９月１１日（月）放送の「クローズアップ現代」（ＮＨＫ総合テレビ）でジャニーズ性加害問題について、メディアの観点から取り上げていました。
なお、この内容はこちらでご覧いただけます。
以下にこの内容の一部をご紹介します。
ジャニーズ事務所の性加害問題、私たちメディアはなぜ伝えてこなかったのか、検証します。
“自分にも責任があったのではないか”、ＮＨＫで紅白歌合戦などを担当する部署のトップだった、元歌謡・演芸番組部長の大鹿文明さんが取材に応じました。
「この事件があまりにも若い子どもたちをあんな目に遭わせたという、ある種マスコミが加担したのではないかと言われることに対して、責任を感じるところがあって。」
「だから、誰かが語らなきゃいけない。」
先週（番組放送時）、会見を開いたジャニーズ事務所、初めて性加害の事実を認めました。
故ジャニー喜多川氏（４年前に死去）による未成年者への悪質な性加害に大手メディアはなぜ沈黙を続けたのか、私たちはＮＨＫや民放など４０人のテレビ関係者に取材しました。
元民放プロデューサーは次のようにおっしゃっています。
「自動的にジャニーズネタは外すという感じ。」
「アンタッチャブルというか、・・・」
性加害の問題が報じられず、深刻な事態は拡大し続けました。
元ジャニーズJr.の大島幸広さんは次のようにおっしゃっています。
「メディアが放送してくれれば、（被害を）止められた部分も絶対あるだろうし、同じことを繰り返さないで欲しい。」
被害にどう向き合うのか、メディアの責任を考えます。
先月（８月）に発表された、外部の専門家で作る再発防止特別チームの調査報告書によりますと、故ジャニー喜多川氏による性加害は事務所が設立される以前の１９５０年代には行われ、被害者の数は少なく見積もっても数百人はいるという複数の証言が得られたとしています。
その間、ＮＨＫを含む多くのメディアが沈黙を続ける中、事態を動かしたのは自ら声を上げた被害者たち、事務所の会見をどう見たのか、そして長年の沈黙によってどれだけ苦しめられてきたのか、まずはご覧いただきます。
元ジャニーズジュニア 二本樹顕理さんは次のようにおっしゃっています。
「ジャニーズ事務所が性加害の事実を認めたのは大きな一歩ですね。きちんと『被害者救済に向けて動いていきます』と言ったことに対しては、本当にそれが真実のものであってほしい。」
一方、会見で納得いかなかったのが事務所が社名を変えないとしたことでした。
「私自身退所してからずっとジャニーズという言葉とか名称を聞きたくなかった。その言葉を聞いてしまうと当時の状況を思い出したりフラッシュバックを起こしてしまう。」
NHKの音楽番組に出演するなど活躍していた二本樹さん。10回以上の性被害を受けたといいます。
“自分と同じ思いは誰にもさせたくない”、二本樹さんはメディアの取材を連日受けるなど、問題の深刻さを訴えてきました。
しかし、それは自らの心の傷と向き合う苦しい時間でもありました。
「取材ではこの性被害の体験を語らないといけないこともありまして、やはりそれは重いというか非常に気分的にはつらいものがありますね、相変わらず。」
「でもおそらく、この先も向き合っていかなければならない。」
さらに、声をあげたことで新たな苦しみを抱えることになりました。
ネット上のひぼう中傷です。
「目にするもの一つ一つ真に受けてしまって。非常にうつっぽい状態になって気持ちもひどく落ち込みましたし、食事ものどを通らないぐらいまでになった。」
「実名・顔出ししないほうがよかったんじゃないか、言わなきゃよかったんじゃないかという思いは、おそらくこの問題が完全に解決するまで付きまとう。」
この日、二本樹さんは男性性被害のカウンセリングを行う第一人者を訪ねました。
自分と同じように苦しむ人の参考になればと私たちを同行させてくれました。
カウンセリングでは最初から被害体験は聞かず、自分の“支えになった経験”などを思い起こしてもらいます。
心理カウンセラーの山口修喜さんは次のようにおっしゃっています。
「人によっては20年、30年、40年、50年と影響を及ぼしていくのが性虐待の破壊力。」
「勿論、そこから回復することは可能なんですけど、時間がかかったり、簡単なことではないです。」
ＢＢＣの報道（こちらを参照）以降、名前や顔を出して取材を受けてきた被害者たち。
日本の大手メディアがもっと早く報じていれば事態が動いていたのではと語る人がいます。
元ジュニアの大島幸広さん、約２年の在籍の中で２００回以上被害を受けたといいます。
「「本当に怖いですよね。」
「やっているときも本当怖かったです。」
「逃げたいし、悩んでましたね。」
「なんか沈んだ感覚というんですかね、よみがえるんですよ。」
「ずっと２３年間、鮮明なんですよ、されたときからずっと。」
「忘れることはないでしょうし、死ぬまで絶対、付きまといますよね。」
