2020年08月01日
プロジェクト管理と日常生活 No.652 『国の新型コロナウイルス対策に抜けているプロジェクト管理的な発想』

4月7日、新型コロナウイルスへの取り組みで安倍総理は緊急事態宣言を発令しました。

そして、この緊急事態宣言にあたり、国と東京都との間で、休業要請の対象業種、あるいは休業に伴う損失補償の扱いに溝が生じていると報じられていました。(詳細はこちらを参照)

そうした中、4月8日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でこうした国と東京都との間に生じた溝を回避する交渉術の活用について取り上げていたのでご紹介します。

 

こうした意見の溝が埋まらないような状況の背景について、番組コメンテーターで東京大学教授の渡辺 安虎さんは次のようにおっしゃっています。

「交渉の研究というのがあるんですよね。」

「で、交渉の研究で知られていることは、交渉している人たちの間で状況認識が異なっていたり、先延ばししてもあまり問題ないと思っていると、中々合意が出来ないということが知られていて、これ国と都の場合、国と自治体の間でそもそも状況認識が異なっているのが非常に大きな問題ですし、先延ばししてもいいと思っているのであれば、それも大きな問題だということで、そもそもこれみんな見ているわけですよね。」

「こういうメッセージを国民に送ってもいいのか。」

「(どうすれば合意に至ることが出来るのかという問いに対して、)非常に残念ではあるんですけども、一つの歩み寄りのシナリオとしては、感染がどんどん進んでいくと。」

「感染が拡大することによって、状況認識がより一致して、もう先延ばしは出来ないというふうに考えることはあります。」

「(感染拡大にだけはなってはいけないという指摘に対して、)そうならないようになるべく、お互いに話し合って状況認識を一致させるというふうにしていただきたいと思います。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

渡辺教授は、国と東京都が合意出来ない理由について、交渉術の観点から以下の2点を挙げているのです。

・状況認識が異なる

・先延ばししても良い

 

確かに新型コロナウイルスのように、これまで経験したことのない、全国規模で大きな影響を与える問題について、時々刻々と変化していくような状況下で素早く適切な判断を下し、実行に移していくといった対応を続けることはとても大変だと思います。

 

しかし、だからこそきちんとした組織体制の整備が必要なのです。

その狙いは、まず国と各自治体が共通認識を持つことです。

その上で、国と各自治体の役割を明確にし、新型コロナウイルスの終息に向けて各々のやるべき作業を確定し、政府内に事務局を設けて、その進捗管理をするべきなのです。

ところが、現実には、緊急事態宣言の際だけでなく、今回の観光需要喚起策の一環として国が推進する“GO TO キャンペーン”でも国と東京都の間の認識のズレが報じられています。

更に“GO TO キャンペーン”に対して、日本医師会からも反対の声が上がっています。
日本医師会の中川会長は7月22日の記者会見で、7月23日からの4連休を「我慢の4連休」と位置づけ、不要不急の外出や県境を越える移動を避けるよう呼びかけたと報じられています。(詳細はこちらを参照)

これは、組織体制が曖昧のまま、国と自治体、あるいは日本医師会がそれぞれ異なった認識のもとでそれぞれが作業を進めているからなのです。

ということで、遅ればせながら、今からでもきちんとした組織体制、および国と自治体との役割分担を明確にして新型コロナウイルスへの対応をしていただきたいと思います。

 

また、渡辺教授は“先延ばししても良い”という認識が合意を遅らせると交渉術の観点から指摘していますが、確かに期限がないと中々決まらず、時間だけがどんどん進んでいってしまう傾向があります。

そこで、どの作業をいつまでに完了させるかといったマスタースケジュール的な発想が必要になります。

 

こうして見てくると、交渉術の活用というよりも、新型コロナウイルス対策を重要な国家プロジェクトの一つとして規定し、プロジェクト管理的な考え方に沿って、国として一元的な管理をすることを新型コロナウイルス対策の基本として取り組むべきだと思うに至りました。

 

なお、新型コロナウイルス対策における国と自治体とのぎくしゃくした関係で被害を被るのは私たち国民なのです。

ですから、国民はこの国家プロジェクトのユーザーとして、国や自治体の対策の是非を見極め、各種アンケートなどを通して、ユーザーとしての要求や意見をしっかり伝えていくことが求められるのです。


 
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