2020年07月11日
プロジェクト管理と日常生活 No.648 『ダムの活用による新たな水害対策!』

6月24日(水)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)でダムの活用による新たな水害対策について取り上げていたのでご紹介します。

 

6月24日、気象庁は7月から9月までの3ヵ月予報を発表しました。

今年の夏は全国的に暖かい空気に覆われやすく、厳しい暑さになる恐れがあります。

熱中症への警戒が必要です。

一方、降水量はほぼ平年並みの見通しですが、梅雨の終わりにかけては例年大雨になりやすく、気象庁は洪水など災害への対策を呼びかけました。

昨年は台風などの豪雨が日本各地に甚大な被害をもたらしましたが、その水害対策に今月からあるものが利用出来るようになり、その効果が期待されています。

 

昨年10月に台風19号が上陸した時の多摩川、住宅街に濁流が今にも溢れ出しそうでした。

多摩川のすぐ近く、武蔵小杉では浸水被害が発生、日本各地で河川が氾濫し、甚大な被害をもたらしました。

通常、こうした河川の氾濫を抑えるために活用されるのが治水ダムです。

治水ダムは大雨が予測されると事前に水を放水し、雨水を溜めこんで川が氾濫しないように水の量を抑える役割を持っています。

しかし、神奈川県にある城山ダムでは事前に放水していたのに台風19号による大雨で溜めこめる水が限界に達し、緊急放流をする事態になりました。

既存の治水ダムだけでは限界があることが露呈されました。

そこで政府は6月から新たな水害対策の運用を開始しました。

それは利水ダムというダムの利用です。

6月4日の会見で、菅官房長官は次のようにおっしゃっています。

「利水ダムは各省の縦割り行政の弊害もあり、水害対策にはほとんど使えなかった。」

 

実は、治水ダムと利水ダムなど全国には合計1470基のダムがありますが、水害対策として使えるのはおよそ3割の治水ダムのみでした。

利水ダムは主に発電や農業用水などのために使われますが、以下のように管轄する省が違うため縦割り行政で水害対策には使われてきませんでした。

治水ダム     :国土交通省

利水ダム(発電用):経済産業省

利水ダム(農業用):農林水産省

 

今回、利水ダム、620基を活用することでこれまでの治水能力を倍増することが出来たといいます。

実際に多摩川には2つ(白丸調整池、小河内ダム)ありますが、どちらも利水ダムのため治水出来る水の量はゼロでした。

しかし、今回の対策で生活用水などに利用される小河内ダムが災害時に治水ダムとして活用出来るようになりました。

6月4日の会見で、菅官房長官は次のようにおっしゃっています。

「拡大出来た容量は建設に50年、5000億円以上かけた八ッ場ダム、50個分に相当いたします。」

 

しかし、小河内ダムを管轄する東京都水道局浄水部の浄水課長、柿沼 誠さんは次のようにおっしゃっています。

「かなり早い時期に放流したことがございませんので、河川内に立ち入られている方への安全確保、これまでも十分やってきましたけども、より一層気を付けていかないといけないと・・・」

 

大雨が予測される3日前に放水する運用のため、放水する日が晴れていた場合、下流に遊びに来ていた人がいる可能性があり、周知をより一層徹底する必要があります。

こうした手間やコストをどこが負担するかもこれから協議するということで、安全な運用には課題が残っています。

 

梅雨で大雨のシーズンを迎えましたが、もしも避難をするようなことになったら、今年は特に新型コロナウイルスの問題があるので避難所の「3密」問題が気になります。

それを避けるためにも、利水ダムの活用は大きいと番組では指摘しています。

解説キャスターで日本経済新聞 編集委員の滝田 洋一さんは次のようにおっしゃっています。

「多摩川を例にとってみると、去年二子玉川のとこで氾濫しちゃったじゃないですか。」

「だけど、実際は田園調布の辺りでもギリギリで間一髪だったんですよ。」

「(そうした中で利水ダムを活用出来るようになって、もっと容量が増えるというのはとても重要ではという指摘について、)具体的にみると、小河内ダム(1億8540万㎥)の中で、今回洪水対策で使えるようになったら(洪水調節容量は)3558万㎥なんですね。」

「これどのくらいなのかというと、八ッ場ダム(約9000万㎥)の4割に相当する水の保水の力が出てきて、かなり大きいんじゃないかな。」

「(新たなダムを造らなくても利水ダムを利用すれば、これだけの容量を生み出すことが出来るという指摘に対して、)縦割り行政を打破するメリットってこんなに大きいんですよ。」

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

また、6月30日(火)放送の「TBSニュース」(TBSテレビ)でも同様のテーマについて取り上げていたので、一部重複しますがご紹介します。 

 

