2020年09月15日
アイデアよもやま話 No.4748 中国が先行する「デジタル通貨」開発!

6月3日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で中国が先行する「デジタル通貨」開発について取り上げていたのでご紹介します。

 

今、新型コロナウイルスの感染拡大で多くの人が触った現金を使いたくないという人も多く、QRコード決済や電子マネーを使って買い物をする人の姿が目立つようになりました。

こうした電子マネーは様々な企業が発行しているのですが、今注目されているのは「デジタル通貨」です。

これは各国の中央銀行が発行する現金をそのまま電子化したもので、その開発は中国が先行しています。

実は今、新型コロナウイルス感染拡大の裏側で、この「デジタル通貨」の開発競争が激しさを増しているのです。

 

今週(番組放送時)、中国のネット上に流れたある動画、女性が使っているのは「デジタル人民元」のアプリ、中国当局が秘密裏に開発したもので映像が出回るのは初めてです。

アプリの画面には毛沢東の肖像や78元と残高らしき数字も出ています。

更に流出した画像からはアプリにどんな機能があるか見て取れますが、大きく4つの機能があることが分かります。

中国の中央銀行である中国人民銀行は先週(番組放送時点)、このデジタル人民元アプリの運用実験を全国5ヵ所でスタートしたと公表、実験は非公開ですが、動画や画像は関係者から流されたと見られています。

番組では実験の参加者である男性に接触することが出来ました。

この男性は一月ほど前(番組放送時)、政府系銀行のスタッフからアプリをダウンロードするように指示されたといい、次のようにおっしゃっています。

「情報が漏れないように秘密厳守の書類にサインさせられている。」

「デジタル人民元の口座と普通の人民元の口座の間で自由にお金を動かせる。」

「担当者は「競争力に勝つためにアリペイより機能が良い」と言っていた。」

 

アリペイとは中国で9億人を越えるユーザーを持つ、スマホの決済アプリです。

店先に貼り出されたQRコードをスキャン、金額とパスワードを入力すればわずか数秒で支払いは終わります。

デジタル人民元アプリもQRコード決済機能を備えていますが、アリペイと大きく異なる点があります。

それはアプリの画面の一番右にあるアイコン、タッチ送金のマークです。

2つのスマホをぶつけると、電波がない状況でもその場で送金が出来るため、いつでもどこでも使える特徴があります。

デジタル人民元を通して中国が狙っているのが人民元の国際化です。

現在、貿易など多くの国際取引の支払いにはアメリカドルが使われています。

利便性の高いデジタル人民元を開発することで、アメリカドルに対抗したいという思惑があるのです。

 

しかし、デジタル人民元には強力なライバルがいます。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは会見の場で次のようにおっしゃっています。

「送金もメールのように簡単かつ安全に出来るべきだ。」

「リブラはグローバルな決済システムになる。」

 

アメリカのフェイスブックが主導するデジタル通貨、リブラです。

リブラは世界中に26億人のユーザーがいるフェイスブックでの利用を想定していて、実現すれば世界最大級のデジタル通貨となります。

中国としてはリブラに後れを取るまいとデジタル人民元の開発を急いでいるのです。

デジタル通貨を巡る動きは日本でもあります。

日銀の黒田総裁はある会議において次のように発言されています。

「日銀(日本銀行)でも中銀デジタル通貨の研究チームを立ち上げておりまして、体制強化を図って取り組みを加速しております。」

 

日本銀行は今年ECB(ヨーロッパ中央銀行)などと共同でデジタル通貨の研究を行うことを表明、日銀が発行するデジタル通貨、いわゆる「デジタル円」の導入も夢物語ではなくなってきました。

更に6月3日、民間からも「デジタル円」を後押しする動きがありました。

6月3日に発足したデジタル通貨勉強会、メガバンク3行や電子マネー、スイカを発行するJR東日本などが参加し、キャッシュレス決済サービスの標準化などを議論します。

更にオブザーバーとして日銀や金融庁も参加、日銀が「デジタル円」を発行する場合の課題なども議論される見込みです。

この勉強会の座長を務めるコンサルティング会社、ヒューチャー株式会社の山岡浩辰巳取締役は次のようにおっしゃっています。

「デジタル決済インフラを巡る整備競争は世界で急であります。」

「相当スピード感を持って検討していく必要があるだろうと。」

 

「世界ではGAFAとかBAT(中国の3大インターネット企業)とか、そういったビッグテックと言いますけど、そういう大企業が決済に参入してきていて、日本としても民間のイニシアチブ(主導)でデジタル決済やデジタル通貨のことを考えていく必要があるだろう。」

 

こうした状況について、解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「(中国による「デジタル人民元」の開発は)国家プロジェクトであることがはっきりしているわけですよね。」

「で、どういうことなのかというと、まさに今、大江さん(番組のメインキャスター)がおっしゃったように、中国のリアルのお札をデジタルの世界に持ってきているんだと、そういうメッセージなんですね。」

「国家プロジェクトということはゴールがはっきりしているんです。」

「2022年2月、北京で冬季オリンピックが開かれるじゃないですか。」

「それまでにこの「デジタル人民元」を本格化させようと、そういう壮大な狙いがあると思いますよ。」

「(ただデジタルというのがポイントで、誰がいつどこでどういうふうに使ったかという情報も中国は得ることが出来るということになるが、)それは勿論中国の狙いですね。」

「で、そういう文脈でいくと、まさにデジタルの世界でアメリカと中国の冷戦が本格化、その舞台と言ってもいいと思うんです。」

「そのアメリカなんですけども、フェイスブックの「リブラ」が台頭するなど、かなり技術革新が本格化しつつあるわけです。」

「じゃあ日本はどうかということになるんですけども、今まではちょっと出遅れ気味だったんですけど、どうもそわそわしてきたんですね。」

「日銀や財務省、そして金融庁なんですね。」

「今日(6月3日)出て来た勉強会の旗振り役が財務次官だった勝さんという方が社長を勤めるIIJ(株式会社インターネットイニシアティブ)系の企業(ヒューチャー株式会社)が旗振り役をやっている。」