「メディアが放送してくれれば（被害を）止められた部分も絶対あるだろうし、同罪と言っていいんじゃないか。」
「でも過去は変えられないんで、今から本当に同じことを繰り返さないで欲しい。」
被害者に事態を動かす役割を担わせてしまった。
この事実を重く受け止め責任を痛感しています。
今、勇気を振り絞って証言している方がひぼう中傷されることはあってはなりません。
また、声をあげないという人がいても、ご自身に非はないとお伝えしたいと思います。
今回の問題、調査報告書も被害が長期化し、拡大した背景に「マスメディアの沈黙」があったとしています。
これまで私たちメディアが、この問題を報じるタイミングがなかったとは言えません。
ジャニー喜多川氏による性加害に関する告発本が出たり、１９９９年には週刊文春がキャンペーン記事を展開。
その後、ジャニー氏と事務所が文藝春秋社側を名誉毀損で訴えた裁判では、２００３年に高裁判決で性加害についての記述が真実であると認定され、翌年の２００４年最高裁で高裁判決が確定しました。
特にこのタイミングに問題を報じることが出来たのではないかと考え、当時NHKや民放で報道や芸能の責任ある立場にあった人たちを取材。
内部で何があったのか聞きました。
今回取材したのは、ＮＨＫと民放の元職員や現役合わせて４０人。
なぜ沈黙することになったのか。それぞれが当時の状況を語りました。
結果的に性加害を黙認していた１人だとして、インタビューに応じた人がいます。
民放でプロデューサーを務めた吉野嘉高氏です。
あくまで個人の見解とした上で取材に答えました。
１９９０年代から２０００年代にニュースや情報番組に携わった吉野氏。
性加害の問題は告発本などで認識していました。
しかし、スポンサーなどへの配慮から当時、ジャニーズ事務所の問題を放送で取り上げることはタブーだったといいます。
「ジャニーズは触れないということですよ。」
「触ると大ごとになる可能性があるから、やり過ごしたほうがいいということが最初に言われたし、ＣＭに出ているタレントさんも多いですから営業とかスポンサーさんとかジャニーズ関連のものは全てアンタッチャブルにしていくと。」
「そこから先は自動的にジャニーズネタがきたら、これは扱えないって瞬時に判断するようになっていく。」
「そこにもう疑問も持たない、条件反射。」
ジャニー喜多川氏の性加害が真実であると裁判で確定した２００４年。
吉野氏は情報番組の解説者でしたが、この時も報道すべきだと声をあげることはなかったといいます。
「出来なかったわけではないんですよ。」
「これは逃げた方がいいなって打算でしょうね。」
「例えばジャニー喜多川氏が逮捕された、あるいは逮捕令状が出された段階であれば、テレビは確実に報道していたと思います。」
「でも警察からそういう捜査を受けたという情報は僕は得ていないので、自分の役割を越えているのかなと思っていた。」
「報道しなかった結果、今のような事態に至っているので、責任ということで言えば、その一端はある。」
「ペン（報道）かパン（利益）かの選択において、結果的にはパン（利益）の方を選択してしまったのかもしれない。」
利益の追求や事務所、スポンサーなどへの忖度が働き、提起することがなかったという性加害の問題。
NHKの関係者はどう捉えていたのか。
２００４年当時、紅白歌合戦などを統括する歌謡・演芸番組部長だった大鹿文明氏です。
自分が感じていたことだとして当時を振り返りました。
「大きな犯罪とか事件だと捉えなかった。」
「芸能部長になったわけですから逆に言えばセンサーって言うんですかね、持ち得ているべきだったのかなって気がしますね。」
長年、番組の美術を担当してきた大鹿氏。
紅白をめぐる不祥事を受け、専門ではない歌謡・演芸番組部長になりました。
性加害の問題に関しては当時認識しておらず、部内でも話題になることはなかったといいます。
「全くなかったですね。」
「事務所との交渉を少し慎重にやろうねとかっていうことが一切なかったですね。」
「（部内では）重大に捉えていなかった。」
「そこに尽きるでしょうね。」
「未成年に対して許せないことをやっていたという意識は薄かったなっていう気はしますね。」
今回取材した元NHK職員の中には、文春の報道や裁判について知りながら問題視することはなかったという人もいます。
「裁判のことは知っていたが 出演の判断に影響を与えることはなかった。」
「売れているタレントをキャスティングしたかった。」
２００５年、大鹿氏が責任者だった紅白の舞台裏を描いた番組です。
視聴率の低迷が指摘される中、この年もジャニーズ事務所のタレントの起用が続きました。
「芸能とか娯楽番組っていうのは、やっぱり見てもらってなんぼやっていう、やっぱり意識を持つじゃないですか。」
「それは僕は否めないと思っているんですけどね。」
