2021年02月25日
アイデアよもやま話 No.4888 画期的な”デジタル薬”で治療!?

昨年11月10日(火)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で”デジタル薬”について取り上げていたのでご紹介します。

なお、日付は全て番組放送時のものです。

 

”デジタル薬”とはスマホやデジタル機器を使って病気の治療を目指すというものです。

世界で開発競争が始まっていて、日本では早ければ明日にも保険適用の第1号が誕生します。

 

精神疾患や発達障害などを専門とする医療機関、国立精神・神経医療研究センター(東京・小平市)でうつ病患者に対して日本初となる治療の研究が行われています。

福島県出身女性の佐藤さん(仮名 61歳)は次のようにおっしゃっています。

「3・11のことが思い出されていて、津波の怖さより1人で何とかして逃げなきゃいけないっていう怖さがずっと胸の中にあって、膝を抱いてかかえて引きこもっている日がずっと続いてたんです。」

 

佐藤さんは東日本大震災のショックが原因でうつ病と診断され、引きこもり状態が続いていました。

臨床心理士の伊藤正哉さんが佐藤さんに付けるように促したのはVR(仮想現実)ゴーグルです。

二人が見ている映像は和歌山県の南紀白浜の風景です。

上下左右と360度の映像が体験出来るVRゴーグル、患者に自然の風景や趣味などの映像を見せて、前向きな感情を呼び起こします。

このようにデジタル機器を使って病気の治療を目指すものが“デジタル薬”と呼ばれています。

この日が3回目の治療となる佐藤さんは次のようにおっしゃっています。

「今まで殻にこもっていた自分が外に出なくても出たような気分になる。」

「行ってみたいとか全然なかったものが、そんなとこ行ってみたいと思うようになったりとか。」

 

この研究におよそ1年協力している伊藤さんも手ごたえを感じており、次のようにおっしゃっています。

「(うつ病患者は)外に行ったら少しは気分が変わるかも知れないと頭では分かってても心がどうしても動かない状態なんですけども、VRで外に行かなくてもかなりリアルな普段出来ない体験をすることによって行動が変わってくると、何人もの患者で起こっているので・・・」

 

このVRを開発しているのがベンチャー企業の株式会社ジョリーグッド(東京・中央区)です。

これまで手術中の執刀医や看護師などそれぞれの担当の目線になることが出来る医療研修用VRなどを開発してきました。

この技術を生かし、精神疾患を持つ患者に疑似体験をさせることで思考や認知が変わってくると考えています。

来年にも治験を始める計画です。

ジョリーグッドの上路健介CEOは次のようにおっしゃっています。

「通院しなくてもゴーグルをかけるだけで家の中でセラピーが出来てまうと。」

「在宅医療にも貢献していくと考えていす。」

 

既に“デジタル薬”を実用化させた企業もあります。

ベンチャー企業の株式会社CureApp(キュア・アップ 東京・中央区)で開発したニコチン依存治療アプリは早ければ明日にも保険適用が決まる見込みです。

筒状の器具は一酸化炭素濃度測定器で、たばこを1日10本以上吸っているカメラマンが試してみると、出てきた数値は19.8ppmで、タバコを吸わない人は10ppm以下です。

この数値を毎日治療アプリに記録、呼気の状態を“見える化”することで禁煙意識を高めます。

更にタバコを吸いたくなった時、アプリに訴えかけるとアプリ内の看護師が登場、吸いたくなった理由を答えると「お辛いですよね」と寄り添いつつ「「吸いたい!」という衝動は5分もすれば収まります。タバコの代わりに他のことをやることで、・・・」とアドバイスしてくれます。

また食後はすぐに席を立つなど、吸いたくなった時の自分の行動にルールを設定する機能もあります。

治験に協力したみやざきRCクリニックの宮崎院長は次のようにおっしゃっています。

「依存症は中々うちの医療スタッフの見守りがとても非常に重要ですけど、常に見守る、監視することが出来ないわけですから、そこに関して常に(アプリで)介入してもらうっていうのはとても重要なことかなと思うんですね。」

 

実際の治験では、通常の禁煙外来の治療と比べて禁煙の継続率が13.4%向上したという結果が出ています。

医師でもあるキュア・アップの佐竹晃太社長は2014年に起業しました。

きっかけはその前の年、留学先のアメリカのジョンズホプキンズ大学で糖尿病の治療用アプリに出会ったことでした。

そこで抱いた印象について次のようにおっしゃっています。

「治療用アプリというものはいろんな医薬品や新しい医療機器と比べて本当に安いコストで開発することが出来ます。」

「ただ一方で治療効果に関しては医薬品とそん色ない。」

 

保険適用が決まれば、患者は医師から処方箋をもらい、アプリと機器を購入することになります。

佐竹社長は次のようにおっしゃっています。

「5年後、10年後、このそれぞれの疾患に関していろいろな特色を持った治療用アプリがどんどん普及してくる。」

「日本から世界に向けても治療用アプリという産業においてリーディングプレイヤーになっていたいと。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

今回2つの“デジタル薬”についてご紹介しましたが、以下にそれぞれの特徴をまとめてみました。

 

(VRゴーグル)

・精神疾患を持つ患者に疑似体験をさせることで思考や認知を変える

・患者に自然の風景や趣味などの映像を見せて、前向きな感情を呼び起こす

・今年にも治験を始める計画である

 

(禁煙意識を高めるアプリ)

・一酸化炭素(CO)濃度測定器で、喫煙者の吐き出すCOの数値を毎日治療アプリに記録し、呼気の状態を“見える化”することで禁煙意識を高める

・タバコを吸いたくなった時、アプリに訴えかけるとアプリ内の看護師が登場し、アドバイスしてくれる

・吸いたくなった時の自分の行動にルールを設定する機能もある

・実際の治験では、通常の禁煙外来の治療と比べて禁煙の継続率が13.4%向上したという結果が出ている

・治療用アプリはいろんな医薬品や新しい医療機器と比べて安いコストで開発出来る

・一方で治療効果に関しては医薬品とそん色ない

 

さて、この2つの“デジタル薬”の特徴はどちらも通院が不要で、いつでもどこでも患者の都合で使用出来ることです。

一方で、“デジタル薬”ですから、担当医が遠隔でこれらの使用状況や更に治療効果を数値化して把握出来れば、治療方法の改善につなげることも出来ます。

また、禁煙意識を高めるアプリにおいては、医薬品や他の医療機器と比べて安いコストで開発でき、一方で治療効果も医薬品と比べてそん色ないといいますから、医療費の増大を抑える手段としても有効です。

 

ということで、“デジタル薬”はまだまだ発展途上で医療分野におけるニューフロンティアと言えます。

また“デジタル薬”も医療分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)における一つの柱と言えます。


 
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