2022年04月01日
アイデアよもやま話 No.5225 ロシアによるウクライナ侵攻を多角的な視点から見ると・・・
ロシアによるウクライナ侵攻について、今やウクライナを中心に世界中の多くの人たちがこのままではウクライナ首都、キエフ陥落も時間の問題ではないかと冷や冷やしながらその行方を見守っている状態が続いています。
そうした中、ウクライナ侵攻前の2月4日(金)付けネット記事(こちらを参照)で「日本のマスコミが報道しないウクライナ危機の裏側」というテーマを取り上げていたのでその一部をご紹介します。 

(ロシア軍がウクライナに侵攻?)
・2021年12月3日、米紙ワシントン・ポストは、米情報機関が作成した報告書の内容などとして、ロシアが2022年早々にも大規模なウクライナ侵攻を計画していると報道した。
・この報道を受けて、同月7日に米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が、ウクライナ情勢についてビデオ会談で話し合った。バイデンは「ウクライナの国境周辺で、ロシアが軍備を増強させたのは由々しき問題だ。ウクライナに侵攻したら経済制裁などを講じる」とプーチンに伝えたという。
・ウクライナの問題は、プーチンの立場を理解すれば別の見方になる。彼にはソ連邦崩壊後のトラウマがあるのだ。1991年にソビエト連邦が崩壊すると、ウクライナ、ベラルーシなど14の国が独立した。2000年代に入ると、ソ連の一部だったバルト三国のエストニア、ラトビア、リトアニア、ソ連の衛星国だったチェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアがEUに加盟した。
・バルト三国などは厳しい条件をクリアして、通貨もユーロ圏に入った。かつてのCOMECON(経済相互援助会議)経済圏が、あれよあれよという間に失われたのだ。
・バルト三国や衛星国がEUに入り、ロシアと自由主義陣営との境界線はモスクワに近づいてきた。冷戦時代の中立国フィンランドがEUに入り、自国であったエストニアもEUとNATOに加わった結果、ロシア第二の都市であるサンクトペテルブルクが“国境の街”になったほどだ。
・プーチンは自分が“皇帝”になってからも、社会主義陣営の領域が次々に削られていくのを見てきた。残ったのはベラルーシとウクライナだけだ。
・私がベラルーシを訪れたとき、国民の多くが「EUに入りたい」と希望していた。ルカシェンコの下では将来性がなく、EU経済のなかで活躍したいのだ。「ロシアはあくまでも貿易で儲けさせてくれる国だ」と考えるほど賢い人たちだった。
・一方、ウクライナはロシアを刺激しないために中立を保ち、政権はロシア寄りと欧州寄りが交互に移り変わってきた。ロシア寄りのヤヌコーヴィチ元大統領が悪事を重ねて蓄財したのに対して、現在のゼレンスキー大統領はEU・米国にかなり寄っている。プーチンからすれば、ベラルーシはしばらく安泰だが、ウクライナは危ないのだ。
・ウクライナ国民の大半は、本音ではEUと関係を深めたいと考えている。14年にクリミア半島がロシアに併合されて以降、「次は自分たちではないか」と危惧しているのだ。
・一方で、ロシアに併合されたい人たちもいる。ウクライナ東部のルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国だ。どちらも親ロシアの人が多く、14年にウクライナからの独立を宣言した。ウクライナ政府は独立を認めず、反政府組織として扱っている。
・おそらく独立は、ロシアが仕掛けたものではない。ルガンスクとドネツクの人たちは、クリミア併合を見て「俺たちもロシアへ行きたい」と考えたのだ。理由の1つはウクライナ政府への不満と不信感だ。
・ウクライナ政権は、クチマ、ユーシェンコ、ヤヌコーヴィチなど悪い政治家が多く、ソ連崩壊直後の頃から評判がよくない。悪い政治家の治世に両地域は愛想を尽かしたのだ。
・クリミア併合も、同じ経緯だった。日本の報道では「ロシアがクリミア半島を収奪した」という印象が強いが、欧米から見た一面にすぎない。
・92年からウクライナの一部だったクリミアは、14年3月に議会が独立を宣言してクリミア自治共和国となった。住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成した。