「そうなってくると、そのバックに持っている（ファンの）数っていうのが非常に欲しくなるっていうんですかね。」
人気や知名度のある芸能人を起用して番組を作る一方で、性加害の問題に思いが至らなかったという大鹿氏、今、重く受け止めています。
「この事件があまりにも若い子どもたちをあんな目にあわせたという、ある種、マスコミが加担したんではないかと言われることに対して責任を感じるところがあって。」
「これはなんて言うんですか、猛省という言葉を使って軽すぎるのかもしれないぐらい。」
今回私たちは、ＮＨＫや民放など５３人に打診し、４０人から話を聞きました。
ＶＴＲでご覧いただいた以外にも、２００４年前後にドラマやエンターテインメント部門にいたＮＨＫの元職員たちからこういった話がありました。
ＮＨＫ 元音楽番組プロデューサー（一部を抜粋）：
「裁判を理由に、「ジャニーズの起用をどうしようか」と言えば、「お前、おかしいんじゃないの」と言われるような時代だった。」
ジャニーズ事務所のタレントが出演していた文化芸能番組の元幹部：
「（性加害については）「そういうこともあるのかな」ぐらいのうわさレベル。」
「懸案事項として上ったことはない。」
一方で、時期を少しさかのぼりますとこんな声もありました。
ＮＨＫ 元文化芸能番組幹部、９０年代ジャニー氏と親交があった元プロデューサー（一部を抜粋）：
「ジャニーさんの家に何度も行っていたから、子どもたちが泊まっていたことは知っている。」
「でも、そういう“えげつない世界”や“性的な部分”は知りたくないと思っていた。」
「視聴者獲得のために清濁併せ吞んでやってきた。」
また、民放の元社員の方はこういった声がありました。
ＮＨＫ 元ジャニーズ出演番組プロデューサー：
「ジャニーズが使えなくなったら、ドラマも止まり、番組も出来なくなり、どうするのか。」
「考えるまでもなくNOだ。」
民放 元編成幹部の報道番組プロデューサー（一部を抜粋）：
「番組を横断して調整する“ジャニ担”という御用聞きが局内にいて、その人物以外はジャニーズの話題に触れてはいけないし、マネージャーに電話すら出来ない状況だった。」
「もしクビ覚悟で取材出来たとしても、放送は出来なかったと思う。」
この他、ＮＨＫを退職後にジャニーズ事務所の顧問を務めている長年芸能やドラマ部門にいた元理事にも重ねて取材を申し込みました。
性加害が見過ごされていたことへの見解を問いましたが、この点について回答は得られませんでした。
こうして複数のＮＨＫ元職員に話を聞く中で共通してあがった声があります。
ＮＨＫ 元ジャニーズ出演番組プロデューサー（一部を抜粋）：
「事件化されて大々的に報道されていれば別だが、NHKも全く報道していない状態で、ジャニーさんを責める人はいなかった。」
ここからは、現在ジャニーズ事務所の性加害問題を担当している取材班の松井裕子デスクとお伝えします。
よろしくお願いします。
まず、ＮＨＫはなぜこの問題を長年報じてこなかったのでしょうか。
松井 裕子（社会部デスク）：
今回、裁判の時期を中心に報道の当時の担当デスクや記者にも話を聞きました。
ＮＨＫ 元司法担当記者（一部を抜粋）：
「芸能ネタは民放や週刊誌に任せておけばいいし、NHKの報道では扱わないという風潮だった。」
ＮＨＫ 元文化担当デスク：
「判決を新聞記事では見た記憶がある。」
「芸能ネタは自分たちのカバー範囲だという認識はあったが、文春報道に関しては、「芸能界の内輪の話だよな」と思っていた。」
といったように、週刊誌の報道であることとか、それから芸能スキャンダルと見なしていたことによって、ニュースで扱うに値しないと考えていたという声がありました。
また、性被害に対する意識の低さもありました。
ＮＨＫ 元司法担当デスク（一部を抜粋）：
「男性の性被害の問題に関心が低かった。」
「問題視すべきという認識がなかった。」
ＮＨＫ 元社会部デスク（一部を抜粋）：
「当時すでにセクハラに対しては社会問題という意識はあり、報じられていた。」
「振り返るとニュースとして扱うべきで、判断が甘かった。」
松井 裕子（社会部デスク）：
「そういった声がありました。」
そして、報道番組として３０年前から放送している「クローズアップ現代」（クロ現）でもこの問題を取り上げてきませんでした。
なぜなのか。
過去の編集責任者に聞きました。
すると、こういった回答がありました。
ＮＨＫ ２００４年 元クロ現編責（一部を抜粋）：
「当時、「性犯罪事件だ」という認識が欠落していた。」
ＮＨＫ ２００５年 元クロ現編責（一部を抜粋）
「あの世界はそういうものなんだという認識で、クロ現で特筆して取り上げようということにはならなかった。」
こうして見ますとドラマやエンターテインメント部門では問題に向き合おうとせず、報道では性被害や芸能界で起きる問題への意識の低さがあったと言えます。
