2022年05月06日
アイデアよもやま話 No.5261 ロシアが核兵器を使う時!
3月6日(日)放送の「NHKスぺシャル」(NHK総合テレビ)で「攻撃は止められるか〜最新報告 ロシア軍事侵攻〜」をテーマに取り上げていました。
そこで、“ロシアが核兵器を使う時”に焦点を当ててご紹介します。

ロシアによるウクライナ侵攻の真の狙いについて、国際政治学者のドミニク・モイジさんは次のようにおっしゃっています。
「プーチン大統領の目標がロシア帝国の復活にあるとしたら、軍事侵攻はキーウ(キエフ)にとどまらずバルト3国の首都まで及ぶかもしれません。」

ウクライナ侵攻が始ったまさにその日(2月24日)、核兵器に言及したプーチン大統領、今、世界に1万3000発余りあるとされる核兵器のうち、ロシアは最も多い6200発以上保有しています。
侵攻開始から3日後、核兵器を運用する部隊を臨戦態勢に引き上げ、欧米を牽制しました。
プーチン大統領は以下の発言をしています。
「NATOの加盟国は攻撃的な発言をしている。」
「国防相と参謀総長、抑止部隊に「特別警戒」に変更することを命令する。」

就任以来、アメリカの一極集中ではなく、ロシアも重要な地位を占める“世界の多極化”を目指してきたプーチン大統領、核戦力を抑止力としてだけでなく、国際社会での影響力の源として重視してきました。
プーチン大統領は以下の発言をしています。
「ロシアはこれまでもこれからも最大の核大国だ。」
「今こそ我々の声を聞くべきだ。」

核兵器をロシアが実際に使用するのはどの場合なのか、具体的に条件を記した文書があります。
2020年に公表された「核抑止における国家政策の基礎」です。
この中にロシアが核兵器の使用に踏み切る以下の4つの条件が示されています。
・ロシアや同盟国に対するミサイル発射の確かな情報
・敵が核兵器や大量破壊兵器を使用
・敵が死活的に重要な軍施設などに干渉
・通常兵器による攻撃で国家存続が危機

そうしたロシアの核戦力の中でアメリカなどが現実的な脅威としているのが射程の短い“戦術核”です。
核軍縮条約の対象外のため、ロシアは大量に保有していて、局地的な攻撃に使うことが可能だと見ています。

2014年のクリミア併合、プーチン大統領はこの時も情勢が不利になった場合に備えて核兵器の使用に向けた準備を指示していたと明かしています。
プーチン大統領はロシア国営テレビの取材に応じ、次のように発言しています。
「(我が国の核兵器使用の準備は出来ていたのかという問いに対して、)準備は出来ていた。」
「クリミアは歴史的に我々の領土だ。」

ロシアによる核兵器の使用はあり得るのか、トランプ政権で安全保障担当の大統領補佐官を務めたハーバート・マクマスターさんは「不利な状況に追い込まれた時、プーチン大統領は誤った選択をしかねない」と危惧しており、次のようにおっしゃっています。
「我々は真剣に受け止める必要があります。」
「事態をエスカレートさせ、アピールするのは彼のやり方です。」
「核戦力で威嚇しているのです。」

一方で、駐ロシア大使だったジョン・テフトさんは、現段階では核兵器を使用する兆候は見られないとして、次のようにおっしゃっています。
「核兵器を使用すればロシアにとって大惨事になることを彼も理解しています。」
「アメリカやNATOになんとか影響力を持ちたいと試みているのです。」

なお“戦術核”について、ロシアの軍事・安全保障政策に精通している東京大学専任講師の小泉悠さんは次のようにおっしゃっています。
「敵国の首都なんかを狙うのは“戦略核”というふうに呼ばれますけど、“戦術核”は戦場で使うんですよね。」
「つまり、戦場で敵の部隊に対して使う、そこまで威力は大きくない、射程もそんなに長くない核兵器というのが一般的に戦術核というふうに呼ばれるんですけども、元々の想定としては大戦争の時に敵に向って弾代わりに使うということなんですよね。」
「ところが、この25年ぐらいロシアの中でずっと議論されてきたのが、もしも戦争に負けそうになった時、あるいは今勝っているんだけれども、有力な大国が参戦してきて、そうなると負けてしまうだろうという時に、警告的に1発だけ核を使うということが考えられているんですよね。」
「恐らく、今アメリカなんかが懸念しているのもそういった道具として“戦術核”なのか、もっと射程の長いものを使うか分かりませんけども、何か警告射撃的なデモンストレーション的な核使用を行うんじゃないか、こういうことがこれまでは理論としてそういうことを言ってるよっていうのは知られていたわけですけども、どうにも現実味を帯びてきてしまったわけですよね。」
「つまり、今、ロシアはウクライナに苦戦している、西側から軍事援助が入ってきている、それを止めなければいけないとかという判断をしなければいけないという可能性はあると思いますし、実際プーチン大統領がはっきり核とは言いませんけども、抑止戦力を特別警戒体制につけるようにということを言って、爆撃機部隊とか潜水艦部隊が今、実際に展開してきたということは国防大臣が言ってるんですよね。」
「こういったものが警告のための核使用、あるいは核使用まで行かないとしても「核の発射寸前まで行くぞ」というような姿勢を見せることによって、「ウクライナ支援を手控えろ」というようなことを言ってくる。」
「この可能性は非常に危険なんですけども、考慮しなければいけなくなってきたと思います。」

