2020年03月14日
プロジェクト管理と日常生活 No.632 『中国、ビッグデータで新型コロナウイルス肺炎の感染経路を特定!』

2月18日(火)付けネットニュース(こちらを参照)で、中国政府によるビッグデータを活用した新型コロナウイルス肺炎の感染経路の特定について取り上げていたのでその要点をご紹介します

 

(要点)

・新型コロナウイルスによる肺炎が深刻となっている中国で、ビッグデータをはじめとする最新技術が感染経路の特定に利用されている

・ビッグデータは人権活動家や少数民族らを監視するためにも使われ、その乱用に批判が出ているが、政府が肺炎対策に活用されていると自賛する一方、個人情報の流出を懸念する声が根強い

・中国内には2億台以上とも伝えられる監視カメラが街頭に設置され、体制に反対する動きがないか目を光らせている

・携帯電話の通話や位置情報なども集められ、個人の行動を詳細に分析し、この監視システムが感染経路の把握に利用されている

・肺炎のまん延で、個人の移動が細かく管理されるようになり、最新技術による監視も強化されているもようだ

・自分が乗った飛行機や列車に感染者がいたかどうかを教えてくれるスマホのアプリもある

・ハイテクを活用して追跡し、中国政府が特定した濃厚接触者は2月17日、54万6000人に達した

・当局は、肺炎対策のために利用される個人情報について厳格に管理し、事態収束後には破棄されるとしているが、個人情報の流出によって感染者に対する差別が懸念されている

・中国版ツイッター「微博」では「(感染者の)個人情報を勝手に公開しないでほしい。彼らに罪はない」という声が上がっている

 

以上、記事の内容の一部をご紹介してきました。

 

こうして見てくると、個人の位置情報、および通信内容の履歴が政府に管理されていることから、その是非はともかく中国社会は個人情報のビッグデータ化、およびその“見える化”が非常に進んでいると言えます。

こうした情報を今回のようなパンデミック(世界的流行)級の伝染病対策に活用すれば、非常に効率的、かつ効果的に感染の拡大を鎮静化するうえでとても有効な問題対応策の手段となります。

しかも、ビッグデータを活用して自分が乗った飛行機や列車に感染者がいたかどうかを教えてくれるスマホのアプリもあるといいますから、個人の立場からも自分が感染している可能性を判断するうえでとても便利です。

また、こうした個人の監視システムは犯罪容疑者の早期逮捕、および犯罪の抑止対策としてとても役立ちます。

 

こうしたメリットのある一方で、個人情報の徹底した“見える化”を可能にするビッグデータはとても大きなリスクをはらんでいます。

万一、このビッグデータが不正に流出して悪用された場合の影響は計り知れません。

しかも、一旦流出したビッグデータを取り返すことはほぼ不可能で、高額で販売出来ますから拡散する可能性も非常に高いです。

また、中国のような共産党による一党独裁国家においては、政府は反政府的な特定の個人などを監視するうえでもとても便利な手段となります。

 

ということで、ビッグデータを活用した“見える化”、即ち現状把握はプロジェクト管理の中の問題管理における問題対応策として非常に有効なのです。

また、犯罪のリスク対応策としても同様に有効なのです。

一方で、個人情報の観点からは、その保護リスクは極めて高いのです。

ですから、問題解決や犯罪リスクの観点と個人情報の保護の観点からバランスの取れた対応策がとても重要なのです。

 

なお、一方で、新型コロナウイルスに対する中国政府の初動の遅れに批判の声が上がっています。

2月16日(日)放送の「ニュース7」(NHK総合テレビ)では次のように報じています。

 

中国では、死者が1665人、感染者が6万8500人(2月16日現在)に上り、市民からは政府の初動の遅れが感染拡大につながったなどと批判の声が相次いでいます。

更に武漢の医師、李 文亮さんが自らも感染して2月7日に死亡したことが拍車をかけました。

李さんは、当局の発表前にSNSで警鐘を鳴らしましたが、“デマを流した”などとして警察から処分を受けていました。

インターネットでは、“中国政府の言論統制が感染拡大を招いた“などと訴える文書が公開され、改革派の知識人を中心に賛同する動きが広がっています。

公開された文書に署名した精華大学の元講師、呉 強さんは次のようにおっしゃっています。

「問題の原因は、政府が権力を独占し、言論の自由を奪ったからだ。」

「大きな不満は習近平国家主席にも向かっている。」

 

こうした中、湖北省を中心に地方政府の幹部を更迭する動きが相次いでいます。

国民の不満の矛先が習主席本人や共産党の最高指導部に向かわないようにする狙いもあると見られます。

 

また、昨年12月31日に地元当局が新型コロナウイルスについて公表後、中国メディアはこれまで習主席が1月20日に新型コロナウイルスへの対策を指示したと伝えていましたが、2月16日になって1月7日の時点で指示していたと伝えたのです。

これに対して、インターネット上では「1月7日に本当に指示していたら、ここまで大勢死ぬはずがない」というように批判的な意見が見られます。

 

更に悩ましい事態も生じています。

向こう1年間の重要政策などを決める全人代、全国人民代表大会の開催が危ぶまれているのです。

全人代に先立って開かれる地方レベルの会議は相次いで延期されています。

全人代は毎年3月5日に開幕されることが慣例で、仮に延期されれば極めて異例です。

 

以上、番組の内容の一部をご紹介してきました。

 

この番組を通してあらためて思うのは、リスク対応策を実施するうえでとても重要なことは、いかにリスクの顕在化後に素早く対応するかなのです。

なぜならば、対応が遅れれば遅れるほどその影響は大きくなるからなのです。

こうした観点から、今回の新型コロナウイルス肺炎の世界的な感染拡大は、武漢政府の医師、李さんによる警告の無視、および中国政府による初動の遅れが大きな原因だと言えます。

更に、いかに習政権が政権維持のために誤った情報を流しているかという事実を番組からうかがい知ることが出来ます。

そして初動の遅れは自らにも極めて異例の全人代開催の延期となって現れています。

またこうした習政権にとって不都合な事実を隠し、誤った情報を流し続ければ、今後ともどこかでその悪影響をもたらすことになるはずです。

そして、このまま世界各国への影響はともかく中国国内での感染者、および死亡者の数が沈静化しない状態が続くようであれば、いずれ国民の不満が爆発して習政権は終わりを迎えるようになってしまうと想像されます。

そうなれば、習政権が自ら招いた“自滅”をもたらすことになります。

習政権の肩を持つわけではありませんが、中国国民のことを考えれば、真摯に事実に向き合い、正確な情報を国民に伝え、少しでも早く新型コロナウイルス肺炎が沈静化するように取り組んでいただいたいと思います。


なお、3月11日(水)付けネットニュース(こちらを参照)によると、中国の習近平国家主席は3月10日、新型コロナウイルスの感染が大流行した湖北省武漢市を訪れ、政府が事態を収拾させたとのメッセージを発しました。
中国は3月10日、新型ウイルスの新たな感染者が19人にとどまり、これまでで最少となりました。
うち2人は海外からの渡航者で、その他は全員、武漢市で確認されました。


ということで、中国における私の懸念は単なる心配事に終わったのであれば幸いです。
しかし、中国に代わってイタリアなど世界各国で感染拡大が進んでいます。
ですから、感染拡大の防止や世界経済の減速、あるいは東京オリンピック開催への影響を考えると、国際協調で適切な対応が求められます。


 
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