「結構ちょっとこれは本格的に出てくるなって感じはしましたよ。」

「やっぱり使い勝手がいいものをつくんなきゃダメですよ。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

現在、買い物をするうえでの支払い方法は、現金とキャッシュレス決済と大きく2つに分かれます。

 

そしてキャッシュレス決済にはクレジットカード、QRコード、デジタル通貨(電子マネー、および仮想通貨)という3種類があります。

それぞれの特徴は以下の通りです。

クレジットカード:

・後払いで買物の支払いが出来るカードである

・その決済システムは以下の通りである

クレジットカード会社がユーザーの代わりに支払いを済ませる

クレジットカード会社は、後から一括してユーザーに請求する

 

QRコード:

・「1次元コード」とも呼ばれるバーコードの進化版であり、「2次元コード」とも呼ばれるQRコードは縦の縞々と横の縞々を組み合わせて情報を表現したものである

・レジでの決済には大きく二つの手法があり、消費者が店側が提示するQRコードをスキャンして支払う「静的コード」、消費者が提示するQRコードを店側がスキャンして支払う「動的コード」に大別される

・その裏での決済システムはクレジットカード(後払い)、あるいはあらかじめ現金をチャージしておく前払い(プリペイド)である

 

電子マネー:

・現金を持たずに買物が出来る「電子化されたお金」である

・国家の中央銀行が発行する通貨で、その価値を国家が保証している

・電子マネーは、交通系のSuicaPASMO、商業系の楽天EdyWAONnanacoなどが該当する

・専用のカード(または、それに相当するスマホアプリ)にあらかじめ現金をチャージしておく前払い(プリペイド)で使えるようになる

 

仮想通貨:

・現金を持たずに買物が出来る「電子化されたお金」である

・暗号化されたデジタル通貨で、特定の国家が価値を保証しない

・経済が安定していて信頼のある国家の通貨は国際市場でも高値になり、反対に経済が不安定な国家の通貨は、価値が低くなる
・基本的にあらゆる国家や組織の管理を受けない通貨であり
需要と供給のバランスによって、その価値が決まる

 

このようにキャッシュレス決済は全て銀行預金をベースに成り立っているわけです。

そして、多くの国ではキャッシュレス決済が進みつつありますが、世界で最も普及が進んでいる韓国では普及率が96%以上と言われています。

一方、イギリスに次いで世界で3番目に普及が進んでいる中国では個人経営の飲食店や雑貨店、道端の屋台、更に路上の物乞いまでもが、「QRコード」を使ったキャッシュレス社会を生きているといいます。(詳細はこちらを参照)

 

こうした状況において、中国は世界に先駆けて「デジタル人民元」の開発を進めているというわけです。

その狙いは「デジタル人民元」の普及により人民元を世界の基軸通貨にすることにあると言われています。

番組でも指摘しているように情報がデジタル化されれば、誰がいつどこでどういうふうに使ったかという情報を把握出来るので、個人情報の一環として管理の対象にすることを目論む中国はこうした情報をまず得たいのです。

更に、キャッシュレス決済のベースは全て銀行預金なのですから、銀行預金のベースでもある現行の通貨を全てデジタル化すれば、その先のキャッシュレス決済関連サービスは「デジタル通貨」の範囲内で取り込むことが出来るのです。

更に金利が非常に低い状況で数十万円程度の振込手数料が何百円もかかり、一方でデジタル人民元アプリにもあるタッチ送金のようなサービスがあれば、こうした手数料がかからなくなります。

ということで、「デジタル通貨」の普及は間違いなく決済サービスに地殻変動を起こすことになります。

ですから、「デジタル通貨」の中でも電子マネーを巡る米中による冷戦、あるいは「デジタル円」を巡る国内での動きが巻き起こるのは必然なのです。

なお、「デジタル通貨」には電子マネーと仮想通貨がありますが、将来的には両方の併存状態が続くと思われます。

 

さて、そもそも今私たちの暮らしにおいて、財布の中はコインやお札以外に複数のクレジットカードやそれ以外の様々なカード(スイカや運転免許証、そして多くのポイントカードなど)で厚さを増しています。

私などはカードが多すぎて、1つの財布だけでは収まり切れなくて2つの財布を持ち歩いています。

ですから、こうした沢山のカードが電子化されれば財布の中はとてもすっきりします。

そもそも財布そのものが不要になってしまいます。

ということで、「デジタル通貨」の普及は間違いなくポイントカードなど他のカード類のデジタル化ももたらすはずです。

こうした「デジタル通貨」などを巡る動きもまさしくDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環なのです。

 

なお、「デジタル通貨」の普及に向けては以下のように大きなリスクがあります。

・これまでのタンス預金なども含めて個人の金融資産が全てガラス張りになること

・サイバー犯罪により多額の金銭の盗難に遭うこと

 

ちなみに、9月9日(水)付けネットニュースでは以下のように報じています。(詳細はこちらを参照)

 

NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」で、銀行口座から預金を不正に引き出される被害が相次いでいる問題を巡り、ドコモは9日、利用可能な全35行について新規登録を10日から停止すると発表した。

 

こうしたリスクが解消されなければ、あるいは万一犯罪の被害に遭った場合の納得出来るコンティンジェンシープランがなければ、「デジタル通貨」の大々的な普及にはつながらないと思うのです。


 
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