから、この冬過去最悪とも言われる大気汚染を経験している中国の積極的な姿勢を後押ししています。

 

対策を取るほど経済が活性化するという世の中になれば、国際条約の中で排出削減目標達成そのものに法的拘束力を持たせずとも国や自治体、企業、個人が自発的に排出量が少ないものに投資を振り向けていくはずです。

 

さて、こうした報道記事をもとに、現状の問題点およびリスク、COP21の成果、そして今後の課題について以下にまとめてみました。

(現状の問題点およびリスク)

・この130年余りの間に世界の平均気温は0.85℃上昇していると指摘されていること

  例えば、インド東部の沿岸部では、毎年8mmのペースで海面上昇しており、既に満潮になると海水が勢いよく流れ込むため、堤防が壊れ、浸食に歯止めがかからなくなっている

  また、海水の侵入は今では内陸部にまで及んでいるため、モウスニ島の農地の3分の1が耕作不可能となり、地域産業に大きな打撃を与えている

・地球温暖化を防ぐためには、世界の平均気温を産業革命前に比べて2℃未満までに抑えることが必要とされているが、今のままでは達成が厳しいと指摘されていること

・世界の平均気温が3℃上昇した場合の世界各国の被害について、イギリス政府が以下のような報告をしていること

  最大40億人が水不足にみまわれる

  1億5000万人〜5億5000万人が飢餓に陥る

  最大1億7000万人が高潮の影響に直面する

・更に、このまま何も対策を取らなかった場合、今世紀末には産業革命前と比べると最大で5.4℃上昇すると予測されていること(IPCCによる報告)

そうなった場合、飢きんやマラリアなどが蔓延し、海面上昇の被害も各地で発生する可能性が高まると指摘されている

・京都議定書(1997年)により、先進国だけに温室効果ガスの排出削減が義務付けられていたが、2001年に当時世界最大のCO2排出国だったアメリカが議定書から離脱し、更に削減義務がなかった途上国のCO2排出量の割合が増加しつつあること

  2007年に中国が最大の排出国になった

  2012年には、途上国の排出量が全体の6割に達した

・アフリカ・ジブチのゲレ大統領は、アフリカ東部・中東では、異常な高温でこのままでは人が生きられなくなると指摘していること

・フランスのオランド大統領は、地球温暖化との戦いとテロとの戦いを分けることは出来ないと指摘していること

  温暖化が進むと干ばつになって、水不足や食料危機が起きて貧困が生まれる

  貧困に苦しんで、不満を持った人々が紛争を起こしたり、テロを起こしたりする

  従って、地球温暖化を防ぐことが貧困を減らし、テロを防ぐことにもつながる

・2012年には、中国(26%)、アメリカ(16%)、インド(6%)の3ヵ国だけで、世界のCO2排出量に占める割合が48%に達していること(日本は4%)

 ちなみに、人口一人当たりのCO2排出量の比較では、アメリカが約16トンと世界最多(主な原因はCO2排出量の多い石炭火力発電が発電容量の約4割を占めている)で、中国は約6トンである

・2030年には、中国(28%)、アメリカ(12%)、インド(10%)の3ヵ国だけで、世界のCO2排出量に占める割合が50%に達すると予測されていること (日本は3%) 

・世界のCO2排出量は2012年の317億トンから2030年には363億トンにと約15%増加すると予測されていること

 

(COP21の成果)

・地球温暖化問題に対して、途上国を含めて全ての国で危機意識が共有化出来たこと

・「産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑える」という国際目標を設定出来たこと

・海面上昇によって国土の消失などが懸念される島しょ国が強く求める「1.5度未満」も努力目標として併記したこと

・その上で「世界全体の排出量をできるだけ早く頭打ちにし、今世紀後半には温室効果ガスの排出量を実質ゼロ(排出量と吸収量の均衡を取ること)にする」ことを初めて盛り込んだこと

・先進国だけでなく途上国も含めて全ての国が自主的に温室効果ガスの削減目標を作成し、国連に提出、対策を取ることを義務付けられたこと

・途上国への資金支援

  現在の水準の年間1000億ドルは盛り込まれず、この水準を2025年にかけて引き続き目指すとする協定とは別の決定を行った

経済力のある新興国なども自主的に資金を拠出出来るとした

先進国は支援の状況を2年に一度報告する義務を課した

・各国の実施状況の報告と目標の5年ごとの見直しを義務化し、その内容を公表すること

・排出量の実績などについては専門家による検証を受けること

・世界全体の削減状況を2023年から5年ごとに確認すること

 

(今後の課題)

・国際目標達成するための各国による義務化を図ること

国際目標を達成するため、各国が自主的にCO2排出量の削減目標を作成し、国連に提出、対策をとることを義務付けたが、合意を優先した結果、目標の達成義務化は見送られた

 島しょ国など、温暖化の影響にさらされている国などを除けば、途上国や先進国は自らの削減目標の義務化に反対の立場を取っている

・国ごとにバラバラな目標年や基準年、削減目標などの評価項目の統一化を図ること

各国が自主目標を設定したため、目標年や基準年、削減目標が各国によりバラバラである

・世界の気温上昇を2℃未満に抑えるという共通の目標を達成するための対応策を策定すること

各国の削減目標を立ち上げても、世界の気温上昇を2℃未満に抑えるという共通の目標を達成することは出来ないと多くの研究機関が指摘していること

・途上国の地球温暖化対策に必要な膨大な資金の手当てを図ること

先進国から途上国への資金支援が最大の争点であったことが示しているように、途上国の地球温暖化対策には膨大な資金を要する

例えばインドでは再生可能エネルギー転換を目指しているが、その総費用は100兆円を超えると予想され、先進国からの支援が不可欠である

更に、インドでは温暖化により干ばつや洪水、熱波などの深刻化が懸念され、こうした被害の対策に少なくとも25兆円が必要とされている

 

こうしてCOP21についてまとめてみると、今後の課題難題はあるものの、法的な拘束力を持つ地球温暖化の新しい国際的な枠組み「パリ協定」を採択出来ました。

更に、地球温暖化対策の最終的なゴールともいえる「今世紀後半には温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」ことを初めて盛り込んだことは間違いなく地球温暖化に向けての世界的な取り組みを進めていくうえで大きく一歩前進したと言えます。

 

次回は、こうした問題やリスク、今後の課題を解決するための対応策についてお伝えします。


 
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