水害を防ぐためのダムの運用が今シーズンから変わりました。

農業など利水のために溜めている水も大雨の予測に基づいて事前に放流することになりました。

ただ、空振りすれば、一転水不足になる恐れもあり、管理者は難しいかじ取りを迫られています。

 

福岡県朝倉市にある寺内ダムは治水と利水の両方を目的とした多目的ダムです。

このダムも新しい運用の対象です。

九州地方整備局河川部の島元 尚徳低潮線保全官は次のようにおっしゃっています。

「今のダムで洪水調整容量だけでは足りなかったので、洪水調節容量以外でも利水容量があって、そこの部分を活用することによって安全度が上がるということがございまして。」

 

3年前の7月の九州北部豪雨、当時寺内ダムには危機が迫っていました。

想定の約3倍にあたる毎秒888トンもの水が流れ込んできたのです。

水資源機構 寺内ダム管理所の石橋 一恭所長は次のようにおっしゃっています。

「緊急放流、もしくは異常洪水時防災操作と言わしていただいていますが、・・・」

 

「(これほどの水が入ってくると、大量の水を出さなければダムが溢れてしまいますが、)それは計画以上規模以上なので、それをすると下流で被害が起こる可能性が非常に高くなります。」

 

実際には、満水まであと数十センチというところで、雨脚が弱まり、緊急放流は見送られました、

こうした危険な運用を余儀なくされていた背景には、利水部分を先に出すことが想定されていなかったからです。

水不足に陥れば、農家や事業者に補償もしなければなりません。

島元保全官は次のようにおっしゃっています。

「利水を使うということは、水位が回復しなかったらどうするんだと。」

「当然、あなたたちが考えているスキームも大事かもしれんけど、我々の飲み水のための渇水だったり、農業で田んぼが干上がったりすると、それはそれで問題になってくる。」

 

この問題は長らく手つかずのままでしたが、ここ数年豪雨災害が頻発していることを受けて、国が枠組みを整備しました。

いつ、どれぐらい水を出すか、また空振りに終わった時の補償が決められています。

ただ、どれぐらい水を出せば、ダムの水位をどこまで下げられるかは機械が計算してくれますが、最終的な水位を決めるのは人間、すなわちダムの管理者です。

数日後の下流の水害を防ぎながら、水不足も避けられる水位をどこに設定するか、葛藤は常につきまといます。

この利水ダムの事前放流は今シーズンから全国の1級河川とその支流にあるダムが対象です。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

2つの番組を通して、ダムの活用による新たな水害対策についてご紹介してきましたが、これまで治水の役割のなかった利水ダムを治水にも活用するというアイデアはとても効率的、かつ効果的だと思います。

また、タイミング的にも6月開始というのはこれから本格的な豪雨や台風のシーズンを迎える時期なので理に適っていると思いました。

 

しかし、残念ながら出鼻を挫かれたと言うか、7月4日、九州付近に梅雨前線が停滞した影響で、熊本、鹿児島両県は記録的な大雨に見舞われました。

熊本県南部を流れる球磨川が氾濫し、人吉市や八代市、球磨村などで冠水や土砂崩れが相次ぎました。

 

今回ご紹介した新たな水害対策がこの記録的な大雨にどの程度役だったのか分かりませんが、現実に大きな被害に見舞われたので、関係機関には再発防止策に努めていただきたいと思います。

 

なお、水害対策の一環としての緊急放水については、以下のような懸念事項があります。

・大雨が予測される3日前に放水する運用のため、放水する日が晴れていた場合、下流に遊びに来ていた人がいる可能性があり、周知をより一層徹底する必要がある

・緊急放水の際に、最終的な水位を決めるのはダムの管理者だが、数日後の下流の水害を防ぎながら、水不足も避けられる水位をどこに設定するかといった課題が残っている

・一方で、緊急放水に係わる手間やコストをどこが負担するかもこれから協議する必要がある

・周辺住民が緊急避難をすることになった場合、今年は特に新型コロナウイルの問題があるので避難所の「3密」問題対策も必要になる

 

ということで、新たな水害対策は、一言で言えば事前の緊急放水なのですが、それに伴ういくつかの懸念事項があるのです。

更に、今年は特に新型コロナウイルス対策も必要なので、避難所の「3密」回避対策も求められます。

 

いずれにしても、地球温暖化の進行とともにより多くの集中豪雨や巨大台風の襲来は今後とも避けられそうもありません。

ですから、被災地域の周辺住民の被害が少しでも緩和されるように、引き続き国による大雨や土砂崩れのリスク対応策の検討が求められるのです。


 
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