松井さん、この問題の取材班のデスクとしてどういうことを感じていますか。
松井さんは次のようにおっしゃっています。
「（この問題の取材班のデスクとしてどういうことを感じているかという問いに対して、）今回はですね、、当時の裁判の時期の前後を中心に話を聞いたわけですれけども、ＮＨＫではその後もおよそ２０年にわたってこの問題を取り上げてきませんでした。」
「私たちメディアが報じてこなかったことで被害が拡大したと指摘されていること、その責任を重く受け止めています。」
「もし、どこかのタイミングでもっと感度を高く持ってこの問題の一端でも伝えることが出来ていたら、ジャニーズ事務所の問題だけでなく、子どもや男性の性被害、芸能界での性被害の問題について提起する機会となって、そこから新たな被害者が出ることを少しでも減らすことが出来たかもしれない。」
「そう考えると私自身も児童虐待など子どもの問題を取材してきた立場ですけれども、本当になぜ問題意識をもっと広げることが出来なかっただろうかとじくじたる思いがあります。」
「（今後自分たちに何が必要だと考えているかという問いに対して、）今回、話が聞けたのは一時期の限られた人たちだけです。」
「その後も長期間にわたって、なぜ私たちは海外のメディアに出来たことができなかったのか。」
「そんたくや圧力はなかったのか。」
「また、今後もさらに検証をしていく必要があると考えています。」
ここからは企業法務やビジネスと人権の問題に詳しい、弁護士の蔵元左近さんに伺っていきます。
蔵元さんは「当事者の会」の相談も受けていらっしゃいます。
蔵元さんは次のようにおっしゃっています。
「（ＮＨＫも含めてメディア関係者の声をお聞きいただきましたが、その感想について、）このような調査報道されること自身はすばらしいと思います。」
「ただ率直に申し上げて、まだまだ突っ込み不足というふうに思います。」
「つまり、今回のような事件を二度と再発させないということ考えるうえでは、やはりＮＨＫ内の組織上の問題、体制上の問題というのがあったと思いますので、それを実際に究明するというような徹底的な事実調査が必要です。」
「そのツールの一つではありますけども、第三者委員会の設置ということも必要に応じて行われるべきと思います。」
「（再発防止の対策を打っていくという、ここもしっかりとやっていかなければいけないという指摘に対して、）まさに仕組みを作っていく。」
「仕組みに落とし込んでいくということをしないと、個人個人の善意や感度の高さというだけではあまりにも不安定、不完全ですので体制の整備、仕組み作りが大事だと思います。」
先週、ＮＨＫはジャニーズ事務所の会見を受けてコメントを出しました。
会見を受けたＮＨＫコメント ９月７日（一部を抜粋）
ジャニーズ事務所に所属するタレントの起用についても見直すべきだとのご指摘を受けています。
ＮＨＫでは、出演者の起用については、番組の内容や演出に合わせてふさわしい人を選定してきましたが、今後は、所属事務所の人権を尊重する姿勢なども考慮して、出演者の起用を検討したいと考えております。
蔵元さんは次のようにおっしゃっています。
「（スポンサー、企業の中には今、契約を見直すという動きも見られていますが、メディアは事務所との関係をどのように築いていったらいいのかについて、）国連の、ビジネスと人権指導原則という原則がありますけれども、それに基づきますとメディア、企業、事業体としては取引関係を維持しつつも影響力を適正に行使してジャニーズ事務所の再発防止の体制の整備作りを厳しく監視して具体的な対策というものを要請し、期限を明示してそれまでに実行するように厳しく要請していくということが大事だと思います。」
「（適切な影響力を行使するというのは具体的にどういうことなのかという問いに対して、）例えば、ＮＨＫやメディア自身が人権を尊重するという責任を負っていますので、まさに能動的に再発防止、または救済がきちんと図れるように具体的な対策というのを明示して、それを要請していくと。」
「それを監視していくということが大事になります。」
「（監視していくというのは、もう少し具体的に言うと、）この期限内において、この行為をして欲しい、この体制を整備して欲しいということをメディア、企業がジャニーズ事務所に対して要請をしていくということになります。」
その姿勢を貫いていくと。
ありがとうございます。
この、助けを必要としている人の存在に気付かない、気付こうとしない、そんな状況を二度と生まないために私たちはどんな覚悟で臨まなければならないのか。
メディアに身を置く一人一人が自ら問い直していく必要があると強く感じています。
以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。
なお、８月４日（金）放送の「ワールドビジネスサテライト」（テレビ東京）でも同様のテーマについて取り上げていたのでご紹介します。