(プーチンの大きな悩み)
・この圧倒的な投票結果から、クリミアは「ロシアに入れてください」と申し入れ、ロシア議会が承認した格好だ。つまり、住民の意思を反映する民主的な手続きはしっかり踏んでいる。米国が後押しした「アラブの春」諸国や11年の南スーダン独立より民主的だろう。
・ウクライナのダメな政府は、クリミアの人たちに年金を用意していなかった。高齢者が多いクリミアの年金は、ロシアが負担することになる。収奪するどころか、プーチンの本音は、お荷物を背負い込んだ気分だろう。
・ロシア国内は、旧ソ連の頃から年金の積み立てが少ない。そもそもプーチン人気は、エリツィン時代に困窮した年金生活者を救ったことで高まった。年金は長年の大問題であり、救済がプーチンの得意技だった。彼はクリミアで同じ悩みを抱えている。
・もしロシア併合を望んでいるルガンスクとドネツクまで受け入れたら、ロシアの年金制度は破綻しかねない。バイデンはロシア軍が10万人規模で配備されたと騒いでいるが、プーチンには収奪の意思はない、と私は見る。仮に侵攻するとしたら首都キエフを押さえ、(残っているかどうかは不明だが)年金資金を収奪するしかないだろう。
・軍事でいえば、ヨーロッパにはNATO(北大西洋条約機構)がある。冷戦時代にソ連に対抗するため、軍事的協力と集団防衛を約束して設立したものだ。バルト三国をはじめとする旧東側諸国も、2000年以降に続々とNATOに加盟した。
・プーチンにとっては、NATO軍がどんどん迫ってくるようなものだ。緩衝地帯になっているウクライナとベラルーシまで加盟したら、目と鼻の先にNATO軍のミサイルが配備されたような思いになるだろう。
・もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたら、モスクワまでは至近距離だ。モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感だ。プーチンは、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたいだろう。

(プーチンが抱えるジレンマ)
・実はロシアにとって、ウクライナにはもう1つ特別な意味がある。歴史的には、ウクライナは“ロシアの親”にあたるのだ。
・ウクライナの首都キエフには、9世紀から13世紀にかけてキエフ大公国があった。11世紀に欧州で最も発展した国の1つだったが、1240年にモンゴル軍に攻め込まれて崩壊した。ロシア正教は、キエフ大公国の正教会から派生したといわれる。つまり、宗教上の祖先はキエフなのだ。だからといって、軍隊を使ってルガンスクとドネツクを取りにいけば、年金生活者をさらに引き受けることになる。プーチンが抱えるジレンマだ。プーチンはとにかく現状維持を希望しているのだ。
・バイデンは、ウクライナとロシアの関係も、プーチンの葛藤も理解していないだろう。彼らはそもそも歴史に目を向けない。「新疆ウイグル自治区の綿は強制労働の産物だ」と非難するとき、自分たちが19世紀に綿花栽培でアフリカから違法に連れてきた奴隷たちに強制労働させたことを忘れている。
・彼らは他国が軍事的な動きを見せると「キャーッ」と騒ぐ癖がある。1962年のキューバ危機では、カストロ政権がソ連軍のミサイル基地を建設すると知って、ケネディ大統領が大騒ぎした。当時を思い出せば、プーチンの危機感も想像がつくだろう。キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない。
・従って、米国が「NATOの東方拡大はありません」、あるいはウクライナがNATOに加わってもミサイル配備はしません、と約束すればプーチン、そしてロシア国民も落ち着くはずだ。
・日本の報道は、米国の目線で伝えるから本当の事情がわからなくなる。政治家もマスコミも、もう米国の目線のみで考えるのはやめたほうがいい。

以上、ネット記事の内容の一部をご紹介してきました。

まずこの記事の内容をロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、そしてアメリカのバイデン大統領の視点から以下にまとめてみました。

(プーチン大統領の視点)
・1991年にソビエト連邦が崩壊すると、ソ連の一部が独立したり、ソ連の衛星国だった国々がEUに加盟したりと、かつてのCOMECON(経済相互援助会議)経済圏が失われた
・こうしたソ連邦崩壊後のトラウマがある
・一方で、2014年3月にクリミアは議会が独立を宣言してクリミア自治共和国となり、住民投票では9割以上がロシアへの編入に賛成し、ロシアにその旨を申し入れ、ロシア議会が承認した
・当時のウクライナ政府はクリミアの人たちに年金を用意していなかったので、高齢者が多いクリミアの年金はロシアが負担することになる
・ロシア国内は旧ソ連の頃から年金の積み立てが少ない中、困窮した年金生活者を救ったことで自分の人気が高まったが、クリミア併合により同じ悩みを抱えている
・もしロシア併合を望んでいるルガンスクとドネツクまで受け入れたら、ロシアの年金制度は破綻しかねない
・軍事でいえば、ヨーロッパにはNATOがあり、バルト三国をはじめとする旧東側諸国も、2000年以降に続々とNATOに加盟したが、プーチン大統領にとっては、緩衝地帯になっているウクライナとベラルーシまでNATOに加盟したら、目と鼻の先にNATO軍のミサイルが配備されたような思いになる
・もしチェルノブイリにNATO軍の短距離ミサイルが配備されたらモスクワまでは至近距離で、モスクワが東京なら、大阪に配備されるぐらいの距離感なので、ウクライナが反ロシアの橋頭堡になることだけは絶対に避けたい

