2021年11月19日
アイデアよもやま話 No.5117 “プロセスエコノミー”が日本の伝統工芸を救う!?
7月22日(木)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で日本の伝統工芸を救う可能性を秘めている“プロセスエコノミー”について取り上げていたのでご紹介します。

長引くコロナ禍で日本の伝統工芸が大きな危機を迎えています。
外国人を含む観光客の激減で土産物店での売り上げが大幅に減少しているためです。
そうした中、作品を売るだけではなく、作品を作るプロセスを公開して現金化する新たな仕組みが注目を集めています。

愛媛県内子町、人口約1万6000人のこの町は平安時代から続くとされる大洲和紙の生産地です。
昔ながらの手すきで作られる和紙は高級品として知られています。
和紙職人の齋藤宏之さんは金属箔を使って装飾を施すギルディングという技法をフランスで学び、大洲和紙と組み合わせたギルディング和紙を考案しました。
フランスやイタリアで展示会を行うなど、アートとして高い評価を得てきました。
しかし、齋藤さんは次のようにおっしゃっています。
「コロナがあってお店が閉まったり、外国からのお客さんが減っているというところでかなり売り上げが激減しまして、月によっては9割減なんていう月もありました。」

長引くコロナ禍で町を訪れる観光客が激減、齋藤さんの作品を販売するお店にはほとんどお客が来なくなったのです。
そうした中、齋藤さんは新たな挑戦を始めていました。
スマホで自ら製作工程を撮影、その様子があるアプリ上で配信されていました。
実は齋藤さんが使い始めたのはベンチャー企業、株式会社ワントゥテンが開発した「Enu」(エヌ)というアプリです。
澤邊芳明代表は次のようにおっしゃっています。
「作り手の皆さんも製作品は出来上がっていますけど、作るまでの思いだったり、途中の作業であったり、そういうところを伝えることでよりファンを増やすことが出来ると思っています。」

このアプリは通販機能を持つだけでなく、製作工程を公開する機能を持っているのが特徴です。
現在登録しているのは約20人の職人たち、双方向でやり取りが出来るSNS機能やストアをタップすると作っている商品が提示され、購入まで出来るeコマース機能が付いています。
参加を決めた齋藤さんは次のようにおっしゃっています。
「「和紙って何?」っておっしゃる10代、20代の子も多いので、出来れば若い層から知ってもらうのが一番だと思うんですが、双方向でのコミュニケーションで今までにない(商品の)アイデアなどが発生する可能性があると期待しています。」

有料会員のファンからの支援の代わりに会員だけにしか見せない作業風景などを配信します。
料金は100円〜99万円まで職人が設定可能で、齋藤さんも今後有料化を検討しています。

このアプリの開発に携わった歌舞伎役者の市川海老蔵さんは次のようにおっしゃっています。
「やはり日本がコロナ禍の中で伝統文化の人たちが歌舞伎をはじめ、伝統工芸も含めて大変弱体化し出している・・・」

「Enu」を開発した澤邊代表はこのプロセスを売る“プロセスエコノミー”が今後広がると見ており、次のようにおっしゃっています。
「世界のマーケットからも日本の工芸品は非常に評価を受けています。」
「だけど、ほとんどの方がものすごく高いモノづくりの思想とこだわりと技術を持っているのに、伝わっていないがために販売出来なかったり、ファンが少ないという方がいっぱいいます。」
「まずは(職人の登録を)1000人、売り上げは10億円ですね。」

以上、番組の内容をご紹介してきました。

長引くコロナ禍で飲食業や観光業をはじめ多くの産業が売り上げの激減で大打撃を受けてきました。
最近は全国的な感染者数の減少により、ようやく人の流れが少しずつ増え出していますが、それでもコロナ禍以前に比べればまだまだのようです。
そして、コロナ禍の危機に直面して、それぞれの企業は生き残りを賭けて様々な工夫をしてきています。
そして、外国人を含む観光客の激減で日本の伝統工芸も例外ではなく、大きな危機を迎えているのです。
そうした中、大洲和紙の生産地、愛媛県内子町で昔ながらの手すきで作られる和紙は高級品として知られておりますが、やはり売り上げの激減で大打撃を受けているのです。
そこで和紙職人の齋藤さんは打開策として、作品を売るだけではなく、作品を作るプロセスを公開して現金化する新たな仕組みを始めたのです。

その仕組みを支えるのが「Enu」(エヌ)というアプリです。
その特徴を以下にまとめてみました。
・通販機能だけでなく、製作工程を公開する機能を持っている。
・その狙いは、製作品だけでなく、作るまでの思いや製作プロセスなどを伝えることでファンを増やすことである。
・職人は和紙の製作工程を自ら撮影して、その様子をこのアプリにアップして配信することが出来る。
・双方向でやり取りが出来るSNS機能もある。
・双方向でのコミュニケーションで今までにない商品のアイデアなどが発生する可能性がある
・更に有料会員のファンからの支援の代わりに会員だけにしか見せない作業風景などを配信出来る。
・こうしたプロセスを売る“プロセスエコノミー”は今後広がる可能性を秘めている。

なお、このアプリの開発に携わった市川海老蔵さんは、コロナ禍で伝統文化の人たちが歌舞伎をはじめ、伝統工芸も含めて大変弱体化し出していると危惧されていますが、今回ご紹介した「Enu」というアプリはコロナ禍における伝統文化の救済ツールとしてだけでなく、コロナ禍後も見据えた、日本の伝統文化の良さを世界中に広め、ファンを増やし、工芸品などの売り上げを伸ばし、更には観光客として日本を訪れていただき、日本という国のファンになって帰国していただくといった流れが出来る可能性を秘めています。
更に少子高齢化が進む中、また伝統工芸などを引き継ぐ人が減少しつつある中、ファンになった外国人の中からこうした分野の後継者が出てくる可能性も秘めています。
現在、「Enu」に登録しているのは約20人の職人たちといいますが、その中から一定の成果が出てくれば、やがて登録者数が増え、「Enu」を開発した澤邊代表の見込んでいるように職人の登録者1000人、売り上げ10億円の達成も出来ると思います。

それにしても、どんな状況になってもインターネットがつながってさえいれば、コミュニケーションが取れるのですから、用途に応じたアプリを活用すればビジネスが可能になるだけでなく、伝統文化など世界中の人たちの営みを伝えて理解してもらえるのです。
ですから、インターネットは人類が生み出した発明の中でもコミュニケーション革命をもたらした画期的な発明だとあらためて思います。

 
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