企業活動における人権侵害を調査するために来日している国連の専門家が会見を開きました。
ジャニーズ事務所 前社長の性加害問題について、「深く憂慮すべき疑惑」が明らかになったと指摘しました。
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家は、日本記者クラブでの会見でジャニーズ事務所のジャニー喜多川 前社長による性加害問題について、「タレント数百人が性的搾取に巻き込まれるという、深く憂慮すべき疑惑が明らかになった」と述べました。
また、「日本メディアが数十年にわたり、不祥事のもみ消しに加担したと伝えられている」と言及しています。
最終報告書は来年６月に国連の人権理事会に提出だれる予定です。
国連の聞き取り調査を受けた元所属タレントで、ジャニーズ性加害問題当事者の会の平本淳也代表は次のようにおっしゃっています。
「（会見中は）メッセージが僕たちにいただけたというような印象で、とても感極まってしまったっていう。」
ジャニーズ事務所はテレビ東京の取材に対し、次のように答えております。
「国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会のご見解を厳粛に受け止め、被害を申告されている方々と真摯に向き合い、丁寧に対話を続けさせていただきたいと考えております。」
「今後予定の記者会見にて弊社の取り組みを誠心誠意、ご説明させていただく所存でございます。」
これらを受け、テレビ東京は「性加害は重大な人権侵害であり、いかなる性暴力も許されません。国連人権理事会 作業部会の指摘を重く受け止め、ジャニーズ事務所による検証と対応を注視してまいります。」とのコメントを発表しています。
以上、番組の内容をご紹介してきました。
２つのテレビ番組、および関連記事の内容を以下にまとめてみました。
・８月に発表された、外部の専門家で作る再発防止特別チームの調査報告書によると、故ジャニー喜多川氏による性加害は事務所が設立される以前の１９５０年代には行われ、被害者の数は少なく見積もっても数百人はいるという複数の証言が得られたとしている
（故ジャニー喜多川氏による未成年者への悪質な性加害の実態）
・元ジャニーズジュニア 二本樹顕理さんの事例：
-NHKの音楽番組に出演するなど活躍していた二本樹さんは１０0回以上の性被害を受けた
-退所してからずっとジャニーズという言葉や名称を聞きたくなかった
-“自分と同じ思いは誰にもさせたくない”という思いで、メディアの取材を連日受けるなど、問題の深刻さを訴えてきた
-しかし、それは自らの心の傷と向き合う苦しい時間でもあった
-更に、声をあげたことで新たな苦しみ、すなわちネット上のひぼう中傷を抱えることになった
・元ジュニアの大島幸広さんの事例：
-約２年の在籍の中で２００回以上被害を受けた
-ずっと２３年間、被害を受けた時からの記憶が鮮明だという
-メディアが放送してくれれば、被害を止められた部分も絶対あるだろうし、同罪と言っていいんじゃないかという
-過去は変えられないので、今から本当に同じことを繰り返さないで欲しいという
（男性性被害のカウンセリングを行う第一人者、心理カウンセラーの山口さんの指摘）
・人によっては20年、30年、40年、50年と影響を及ぼしていくのが性虐待の破壊力である
・そこから回復することは可能だが、時間がかかったり、簡単なことではない
（これまでのメディアの対応）
・故ジャニー喜多川氏による性加害に関する告発本が出たり、１９９９年には週刊文春がキャンペーン記事を展開した
・その後、ジャニー氏と事務所が文藝春秋社側を名誉毀損で訴えた裁判では、２００３年に高裁判決で性加害についての記述が真実であると認定され、翌年の２００４年最高裁で高裁判決が確定した
・特にこのタイミングに問題を報じることが出来たのではないかという観点で、当時NHKや民放で報道や芸能の責任ある立場にあった人たちを取材した結果は以下の通りである
民放でプロデューサーを務めた吉野さん：
-１９９０年代から２０００年代にニュースや情報番組に携わっていた
-性加害の問題は告発本などで認識していた
-しかし、スポンサーなどへの配慮から当時、ジャニーズ事務所の問題を放送で取り上げることはタブーだったという
-触ると大ごとになる可能性があるから、やり過ごした方がいいということが最初に言われた
-そこから先は自動的にジャニーズネタがきたら、これは扱えないと瞬時に判断するようになっていく
-条件反射でそこにもう疑問も持たない
-ジャニー喜多川氏の性加害が真実であると裁判で確定した２００４年、吉野氏は情報番組の解説者だったが、この時も報道すべきだと声をあげることはなかった
-報道しなかった結果、今のような事態に至っているので、責任の一端はある
