2020年08月15日
プロジェクト管理と日常生活 No.654 『危うい米中対立の行方』

5月29日(金)放送の「時論公論」(NHK総合テレビ)で「尖閣諸島へ強まる攻勢 中国の長期戦略」をテーマに取り上げていたのでその要旨をご紹介します。

なお、今回のスピーカーは津屋 尚解説委員でした。

 

・各国が新型コロナウイルスへの対応に追われる中、中国が海洋進出を活発化させている

・徐々に強まる中国の攻勢は、尖閣諸島を含めた中国周辺の海洋全体を支配するという長期的な国家戦略の一環とみられる

 

(強まる攻勢の実態)

・「尖閣諸島は、歴史的にも国際法上も日本固有の領土であることは明らかで、日本が有効に支配しており、解決すべき領有権問題は存在しない」、これが日本政府の立場である

・しかし中国は、尖閣諸島の領有を主張し、日本の領海やそこに接する「接続水域」に法の執行機関である中国海警局の船を絶え間なく送り込み、海上保安庁の巡視船が24時間現場に張り付いて警備をするという状態が何年も続いている

・今年、中国国内で新型コロナの感染拡大が深刻化し、武漢が都市封鎖された中でも、その攻勢はむしろ強まっている

・中国は、長い時間をかけて既成事実を積み重ねることで、将来、尖閣諸島を我が物にすることを狙っていると見られる

 

(“海洋強国”への長期戦略)

・中国海警局の能力が向上し、攻勢が強まった背景には何があるのか。注目されるのが、一昨年行われた「組織の配置換え」である

・中国海警局はもともと、国務院の下にある(国家海洋局という)政府機関に所属していたが、中国共産党の中枢、人民解放軍をも指導する軍事部門の最高意思決定機関である中央軍事委員会直属の組織の配下になった

・尖閣諸島での活動は今、この中央軍事委員会の指導の下、国家の「長期戦略」に基づいて行われていると、専門家はみている

・中国が目指しているのは、建国百年を迎える2049年までに軍事・経済・政治の全てでアメリカを凌駕し、世界の覇権を握ることだといわれている

・その重要なステップが、「海洋強国」となり、東シナ海や南シナ海を支配することとみられている

・南シナ海では南沙諸島や西沙諸島を、東シナ海では、中国の国防上、重要な位置にある尖閣諸島を自らの管理下に置くことが不可欠だと中国は考えていると見られる

・こうした長期的な視点からすれば、新型コロナや日中関係の情勢には関係なく、尖閣諸島での中国の活動は今後も続いていくと見なければならない

 

(日本はどう対応すべきか)

・まずは、攻勢を強める中国に対して、現場での対応能力を強化することである

・軍事衝突という最悪の事態を避けるためにも、非軍事の法執行機関である海上保安庁が対応し続けることが重要である

・しかし、海上保安庁の体制強化だけでは問題が解決出来るわけではない

・そこで問われるのは、力を背景に国際法を無視して現状を変更しようとする相手に対して、周辺国と国際社会を味方につける「外交力」と「情報発信力」ではないか

・中国は、最近の「マスク外交」に見られるように、あらゆる手段を使い、硬軟おりまぜて影響力を拡大させている

・また、尖閣諸島をめぐって世界的に大規模な宣伝戦も繰り広げている

・中国が発信する一方的な情報が世界に流布され、中国の影響を受けた国々がそれを追認するという事態は避けなければならない

・日本はこうした分野で中国に後れを取っていることは否めず、早急に取り組むべき課題である

・世界で影響力を拡大し、独自の世界観と長期的な戦略で日本の主権を脅かす行動を続ける隣国に対して、私たちはどのように向き合っていくのか。この難問に答える新たな戦略の構築が求められている

 

以上、番組の内容の要旨をご紹介してきました。

 

まず把握すべきは、中国、すなわち習近平国家主席の志向する国家像、および国際社会の再構築の狙いです。

番組によれば、習近平国家主席が目指しているのは、建国百年を迎える2049年までに軍事・経済・政治の全てでアメリカを凌駕し、世界の覇権を握ることだといいます。

そして、その中国の政治の基本方針は以下の通りです。

・共産党による一党独裁

・個人の自由よりも共産党政権の安定を優先

・覇権主義

 

このように見てくると、WHO(国際保健機関)など国際機関への介入、途上国への開発支援による影響力の拡大、巨大な経済圏“一帯一路”構想、南シナ海などへの海洋進出、香港への政治的な圧力、そして軍事力の強化など、様々な中国の政策遂行が1本の糸でつながっているように思えてきます。

要するに、全ては習近平国家主席が掲げている2049年までに世界の覇権を握るという目標達成のためのプロセスなのです。

 

ここで大問題は、個人の自由よりも共産党政権の安定を優先させるという、“まず共産党ありき”という大原則です。

自由主義国においては、方向性の異なる複数の政党の存在が許され、その中から国民が選挙で政権政党を選ぶことが出来ます。

しかし、仮に中国が世界の覇権を握るようなことがあれば、いずれ世界各国から共産党以外の党の存続は許されなくなってしまうリスクが大きくなります。

このような状況を多くの自由主義国の国民は望んでいないはずです。

こうした状況を踏まえて、自由主義圏のリーダー国たるアメリカの政府は危機感を強くし、最近、対中国政策を特に強めていると見られます。

 

ということで、とても不幸で残念なことですが、自由主義圏を代表するアメリカと共産主義圏を代表する中国、すなわち米中の対立、冷戦状態は当分続くと思わなければなりません。

そして、最悪の事態である両国の武力衝突は両国の陣営にまで広がり、第三次世界大戦の勃発という大変大きなリスクの顕在化をもたらしかねません。

それは人類の破滅を意味します。

当然、アメリカの同盟国、日本も“蚊帳の外”ではいられません。

新型コロナウイルスのパンデミック以上の被害をもたらすかもしれないのです。

こうした事態を米中のみならず、世界中の多くの国民は望んでいないはずです。

しかし、中国の国民は共産党による一党独裁下では面と向かって政府に対して意見を表明することは出来ません。

ですから、自由主義圏の国民は中国による世界制覇を何としても阻止しなければなりません。

そのためには、番組でも指摘しているように、国際社会が一丸となって継続的に習近平国家主席の目指す世界制覇は誤りであることを訴え続けることが求められるのです。

 

新型コロナウイルスのようなウイルス発生のリスクの顕在化は私たち人類によって防ぐことは当分出来ません。

しかし、米中対立による国際不安、あるいは武力衝突のリスクの顕在化は人類自らの意志によって防ぐことが出来るのです。

 

また、人類社会のあるべき姿の最も根本的なところは誰でも自由に意見を言える自由な社会の継続だと思います。

この根本が許されなくなるような状況は何としても防がなければならないのです。

今、米中の冷戦状態に象徴されるように、この根本を揺るがすリスクが大きくなりつつある状況において、少なくとも自由主義圏のより多くの人たちは自分の出来る範囲で必要に応じて行動に移す必要に迫られているのです。

以前にもお伝えしたように、リスク対応策のキーはリスクが小さいうちに対処すべきであり、リスクが大きくなるほどその被害が大きくなるということを忘れてはならないのです。

 

なお、不安を煽るようですが、世界的な投資家、ジム・ロジャーズさんは、新型コロナウイルスのパンデミックを機に「中国は必ず世界の覇権を握る」と予測しております。(詳細はこちらを参照)


 
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