2016年02月20日
プロジェクト管理と日常生活 No.424 『軽井沢町のスキーバス事故は間違いなく人災!』

乗客(2人)と乗員(13人)の15人が亡くなり、26人が重軽傷を負った長野県軽井沢町のスキーバス事故から1ヵ月経った2月15日放送のニュース(NHK総合テレビ)で事故の経緯について報じていました。

番組を通して、今回の事故をプロジェクト管理の観点から見ると、明らかに人災であったことについてご紹介します。

 

まず、今回の事故の経緯について以下に箇条書きにまとめてみました。

・バスの運転手は、事故の約1ヵ月前に前のバス会社に在籍していた時に任意の運転適性検査を受けていた

  検査項目9つのうち、正確さ、速さ、むら、注意力の4つの項目で5段階で最も低い評価1と診断されていた

  総合評価も5段階で最も低い評価「特に注意」であり、コメント欄には全体的に注意力が散漫という記述もあった

  しかし、検査直後に退社したことから、この結果は会社や本人に渡されなかった

・この運転手は、転職後、バス会社に義務付けられている適正検査を受けないまま乗務して今回の事故を起こした

・事故直前、バスは制限速度の約2倍の時速96kmで走行しており、転落まで一度もスピードを落とさず、加速し続けていたと見られている

・警察は、運転手がギアを低速にするなどの適切な操作をしなかったことが事故につながったとみて分析を進めている

・一緒に乗務した経験のある同僚の運転手は、事故を起こした運転手について次のように証言している

  ハンドルさばきには疑問があった

  進路変更とか微妙に遅れたり、集中力が欠けたりは見られた

・国土交通省は、今回のバス事故を受けて全国のバス会社に運転手の適性検査の徹底を指示した

・交通機関の安全対策に詳しい専門家は、適性検査をバス会社に確実に実施させる仕組みが必要だとしたうえで、次のように指摘している

  多少、適性検査でこれはいかがなものかというものがあったとしても、ドライバーが足りないと仕事が回せていけないので乗せてしまうという現実が一方である

  そこにどうメスを入れて変えるか、制度設計で変えるべき大きな問題である

・国土交通省は、窓枠を大きく取り、車体の軽量化を図る大型バス特有の車体構造が深刻な被害につながった可能性がると見ている

・国内では、大型バスの車体構造について法的な基準は設けられていない

・国土交通省は、新たに車体強度の安全基準を設けるなど、車体の強度を高める対策を検討することにしている

 

とても驚かされるのは、事故を起こした運転手に対して、事故を起こしたバス会社が適性検査を実施していなかったこと、そして大型バスの車体構造について法的な基準は設けられていないことです。

常識的に考えて、新規雇用した運転手の適性検査も行わずに運転業務に就かせるということは考えられません。

ですから、それほど業界の競争が厳しく、このバス会社がかなり追い込まれていたという状況も想像出来ます。

それにしても、万一事故を起こした場合の影響を考慮すればあり得ない話です。

 

さて、連日のごとく、国内外を問わず様々な事故が起きており、そのたびに何らかの犠牲が払われています。

そして、その原因は大きく2つに分かれます。

一つは突然の突風や火山爆発のような天災、もう一つは人災、すなわち人に起因するものです。

そして、天災はいつ起きるか分かりませんから事前に防ぐことが出来ませんが、今回のバス事故のような人災はリスク管理次第で防ぐことが出来るのです。

 

では、具体的にどのようなリスク対応策が考えられるでしょうか。

先ほどの事故の経緯をもとに以下にまとめてみました。

・バス会社は、利益優先に走らず、普段から事故につながりかねない運転手の体調管理などに注意を払う

・バス会社は義務付けられている運転手への適正検査をルールに則り実施し、結果次第で乗車させないようにする

・国土交通省は、定期的に運転手の運行記録やバス会社による適性検査の実施結果を確認し、必要な対策を講じる

・国土交通省は、大型バスの車体構造について、万一の事故発生時にも被害を最小限に止めるように車体の強度を高める法的な基準を設ける

 

こうしてまとめてみると、今回のバス事故の原因はあまりにも単純で、明らかに人災であり、その代償はあまりにも大き過ぎます。

このような事故で身内の方を亡くされた家族のことを思うと、無念でなりません。

特に、今回の事故では多くの大学生が含まれていたといいます。

もし、バス会社が事前に適正検査を実施し、その結果に基づいて適切な判断がなされていれば、少なくともこの運転手による事故を防げたはずです。

また、もし事故が起きてもバスの車体強度がしっかりしていれば、犠牲者数はもっと少なくて済んだ可能性があるのです。

 

ということで、今回のバス事故発生におけるバス会社、および国土交通省の責任は大きいと言わざるを得ません。

また、同様のリスク対応策は、タクシー業界においてもそのまま通用すると考えます。

 

最後に、4年前のブログ記事、プロジェクト管理と日常生活 No.226 『悲惨なツアーバス事故発生の背景!』をご紹介します。

とても残念なことに、状況はいつも事後対策に終始していることです。

メソドロジーとして確立されているリスク管理という考え方をもっと国や企業経営者の方々には活用していただきたいと思います。


 
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