2022年05月28日
プロジェクト管理と日常生活 No.747 『知床の遊覧船事故に見るハインリッヒの法則』
4月25日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で知床の遊覧船事故に見るハインリッヒの法則について取り上げていたのでご紹介します。 

4月23日(土)に遊覧船「KAZU I(カズ ワン)」が北海道斜里郡斜里町の知床半島西海岸沖のオホーツク海域で消息を絶ち、遭難した事故について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「(事故を起こしたのは今回だけでなかったことについて、)去年だけでも浮遊物に衝突したり、浅瀬で座礁したりと、事故を繰り返してきたわけですよね。」
「軽い事故だとして軽視してはいけなかったわけですね。」
「ここで指摘したいのは、重大事故に関するハインリッヒの法則なんです。」
「ちょうどタイタニック号の氷みたいな感じなんですけども、一番上にあるのは重大な事故が1件あったとすると、その背後には29件の軽微な事故があるというわけです。」
「更にその背後には障害のない事故が300件あると。」
「言わば“ヒヤリハット”みたいな感じなんですよね。」
「(この329件くらいの軽微な事故の段階で抜本的な安全対策の見直しをしておく必要があったということなのではという問いに対して、)そうですね。」
「経営の問題もあったと思うんですけど、それは必要だったですね。」
「ゴールデンウイークを迎えるじゃないですか。」
「行政としてもやはり安全の監視をやってもらいたい、そういう局面だと思いますよ。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

ハインリッヒの法則について、ウィキペディアには以下の記述があります。(こちらを参照)

ハインリッヒの法則は労働災害における経験則の一つである。1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常(ヒヤリ・ハット)が存在するというもの。「ハインリッヒの災害トライアングル定理」または「傷害四角錐」とも呼ばれる。

要するに、ハインリッヒの法則は「障害のない事故、あるいは軽微な事故を繰り返し起こしても、何も対策を講じずにそのまま放っておくと、いずれ重大な事故が待っていますよ」という警告を発しているわけです。

なお、5月25日(水)付けネット記事(こちらを参照)でこの事故について取り上げていたので、その一部をご紹介します。

・今回の事故では、通信エリア外の携帯電話を使っていたり、運航管理者が不在だったりと、運航会社「知床観光船」の安全意識の欠如が明らかだったが、安全意識があっても経営的に対策が“追いつかない”事態が起きる恐れがある。というのも、観光船業者の実に7割近くが赤字経営だというのだ。
・東京商工リサーチの調査によれば、当期純利益は19年は26億円の黒字だったが、20年に29億円の赤字に転落。昨年は赤字が101億円まで膨らんだ。赤字事業者数は19年は24社(25.2%)にとどまっていたが、20年は48社(50.5%)、昨年は65社(68.4%)に拡大した。
・地方の人口減少や観光需要の多様化で、旅客船事業者の環境が厳しさを増していたところにコロナ禍が直撃。事業規模が小さいだけに、急激に業績が悪化している業者が多いということだ。
・東証スタンダードに上場していた「佐渡汽船」が債務超過に陥り、3月に私的整理で事業再生へと進んだが、大手ならスポンサーが付いても、中小・零細は再建が簡単ではなく、コスト削減が安全を脅かしかねないのだ。
・加えて、知床の事故によるイメージダウンで観光船離れも起きている。鳥取の「山陰松島遊覧」では、5月中旬までに修学旅行など300人の予約がキャンセルになったという。
・「船舶遊覧が観光地の核になって、宿泊や飲食、土産物など地域を潤しているケースも少なくありません。連鎖的に大きな影響が出る恐れがあります。赤字のバスなど公共性のある交通機関へは行政支援などがあります。船舶遊覧についても、安全性の強化が信頼回復の近道だけに、資金繰りが悪化した事業者の安全対策への支援が検討されてもいいのではないでしょうか」(後藤賢治氏)
・国交省は小型旅客船の安全対策強化を検討中で、年内に最終取りまとめを目指している。強化だけだと、全国から観光船が次々消えてしまいかねない。

こうした旅客船事業者の経営環境の厳しさでは、例え経営者がハインリッヒの法則を理解していたとしても十分な安全対策を講じることは出来ません。
しかし、そうした中においても、それなりの安全対策を実施することは出来るのです。
例えば、「知床観光船」以外の旅客船事業者は過去の経験から、天候不順の日には旅客船の欠航をしていたが、そうした日でも「知床観光船」は通常通りの運航をしていたというのです。
しかも、「知床観光船」では通信エリア外の携帯電話を使っていたり、運航管理者が不在だったりと、明らかに安全意識の欠如が今回の事故につながったのです。
そして、その背景には経営環境の厳しさから、安全よりも利益を優先させるという経営者の意識があったのです。

そこで、こうした事故リスクの対応策について、旅客船事業者にそれほど金銭的な負担のかからない範囲で私の思うところを以下にまとめてみました。
・地元の観光協会は定期的に旅客船事業者から障害のない事故、および軽微な事故の件数の提出を求め、ハインリッヒの法則に照らして、リスク対応策の実施を要請すること
・「知床観光船」のような業者による危険な運行ついて、他の業者が気づいた場合には地元の観光協会に通報し、その日の運行を取りやめるように警告を発すること
・地方自治体は、最低限、各観光協会から上記の状況報告を要請し、必要に応じて更なるリスク対応策を要請すること
・一方で、こうした旅客船事業者の監督官庁である国土交通省は今回の重大事故を契機に国として実施すべき再発防止策を検討すること

こうしてみると、国の定める規則云々は抜きにしても、地元の観光協会など、第三者による事故リスク対応策がなされていれば、今回の事故は未然に防げていたと思うのです。
ですから、特に旅客船事業者など、一旦事故が起きれば、命の危険を伴うような業界においてはしっかりとしたリスク対応策が求められるのです。

さて、以下に私のこれまでのクルマの運転中の経験についてご紹介します。

以前、一時停止違反により罰せられるまで、一時停止について十分な認識を持っておらず、何度となくきちんとした一時停止をしておりませんでした。
しかし、この違反後、一時停止の重要性を実感し、確実に一時停止をするようになり、その後は一時停止違反をしなくなりました。
そして、何度か事故につながりかねない状況を回避してきました。

考えてみれば、クルマの走行中、一時停止をしなかったり、あるいは明らかなスピードオーバーのクルマを時々見かけます。
しかし、こうしたクルマを人的に一件一件取り締まることはまず不可能です。
そこで、取り締まる側の警察は覆面パトカーなどで不定期に取り締まり、違反者を罰しているわけです。
ちなみに、こうして違反切符を切られたドライバーはたまたま自分は罰せられて運が悪かったと思うものです。
そして、一般的なドライバーであれば、違反すれば、以後多少は気をつけるようになります。
また、こうした様子を目にしたドライバーも同様に気をつけるようになります。
こうした状況は、ハインリッヒの法則の視点からすると、常日頃から取り締まりによりドライバーに注意喚起を促し、大事故の発生リスクを下げていると言えます。

このようにハインリッヒの法則は労働災害における経験則の一つといいますが、私たちの日常生活においてもこの基本的な考え方を適用することにより様々なリスクの発生を未然に防ぐことが出来るのです。

 
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