-「ペン（報道）かパン（利益）かの選択において、結果的にはパン（利益）の方を選択してしまったのかもしれない
ＮＨＫで２００４年当時、紅白歌合戦などを統括する歌謡・演芸番組部長だった大鹿さん：
-大きな犯罪とか事件だと捉えなかった
-芸能部長になったので、センサーを持ち得ているべきだったという気がする
-紅白をめぐる不祥事を受け、専門ではない歌謡・演芸番組部長になった
-性加害の問題に関しては当時認識しておらず、部内でも話題になることは全くなかったという
-未成年に対して許せないことをやっていたという意識は薄かったなっていう気はする
-２００５年、大鹿氏が責任者だった紅白の舞台裏を描いた番組では、視聴率の低迷が指摘される中、この年もジャニーズ事務所のタレントの起用が続いた
-人気や知名度のある芸能人を起用して番組を作る一方で、性加害の問題に思いが至らなかったという大鹿氏、今、重く受け止めている
・２００４年前後にドラマやエンターテインメント部門にいたＮＨＫの元職員たちを取材した結果は以下の通りである
ＮＨＫ 元音楽番組プロデューサー（一部を抜粋）：
-裁判を理由に、「ジャニーズの起用をどうしようか」と言えば、「お前、おかしいんじゃないの」と言われるような時代だった
ジャニーズ事務所のタレントが出演していた文化芸能番組の元幹部：
-性加害については「そういうこともあるのかな」ぐらいのうわさレベル
-懸案事項として上ったことはない
・時期を少しさかのぼった声：
ＮＨＫ 元文化芸能番組幹部、９０年代ジャニー氏と親交があった元プロデューサー（一部を抜粋）：
-ジャニーさんの家に何度も行っていたから、子どもたちが泊まっていたことは知っている
-でも、そういう“えげつない世界”や“性的な部分”は知りたくないと思っており、視聴者獲得のために清濁併せ吞んでやってきた
民放の元社員でＮＨＫ 元ジャニーズ出演番組プロデューサー：
-ジャニーズが使えなくなったら、ドラマも止まり、番組も出来なくなり、どうするのか、考えるまでもなくNOだ
民放 元編成幹部の報道番組プロデューサー（一部を抜粋）：
-番組を横断して調整する“ジャニ担”という御用聞きが局内にいて、その人物以外はジャニーズの話題に触れてはいけないし、マネージャーに電話すら出来ない状況だった
-もしクビ覚悟で取材出来たとしても、放送は出来なかったと思う
・この他、ＮＨＫを退職後にジャニーズ事務所の顧問を務めている長年芸能やドラマ部門にいた元理事にも重ねて取材を申し込み、性加害が見過ごされていたことへの見解を問いたが、この点について回答は得られなかった。
・こうして複数のＮＨＫ元職員に話を聞く中で共通してあがった声がある
-週刊誌の報道や芸能スキャンダルと見なしていたことによって、ニュースで扱うに値しないと考えていた
-性被害に対する意識の低さもあった
・報道番組として３０年前から放送している「クローズアップ現代」（クロ現）でも以下の理由からこの問題を取り上げてこなかった
-当時、「性犯罪事件だ」という認識が欠落していた（NHK 2004年 元クロ現編責）
-あの世界はそういうものなんだという認識で、クロ現で特筆して取り上げようということにはならなかった（NHK 2005年 元クロ現編責）
・こうした大手メディアによる沈黙により、性加害の問題が報じられず、深刻な事態は拡大し続けた
（メディアとしてＮＨＫは被害にどう向き合うべきか）
・今後もさらに検証をしていく必要がある
・今回の事件の再発防止策として、ＮＨＫ内の組織上の問題、体制上の問題を実際に究明するというような徹底的な事実調査が必要である
・そのツールの一つとして、第三者委員会の設置も必要に応じて行われるべきである
・こうした結果に基づいて、体制の整備、仕組み作りが大事である
・出演者の起用については、番組の内容や演出に合わせてふさわしい人を選定してきたが、今後は所属事務所の人権を尊重する姿勢なども考慮して、出演者の起用を検討したいと考えている
-ＮＨＫは１１月１３日、大みそかに放送する「第７４回紅白歌合戦」の出場歌手を発表した。ジャニー喜多川氏による性加害問題があった旧ジャニーズ事務所の所属タレントは１９８０年以来連続出場してきたが、この日の発表リストに名前はなく、最終的に４４年ぶりに出場者ゼロとなる見込みだ。（こちらを参照）
（ジャニーズ事務所の対応 こちらを参照）
・９月７日、会見を開いたジャニーズ事務所は初めて性加害の事実を認めた
・ジャニーズ事務所は１０月１７日、社名を「ＳＭＩＬＥ−ＵＰ．」に変更した
・被害者への補償は１１月からこの会社が行う
（企業法務やビジネスと人権の問題に詳しい、蔵元左近弁護士の見解）
・国連の「ビジネスと人権指導原則」基づくと、メディア、企業、事業体としては取引関係を維持しつつも影響力を適正に行使してジャニーズ事務所の再発防止の体制の整備作りを厳しく監視して具体的な対策を要請し、期限を明示してそれまでに実行するように厳しく要請していくということが大事である