また、笹川平和財団の主任研究員、畔蒜(あびる)臣泰助さんは次のようにおっしゃっています。
「(この局面でプーチン大統領が核戦力をちらつかせてきた意図について、)基本的には今、小泉さんがおっしゃったように西側に対する一つの警告なんだと思うんですけども、ただ今、プーチン大統領の判断能力に疑問符がつくという議論が欧米でも行われている。」
「ただ、先ほどのアメリカのテフト元駐ロシア大使なんかはプーチン大統領はまだ正常な判断力を維持しているということなんだとすると、もしかしたらプーチン大統領は政治の判断が出来ないというふうに相手に思わせて、更にこの脅威のレベルを引き上げる、いわゆるマッドマン戦略(こちらを参照)というのがあるんですけど、意図的に演じているのかもしれない。」

なお、“戦術核”について更に小泉さんは次のようにおっしゃっています。
「これはどこに使うかによるんですよね。」
「ただ今、“戦術核”は小威力と申しましたけども、それでも広島、長崎に落とした核兵器の10倍とかの威力があるわけですから、これを人口密集地に落としたら大変なことですよね。」
「ただロシアの戦略の中では、まずは全く人間がいない、あるいはほとんど人間がいない地域に落として見せつけるということがずっと言われてきたわけですね。」
「だた、それも核兵器をひとたび被爆させたらどういう反応が返ってくるかというのは全く不確実であるわけで、あまりにもリスキーな戦略である、ただのブラフ(はったり)ではないかと言われてきたわけですが、それがブラフなのかどうか、本当に分かりそうな局面になってしまっているというのは、私は非常に不気味だと思うんですね。」

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

まず、以下に番組の内容をまとめてみました。
・世界に1万3000発余りあるとされる核兵器のうち、ロシアは最も多い6200発以上保有している
・就任以来、アメリカの一極集中ではなく、ロシアも重要な地位を占める“世界の多極化”を目指してきたプーチン大統領は核戦力を抑止力としてだけでなく、国際社会での影響力の源として重視してきた
・ロシアによるウクライナ侵攻の真の狙いについて、国際政治学者のドミニク・モイジさんは「プーチン大統領の目標がロシア帝国の復活にあるとしたら、軍事侵攻はキーウ(キエフ)にとどまらずバルト3国の首都まで及ぶかもしれない。」と指摘している
・プーチン大統領はウクライナ侵攻開始から3日後、核兵器を運用する部隊を臨戦態勢に引き上げ、欧米を牽制した
・核兵器をロシアが実際に使用する具体的な条件を記した、2020年に公表された「核抑止における国家政策の基礎」には「ロシアや同盟国に対するミサイル発射の確かな情報」など4つの条件が示されている
・そうしたロシアの核戦力の中でアメリカなどが現実的な脅威としているのが射程の短い“戦術核”である
・核軍縮条約の対象外のため、ロシアは大量に保有しており、局地的な攻撃に使うことが可能だという
・今の局面でプーチン大統領が核戦力をちらつかせてきた意図は西側に対する一つの警告だと思われる
・このプーチン大統領の意図について、プーチン大統領の判断能力に疑問符がつくという見方がある一方で、政治の判断が出来ないというように相手に思わせて、更にこの脅威のレベルを引き上げる、マッドマン戦略を意図的に演じているという見方もある
・“戦術核”は小威力と言っても最大級では広島、長崎に落とした核兵器の10倍とかの威力がある
・核兵器をひとたび被爆させたらどういう反応が返ってくるかというのは全く不確実なのであまりにもリスキーな戦略である

