2024年05月06日
アイデアよもやま話 No.5887 和歌山県で「1億円プレーヤー」の農家が増えている!?
昨年12月7日付けネット記事(こちらを参照)で「なぜ和歌山県で「1億円プレーヤー」の農家が増えているのか」をテーマに取り上げていたので、その内容を以下にまとめてみました。
なお、この記事の著者は東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんです。

(農家の現状)
・肥料や農業資材、エネルギー……、ありとあらゆるコストは上がるが、大手流通が支配する市場構造の下、小売価格は上がらない。だから農家は儲からない。それどころか生活すらままならない。
・そうして誰も跡を継がず、生産者が減る。
・命を守る食料のはずなのに、外圧に負けて輸入自由化だけを進め、国内生産の苦境に手を差し伸べない。結果、自給率は下がる一方である。

(「1億円プレーヤー」の生産者が現れはじめた)
・農林水産省がまとめている営農類型別経営統計(令和3年)によると農業で生計を立てている主業経営体の農業粗収益は1638.8万円(農業所得は433.5万円)。そんな中、和歌山県ではなぜ1億円に達するような売り上げを誇る農家が増えているのか。
・和歌山の名産、梅を生産する中直農園の中山尙さんも1億円プレーヤーの一人だ。梅のほかにミカンも栽培する代々農家の家系だが、売り上げを伸ばしたのは現在の尙さんの代になってからだ。

(画期的な農産物流通の仕組み「野田モデル」)
・きっかけは、ある画期的な農産物流通の仕組みに乗ったことだった。
 -既存の農産物流通では農家は農協を通じて作物を出荷するのが一般的だが、いま中山さんはそれ以外のルートで7割の売り上げを稼ぐ。
 -このルートは売り上げだけでなく、経費などを引いた利益も格段に大きいという特色もある。そのおかげもあって、家族経営で細々と、というイメージとは無縁の「成長産業としての農業」を謳歌おうかしている。
・この農産物流通の仕組みを私は「野田モデル」と名付けた。
 -「野田」というのは、この仕組みを考案し、実践した野田忠氏の名前から取ったものだ。野田氏は1936年(昭和11年)の生まれでとっくに傘寿を超えている。とても穏やかでスマートな人だ。この仕組みを踏襲、実践する動きが広がれば日本の農業は復活すると確信するに至った。
・「野田モデル」はその状況をひっくり返す「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。それを実践するのが「産直市場よってって」という農産物直売所を多店舗展開する仕組みである。
 -これはいわゆる「チェーン店」とまったく違う、それぞれの直売所が個店の特徴を追求するスタイルで、その第1号店が生まれたのが田辺市だ。
 -「よってって」は、生産者が農産物を直接出品する直売所だ。1号店となるいなり本館は2002年5月にオープンした。
 -以来、着々と出店を重ね、現在、和歌山を中心に奈良県、大阪府に30店舗を展開する
 -新鮮で品質の良い農産物の直売所が話題になるケースは増えたが、ここまで多店舗展開した事例はほとんどない。
・あえて「非効率的」な売り場をつくる。
 -店内に一歩足を踏み入れれば、すぐに従来のスーパーマーケットとはまったく違う空間が広がっていることを実感する。
 -まず、「旬」の作物の圧倒的な豊富さだ。
 -和歌山といえば、ミカンの生産量が全国1位だということは義務教育で習う。だから品揃えが豊富なのはわかるが、よく見ると1列ごとに生産者が違う。袋に張ってある値札には、すべて生産者の名前が書いてあり、値段やサイズがそれぞれ異なるのだ。
 -季節ごとに店の表情はがらりと変わる。
 -普通のスーパーなら、生産者が違うとはいえ、同じ作物を大量に並べるような「非効率的」な売り場は決してつくらないが、「よってって」では、生産者が競い合うように収穫したばかりの「旬」の品を徹底的に並べる。
 -地元産で揃えて、大手の商品はいっさい置かない。
・扱っているのは農作物だけではない。
 -鮮魚売り場には「漁師さんから直送! 魚の産直」の文字。冷蔵ショーケースには地元の漁港を中心に水揚げされた魚が所狭しと並ぶ。
 -鰹、はまち、あじなど一匹まるごと販売する魚は手数料を払うと、注文どおりさばいてくれる。
 -さすがに精肉売り場は、鹿児島県産の豚肉など、他県のものも目立つが、米国やオーストラリアなど海外の牛肉などは置いていない。
 -加工食品はもっと“異様”だ。しょうゆや酢のような調味料も地元産のものばかり。
 -とはいえ、品揃えが薄いわけではない。しょうゆであれば、うすくちしょうゆ、刺身しょうゆなど、食卓に必要な種類はきちんと地元産で揃えてあり、来店客のニーズに応えている。

(「よってって」と既存の店舗との決定的な違い)
・たしかに生産者が作った野菜や果物などを中間流通を通さずに並べる直売所や、地元産の一次産品を取り扱う道の駅などは、いまや日本中のあちこちに見られるようになった。休みの日には、行楽がてら美味しいものを目当てに足を運ぶ人も多いだろう。
・だが、従来の直売所や道の駅で扱う野菜や果物などは、地元の1店か、多くても近隣の2〜3店でしか売ることができなかった。
・なぜなら、中間流通が担っているような物流機能を持っていないからだ。
・だから農家が頑張って直売所で売ったところで、店舗数が限られ、せいぜい「小遣い稼ぎ」程度に終わってしまった。
・鮮度の良さ、品質の高さや、生産者の顔が見える――など、直売所で買うメリットは広く認知されるようになったが、生産者の立場からすると販売を大きく広げることができないのがこれまでの難点だった。
・そもそも、そうした配送機能を持つ中間流通を「中抜き」するのが直売所の仕組みである以上、販売網を広げるのが難しいのが宿命である。
・それに対して、「よってって」は一人の生産者がつくった作物や商品を広域に販売できるのだ。和歌山を中心に奈良、大阪まで30店舗があるが、農家がある店舗に持っていくと、それを別の店舗に配送できるシステムが構築されているのである。
・つまり、農家は生産量さえ確保できれば、「よってって」の店舗ネットワークの広がりに合わせて販売数量を増やすことができるのだ
・このように、直売所の限界を打破し、農家が中間流通を通さずとも自分が生産した作物を広域で販売できるようにしたのが、「産直市場よってって」。そのシステムこそが「野田モデル」なのである

以上、ネット記事の内容をまとめてみました。

要するに、新たな農産物流通の仕組み、「野田モデル」を実践するのが「産直市場よってって」という、生産者が農産物を直接出品する農産物直売所の多店舗展開なのです。
その特徴は以下の通りです。
・生産者は誰でも出品出来る
・生産者が直接出品する農産物を多店舗展開するので、従来の道の駅や朝市などと異なり、売り上げを伸ばす場が広がる
・従って、従来に比べて、消費者に人気のある農産物の売上げは何倍にも増える
・従って、人気のある農産物の生産者は、より多く生産することにより、売り上げが更に伸びる
・従って、「1億円プレーヤー」の農家の出現も夢ではなくなる
・一方、消費者は同じ農産物でも、品揃えが豊富な、複数の生産者の農産物の中から選んで購入出来るので満足度が高くなる

こうして見ると、「産直市場よってって」はネット通販のアマゾンのリアル店舗版ということが出来ます。
どちらも基本的には同じビジネスモデルなのですが、「産直市場よってって」はリアル店舗であり、アマゾンはネット上の仮想店舗という違いがあります。
また、扱う商品によって、これらは住みわけられるのです。
「産直市場よってって」は取りたての旬の農産物、一方のアマゾンは賞味期限が比較的長い、あるいは賞味期限とは無関係の商品というようにです。

そして、「産直市場よってって」によって、和歌山県で「1億円プレーヤー」の農家が増えているという状況は、これから農家を目指している若い人たちにとっては一つの目標となります。

ということで、是非、「野田モデル」を実践する「産直市場よってって」を全国展開することで、日本の農業の再興を果たしていただきたいと思います。

 
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