-適切な影響力を行使するとは、例えば、ＮＨＫやメディア自身が人権を尊重するという責任を負っているので、まさに能動的に再発防止、または救済がきちんと図れるように具体的な対策を明示して、それを要請し、それを監視していくということが大事になる
-監視していくというのは、具体的には、この期限内において、この行為をして欲しい、この体制を整備して欲しいということをメディア、企業がジャニーズ事務所に対して要請をしていくということである
（国連の専門家の会見）
・企業活動における人権侵害を調査するために国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家が来日し、ジャニーズ事務所のジャニー喜多川 前社長による性加害問題について日本記者クラブで会見を開いた
-ジャニーズ事務所 前社長の性加害問題について、「深く憂慮すべき疑惑」が明らかになったと指摘した
-また、「日本メディアが数十年にわたり、不祥事のもみ消しに加担したと伝えられている」と言及した
-最終報告書は来年６月に国連の人権理事会に提出だれる予定である
・国連の聞き取り調査を受けた元所属タレントで、ジャニーズ性加害問題当事者の会の平本淳也代表はこの会見内容を好意的に受け止めている
・ジャニーズ事務所はテレビ東京の取材に対し、「国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会のご見解を厳粛に受け止め、被害を申告されている方々と真摯に向き合い、丁寧に対話を続けさせていただきたいと考えております。」と答えている
・これらを受け、テレビ東京は「性加害は重大な人権侵害であり、いかなる性暴力も許されません。国連人権理事会 作業部会の指摘を重く受け止め、ジャニーズ事務所による検証と対応を注視してまいります。」とのコメントを発表している
なお、７月４日（火）付けネット記事（こちらを参照）では以下のように報じています。
・ジャニーズ事務所前社長の故ジャニー喜多川氏の性加害問題で、3月に告発のドキュメンタリー番組「プレデター（邦題・J—POPの捕食者）」を放映した英BBC放送のモビーン・アザー記者（43）が本紙（東京新聞）取材に応じた。
・アザー氏は、喜多川氏が死去した時の日本メディアの報じ方に「よく似たパターンがあった」と話す。
-日本のポップ音楽のゴッドファーザーで、当時の安倍晋三首相が弔電を送り、最も多くのコンサートをプロデュースしてギネスブックにも載ったこと
-そして最後に不祥事への言及がほんの少しだけあった。それが「興味をそそった」という
・さらに週刊文春の記事を巡る名誉毀損(きそん)訴訟で、東京高裁が2003年、記事中の10件の申し立てのうち、喜多川氏の性加害を含む9件を事実と認定していたことも知った。「なのになぜ、日本の報道では語られないのか。多くのメディアに連絡を取ったが、壁が立ちはだかった。『見えているのに隠れている物語』だった。誰もやっていないなら、私たちがやるしかないと思った」と振り返る。
・被害証言を探すにあたり、取材チームはネット上のジャニーズ百科事典のようなサイトを参考に数百人にアプローチし、数十人から返事があったという。番組公開後、新たに返事をくれた人もいる。被害者の多くは「ある種の心的外傷後ストレス障害（PTSD）を抱えていた」とも感じた。取材にあたり、答えたくないことがあれば撮影中いつでも中断できること、撮影後に公開したくないと思った部分があっても構わないことなどを説明し、番組で発言した全ての人にカウンセリングを提供した。放映後も連絡を取り、反応を確認しているという。
・アザー氏は、被害者たちの証言を引き出せたのは「BBCが日本の外にある組織だったことも重要」という。「私は日本語を話せず、通訳を介して話したが、被害者の多くは『日本文化の一部でない人と話すことで、より大きな自由を感じた』と言った。日本の報道界にいないおかげで、より正確で正直にこの物語を伝えることができた」ととらえる。
・アザー氏は日本メディアとジャニーズ事務所の長年の「共犯関係」を指摘し、「日本文化では礼儀正しさが重んじられ、問題がある場合にそれを指摘することは、失礼だとみなされることがある。私は報道陣にそれを見たように思う」と話す。
・「事務所の機嫌を損ねるから記事を書けないという声を何度も聞いた。それは本当に問題だ」といい、「今は状況が変わり、日本の視聴者は搾取について知りたがっている。社会正義は重要だ。この問題を取り上げた日本のメディアに感謝と連帯を示すとともに、今後も取り上げ続けることを訴えたい」と話す。
・日本の警察の捜査が行われていないこともアザー氏は疑問視する。警察にも取材を申し込んだが、拒否されたという。「現在の日本のシステムでは、私が日本の警察にインタビューできる権利はない。多くの国で警察の取材をしてきたが、こんな壁に直面したのは初めてだった」と憤る。
・日本の長年のタブーに風穴を開けたのが海外メディアのBBCだったことで、日本メディアの自己規制にも批判が高まった。アザー氏は「私は『相手が大きすぎる』という考えを恐れる。英国でも世界のほかの国々でも、ジャーナリストは何が取材でき、何が取材できないかを集団的に学んでしまう。自己検閲の文化が起きているのは日本だけではない」と語る。
・「でも私はこれを読んだ全ての記者に、何が正しくて何が間違っているかという道徳について本当に考えてほしい。声なき声がどこにあるのか。そしてデスクや編集者と議論して、困難を乗り越えてほしい」
以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。
このように長々とお伝えしてきましたが、まず思ったのは以下の流れです。
・ジャニー喜多川氏による性加害に関する告発本が出たり、１９９９年には週刊文春がキャンペーン記事を展開した
・その後、ジャニー氏と事務所が文藝春秋社側を名誉毀損で訴えた裁判では、２００３年に高裁判決で性加害についての記述が真実であると認定され、翌年の２００４年最高裁で高裁判決が確定した
・にも係わらず、故ジャニー喜多川氏の性加害問題で、今年３月に告発のドキュメンタリー番組「プレデター（邦題・J—POPの捕食者）」が放映されるまで社会的に大きく問題視されることはなかった
要するに、故ジャニー喜多川氏の性加害問題について、ジャニーズ事務所の内部では全く放置された状態が長年に渡って続いていたのです。
一方、テレビ局による出演者の選択基準は、ジャニーズ事務所の経営者、故ジャニー喜多川氏が犯罪行為を犯していると認識はしていても、このことには目をつむって、より高い視聴率を目指して、どこの事務所の所属でも人気タレントは積極的に採用するということだったのです。
また、大手マスコミも一部の週刊誌の報道であることや芸能スキャンダルと見なしていたことによって、ニュースで扱うに値しないと考えていた面があったといいます。
また、性被害に対する意識の低さもあったといいます。
そもそも性被害に遭ったジャニーズ事務所のタレントが勇気を振り絞って声をあげたことが性加害問題発覚の出発点なのです。
ですから、もし、こうした被害者が声をあげていなければ、今回の問題は未だに闇に葬られた状態が続いていたかもしれないのです。
では、なぜ今回の性加害問題が起きてしまったのか、そして長年にわたり続いたのかですが、私は以下のように考えます。
・社会的に性被害に対する意識の低さ
・ジャニーズ事務所には、事務所内のタレントが故ジャニー喜多川氏による性被害に遭っても声を上げにくい組織風土があったこと
・テレビ局、マスコミ、政府、警察がそれぞれの立場で、今回の性加害問題に背を向けて放置してきたこと
・こうした問題が発生しても、放置される背景には以下の２つの要因がある
�� 勢力・権力のある者には、逆らわないほうが得である、すなわち“長い物には巻かれろ”という社会通念がある
�� 被害者が声を上げた場合、被害者はそうした事実を世間に知られること、あるいはマイナスの影響（タレントして使ってもらえなくなることなど）が怖いと感じる
さて、プロジェクト管理の観点から見ると、中でもリスク管理はとても重要です。
リスクとは、物事に取り組んでいく上で、予見される様々な障害であり、こうしたリスクを事前に察知し、洗い出して、個々の障害が実際に発生しないように講じる対策全般をリスク管理というのです。
そこで、今回の性加害問題について、リスク管理の観点から以下にまとめてみました。
（リスク管理）
・社会的に性被害に対する意識を高めること
・報道機関は真実について、忖度せずに、また自己検閲せずに法に照らして、タイムリーに間違ったことはしっかりと報道すること
・タレントが性被害に遭った場合の第三者的な窓口を明確にすること
・タレントが性被害に遭ったことを公言した場合、所属事務所はそのタレントがマイナスの影響を与えるような対応を一切してはならないと法制化すること
-性被害に遭ったタレントに所属事務所は適正な謝罪料を支払う
-事務所自体が性加害を起こしたことによる処罰を受けるようにする
（コンティンジェンシープラン）
・もし、実際にタレントが性被害に遭った場合、そして、タレントがこのことが原因で事務所を辞める場合には、所属事務所は謝罪料を支払うこと（例えば、給料の３年分）
・事務所は法に基づいて処罰を受けること
（再発防止策）
・発生した不祥事に対して、関係組織はそれぞれの立場からきちんと原因を究明し、二度と同じことが起きないように対策を講じること
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