さて、こうしてまとめてみると、やはり気になるのは2020年に公表された「核抑止における国家政策の基礎」で示された4つの条件、および核軍縮条約の対象外のため、ロシアが大量に保有している“戦術核”の存在です。

更に5月4日(水)付けネット記事(こちらを参照)では以下のように報じています。

タス通信によると、セルゲイ・ショイグ露国防相は4日、ウクライナ向けの武器を積んだ米欧の輸送車両も「合法的な攻撃対象となる」と警告した。

“戦術核”に加えて、ロシアのこうした動きはロシアの侵攻に単なる武器供与の枠を超えて欧米も巻き込む可能性が出てきたのです。

なお、ウクライナ側でも気になる動きがあります。
4月28日(木)付けネット記事(こちらを参照)では以下のように報じています。

ウクライナ大統領府顧問は4月28日、自国にはロシア軍関連の標的を攻撃する「権利」があると主張し、ロシア国内の施設を直接攻撃する可能性を示唆した。

また、5月2日(月)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でアメリアにおける武器貸与法の成立に向けた動きについて取り上げていたのでご紹介します。

ウクライナ侵攻について、ロシアは5月9日が1つの大きなポイントになってきそうです。
ロシアの対独戦勝記念日で、この日にロシアはウクライナに宣戦布告するのではとも言われているのですが、そうした中、ウクライナの抵抗姿勢は全然衰えを見せていません。
こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。
「背景にあるのは武器貸与法(レンドリース法)というのがポイントになるんですね。」
「アメリカの下院が4月28日にその法案を可決したんですね。」
「バイデン大統領が署名して間もなく成立すると言われているんです。」
「実はこの法案は第2次世界大戦中にアメリカがイギリスやソ連に対して大量に武器を貸与する時の根拠になっている法律なんです。」
「それを復活させたわけです。」
「(復活によりどうなるかについて、)要するに面倒な手続き無しにウクライナに対してどんどん武器を供与出来るようになるというところが大きなポイントです。」
「これはロシアにとっても相当な脅威になると思いますね。」
「(第2次世界大戦の時はこの法律が出来て戦況に大きな影響があったかという問いに対して、)ものすごい大きな変化がありましたね。」
「イギリスが本土防衛に成功したのはこの法律のお陰、そして(当時の)ソ連がドイツに攻め込まれたわけですけども、それを跳ね返すことが出来た大きな背景がこの武器貸与法なんです。」
「皮肉なことなんですけど、ロシアがウクライナに侵攻することで、今度はその対象がロロシアに対する法律になっているというとこは本当に皮肉です。」
「(でもこれでアメリカがウクライナを徹底的に後押しすることがはっきりしたのではという問いに対して、)はっきりしましたね。」
「相当な長期戦になるという、そういうシグナルだと思います。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

ウクライナ大統領府顧問が自国防衛のためにロシア国内の施設を直接攻撃する可能性を示唆したこと、そしてアメリカがバイデン大統領の署名を経て武器貸与法が成立することでウクライナ軍の戦力は大幅に、しかもタイムリーに増強され、プーチン大統領にとっては大変な脅威になります。
そうなると、やはり気になるのは2020年に公表された「核抑止における国家政策の基礎」の中で示された、ロシアが核兵器の使用に踏み切る4つの条件の中の以下の2つです。
・敵が死活的に重要な軍施設などに干渉
・通常兵器による攻撃で国家存続が危機

ですから、もしプーチン大統領が今後ウクライナ軍の攻勢により窮地に追い込まれたと感じた時には核兵器の使用を決断する可能性は十分にあり得ます。
こうしたことから欧米、あるいは国連などは以下の要件を満たすかたちでロシアによるウクライナ侵攻を早急に収束させるための戦略を練ることが求められるのです。
・プーチン大統領を核兵器使用の決断に至らせないこと
・第3次世界大戦の勃発を防ぐこと

今やロシアによるウクライナ侵攻は類存続の危機をもたらす可能性を非常に高めているのです。
もし第3次世界大戦が勃発するようなことになれば、勝者はおらず、世界各国全てが大変な被害を被り、取り返しがつかなくなってしまいます。
更に今世界各国が取り組んでいるSDGsも“絵に描いた餅”で終わってしまいます。
ですから、世界各国はもっとこの危機に真剣に向き合わなければなりません。

ということで、少なくともロシアに協力的な一部の国を除いた国々の国民は経済的にかなりの犠牲を払ってでもプーチン大統領の暴走を食い止めるという覚悟を持つことが求められているのです。

(追記)
武器貸与法は5月9日に成立

 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています