2019年07月12日
アイデアよもやま話 No.4379 相次ぐ児童虐待をAIで守れ!

6月14日(金)放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で相次ぐ児童虐待へのAIの活用について取り上げていたのでご紹介します。

 

児童虐待の事件が全国で後を絶ちません。

札幌市で2歳の娘を虐待したとして21歳の母親と交際相手が逮捕された事件がありました。

児童相談所は虐待の疑いがあることを把握していたにも係わらず、事件を未然に防ぐことが出来ませんでした。

その背景には、児童相談所の人手不足や虐待の深刻度合いを周囲が知ることの難しさがあるといいます。

こうした状況を改善しようとAI(人工知能)を活用して子どもたちの命を守る取り組みが始まっています。

 

6月14日、厚生労働省で開かれた全国児童相談所長緊急会議、相次ぐ児童虐待事件を受け、全国の児童相談所の所長など、約200人が集められました。

会議の冒頭、根本厚生労働大臣は次のようにおっしゃっています。

「2歳の(池田)詩梨(ことり)ちゃんがお亡くなりになり、実母と交際相手が傷害の疑いで逮捕されるという事案が発生しました。」

「児童相談所や警察の関わりがある中でこうした結果になったことは痛恨の極みであります。」

 

今月発覚した池田 詩梨ちゃんの衰弱死、虐待を疑う通報を受けた警察は、札幌市の児童相談所に対し、母親の莉菜容疑者との面会に同行するよう、2度にわたり要請しました。

しかし、児童相談所の会見では次のようにおっしゃっています。

「警察から世帯の訪問に同行出来ないかと要請がありましたが、夜間体制が整っておらず、「厳しい」という回答をしたものでございます。」

 

また1月に千葉県野田市で小学4年生の女子児童が自宅の浴室で死亡した事件では、柏児童相談所は父親から性的虐待を受けていた疑いを把握していたにもかかわらず、児童の一時保護を解除し、帰宅を認めていました。

 

6月14日の会議では、児童相談所は通告を受けてから48時間以内に子どもの安否確認をするよう徹底しました。

また、把握している全ての虐待事案について、子どもの安全を確認し、9月までに報告するよう指示しました。

 

事件が起こるたびに対応の甘さを指摘される児童相談所ですが、現場からは以下のような声が上がっています。

大阪市南部こども相談センターの音田 晃一所長は次のようにおっしゃっています。

「一番頭を抱えているのは、人がなかなか育たないし、定着しない。」

 

また大阪市こども相談センターの岸本 弘子所長は次のようにおっしゃっています。

「1人で一通りのことが出来るようになるには3〜4年はかかりますので、・・・」

 

人員の確保に頭を悩ませていました。

10年以上、児童相談所に勤めた経験がある専門家、東京経営短期大学 こども教育学科の小木曽 宏教授は次のようにおっしゃっています。

「(今の児童相談所は)40代がすごく少ないんですよ。」

「30代以下の20代の職員ばっかりですから、「もっと家庭訪問しろ」とか、「親とうまくやってくれ」だとか、「子どものことでどうなんだ」みたいなことで、関係機関同士の中でのストレスもすごく抱えていますので、その“本音を聞き出す”みたいなところは経験が必要なのかなと思うんですけども・・・」

 

その人手不足や経験者不足をAIを使って支援しようという動きが始まっています。

開発したのは、産業技術総合研究所(産総研) 人工知能研究センターの高岡 昴太さんのチームです。

高岡さんは次のようにおっしゃっています。

「今回、産総研で開発しましたAIは、AiCAN(アイキャン)という名前のAIになります。」

 

まずタブレット端末に児童の名前、性別、年齢、両親の状況など、個人情報を入力します。

そして次の画面には虐待に関する質問が全部で15項目あります。

ただこの質問内容は見せることが出来ないということですが、答える内容によって虐待のリスク度が変わっていきます。

 

虐待をしている親などが調査の対策をしてしまうのを防ぐため、15項目のうち公開出来るのは2つの質問だけです。

それは「頭部顔面腹部の傷アザ?」と「児童自身が保護を訴える?」です。

 

これらの質問に答えていくことで、虐待のリスク度を測ります。

決定的な質問がこの中にあり、その「はい」を押すと一気にリスク度が跳ね上がるようになっています。

高岡さんは次のようにおっしゃっています。

「過去の事例をもとに確率を計算出来るようにしております。」

 

「特に事故で転んだ場合と虐待の場合などで、例えば傷の付く場所なども変わってくることが先行研究で分かっております。」

 

高岡さんのチームは、三重県の児童相談所で過去6年間に扱ってきた約6000件の虐待情報をデジタル化し、AIに学習させました。

更にこのAIの特徴は、虐待の再発率などを割り出した理由も示してくれることです。

また、問題解決にどれくらいの日数がかかるかも予想します。

高岡さんは5年後を目途に全国での実用化を目指しており、次のようにおっしゃっています。

「今まで人の異動でなくなっていた知見をAIの仕組みを使うことによってどんどんデータを蓄積していくことが可能です。」

「今、苦しんでいるお子さんたちを減らしていくことには着実にお役に立てるようなかたちで進めていけるといいなと思っています。」

 

児童虐待は都市部かそうでないかであったり、地域性があるといいます。

今回はあくまで三重県の事例をAIに覚え込ませたものなので、他の都道府県にはまだ使うことが出来ないのです。

なので、今後広げていくようにするということです。

 

以上、番組の内容をご紹介してきました。

 

児童虐待に関するニュースが毎日のように報道されており、こうしたニュースに接するたびに多くの人たちは被害に遭った幼い子どもたちの気持ちを思い、悲しみ、あるいは無念さを感じていると思います。

 

こうした中、とても残念なのは、児童相談所は虐待の疑いがあることを把握していたにも係わらず、事件を未然に防ぐことが出来ないケースが多いということです。

その背景には、児童相談所の人手不足や虐待の深刻度合いを周囲が知ることの難しさがあるといいます。

その人手不足や経験者不足をAIを使って支援しようという動きが始まっているのです。

今は三重県限定でのAIによる支援ですが、虐待には地域特性があることから5年後を目途に全国での実用化を目指しているといいます。

人手不足、あるいは経験の少ない若い職員が多い中で、今回ご紹介したような過去のビッグデータに基づいたAIの活用はとても有効だと思います。

 

一方で、こうした事件の加害者は多くの場合はその親です。

常識的に考えれば、親が自分の子どもを虐待するというのは有り得ません。

しかし、現実にこうした虐待は繰り返し起きているのです。

ですから、児童虐待の根本原因である加害者である親がなぜ虐待に走ってしまうのかという背景や理由を突き止め、それらに対する対策を講じることが早急に求められているのです。


 
TrackBackURL : ボットからトラックバックURLを保護しています