(ゼレンスキー大統領の視点)
・2014年にクリミア半島がロシアに併合されて以降、自国も危ないと危惧しており、かなりEU・米国寄りになっている
・ウクライナ東部のルガンスクとドネツクはどちらも親ロシアの人が多く、2014年にウクライナからの独立を宣言したが、独立を認めず、反政府組織として扱っている
・しかし、この2ヵ国の独立宣言は、ロシアが仕掛けたものではなく、当時のウクライナ政府への不満と不信感から、クリミア併合を見て「俺たちもロシアへ行きたい」と考えたという見方がある

(バイデン大統領の視点)
・遅くとも昨年12月の時点でロシアが2022年早々にも大規模なウクライナ侵攻を計画していることを把握していた
・そのリスク対応策として、経済制裁などを講じるとプーチン大統領に伝えた
・アメリカは第三次世界大戦の勃発を警戒して、ウクライナに兵隊を送り込まない

こうしてまとめてみると、以下のようなことが見えてきます。
・今、ウクライナは全てにおいて“善”、一方、ロシアは全てにおいて“悪”というような割り切った図式で日本国内では報じられているが、以下のように必ずしもそうではない
  かつてのウクライナ政権は国内の一部の地域から不満と不信感を持たれていた
その結果がクリミア併合、およびルガンスクやドネツクの独立宣言をもたらした
・プーチン大統領はロシアの年金制度の破綻リスクを抱えている
・プーチンはとにかく現状維持を希望している
・2014年にクリミアはウクライナから民主的な手続きに則って独立し、ロシアに編入した
・アメリカも、かつて自分たちが19世紀に綿花栽培でアフリカから違法に連れてきた奴隷たちに強制労働させたことを忘れている
・1962年のキューバ危機では、カストロ政権がソ連軍のミサイル基地を建設すると知ってケネディ大統領が大騒ぎしたが、キューバからワシントンDCは約2000キロメートルあるが、ウクライナの国境からモスクワはわずか700キロメートルしかない
・従って、米国が「NATOの東方拡大はありません」、あるいはウクライナがNATOに加わってもミサイル配備はしません、と約束すればプーチン、そしてロシア国民も落ち着くはずだ

なお、ウクライナ侵攻が開始された2月24日以降の報道内容を加えると、ロシアのプーチン大統領、およびウクライナのゼレンスキー大統領の考えは以下の通りです。
プーチン大統領:
(狙い)
 ウクライナの中立化
 ウクライナの非軍事化
 更にロシア帝国の復活(バルト三国への侵攻)

(方針)
・一般市民への無差別攻撃の激化による、ウクライナ国民の厭戦気分の増加
・禁止兵器の使用
・核兵器や生物・化学兵器使用の可能性を示唆

ゼレンスキー大統領:
(狙い)
・戦闘の停止
・ロシア軍の即時撤退

(方針)
・国民総動員の徹底抗戦
・SNSによる世界各国へのウクライナ支援の依頼
・各国首脳へのウクライナ支援の依頼

そして、プーチン大統領もゼレンスキー大統領も今のところ、それぞれの核心的な主張を取り下げる気配はありません。

なお、こうしてロシアによるウクライナ侵攻の経緯についてみてくると、ロシアにはロシアなりの言い分があるようです。
しかし、だからといって、今回のようなウクライナへの侵攻、すなわち“力による現状変更”が許されることはありません。

では、今回の侵攻の根本原因ですが、NATOとロシアの関係にあり、ロシアはその関係の悪化を食い止めるための手段として武力によりウクライナをロシア陣営に引き戻そうとしたわけです。

そこで、“遅きに失す”ですが、もしこうした要望をプーチン大統領がNATOに対して、かつてのキューバ危機の事例を引き合いに出して、粘り強く交渉を重ね、一方NATOがロシア周辺国でのミサイル基地の撤退について譲歩していれば、今回のウクライナ侵攻は防げた可能性があるのです。

いずれにしても毎日、毎日ウクライナの国民や兵士、ロシアの兵士に犠牲者出ている状況を早急に打開することが求められるのです。
そればかりでなく、ウクライナからの難民問題、更には世界的経済への影響も出ています。

そこで、今からでもNATO側からロシアに働きかけて、ミサイル基地撤退の観点から交渉をしたらどうかと思うのです。
今なら、プーチン大統領も当初の目論見に反して、侵攻が長引いているのでウクライナとの休戦のタイミングを探していると思われるからです。

 
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